間違いだらけの故意
やけに静かな図書室の書庫、窓辺から差し込む夕日が宙の埃をキラキラと際立たせている。
そんな知識の聖域とも呼べる空間には到底似合わない蠱惑的な表情で、艶かしい声音で彼女は俺に囁く。
「私たち今日から共犯者ね……よろしくね白銀くん、いえ……悠くん」
「ああ、よろしく。黒崎……いや、美波」
悪魔の囁きにも似た彼女の言葉に了承の意を込め、その名前を口にする。
この瞬間、俺たちは俺ら個人の理由によって故意的に恋をすることになった。
もっともこの恋の行く先は天国か地獄かも分からない。けれどここでこうすることがお互いにとっての得となるということだけは確かだ。
尚も笑みを絶やさず俺の元へ近づき、耳元で彼女の口から小さく囁かれる。
「ふふっ……いいわよ、しても」
オニキスを想像させる黒の瞳が、俺の瞳を覗き込む。その瞳の奥では俺に対する挑戦や期待といったいろいろな感情が混ざり合っているかのように感じた。
無意識なのか、それとも俺の反応を見たいのか、彼女はそんな艶かしい表情のまま舌で唇を潤わせる。
俺はそんな彼女の挑戦に対し一矢報いるかのような覚悟で彼女の唇に自分の唇を重ね合わせた。
瞬間、彼女の瞳が閉じられ触れた唇から瞬間小さく「んっ」と息を漏らす。周りのしんとした静寂が、より一層吐息の音を際立たせた。
唇と唇が数秒触れるだけのキス。だけど俺らの意思の確認にはそれで十分。
体が離れ、彼女の髪の甘い香りが残される。去り際の彼女の笑みが余りに綺麗だった。
……俺らは今日この日、互いに故意に恋をすることを選んだ。
このキスは本物の恋人関係がするような愛情あるキスとは違った、契約にも似た仮初のキス。
そんな、俺にとって初めてのキスは……甘く甘く、危ない恋の味がした。
はじめまして、音の葉奏といいます。
本作品を含め三作品ほど作品を出していますが、それぞれテイストの違った作品となっており、この作品をあえてテーマ付けるとすればダークラブかなぁと勝手に思っています笑
何がダークなのかは正直わかりませんが一話目で皆様の気を引けたらいいなと思います。