モモガロン誘拐される。③
第42章
「コベル・・・、鷹は何を伝えている?」
「スワルトイ公爵様が、倒れたと・・・・」
「そんな・・、どうして・・、うううううっ・・」
コベルは、確かな情報を伝える事に専念して、確実に他の3人に伝える。
「後、モモガロン様は、スワルトイ領の麗水源に必ず現れると、シャドウ宰相が、占ったらしい」
「え?本当?」
「行こう! 我々も、麗水源に・・・」
4人は、急いで、コベルの知識を頼りに、その場から最短の道を探し、馬で夜通し走り、スワルトイ領の麗水源に着いた。
木や葉で、どんなに傷ついても、4人は、音もなく、静かに陽が昇る前に、その麗水源にたどり着く予定だったが、突然、国王陛下に止められた。
「陛下」
「シッ! 」
「夜が明けるまでは、ここに待機してくれ、彼らは空から来るだろう。これ以上進むことは出来ない」
「しかし、どのように・・救出するおつもりですか?」
「ここに居るマギガル伯爵が、燃やす。例え、モモガロンが麗水源に落ちても、シャドウ宰相が、直ぐに水の中に入り助ける。それか、モモガロンが、青龍を出し、自力で抜け出すかだ」
4人は、憎々しくマギガル伯爵を睨みつけ、説明を求める。
シャドウ宰相が、
「私から説明しよう。今回のモモガロン誘拐の首謀者はゼミロクだね?しかし、ゼミロクは、モグクライ国の第6皇子でありながら、自分の領土を捨て、マギガル伯爵を頼り、偽家庭教師と言う職業をもらい、援助を受け、何年も前からヴィッセルス国に密入国して暮らしていた」
「マギガル伯爵は、きっと、何かの為に、彼を利用しようと考えていたに違いない。その陰謀は、これから解明されるだろう。しかし、彼は、町の飲み屋で、賭けに負けて、全財産を失うと、やけになり、喧嘩をして、その辺で野垂れ死んだらしい。ーーその頃、現在のマギガル伯爵は、殆んどの時間を、王宮での取り調べに要していて、直接、ゼミクとは、会う事もなく、電話だけのやり取りだったようだ」
「元のゼミロクは、マギガル伯爵の為に、マギガル伯爵の嗜好品をゼミクに頼み、ゼミクは、ゼミロクが、ヴィッセルス国で、ファラブ領の特産品を広めてくれる事を期待していた」
「最初は、そのコーヒーと言う飲み物を、ヴィッセルス国で、広めてくれるだけで、いいと思っていたに違いない。その為に、ゼミロクの身代わりに座ったのだろう・・・。しかし、彼を本当の家庭教師だと、信じていたマギガル伯爵は、君たちの為に、ゼミクを紹介した」
「そのゼミクは、そのコーヒーと言う嗜好品の為に、お嬢様を誘拐したのですか?」
シャドウ宰相は、首を振る。
「これから、話す事は、まだ、はっきりした事ではない。しかし、多分、最初の目的はそうであろうと考えられる」
「・・・・・・」
コベルが、
「分水の為ですね?」
「そうだ、彼のファラブ領とスワルトイ領は隣同士で、国境が存在している。その国境付近には、スワルトイ領を豊かにする水が湧き出ている。彼は、十年以上前から、その水を分けて欲しいと、嘆願している。その案件を、担当していたのは、主に、ガーデニューご子息だ」
「ーーーそれでは・・・・」
「多分、犯人だろう」
コベルは、
「しかし、麗水源を分水しても、ファラブ領には、水は届きません。ガーデニュー様は、優しいお方で、調査をさせて、その結果も出ています。水を流すには、雨が必要なのです。雨の為には、森林が必要で、その相乗効果があって、スワルトイ領には、豊富な水があるのです」
「モモガロンは、きっと、そのことを知っている。そうだろう?コベル?」
「はい、モモガロン様は、スワルトイ領については、物凄く勉強して、必ず知っています。そして、彼を連れて、分水できない理由を説明なさるはずです。そのようなお方です」
「君たちも、すでに、理解が出来ていると思うが、本物のマギガル伯爵は、すでに亡くなっていて、今のマギガル伯爵は、別人だと理解できるか?」
4人は、黙ったまま、頷いた。
「精霊持ちは、すべてがそうだとは考えられないが、殆んどの精霊持ちは、転生されている」
「しかし、国王陛下には、前世の記憶は、持ち合わせていないらしい・・・」
「モモガロン様は、その真偽は真の精霊持ちでわからないが、本当のゼミロクは、すでに亡くなっていて、ゼミクは、いつからかわからなけど、ゼミロクになった。そして、自分の領土の為に、どんなことでもしようとしている」
「その為に、モモガロン様を誘拐して、分水をしてもらうつもりだろう・・・」
シャドウ宰相が、続けて話す。
「しかし、彼には、あまり時間がない。口約束でも水が、欲しいとしか思えない・・」
「あなたは、これからどうしたいのですか?」と、モモガロンは、聞いてみた。
ゼミクは、モモガロンの顔を見ながら、すまなそうに話す。
「お前を人質に、分水の条件を飲んでもらう」
「その水が湧いている所を見る事が出来るかしら?」
「え?」
「その模型が、本当なら、分水は無理だと思う・・・・。私は、スワルトイ領について勉強したばかりで、その水が湧く所の事も、興味深く読んだ記憶がある」
「その報告書には、あなたのファラブ領へ水は届かないと、書かれていました」
「お前・・そんな嘘を・・」
「あの湧き出る水は、山頂に溜まっているのは、確かですが、スワルトイ領に流れるには、少し傾いていて、流れを助けてくれています。その先は、森林が多く、雨が降りやすい為に、途中で、湧き水と雨は合流して、大きな川に流れ込み、そして、支流へと続いている」
「あの土地が、国境となっているのは、低いながらも山脈が連なり、互いの侵略を食い止めています。食い止めているのは、侵略だけではなく、その山脈は、風も上昇させてくれています。その風によって、雲が出来、雨が降って、水が流れる。だから、スワルトイ領は、分水することを拒みました」
「あなたのファラブ領に分水できないのは、そうすることで、スワルトイ領も、打撃を受ける為です。わかって下さい」
「・・・あなたは、飛べるのに、他に水源を探さなかったのですか?」
「最初の内は、毎日のように探した。しかし、あの麗水源を見た後、麗水源しか思いつかなかった・・・、探すのを止めてしまった。その後は、内戦が多発した。兄弟同士でここ10年以上も戦っている。愚かな国なんだ・・。モグクライ国は・・・」
「私を誘拐して、何がしたいのですか?」
「お前は、王妃になる。例え、スワルトイ領に送られていく水が少なくなっても、絶対に分水するはずだ」
「その後・・・あなたはどうするのですか?」
ゼミクは、黙ったままで、モモガロンは、ゼミクに話す。
「私があなたを乗せて、麗水源に向かいます。その前に、あなたのファラブ領を見せてもらっていいですか?」
「どうして?」
「多分、あなたは、そうしたいのかと思います」
ゼミクは、モモガロンを見て、うな垂れた。
「頭から何かを覆った方がいい、ファラブ領は、いつも、砂埃がスゴイ・・・」
その後、二人は、外に出て、モモガロンは、青龍を完成型にして呼び出し、
「まだ、国王陛下ですら乗せていません。特別です、どうぞ・・・・」
青龍は、二人を乗せ、その砂漠の様な、大地を蹴り、砂埃と共に、飛び立った。




