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未開の異界 〜GUMMA〜

作者: 赤羽 椋

この物語はフィクションであり、実在する個人や団体とは一切関係ございません。

 彼の地に辿り着きし者に、一人として生還者は居ない。皆漏れなく失踪する……。GUMMAが開かれた地となるのは一体何世紀後の未来となるのか……。

 ここでは一人の愚か者のストーリーを話す事とする。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 俺は山田太郎、勿論仮名であり、45歳の独身だ。四十路で脱サラし、今は自由にYouTuberをやっている。今日こそは100人同時視聴を目指して噂のGUMMAへと突入する。LIVEのサムネも用意できた。この日の為に非常袋も買って今背負っている。スマホも高いのを我慢してギガ無制限プランに加入。あとはLIVEを始めるだけ。

 長かったサラリーマン人生にサヨナラした今、あの頃は最早懐かしみさえ感じてしまう。毎日営業スマイルを浮かべ、上司の叱責に耐え、毎晩のように連れ回された飲み会……。やはりいい思い出なんて無い。サラリーマンを続けていたら今頃過労死していただろう。どうせ死ぬなら楽しんで死にたい。そう思って現実に向き合った(から逃避した)結果、俺は脱サラを選んだ。実際楽しい。とはいえまだまだ底辺YouTuber。貯金も底を尽き始めた。そこで俺は腹を括って未開の異界と呼ばれるGUMMAに突入する事を決めた。ネット民はGUMMAのネタとなれば食らいついてくるに違いない。俺はそこに着眼した。そう、G()U()M()M()A()()()()()()()()()()()とな。上手く行けば最早頂点YouTuberなど夢ではない。だから、やるしかねぇってことだ。

 まずはTwitterで「#拡散希望」とつけてGUMMAに突入する旨をツイートする。案の定いいねもリツイートも秒で1000を超えた。あとは突入するだけだ。俺はLIVEスタートボタンを震える手で押した。

 俺は「GUMMA Pref.」と記されたボロッボロの木製看板を認め、俺は中へと突っ込んだ。裏面には「SAITAMA Pref.」と書かれている。「KEEP OUT」と書かれたテープを潜り、遂に俺はGUMMAへと立ち入った。

「しっ、視聴者の皆さん! ここが! 陸の孤島『GUMMA』です! 遂に入りました! 絶対生きて還ってみせるぞ!」

 俺は高らかに宣言した。現在の視聴者数は1284人。人数にしっかりと比例してコメントはどんどん投げられる。中には「うわ、フラグ立ててやがるwww」とか「無謀な挑戦で草。流石ダサイ玉県民」とか「こいつにスパチャ投げても無駄になるだけだわwww」と言う者も居た。しかし俺は構わず奥へと入ってゆく。進むにつれ、空の群青は濁ったエメラルドグリーンに変わってきた。所々黄色の筋まで入っており、一層不気味さを際立てている。

「皆さん見てください! 未開の異界はこのようになっています!」

 俺は必死に実況した。頭には恐怖が渦巻いているが、視聴者の前で逃げ出す訳にはいかない、というなけなしのプライドが俺の理性を何とか保っていた。コメ欄はまだまだ荒れている。

 俺は進んだ。何キロ来ただろうか。歩きながらGPSを確認すれば、まだ県境から1キロも来ていないGUMMAの南端が現在地として示された。

(ここが現在地か……)

 俺がGPSから顔を上げようとした刹那、GPSの示す位置が変わった。今度はGUMMAの北端を示している。ここは狂っている、俺はようやく気づいた。スマホの画面を確認すれば、コメ欄は動いている。まだ電波自体は届いているらしい。そして先の闇を見据え、歩いた。

 ふと足音が聞こえた。俺のものじゃない。何処で立っている音なのか、俺は耳を澄ます。右だ。右から誰か歩いてくる。

「やあ兄ちゃん、君ここの人じゃないね〜? ひとつ、いい買い物でもしない?」

 決して若くない女性が、()()()話しかけてきた。背後を取られた事に俺は恐怖を覚え、体を捻り、急いで女性の方を向く。

「やだな〜兄ちゃん、私は何もしてないって言うのにさ〜。ほら良いもん買わない?」

 一方的に問うて来る。

「い、いや、要らないです……」

 俺は畏まって答えた。

「あら、でも押し売りは良くないからね。でも次要らないって言ったらあんたの内臓その辺に散らばらせるけど。買う?」

 俺は逃げた。全力疾走だ。しかし45の体には堪える。しかし、火事場の馬鹿力か、あの女性だけは撒けたようだ。

「おや? 兄ちゃんもう鬼ごっこはお終いかい?」

 俺の首は古ぼけていて、油を差さずに何十年と放置した機械と化した。上を向く。当然のように息一つ乱れてない女性が、そこには居た。

「うわあああああああああああああ!!」

 俺はまた逃げた。そして俺は気づく、ここは人間が立ち入っていい場所ではない、と。そう思うも一瞬、俺は転けた。何かに足を取られた。上を見てみれば、

「今度はジョギングかぁ。健康志向でよろしいこと」

 やはり居た。

「それで買うの? 買わないの?」

 俺は命が惜しくなった。

「……か、買います……」

 蚊の羽音よりも小さく細い声で答えた。

「商談成立! はい、一万円ね」

 ここまで来て何か変なことでもすれば本当に腹が弾け飛ぶだろう。俺は素直に福沢諭吉を手渡した。

「はいこれ良いもん。いい商売出来たわ〜」

 俺は諭吉の代わりに渡されたものを確認する。

「な、なんじゃこりゃ……」

 駄菓子の空き包装だった。俺は諭吉でゴミを買ってしまった。恐ろしい。これがGUMMAなのか……。ふとスマホの画面を見る。コメ欄は入った時よりかなり静まっている。十秒に一度ほど、ポッとコメントが現れる程度だ。視聴者数はどうだろうか。24367人。おかしい、もっとコメントが来ていて普通のはずだ。よく見れば、時々コメントが文字化けしている。GUMMAはここまで異界だったのか。俺は痛感させられた。

 このままでは不味い。俺は引き返す事にした。プライドなんてもうどうでもいい。生きることのみが俺の眼中にある。来た道を僅かばかりのの記憶を辿り戻る。その道中も半ば、俺は力士らしき人物を見かけた。

「す、すみません、GUMMAの外まで御一緒していただけますか?」

 意を決して俺は話しかけた。

「いいよ」

 短いが、俺の心を平常にグッと近づけるのには十分な三文字が返ってきた。その力士に案内して貰いつつ、俺は歩いた。コメ欄も徐々にその勢いを取り戻しつつある。すると、唐突に力士がその歩みを止めた。

「オデが案内できるのはここまで。ここから先はヌシ一人で行け」

「な、なんでですか! そんなぁ!」

 情けないとは分かっているが、俺は縋らずには居られなかった。

「ここから先はGUMMAの民が居ては浄化されて無くなっちまう。お前にしか行けない。」

「わかりました……。ありがとうございました……」

 俺は一礼し、外へと駆けた。初の生還者となるために。

 進んでいくと、低い、低い呻き声が耳を劈いた。それでも構わず俺は走った。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 この後、得体のしれない怪物が画面に映り、叫び声が響いた後、山田太郎氏のLIVEは終わった。

 山田太郎氏の行方は当然分かっていないが結末は皆様のご想像の通りである。くれぐれも、GUMMAには近づかないようお気を付け願いたい。

群馬県民の皆様、このようなネタ小説を書いたことをどうかお許しください。

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