屋敷に溶けけむ。
第34章
夕方近くに到着したが、ニュースは素早いもので、すでに、街道には大勢の領民たちが、モモガロンを待っていた。涙を流し、手や旗をふり、歓迎ムード、一色だった。
領土に入る前に、ヒロイは、メリー達の車に移動していて、モモガロンの膝の上にはいなかったが、次の後継者もすでに存在していると、領民たちには、早く教えてあげたいと、心から思った。
「お嬢様、領民たちの喜びは、爆発しそうですね。みんな、泣いています」
「ええ、長い間、待たせたと反省しています。彼らに沢山の心配と不安をもたらしました」
「私たちも、お嬢様とヒロイ様をお守りする事は、本当にこの領土の人の達の願いだと、心から思い、名誉に思います。モモガロン様、今回の決意、本当にありがとうございました」
「あなた方の家族にも、大変、無理を言いました。心から済まないと思っています」
「お嬢様・・・私たちは、お嬢様の為、スワルトイ領の為に働く事が生きがいです。それは、私の家族でも一緒です」
モモガロンは、凛々しい顔で、
「・・ありがとう。さぁ、窓を少し開けます。皆さんの声援に少しでも答えるつもりです。よろしいでしょうか?」
「はい、身を引き締めて、警護いたします」
モモガロンが、窓を開け、領民に顔を出した時、歓声は最高潮にあがり、大勢の領民に、初めてのお顔見せが、成功したと言える。それから、長い道のりを、ゆっくりと、スワルトイ邸まで車は走り、スワルトイ邸に着いた時には、夜になっていた。
整然と整列した使用人たちは、モモガロンの優しい性格も知っている人達で、この領土の跡取りが、モモガロンで良かったと心から、思っているに違いなく、いつもキチンとしているメイド長でさえ、涙を流しながら、モモガロンを出迎えた。
「みなさん、待たせました。モモガロン・スワルトイです。これからは、お爺様の不在の時は、このスワルトイ領土の全権を任されています。よろしくお願いします」
「はい、お嬢様、お部屋は準備してあります」
「メイド長、ありがとう。あなたが、用意して下さった部屋は、必ず使いますが、今日は、別宅で眠りたいの、いいかしら?」
「今後のメイドたちの事などは、このマルサナと話し合って下さい。今は、彼女しかメイドはいません。これから何かと忙しくなります。よろしくお願いします。他の事は、コベル、サポールトが、代表となり屋敷、領地、その他の事を、私に報告してくれます」
「皆さん、若輩者ですが、これからは、少しでもスワルトイ公爵のお仕事のお手伝いをする予定です。何かありましたら、わたくしに相談して下さい」
そして、その夜は、ヒロイを抱き、温もりを感じながら、別宅の寝室で休んだ。
その後、メリー達3人は、今度はスワルトイ領内に、保育園を創設する為に、力を貸してくれた。
ヒロイは、3人の中に常に存在していて、スワルトイ公爵邸にすんなりと溶け込んでいた。
メイド達も、王都から来たヒロイの事を「坊ちゃん」と、呼び大勢の人達に可愛がられていた。
「使用人たちは、ヒロイ様の事をどう思われているのでしょう?」
「わからないけど、ヒロイの可愛さに夢中だね」
「ええ、最近は、沢山の言葉を覚えて、色々な事に興味をお持ちで、その利発さが途轍もなく可愛い、みんなのアイドルです」
「次の当主だとは、誰も思わないよね」
「はい、その時の、驚きは、モモガロン様の上を行くでしょう」
「ふふふ・・・」
スワルトイ領に戻ってからは、本格的にスワルトイ領の勉強を始めた。貴族学校で習った事は、少しも役立たななったが、前世の記憶は役立った。財務表を見たり、河川工事の重要性を考える事は、苦痛ではなかった。教育出版は、ヒロイと言うアドバイザーが近くに存在しているので、順調に、2冊目を出版した。
真夏になる前に、ヒロイと、屋敷内の使用人たちを伴い、散策に出かけた。
「気持ちいい~~。こっちに帰ってからは、資料を読むことが仕事で、勉強以上に勉強した」
「お嬢様、本当にこの山に、来たかったのですか?」
「そうよ。こちらに戻った時に、この木が見えて、沢山の実がなっていると思って、来てみたかったの」
そう言って、モモガロンは、どんどん山に向かって入って行った。
太陽を見て、日が当たっている場所を探し、目の前の、木になっているブルーベリーを食べた。
「お嬢様・・・」
「うん、美味しい。これ、やっぱりブルーベリーだ。それに、今が食べ頃です」
ヒロイが、「僕も食べる」と言うので、濃い紫色のブルーベリーを一つ食べさせた。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しい」
「さあ、今日は全員で、この山のブルーベリーを取ります。紫色のものだけを収穫して下さい。急がないと、陽が暮れます」
モモガロンは、あの日からずっと気になっていた。この世界に来てからは、ブルーベリーを食べた事がないのに、スワルトイ領には存在していた。
うる覚えの場所を、コベルとサポールトに確認してもらい、所有者の特定を調べたら、スワルトイ公爵だった。
「お爺様の所有する土地なのね。では、明日、できるだけ大勢の使用人をつれて、出かけましょう。ヒロイも参加しますので、家族を連れての参加も許します」
「さぁ、皆さん、紫色の物だけを摘んで下さい。お願いします」
モモガロンからの初めての要請は、ブルーベリー摘みで、小さい子供から大人まで、全力で、紫の小さな実を摘んだ。
ヒロイは、キャッキャ言って、サポールト達に抱かれ、楽しんでいた。それからは、時間が過ぎるのが早く、すべては摘めなかったが、夕方になったので、収穫出来たブルーベリーを持って、屋敷に帰っていった。
食べてもいいとは言っていないが、すべての人たちの唇は、すでに紫色で、屋敷に戻ると次の指示を待っているのが、わかった。
「今日は、綺麗に洗って、明日からは、砂糖を沢山いれて、ジャムにします。お疲れ様でした」
余程、楽しかったのか、ヒロイはその夜、熱を出した。
「お嬢様、冷たいタオルです」
「お医者様は、何て言っていましたか?」
「はい、子供特有の熱だそうです。細菌ではないので、安静に眠っていれば大丈夫だそうです」
「よかった。私もヒロイも少しハシャギ過ぎたわね。思いっきり外に出たのは、本当に久しぶりで、・・・嬉しくて・・母親失格だわ・・」
「お嬢様、これからも、ヒロイ様は、沢山の病気をします。そして、強くなります。誰でも通る道です。安心して下さい。今日のブルーベリーを摘む楽しさは、今後、きっとヒロイ様のお役に立ちます。お嬢様は、素晴らしいお母様ですよ」と、シルクが話してくれる。
「あなたのお母様も、きっと、そう言われます」
「本当に?」
「本当です」
メリー、ソニア、シルクは、いつもモモガロンとヒロイに寄り添ってくれる。母親がいないモモガロンには、暖かい存在だった。
次の日、ヒロイは、熱も下がり、ぐっすりと眠っていた。
モモガロンは、ジャム作りを始め、丁寧に瓶に入れて、使用人たちに配った。
「私たちに、頂けるのですか?」
「そうよ。美味しかったら、他の人にもすすめてね。半分は乾燥させて、保存します。夏だから、1週間位で、もっと美味しくなりますよ」
周りの使用人たちは、呆気に取られて、何も言えなくなった。
「ありがとうございます」ビックリしながら、一人一人、瓶を受け取って行く、
「これからもよろしくね。ブルーベリージャムは、私からの小さな気持ちです」
この瞬間から、別宅の主は、ゆるりと、この屋敷の中に溶け込む。




