結婚式前夜
第53章
北の領土の冬は長い、例え、3月になろうとしていても雪深い。
運があるのか、ないのか、わからないオリナス伯爵は、また、この地に送られた。しかし、今回は、国王陛下の恩赦が少しだけあり、使用人たちも一緒に送られたのだ。
オリナス家で働いていた使用人たちは、伯爵家の嫡男をバカにしていて、国王陛下より、罰を与えられたと噂になり、その後、働く場所はなかった。
オリナス家の使用人だった事は、昔は平民にとっては名誉な事だったが、オリナス伯爵が、流刑で北に送られてからは、王都では忌み嫌われていた。
どんどん、貯めていた給金はなくなり、ひっそりと亡くなって行く人も増え始めた。
「国王陛下、やはり、結婚式の前に、王都をキレイに掃除しましょう」
「うん、北に送ろう! 」
「全員ですか?」
「ああ、罪人にも今までは、大した罪を課して来なかった。しかし、これからは、すべて北に送ろう。北には石の発掘と言う仕事がある」
「貴族たちはどうしますか?」
「送ろう! 」
「クロエッス伯爵の息子のカイレキはどうしましょう」
「送ろう! すべて送ろう!」
最近、シャドウ宰相とマギガル侯爵は、スワルトイ公爵のご機嫌を取る為に、国王陛下は、ご公務をしているようにしか思えないようになってきた。
「最終目的は、お許しを頂いて、卒業式を結婚式に変更する事だ」と豪語するようにもなった。
あの王宮での戦いが終わった後、国王は、クロモリ伯爵に色々尋ねたりしていたが、あまりにも保身に走ったクロモリ伯爵は、真実を話さないまま処刑された。
それは、あまりにもアッと言う間で、その行為は、モモガロンの為に、怒り狂った国王に写ったのかも知れなかった。
実は、クロモリ伯爵が処刑される前に、コウモリを購入していた貴族たちは、近衛兵たちによって、捕まっていた。ひ弱な近衛兵が、役にたった瞬間でもある。
その中でも、一番、抵抗したのは、カイレキだった。
カイレキはあれから不幸の連続で、何とか生きて、自問自答の日々を送っていた。
「僕は、僕は、コウモリをもらいましたが、それは、マギガル伯爵が強引に押し付けられた為で、どうして僕が北に送られるのですか?訳がわからない!! 」
「母上や兄弟たちはどうなります?これ以上の屈辱は死ぬことと同じです」
「給金は払われる。生きる事はできるはずだ・・・・」
「どうして、本当です。コウモリを買ったのではない、そんなお金もありません!」
近衛兵が話す。
「陛下は、ご結婚までに、王都をキレイにしたいそうだ。あの温和な国王陛下が、コウモリを大量に所持していたクロモリ伯爵を、一刀両断で処刑した。その理由は、どうしてかわかるか?」
「モモガロンの為ですか?」
「ああきっとそうだ。しかし、お前が、今、呼び捨てにしたモモガロン様は、王妃になられるお方だ。呼び捨てにした時点で、処刑されてもおかしくない。これからは肝に銘じて生きる事だ」
「それは・・・だって、知らなかったんだ!! 」とカイレキは叫んだ。
「とにかく、北の領土でお金を稼いで、家族を養ってやることだ。このままでは、生きて行けないぞ! 早く出発して、今年の冬に備えろ。雪が降る前までが勝負だ」
近衛兵の最後の言葉が聞いたのか、カイレキは、その後、直ぐに、北に家族と共に向かった。
北の領土は、燃える石を採掘して、その地域で燃料とした。その土地の人々とも分け合い、理解し合い、発展が進み、その地に送られた人々たちも、その後は、生きる事が出来る様になった。
当然のことだが、その地域からの持ち出しは禁止となり、その掟は、未来永劫、ずっと守られた。
モモガロンは、最終試験を無事に通り、後は、卒業式兼、結婚式を迎えるだけだったが、スワルトイ公爵により、国王陛下との面会は禁止されていた。
「お爺様、本当に国王陛下に怒っておいでですか?」
「まさか・・、結婚前は、会わないのが慣例だ。後数か月で、お嫁に出さなくてはならない。今までの、すべて慣例無視の行いを、陛下に改めて頂きたい」
「・・・・・・」
「では、陛下の贈り物は如何でしたか?」
「ああ、大変気に入っている。本当にモモガロンを愛して、スワルトイ家の事も考えて下さっていると、有難い気持ちでいっぱいだ。ーーしかし、結婚式までの面会を許すことは出来ない」
「ええ、お爺様、実はわたくしも賛成です。残り少ない時間は、わたくしたちの為に大切に使いましょう」
二人は見つめ合い笑った。「ハハハハハ・・」
モモガロンは、2度目のご懐妊で、つわりもなく、ヒロイも典型的な利発なお子さんで、貴族学校も終わっているので、二つの仕事を片付ける事に、邁進して行った。
「お嬢様、結婚式のご衣裳は、本当に大叔母様のウエディングドレスを再現なさるのですか?」
「そうよ。お爺様が言っていたでしょう?素晴らしく美しかったって、だから、悲しい思い出を少しでもなくして差し上げたいの・・。今のわたくしには、それくらいしか恩返しができないから・・・」
「シャドウ宰相も、国宝級のお召し物って、言われてたし、わたくしも、お叔母様のご衣裳は、大好きです」
(例え、中身は男でも、センスがある。大叔母様! )
「お嬢様、シュネールが来ました」
「どうぞ、この前の王位継承の式典の時はありがとう。助かりました」
「いいえ、僕たちの精霊が役立つなんて、思ってもみなかったので、みんな興奮してました」
「そう?どうだった?久しぶりに完成型にしてみて、誰か、意見のある人はいましたか?」
「いいえ、あのコウモリの戦いは、すさまじくて、みんなこの世界から消えるのは嫌だと、悟ったようです。自分たち以上に、強いものは、きっと、まだたくさんいると・・・」
「本当に、みんな、今は、消えたくないと思います」
「うん、それを聞いて、安心できます」
「アンモナイトの方はどうですか?」
「はい、売れています。しかし、今は、モモガロン様の結婚の方が、旬の話題だと・・・」
「うん、そうよね。・・ここで一儲けしておきますか?」
「ありがとうございます」
「新聞だけに儲けさせるのは、納得がいかないわね。我が認定商会ホワイトが、グッツを販売しましょう」
「お嬢様、マギガル公爵がお見えになりました」
「どうぞ・・」
「丁度、良かったです。こちらは、ホワイト商会のシュネールです。今、一儲けしましょうと、話していました」
「モモガロン様・・・」
マギガル侯爵は、国王陛下より、モモガロンの様子を見て来てくれと頼まれたが・・・、元気そうでなによりだ。
「マザー出版は、今度の結婚式で、何か仕掛けをして、出版する考えはないの?」
「どういう事でしょうか?」
「そうね。結婚式まで、後1ケ月チョット、その間に、何か出版しない?」
「答えは、なんでもいいけど・・・、私達の結婚式の記念になる正解はどうかしら?」
「それは、いいですね。ホワイト商会は、何かを発売するのですか?」
「はい、バンバン、発売して行きます。しかし、あまり宣伝すると、また、パンクしてしまうので、そこは、上手くいくようにこれから考えます」
国王陛下からは毎日のように、手紙が届き、モモガロンは、毎日の出来事を、手紙に記し返事をだした。最後に、結婚式で会える事を、楽しみにしていると書いた。
国王陛下は、
「彼女・・・・、毎日、忙しそうですね」とシャドウ宰相に話すと、
「それは、彼女なりの過ごし方でしょう。会えない気持ちを大切になさっていると思います」
「そうかね・・・」
「ええ、きっとそうです」
二人は、結婚式前夜、月を見上げ、いよいよ、明日、その日が訪れると思っていた。




