国王陛下とヒロイ
第36章
「私のエナジーが必要だったのですか?」
「その時の、国王陛下は、瀕死の状態で、助かるかどうか、わからなかった」
「・・・・でも、子供を作る位、元気だったのでは?」
「そこは、わたしの範疇ではないので・・・・」
国王陛下は、感動した面持ちで、モモガロンに尋ねる。
「それって、そのヒロイと言う子供は、私の子供で間違いないのか?」
「はい、そうでしょう。私が覚えているのは、水の音だけですけど、ヒロイは、陛下に、確かに、似ています。ーーーそして、精霊持ちです」
「今までは、ずっと、私が精霊を持っているからだと、思っていましたが、二人の子供だと思うと、しっくりします」
「・・・・、会う事はできるか?」
「会いたいですか?」
「勿論、会いたい、父親だと名乗りたい」
暫くすると、ソニアが、ヒロイを連れてやって来た。
「ヒロイ、こちらにいらっしゃい」
ヒロイは初めて入る豪華な貴賓室に、少し怖気づいているのか、いつもより大人しくして、モモガロンの側までやって来て、二人をじっと、見ていた。
「ヒロイ、ご挨拶して・・・」
「ヒロイ・スワルトイです」
モモガロンは、初めて、ヒロイの挨拶を聞いて、納得した。そう名乗っていたら、お爺様のお子様と、思われても仕方ない。保育園では、特別扱いをしないように、要望したのだから・・・そう名乗るに決まっている。
「初めまして、ヒロイ、私はこの国の国王で、君の父になります。わかる?」
ヒロイは、国王陛下が近づいてきて、かがんでヒロイに話しかけても、ただじっとしていた。
「僕の・・・?お爺様?」
そこは、3人で、全否定「違います!!」
シャドウ宰相が、
「陛下の幼い時によく似ていらっしゃいます」
「うん、私もそう思うよ。モモガロン、どうしたい?私は、未成年の君に子供を産ませて、苦しい思いをさせた。君が、やっと、人並みの生活を始めた事を知っている。だから、これから先は、無理強いしたくない。でも、許されるのなら、わたしの妃になって、共に歩いて、欲しいと思っている」
モモガロンは、じっと考えて、
「私は、ヒロイには、自分の名前を、誰にでも名のれる人生を、送らせたいと思っています。今、お返事を出来るのは、これだけで、出来たら、ヒロイの側で、彼の成長を見届けたいと考えます」
「うん、わかった」
「スワルトイ公爵が、戻って来たら、今後の話をしよう。それまで、ヒロイと交流を持ちたい」
シャドウ宰相は、
「モモガロン様は、ヒロイ様の精霊は、どのようだと考えていますか?」
「それは、予測できません。国王陛下には、どのように見えますか?」
「私も、にゃあ様が、はっきり見えた年齢は・・・9歳か、10歳くらいだった。それまでは、どうだったのだろうか?ヒロイのように、ふわふわ飛んでいたのだろうか?」
シャドウ宰相が、
「私が、国王陛下の最初のにゃあ様を、初めて見たのは、陛下が10歳の時でした」
「それまでは、このような現象はありませんでした。やはり、お二人のお子様だからでしょうか?」
「そうなんだ・・・」
国王陛下が、ヒロイに近づいて、ヒロイを抱こうとすると、ヒロイは、一歩後ろに逃げる。
「う?」
もう一度、近づくと、また、一歩逃げる。
「彼は、人見知りなのか?」
「今までそのような事は、ありませんでしたが、陛下の前で、緊張しているのかも知れません」
「・・・・・・」
それからずっと、そのような状態が続き、ヒロイは眠くなり、ソニアによって退出して行った。
「ヒロイは、僕が苦手なようだ・・。どうしたらいいのだろう・・・?」
「子供でも何かを感じているのか?ーーそれとも、精霊の仕業なのか?」
「難しい・・」
「しかし、僕は、例え、嫌われても、モモガロンとヒロイと一緒に暮らしたい。君たちを大切に思う。それが本心だ」
「しかし、陛下、最後は、ヒロイ様に足を踏まれてましたよ」
「ーー偶然だろう?」
「・・・・・・」
次の日、モモガロンの別宅で、ヒロイと一緒に、プール遊びを楽しむ予定の陛下は、徐々に近づいてみるが、まったく、上手くいかず、最後は、泣き出して、ヒロイはモモガロンに助けを求めた。
「ヒロイ、陛下は、あなたの父上なのよ。大丈夫、安全・安心の方です」
「モモガロン、その様な紹介の仕方は、やめてくれ、飛び切りいい人とか、この国一番の人間とか、とにかくヒロイにとって、敵ではなく、最大の見方で、君の為なら何でもできると、教えてくれ」
「・・・・・・」
スワルトイ公爵が戻るまでの間、ヒロイと、どうにか距離を縮ませる努力をしている国王陛下が、気の毒に思える程、拒否されていた。
別宅の広いバルコニーで、シャドウ宰相とモモガロンは、のんびりお茶を頂いて、好きなアイスクリームなどの話をしている間も、国王とヒロイの追いかけっこは続き、傍から見ていても滑稽におもえていると、いつもの三毛猫くんが、飛び出し、ヒロイに近づく。
「にゃあ様、登場です」
「うん」
にゃあ様が、近づき、ヒロイの足に纏わりつく、ヒロイは避ける事もしないで、しゃがみ、頭を撫でて、にゃあ様を受け入れた。その姿を見て、モモガロンとシャドウ宰相は、
「どうやら、ヒロイ様の精霊は、ネズミでは、なさそうですね」
「ええ、実は私も、ネズミだと、思っていました」
「ーーーあれだけ逃げると、そう思うよね」
にゃあ様が、ヒロイと遊びだし、しばらくすると、多くのにゃあ様が溢れ出し、ヒロイに群がり、ヒロイは、にゃあ様に埋まってしまった。
国王陛下とシャドウ宰相、モモガロンは、駆け寄り、ヒロイを救出しようとしたが、にゅあ様に抱かれ、眠るヒロイを、見て、
「にゃあ様が、ヒロイを受け入れて、ヒロイもにゃあ様を受け入れた。もう少し様子を見よう。急いでも、どうやらいい事はなさそうだ」
「国王陛下が、ヒロイ様を思っていられる事が、にゃあ様に伝わった事で、ヒロイ様の精霊も少し安心したのではないでしょうか?精霊は、本来、主人を守る事が仕事です」
「うん。わかっている。しかし、一度でいいから、この手でヒロイを抱きたい」
「今、眠っているから、大丈夫では?救い上げて抱いて下さい。私もこのままだと少し心配だから・・」
国王陛下は、卵を抱き上げる様に、ヒロイを抱き、頬を近づけて、温かみを感じている。
「軽くて、温かい、・・・本当に僕の子供なんだね。実は、あの時の記憶は、僕にもないんだ。君に対して、そのような非道な行為をしたことも恥じている。それを、思い出せなかった事も許せない」
「でも、ヒロイが生まれてくれた事は、素直に感謝できる。本当にありがとう。モモガロン」
今度は、ヒロイの匂いを忘れないように、抱きしめていた。
モモガロンは、あの夜の事を、陛下も知らないとなると、誰かが、仕掛けたとしか思えなかった。
そして、シャドウ宰相の方を見ると、彼は、顔をそむけた。
「絶対に、この人が罠を張ったに違いない。でも、どうして・・・・?」




