クロモリ伯爵
第45章
スワルトイ領の広大な敷地内のスワルトイ邸には、王都から沢山の人間がすでに駆け付けていた。
官僚を始め、医師、王都のスワルトイ邸の人間も、待機状態で、国王陛下とモモガロンの消息を待っていた。
流石のシャドウ宰相も、未だに目が覚めていない状態が続き、国王陛下と宰相がいないこのヴィッセルス国は、激震と言っても過言ではない。
夜が明ける前に、すでにトワは、スワルトイの屋敷に呼ばれていた。呼んだのは、王都のスワルトイ家のボルト家令で、ヒロイの指示に従ったと言える。
現在、エビクール国王、レディ・モモガロンが、不在な為、国の実権は、ヒロイが握っている状態だった。
すでに、スワルトイ公爵には、部隊長が、ヒロイの精霊が優秀だと言う事は、伝えられていたが、公爵以外は、その事実を知らされていない。その中で、名乗りを上げて来た人物がいた。
『クロモリ伯爵』だ。
クロモリ伯爵は、幼い時に両親が、極寒の地に流され、しかし、その両親が、真面目にその地を治めて亡くなった為に、爵位だけは、そのまま継承され、数年前に、王都に戻って来た。
「聞く所によりますと、本当にクロモリ伯爵は、真の精霊持ちですか?」
「はい、国王不在の時に有事がありましたら、僕が、この国をお守りします。」
「おおおお~~~」
議会の重鎮たちは、クロモリ伯爵のその言葉に感激の声を上げた。
ヴィッセルス国は、歴史を辿っても、国王が不在だったことは一度もなく。常に国王、又は、皇子がその座についていて、襲撃から国民を守ってくれていた。
しかし、ある貴族の年寄りがクロモリ伯爵に問いただした。
「では、どうして、国王陛下に自分は真の精霊持ちだと訴えなかったのですか?」
「そうだ・・・。」
「国王陛下は、流刑貴族の末裔が、真の精霊持ちだと、信じると思われますか?」
「国王陛下は、ご立派な方で、どのような貴族の話でもお聞きになります。」
その年寄り貴族は続ける。
「あなたは、今、王宮に入れますが、国王陛下がいた時には、訪ねる事が出来なかったのでは?」
その話の後、王宮の全員は、疑いを持ち始めた。王宮は、陛下の精霊が受け入れてくれるものだけが、訪ねる事が出来るシステムになっている。それはすなわち、反逆者は、入れない要塞の様なものだ。
「でも、このまま、誰もこの国を守る事が出来なくて、あなた達はそれでいいのですか?」
その言葉に、誰も返事は出来なかった。
次の日、スワルトイ公爵邸に、王宮から連絡があったと、ボルト家令は伝える。
「公爵・・、体調が優れない時に申し訳ありません、王宮より、ヒロイ様に王宮へのご公務の依頼が参りました。」
「ああ、昨日、国王陛下より、そのような要請が来た場合は、断っていいと連絡があったばかりだ。陛下もモモガロンも、今回の事を重要案件ととらえている。きっと、何かが起こるのだろう・・。」
モモガロンは、2日後に、国王陛下と一緒に、スワルトイの別宅に戻った。
「お嬢様・・・。」4人は、駆け寄りモモガロンの無事を確認した。
「わたくしは大丈夫よ。国王陛下は、もう少し休んだ方がよろしいでしょうけど、順調な回復だと言えます。シャドウ宰相と、マギガル伯爵の方はどうですか?」
「はい、お二人とも衰弱されていましたが、シャドウ宰相は、王都よりトワ様が、駆け付けてくださり、医者も、2,3日で、回復されると申しています。」
「では、サポールト、私に報告は?」
「はい、お嬢様、この数日で判明したことをご報告いたします。」
「コウモリ達は、まさしく精霊の卵の様な存在でした。それは、あのゼミクの精霊だったと考えられます。・・しかし、彼は、領土の為に、コウモリを売っていました。」
「どうやって?」
「私もはっきりはわからないですが、特殊な籠にいれると、コウモリが見えるようです。持ち主が亡くなっても、消滅しない精霊です、何か特別な力があったのかも知れません。」
「そうよね。国王陛下が、前回一度、倒したはずなのに、今回、また、復活している・・・、そこがおかしいでしょう!」
「ゼミクは、なぜ?大量のコウモリをお嬢様に託したのでしょうか?」
「ーー気持ち悪いけど・・結婚のお祝いだと、言っていました。」
「それは、この先、貴族の手に渡ったコウモリが、お嬢様が王妃となるヴィッセルス国に、災いを無くしたかったのでは、ないでしょうか?」
「それは・・全面的にゼミクを信じる事になります。」
「・・・・・・」
マルサナが、
「お嬢様を誘拐して、スワルトイ公爵をご病気にして、国王陛下やシャドウ宰相、マギガル伯爵までも傷つけた人ですが、私達3人には・・素晴らしい先生で、温かい人柄でした。」
「・・・・・・」
コベルが、
「今、王都では、国王陛下、シャドウ宰相、お嬢様は行方不明となっています。もしも、ゼミクのコウモリを大量に購入している人間がいるとなると・・・どうなるのでしょうか?」
「それは一番の心配です。前のマギガル伯爵は、ゼミロクと一緒に、ゼミクからコウモリを買っていて、誰かに渡していたのかも知れませんね。その人間がどの位コウモリを持っているか?また、コウモリは、合体が出来るのか?--そこが問題でしょう。」
「マギガル伯爵は、目覚めましたか?」
「いいえ、まだ、昏睡状態です。トワのアンモナイトを赤龍が食べてくれると、回復は早いのでしょうけど、医師は、肉体的には、問題がないと言っていて、後は、精霊の回復次第です。」
「そうよね・・・。彼が一番、頑張っていたのだから、消耗は激しいハズです。」
その時、モモガロンと常に一緒にいた国王陛下が、5人の元にやって来た。4人は、緊張した面持ちで、国王陛下を迎え、挨拶をする。
「ああ、座ってくれ。私も椅子に座らせてもらう。」
「・・・・・・」
陛下に、もう一度、調べた事を報告して、陛下の指示を待つ。
「助かる、シャドウ宰相が、回復するまでは、君たちに頼る事になる。よろしく頼む。」
「コベルは、どうした方がいいと思う?」
「はい、国王陛下、私は、今は、国王陛下もお嬢様も、不在状況で、王都の王宮は、非常事態だと、感じます。そのような事は、今までありませんでした。」
「この国を治めたいのであれば、一般的な悪の精霊持ちと同じように、国王陛下のお命を先ずは狙います。しかし、その後の事は多分考えていません。彼らは、その後も、このような平和な国が続くと思っていたのでしょう。」
「しかし、ある程度の知識がある貴族は、そのような不味い道は選ばないでしょう。今回は、他国の皇子に未来の王妃が誘拐され、国王陛下は、行方不明、シャドウ宰相は、ケガを負っていて、直ぐに復帰することはできない。マギガル伯爵は、敵国を導いた責任を、これから取る事になる、誰も、彼の主張を信じる人間はいません。」
「王宮の重鎮たちは、必ず、国王陛下の変わりが欲しいハズです。」
モモガロンが、
「それは、ヒロイと言う事になるのではないでしょうか?・・・・そんな、ヒロイはまだ王位継承の儀式が終わっていません。」
「そうです。まだ、王座に就くことは出来ない。そこが一番のねらい目です。仮定の話ですが、そこに目をつけたのが、ゼミクだとしたら?・・私は、ゼミクを優秀な人間だと思います。」
「ゼミクからそのように囁かれた人間は、どうしますか?」
「必ず、このチャンスを掴もうとするでしょうね。」
コベルは続ける。
「彼の事は、これから時間をかけて調べるとして、本来ならガーデニュー夫妻を殺した人間で、決して、許すことは出来ません。しかし、お嬢様が生きていると知って、罪を償う機会があり、自分の生命の期限も知っているのなら、きっと、何かをするのでは、ないでしょうか・・・。」




