ヒロイのおねがい
第47章
オリナス伯爵は、ずっと床の上で泣いていて、話をしない。
「オリナス伯爵、泣いて真実を話さないと、腕が1本、一生、動かなくなりますよ」
脅し文句が聞いたのか、オリナス伯爵は、ピタリと泣き止み、気持ちを落ち着かせて話し出す。
「彼が、突然、私の所に来て、屋敷の地下にある石を分けて欲しいと言いました」
「彼とは?」
「ーーークロモリ伯爵です」
「北の領土の領主の屋敷の地下には、沢山のくっつく石があります。石と石がくっつくのです」
「クロモリ伯爵が、言うには、この石は、他国に高く売れると、自分には販売ルートがあるから、このままにしていて欲しいと話しました。私は、その代わりに、薪や食料を依頼しました。彼のこの地域に住んだことがあるらしく、必要な物は、すでに準備済みで、後は、その石を運び出すだけでいいと、話していました」
「彼は、最近、持ち出したのか?」
「いいえ、今は、どうやっても無理でしょう。毎日、外は吹雪いていて、人間が歩けるはずはありません」
「だから、まだ、渡していません。それに・・・」
「??????」
「あの石は、実は燃えるのです。残った薪が燃えてなくなりそうだったので、暖炉の中に石を入れてみました。真っ赤に燃えた石を毛布に包んで、それを抱いて眠るつもりで、暖炉に入れたら、良く燃えました」
「だから、気にせずに、食事を作るオープンにも入れて、風呂もそれで沸かして、暖炉も真っ赤でやっと人間らしい暮らしを取り戻しました」
「だから、すでにそんなには残っていません。生きる為です。仕方がない・・・」
「クロモリ伯爵が、取りに来た時には、何と説明するつもりだ?」
「彼が言うには、北の領土には、沢山あるらしい。春になったらその辺を掘り返す予定でいました」
その部屋の人間は、この人間のだらしない思考で、王都が救われるとは、考えたくないと思っていた。
モモガロンが、
「それは・・・湖の向こうの森にも沢山あります。私はその石を利用して、ホワイト商会の扉の鍵を作りました」
「え?」
「いつ頃から、その石が目に着いたのかは不明ですが、私が洋館で暮らしている時には、存在していました」
「・・・・・・」
「その石は・・・、にゃあ様の能力を、下げる事ができるのかも知れないですね。だから、あの時の戦いでは、苦戦したのでしょう」
「しかし、ホワイトの従業員たちは精霊持ちですが、特に具合が悪くなるとかはありません」
「私が、あの森で暮らしていても、何の問題も起こっていません。ヒロイも大丈夫だと、思います。ヒロイはあの洋館で生まれました」
「その石に対してのアレルギーは、にゃあ様とコウモリだけ?」
「森の中の全体にある訳ではなく、木が・・・少ない所にありました。空から見ると、きっとわかります。その場所ににゃあ様を誘導して戦えば、コウモリの精霊は、勝つことが出来ると罠をしかけていたのでしょう」
「自分は、その石のある場所を避けて戦えばいい。互いの弱点だったが、一方には、罠が見えている状況での戦いです。とっさに、水の中に国王陛下を閉じ込めたのは、シャドウ宰相の判断が素晴らしいとしか言えません」
「しかし、それを準備するには、ゼミクは絶対的に不利です。他国の厳しい領土から自分が苦手な石を盗み、警備が厳しいスワルトイ領まで運ぶ。何のために?・・・水以外を望んでいないのに?」
「それでは、あの時の麒麟は・・クロモリ伯爵だったのでしょうか?」
「爵位だけの貴族でも、お爺様の誕生日に入り込む事は簡単です。しかし、大量の石はいつ持ち込まれたのでしょう?」
モモガロンは、思い立ち、シルガーに、瓶詰めに入っているブルーベリーをオリナス伯爵に見せた。
「これを知っていますか?」
「これは、北の領土では、子供が食べています。私が出かけた時に、子供たちは、道端で、この紫の実を美味しそうにたべてました。鳥が食べる餌なのに・・・。あの領土の人間は、なんでも食べるのだと思った事があります」
「コベル、ブルーベリーの木がある場所は、造成工事が行われたと聞きましたが・・?それは何時ですか?」
コベルは即答する。
「8年前です。一度、大きな土砂崩れが起こり、スワルトイ領の人だけでは、どうにもならなくて、他の領土からも応援を入れて、工事をしました。その時、石なども他の領土から運ばれています」
「ブルーベリーを植えたのは、あの森に続く道しるべだったのでしょうか?スワルトイ領の人間には、わかりませんでした」
「クロモリ伯爵は、スワルトイ領をバカにしています。許せません!! 」
「でも、クロモリ伯爵は、あの石で、何かを作る予定だと言っていましたよ」
「ええ、子供が入るくらいの籠を作ると言って、始めて来た時に、石を詰め込めるだけ詰め込んでかえりました」
「どうして、それを早く言わない!! 」
「ヒロイが・・」
「ヒロイ様が・・」
「ヒロイが・・・狙われている」
別宅のモモガロンの窓の外に、鷹が下りて来た。
「お嬢様、公爵様の鷹です」
電話でのやり取りは、確実だが、この世界では、どこから情報が洩れるかわからないので、スワルトイ家は、秘密にしたい事は、鷹が運んでくる。
「ヒロイが、王位継承の式典にどうしても出席したいと、お爺様にお願いしたようです」
「そんな・・、ヒロイに危険が迫っているのは事実です。絶対に駄目です」
「しかし、ヒロイの意志は固く、出席を懇願しているらしいです」
「陛下へのお手紙は何が書かれていますか?」
「う、うん、『おねがい』と、書かれている・・・。ヒロイの初めてのおねだりが、危険を伴う任務とは・・・、どうしたものか?」
その時、シャドウ宰相が、コーヒーを淹れ、手にしながら話す。
「皆様は、多分気づかれていないと、思いますが、麗水源での戦いの時に、コウモリの後ろ脚は、消滅していました。マギガル伯爵の赤龍が、焼き尽くしていたとお考えでしょうが、私はもう一人、密かに、後方部隊が存在していたと、考えています」
「あの時、モモガロン様には、沢山のコウモリが迫っていました。コウモリを赤龍が燃やせば、モモガロン様も、大やけどを負います。だから、マギガル伯爵は、決して、不安定な火炎を吹き出しませんでした。誰もが敵と戦っていて、集中している時に、ヒロイ様は、母上を助けたのではないでしょうか?」
「そして、ヒロイ様、お一人では、あの場所にはたどり着けません。スワルトイ公爵の部隊もご一緒だと考えられます」
「今回のこのお手紙は、部隊長が許可し、公爵が承諾して、国王陛下に届けられたと推測します」
「うん、スワルトイ邸に、その石の籠の件を伝え、同時に、その石の籠は、燃えると言う事も伝えてくれ。私は、ヒロイのおねがいを、許可しようと思う。どうだろうか?モモガロン?」
「どんなに反対しても、今は、ヒロイに頼るしかありません。わたくし達は、王都にいないのですから、ヒロイの考えを尊重しましょう」
「すまない。君と息子に助けてもらう」
「陛下、わたくし達は、家族です。・・・ヒロイを信じましょう。しかし、わたくし達に失敗は、許されません」
その場にいた全員は、モモガロンが震えながら話す決心を心に留めた。
「所で、シャドウ宰相、そのコーヒーはどうなさったのですか?」
「うん、オリナス伯爵の家にコーヒーセットがあったので拝借して来た」
オリナス伯爵が、
「それは、クロモリ伯爵がくれたものだが、苦いくて苦手だが、チョコとビスケットを砕いて入れると、どうにか飲めたので、取って置きました」
「贅沢だ・・・・・」




