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夏休み

第7章

 モモガロンと4人はスワルトイの後を歩き、静かに長い廊下を進んで行く。


 モモガロンの部屋に入り、そのまま、別宅に続くドアを開けると、広場が広がり、そこには3人の女性がモモガロンとスワルトイを待っていた。


 「モモガロン、彼女たちはヒロイの専属のナニーたちだ、大叔母のメイドだったメリー、モモガロンの父親のナニーだったソニア、母親のメイドだったシルクだ」


 「モモガロン様、よろしくお願いいたします」


 3人はモモガロンを見て、泣き出しそうになっているのがわかる。お爺様は徹底した秘密主義で、どんな人間にも、モモガロンの存在を隠していた為に、彼女たちには、この仕事を引き受けるに当たって、ヒロイの母親の事を話したのだろう・・・。


 「ヒロイを任せられる人間は、彼女たちした思いつかなかった。モモガロンも、子供の時に会った事があるはずだが、事故の後、記憶を失くしてしまったので、初対面となるかな?」


 一番歳をとったメリーは、


 「初めまして、モモガロン様、お会いできる日を楽しみにしていました。アガサス様のお若い時にそっくりです。そして、ヒロイ様にもよく似ていらしゃいます」


 その時、ヒロイの鳴き声が聞こえ、スワルトイ自らがヒロイの部屋に行き、ヒロイを抱いて、モモガロンの前に連れてきた。


 モモガロンにとってはスワルトイ領を離れてから4ヶ月ぶりの再会だった。

 「ヒロイ・・・・・」


 口に手をあて、流れる涙を拭うこともしないて、それから、両手を伸ばし、ヒロイにただ腕の中に来てもらう事をモモガロンは待っていた。


 ヒロイはきっと賢い子供なのだろう、周りをみて、期待を感じ取って、モモガロンの腕の中に帰った。


 「ヒロイ・・ヒロイ、ごめんね。寂しい思いをさせました。母は貴方を思わない日はありませんでした。こんなに大きくなって。皆さんに優しくしてもらったのですね。感謝しかありません」


 「ありがとうございます」


 「モモガロン様・・・ヒロイ様は本当に手のかからないお子様です。私たちも、日々感謝しかありません。スワルトイの血を繋いでくださりありがとうございます」


 「私たち3人は、ヒロイ様の存在を知るまでは、後悔の毎日です。毎日、悔しくて、悲しくて、それでも生きていかなくてならなくて、自分の主を思わない日はありませんでした。ご領主様は、こんな私たちにも、違う仕事の世話をしてくださって、生きる事を許して下さいました」


 3人は膝をつき、モモガロンとヒロイに向かって、

 「この命に代えても、お二人をお守りし、忠誠を誓います。なんなりとおっしゃって下さい」


 「皆さん、ありがとうございます。お爺様、ありがとうございます。ヒロイが、こんなに大きくなったのは皆さんのおかげです。ネッ、ヒロイ?」


 ヒロイは可愛い声を上げて、笑い、すべての人の宝物だという事には自覚があるようだった。


 その夜は、久しぶりに、ヒロイの近くにモモガロンは寄り添っていた。


 次の日からは、モモガロン付きの4人には厳しい教育と訓練が待っていた。


 コベルとサルポートは、将来、ヒロイに仕える為に屋敷内で、学業と訓練が始まった。シルガーとマルサナにも、ヒロイの抱き方からの厳し指導が3人によって始まった。


 モモガロンは、ただ、のんびりヒロイとの時間を過ごし、母親としての愛情を注げはそれで充分だった。


 モモガロンには、メリーが残り、ヒロイについての説明や育児についての注意点などを教えてくれた。


 ヒロイは現在、7ケ月になっていた、自分で動こうとする力がみなぎっている。


 男の子だからかも知れないが、足腰が丈夫で、いつも踏ん張って、前に這って行く。


 メリーは特に注意もしない為、モモガロンは広いスペースを見つけて、ボールや音のでるおもちゃなどで、ヒロイを思いっきり運動させる。


 「モモガロン様は、わたくし達に何かご指導はございますか?」


 「特にありませんが、彼は動くことを好むようですので、沢山、運動させて、丈夫な体を作って欲しいです。後は水分補給をこまめにお願いします。それからたっぷりの愛情ですかね?」


 「父親がいない為に、できない事を無くして行きたいです。普通の家庭の様にして差し上げたいと、思っています」


 「モモガロン様、ヒロイ様には尊敬できるスワルトイ様がいらっしゃいます。大丈夫です」

 「はい、お爺様には、1日でも長くヒロイに寄り添って欲しいと考えます」


 モモガロンの育児方針は直ちに他の4人にも伝えられ、床にはクッション性のある絨毯が引かれ、ヒロイはその遊ぶ部屋で日中は動き回った。そして、つかまり立ちが始まってからは、モモガロンと5人は、ひどく忙しくなった。


 そう・・たまに立って、たまにそのまま倒れる・・、この時期、一番の活躍は若手のマルサナで、この為に採用されたのではないかと、思えるほどに、スピーディーにヒロイを支える。


 マルサナが、

 「ヒロイ様、後ろに倒れる時、一瞬、私を見るようですが・・・、気のせいでしょうか?」


 他の4人は笑いながら、

 「マルサナ、気づくのが遅いです。私達はとっくに気づいていました。ヒロイ様は意外にいたずらっ子です」


 この部屋で過ごすお昼は、モモガロンの要望で、食事もヒロイ自身にさせた。その様子を見ると、ヒロイの好きな物、嫌いな物がわかる。


 一同に並べられた食事の中から、いつも最初に選ぶものは果物で、自分が嫌いの食べ物はシルガーに与えたりする。


 「ヒロイ様、酷いです。ソニア様やシルク様にはイチゴを渡していましたのに、私には・・葉っぱですか?」


 一斉に大勢の笑い声が響き、その声を聴いて、スワルトイは幸せを嚙みしめる。


 「公爵様、昔に戻ったようですね」と長年、スワルトイ公爵に付き添う家令のボルトが話しかける。


 「ああ、今度こそ、この笑い声を守り切ることが私の使命だ」

 「はい、スワルトイ領民すべての願いでもあります」


 ヒロイのつかまり立ちも安定して来たので、まだ涼しい朝は、別館の中に設けられた庭に出て、散歩をすることにした。


 乳母車はこの世界にも存在しているが、少し安定性に欠けていて、モモガロンはそれを使用することに難色を示していた。

 「モモガロン様、屋敷内には、職人が何人か存在します。何か改良して欲しい所がございましたら、おっしゃって下さい」と、ソニアは話す。


 「そうね、車輪はこの二倍の大きさにして、陽が当たらないように、工夫も必要です。後、一番大切なのは、ブレーキです。止まった時には誰もがブレーキをかける習慣を必要とします」


 乳母車の事で話し合っていると、シルガーが、

 「お嬢様、この前、注文していたプールと言う物が、出来上がってきました」

 「本当?見に行きましょう」


 モモガロンが随分前に屋敷内の職人に注文していたのは小さな子供用のプールで、〇型ではなく、四角い形で、一辺には座れる段差も用意された1m四方のプール。この夏の暑い時に、ヒロイに水浴びをさせるつもりだ。


 「あちらの日陰のベランダの下に配置して、お湯をいれて、その後、ぬるま湯になるように温度調整をしましょう」


 水量は少な目にして、おもちゃも入れて、ヒロイを裸にして、恥ずかしいのでパンツだけは履かせて、そっと、プールに入れて見た。


 丁度いいつかまり立ちする位置に淵があり、あまりのはしゃぎっぷりで、しりもちをついたが上機嫌で遊んでいた。


 「ヒロイ様、物凄く喜んでいますね」

 「ええ、益々、わたくしたちは大変になりますね」


 ヒロイを囲み、わいわいがやがやしていた夏の昼下がり、幸せな時間はあっという間に終わりを告げ、2学期が始まる。



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