晩さん会
第5章
毎晩のようにヒロイの事を考えていたモモガロンだったが、久しぶりの女子トークに盛り上がり、その晩はぐっすりと眠れた。
1週間後に正式に王宮からの招待状が学生寮に届いた。
コベルには、特別大きなプレゼントが箱に入っていたので、それをみんなが楽しみに開けた。
「衣装だ」
「そのタキシードは襟に茶色い2本線が入っていて、主席の証だった」
「おおおお~~~、こういう事を知らないのは、やはり、田舎者だとわかる」
「お爺様が、どうしても貴族学校に入学を希望したのは、きっとこのようなことを学ぶ為でしょう。危険だからと殻に閉じこもっていては、ヒロイが大人になる時に助言ができません。私も大人になって、しっかりしなくてはね。貴族の慣例と言う物を学びましょう」
「お嬢様・・・」
夏が初まる前に王宮では久しぶりに晩さん会が開催された。
スワルトイ寮の5人は、1台の車に乗り、盛大な雰囲気の漂う王宮に到着した。
今回の晩さん会は、高等部の新入生の親も出席している。日本で言うと遅い入学式のようなものだと感じられる。
「貴族学校だけあって、どの家もこの晩さん会に力を入れていますね」
「わたくしが、気がつかなくてごめんなさいね、あなたたちのご両親も出席したかったかしら?」
「まさか、うちの両親が王宮に来るとこになったら、絶対に仮病をつかいますよ。あわあわして、本当に気絶します」
「うちもです」
「うちも・・・」
「そんな、恐ろしいことを言わないで下さい。お嬢様と暮らせるだけで、恐れ多いです」
「あなた方・・・・、ご両親にご報告しますよ」
4人は首を振りながら、車が車寄せに到着したのを確認した後、急いで降りて、モモガロンの為に、ドアを開け、安全を確かめる。護衛はここからが本番だ。
カイレキは、清々しい程に笑顔の仮面を身につけ、モモガロンを迎える。
「モモガロン、ご両親はやはり領土ですか?君たちの晴れ姿をご覧になれなくて残念ですね」
「ええ、残念です。王都門が開かない限り、王都に来ることはできません」
「皆さんは初めての王宮でしょうから、僕が案内しましょう」
モモガロンは、本当に生まれて初めて王宮だったので、素直にカイレキの後について歩いていった。そこは王宮の庭園で、多くの貴族たちはテーブルに座り、一斉にモモガロンたちを見た。
そして、当然のようにヒソヒソ話し出した。
勿論、スワルイト領の為の席は無い。
この時点でカイレキの気持ちはスッキリしたに違いないとモモガロンは思った。
庭園の中で、1人の夫人は聞こえるように言う、
「今の時代、あのようなドレスどこで売っているのでしょうか?」
「さぁ、わたくしも初めて見ました。ホホホホ・・・」
「聞けば、ご両親も、王都にはいらしゃらないみたいですよ」
「でも、ひとりは、今期は首位を獲得したみたいです」
「まぁ、ウチの3女の婿にでも迎えましょうかしら?でも・・・身分がね・・・ハハハハ・・」
「モモガロン様・・・、こんな侮辱・・・ううううう」
「よろしくてよ。最高よ。このようなイベントを望んでいたの・・・ゾクゾクするわ! 」
「でも、コベル、この場にいた全員の名を覚えて置いてね。それとサポールト、この方々の情報を今日中に私に提出して下さい。大体、エスコート役のあのバカはどこ行ったの?」
「とっくに逃げました。殺しますか」
「そうして下さい」
4人は、今まで、モモガロンから暗殺命令を下された事はなかった。モモガロンの本気の怒りがわかった。
その時、呑気に、シャドウ宰相が現れる。
「おや?どうしました?席が分かりませんか?エスコート役はどうなさったのですか?」
「さぁ、どこかに雲隠れしたのでしょう。大丈夫です。わたくしたちはその辺のベンチでも腰掛けます」
「それでは、私が今日はエスコートしましょう」
モモガロンは小さな声でシャドウ宰相に囁く、
「シャドウ宰相、本当に結構です。お願いします。このまま、職務に戻って下さい」
シャドウ宰相は、モモガロンの言葉は聞こえていないのを装い、
「それにしても、今日のドレスは、本当に素晴らしいですね。歴史に残るドレスのリフォームですか?この様な古典ドレスは王宮にも、もう残っていません。値段もつけられない、国宝級ですね。国で買い取りたい程です。さぁ、こちらへどうぞ・・・」
仕方がないので、今度は大声で拒否する。
「シャドウ宰相、今日は、国王陛下主催の晩さん会です。お忙しいでしょうから、どうぞ、お仕事にお戻りください」
シャドウ宰相は、回しを見渡し、気にせず続ける。
「国王陛下主催にも関わらず、出席の席の用意も出来ていないとは嘆かわしい。この事はしっかり調べて、スワルトイ公爵にご報告いたします。5人は、取り敢えず。私の近くに急いで用意させます。行きましょう」
モモガロンがシャドウ宰相のエスコートのもと、貴賓席に着いたのを見送ったその場の貴族たちの顔色は、青くなったり白くなったりして、自分の鼓動を抑える事ができない程にドキドキしていた。
その後は、誰も話さず、お茶さえも喉を通らなかった。人生においてこれ程のピンチを迎えた事は無い。この後の人生がわからない位の失敗を犯したと、言ってもいいだろう。
「奥様・・・」
「私に話しかけないで下さい。ここは王宮ですよ。下品な行為は国王にお見通しです」
「ううううう・・・」
その場に残された貴族たちは、うつむき、最後には、鳴き声までも聞こえて来た。
一方、シャドウ宰相の近くに、モモガロンの席が用意されていて、モモガロンの好きなお茶、果物、ケーキ、美しいお菓子などがすでに並べられていた。
「シャドウ宰相は今日のことはすでに予想通りですか?」
「ええ、教室での騒ぎを聞き、彼らが考える事は予想できます。今日の晩さん会は国王陛下主催です。この会を利用する事は、誰もできません。例え、どんな貴族でもです」
「しかし、わたくしは別に気にしていません。どちらかと言うと有難いと思っています」
「ええ、あなたは笑顔でしたが、他の4人は今にも彼らを殺しそうでしたよ。訓練が足りませんね」
「あなた・・・・」
「食事の時の貴賓席は、スワルトイ公爵の近くです。同じ領土の主席を祝福する為に後で、公爵がいらしゃいます。これは、私からのお祝いです」
モモガロンは、先程の屈辱や、シャドウ宰相の出現の怒りを忘れる程に、スワルトイ公爵の姿を探す事に気が向いていた。
「お嬢様、公爵様はきっと国王陛下とご一緒にご登場なされるのではないでしょうか?」
「そうよね、もしかしたら話せるかも知れないと思うと、嬉しくて涙が出そうです」
泣き出すモモガロンを、2人の同級生が慰める姿を遠くから見た貴族たちは、より一層、後悔の念を深め、今回の件を提案した、クロエッス家を心から憎んで、自分の家を本気で心配し始めた。
その後、開会のラッパが王宮内に響き、出席者は会場内のテーブルに移動して、美しい晩さん会は始まり、音楽は常に優雅に流れ、それぞれに料理が運ばれ、静かに食事を取る。
食事をしながら、観劇などもできた。食事が終わり、国王陛下が舞台に立ち、新入生に祝辞を述べる。モモガロンがお爺様を遠くから見ることが出来る瞬間がやって来た。
国王陛下は、まだ王妃を娶っていない為に、1人での登場となり、その後に、シャドウ宰相とスワルトイ公爵、タツトヨリイ公爵が続く。
「お爺様、ご立派です。王宮に来て本当に良かった。素晴らしいお姿が拝見できました」
「お嬢様・・・・」
国王陛下が、舞台中央に向かって歩き出した瞬間に、王宮は襲撃された。魔物たちによる襲撃だった。
「お爺さま!!! 」