国王とランチ
第8章
スワルトイ邸に今後の学生たちへ通知が届いた。
今後、貴族学校の生徒たちの動向は、その領土の領主が責任を持って監視することと、ただそれだけだった。学生寮に戻るも良し、領主の屋敷に住む事も許され、ただ、学生に何かあった場合のみ、領主はその責任を果たすと記載されていた。
その通達が来たのは登校日2日前で、モモガロンは飛び上がって喜んだ。
シルガー、マルサナと抱き合い、本気で泣いてしまった。
「モモガロン様、本当に良かったですね」
「ええ、本当に良かったです。ヒロイの成長にこれからも寄り添えます」
2学期初日、スワルトイ邸のみんなに見送られ、5人は学校に向かった。運転はコベルがいつもの様に引き受け、いつもの様に学校に到着した。
しかし・・・校内の雰囲気は随分と変化があった。
少しは覚悟していた事だが、周りの目は、一層、冷たく、常に視線を感じていた。
しかし、今のモモガロンはそんな小さい事は、全然気にしない。どこの国でも噂話と妬みや嫉妬は存在する。
自分にもしも危害を加えそうになった時点で、そのクラスメートは確実に自滅する事は、カイレキやレインが、貴族学校にすでに在籍しないことで、全てのクラスメートが理解できることを祈った。
授業は順調に終わり、昼食の為に入った。
モモガロンを囲む様に4人は常に移動する。
「お嬢様、あちらの方・・国王陛下ではありませんか?」
モモガロンは、学校内にある大きい池の近くで、白衣に姿で周りの人たちに指示を出している。
「何かの実験ですかね?」
その人はいつも影のように現れる。ーーーシャドウ宰相。
「国王陛下の研究にご興味がおありですか?では、ご紹介いたしましょう。こちらへどうぞ・・」
「ーーーーーー」
誰も、シャドウ宰相に、意義を唱えられる人はいない。ついて行くしか道は残されていない。
「陛下、こちらの5人はスワルトイ領からの学生です。彼は、新入生主席のコベルです。そして、こちらがレディ・モモガロンです」
「陛下の研究にご興味があるようでしたので、お連れしました」
「初めましてで、いいのかな?君とは小さい頃に会った事はあるのだが、君はあの事故で記憶を無くしてしまったと、聞いている。私はヴィッセルス国のエビクールだ。この前の騒動は驚いた?」
「はい、驚きました」
エビクール国王は、モモガロンをマジマジと見ていた。
シャドウ宰相は、
「彼らは、この後、昼食を取るために、領土棟のスワルトイ領の学生部屋に向かいます。私もまだ行ったことはないのですが、そちらに出向きましょう。ここではなんですので・・・」
(あの・・、そんなに長く、お話するつもりはありませんが・・・。)
仕方がないので、モモガロンは陛下とシャドウ宰相を学生部屋に招待する。
「お二人には、質素に感じられる部屋ですが、よろしければご一緒にどうそ・・・」
学生部屋のカギは、モモガロンの手でしか開かない。
それはモモガロンが、発明した仕掛けのある鍵だった。
モモガロンはドアを開け、国王たちを中に招き入れた。二人は、精密に計算されたシンプルな学生部屋を感心して見ていた。
(ふぅ・・、嗚呼、又、噂になるに決まっている。)
国王とシャドウ宰相、モモガロンは、光が注ぐ食卓テーブルに腰を下ろし、話し始める。
「君・・上手く、精霊を隠しているね。僕の周りの精霊たちはたまに姿を現してしまう」
「それは、国王陛下の精霊の数と、わたくしの精霊の数の違いです。わたくしは、シャドウ宰相の精霊も見たことがありません」
「ああ、そうだな。私のにゃあ様は100以上はいて、溢れ出てしまう事が多くて困るよ。例え、この国の精霊持ちすべてが、私の精霊の存在を知っていたとしても、なるべくなら、しまっておきたいと思っている」
「ーーーーーー」
「国王陛下はどのようなご研究をなさっておいでですか?」
「僕の研究は人類を病気から救うとか、無限のエネルギーを作るとか大それたものではない」
「・・・・・・」
「知りたい?」
「ーーーええ・・・、殿下に不都合でなければ、お聞きしたいと思います」
「うん、君も聖なる精霊の持ち主だ。話してもいいだろう。ーーー実は、にゃあを風呂に入れたい」
「??????」
「にゃあは、大の風呂嫌いだ。僕が産まれてから一度も風呂に入っていない。そして、完全型になった時に、雨が降っていたりすると、物凄く機嫌がわるくなる。大雨だと、制御不能になって暴れる可能性がある。もしかしたらこの国を破壊してしまうかも知れない」
「だから、この大きな池を使って、にゃあを水に慣らしたい。あわよくば、この池でにゃあを洗いたいと考えている」
「確かに、この池は大きいですが、にゃあ様を肩まで沈めるには無理があると思いますが・・よろしければ、スワルトイ領にはにゃあ様がすっぽり入る事が出来る湖がございますが?」
「そこは、多少、にゃあが暴れても大丈夫な所?」
「それは・・・、周りには住宅があり、学校もありますので、申し訳ありませんが、大人しく入浴して頂く事が条件です」
「そこなんだよ。私も色々な場所を国中でさがしたが、ここが一番いいと思った。近くで、周りは校舎が囲んでいる。人は住んでいないし、休みの時に実行すれば、最小限度の被害で済む」
「にゃあ様は、国王の意志通りに制御できない時があると、考えてよろしいでしょうか?」
「君の竜は、君のいう事をきいてくれるの?」
「私は、王都に向かう前に、一度だけ完成型にしただけですが、その時、空を飛んでみたいと思いまして、頼んでみましたら、乗せてくれました」
その時、国王たちに、昼食を運んで来たシルガーはビックリした目でモモガロンを見ていた。
「シルガー、心配ないわ、森の中で空を飛んだだけです。精霊は守り神ですよ」
「お二人のお口にあいますか、わかりませんが、よろしかったら召し上がって下さい」
今日のメニューはピラフとサラダとベーコン入り野菜スープ、デザートは小さな生チョコだった。
モモガロンはお米が好きで、学生寮の時に、シルキーに教えた日本風のピラフだった。
休み時間、節約の為、料理はすべて運ばれている。
「モモガロンは、お米がお好きなのですか?」
「はい、実はそうです。パンも美味しいと思いますが、お米好きです。小さいパンもご用意いたしました。こちらも、よろしかったらお召し上がりください」
国王は、スープとパンが好きなのか、ピラフよりも柔らかいパンを好んで食べている。
「このパンは、柔らかくて・・・少し、しょっぱいですね」
「はい、私はお米がすきですが、コベル達はパンが好きで、特にこの塩パンはお気に入りです」
「メイドが作るのですか?」
「はい、朝、大体の物は持参して、こちらで温め直します。この部屋をお借り出来て本当に良かったです」
「この部屋も考えられて作られています。誰のアイデアですか?」
「はい、一応、すべてわたくしが考えました」
「料理も、部屋もですか?」
「はい、そうです。ずっと、スワルトイにいましたので、王都の事はわかりませんが、好きなインテイリアな中で、好きな料理を頂ける事に、感謝しています」
国王は少し考えている。
側では、シャドウ宰相は、ピラフをすべて食べつくして、デザートを催促していた。
その時、国王の精霊が、1匹現れた。
「可愛い、三毛ちゃん、お出で・・」
その猫は人懐っこい猫で、モモガロンの膝にのり、顔を洗っている。
その光景は、国王自身が初めて見る光景。ーーーーやはり、彼女は王位継承第2位の存在だ。