少しブレーキがかかります。
第29章
新学期が始まり、トワも、モモガロンも、順調に登校している。
トワの方は、この夏に国王陛下と一緒に、視察に出かけたと知った学生たちが集まっている。
「トワ様は、国王陛下と共に、全国の領土を回られたのですよね」
「国王陛下はどのようなお方ですか?」
「今回の旅は、お妃をお決めるになる為と伺いましたが、本当でしょうか?」
「どちらの晩さん会が、素晴らしいものでしたか?
「どちらか、お気に召す領土はございかしたか?」
「陛下は何がお好きでしたか?」と、すべて、国王陛下と領土に関係する物ばかり、質問されていた。勿論、答えられない。
トワは、新学期が始まる直前に、王都に戻って来たので、漫画関係の事は、すべてモモガロンに任せっきりで、心から申し訳ないと、思っていた。
だから、王都に着いてから、直ぐに、モモガロンに連絡して、進捗状況を聞いた。
「トワくん、無事のご帰還おめでとう。こちらは、今のところ順調です。しかし、あなたには、一つ大切な仕事を残しています」
「え?何?」
「宣伝です。2巻の発売の宣伝と、私のお店のオープンを、同時に、周りの人達に知らせて下さい。こちらから、グッツ商品を送りました。発売日まで後20日、お願いします」
「プー、プー、プ・・・・・」電話は切れた。
その後、モルジャが、ドアをノックして、出来上がったグッツ類を手渡した。
「・・・・・・」
「このような物、売れるのでしょうか?」
この時、トワは、絶対に、モルジャは、この国で生まれたと確信した。
「うん、多分、売れる。僕は、すでに欲しいから・・・、大丈夫だ」
貴族学校が始まって、何も答えられない状況が、2日が過ぎ、3日目に、やっと、
「次の漫画は、いつ発行されるの?」と聞いてくれる男子が現れ、
「うん、今月の20日には発売できると思うよ」と答えると、
「ふ~~ん、そのそのペン、・・主人公?」
「うん、そうなんだ。こういうのグッツ製品って、言うのだけど、グッツを売るお店もオープンする予定なんだ。認定商会が並んでいる通りの、一番端に、『ホワイト』と言うお店で売る予定だ」
「ふ~~ん」
そのまま、その男子は、どこかに居なくなり、トワは、やっと一人だけど、両方の情報を伝える事ができたと思った。
その頃、モルジャは、王都内の本屋を周り、トワから渡されたポスターと言う物を貼る為に、頭を下げていた。モルジャは、綺麗な空を見上げ、
「坊ちゃん、本当にこれで売れるのでしょうか?」
同時刻、トワは、肩を落とし、いつもの様に、日光を避け、壁の近くを歩き、学生室のドアをノックして、やって来た。
「トワくん、この二日どうしたの?どこかの貴族にお呼ばれだった?」
「すまない。・・やはり、僕は、宣伝には向いていない・・・。今日、たった一人に、漫画の事とお店の事をやっと言えたよ」
「ーーーーーー」
「それでいいです。一人に話せたら、その人が誰かに話すかも知れないし、グッズもそんなに大量に出来ていないの。ほら、彼たち、こだわりの塊だから、大量生産は、一部の商品しかできていないのよ」
「いいの?良かった。この3日、食事も喉を通らなくて、心配で眠れなかったよ」
「ふふふふふ・・・、はい、オムライスどうぞ」
「ありがとう。ありがとう・・・。君が編集長で本当に良かったよ。助かった~~、ありがとう」
「モルジャは?」
「うん、今日は、本屋にあのポスターを張ってもらってる。『ホワイト』の事も小さく書き足しておいたよ」
「おお、それは凄い、思いつかなかった。そうだよね。宣伝するなら本屋が一番だね。でも、あのポスターも売り物だからね」
「勿論、こちらの買取です」
「ふふふ、お買い上げありがとうございます。所で、お店の名前はどう?」
「すごくいいよ。いい名前のお店だと思う」
「うん、やっぱり、マイナスイメージを挽回したいからね」
その後、トワが行った宣伝活動はなく、発売日、当日を迎えた。
第2巻発売日。王都には本屋は数件存在し、朝から順調に売れて行ったが、『ホワイト』の方は、午前中から長蛇の列、その事は、直ぐにモモガロンに報告が行き、昼食の間に対策が練られた。
「お嬢様、どうした事でしょう。グッズも子供車も大変な人気で、お店に入りきらない程で、外にも長い列が出来ています。天幕は予約で、受注生産だからどうにかなりましたが・・・」
「先ずは、子供車の在庫を調べて、誰か、外に人を出して、何を買いに来たか聞いて、申し訳ないが、本日は売り切れだと、言うしかありませんね」
「グッツの方は、この際、一人、1~2品までのお買い上げをお願いして、もしかしたら、ご購入できない事を告げるしかありませんね」
「はい、それでは、僕たちが早退して、ホワイトに向かいます」
その頃、王宮の国王陛下にもシャドウ宰相が報告していた。
「・・あんな物が、そんなに人気があるのか?」
「はい、一応、何かあったら、モモガロン様の為になりませんので、近衛兵を派遣しました」
「彼女は、授業中か?」
「はい、これから、午後の授業が始まります」
「・・シャドウ、彼女をどう思う?」
「モモガロンですか?彼女は、スワルトイ公爵のように優秀だと思います」
「うん、そうだな、知恵があり、僕に、一番大切なのは、領民、国民だと、教えているように思えるよ」
「それに、美人です」
「・・・・・・」
サルポートとコベルが、ホワイトに到着した時には、すでに、近衛兵が到着していて、大事にはなっていなかった。
今日はオープンの日だったが、モモガロンが学校だった為に、スワルトイ邸から、特に優秀な使用人達が手伝いに来ていた。
二人は、その人達に、モモガロンの伝言を伝え、一人一人、お客さんにどのような物を購入するかを聞き、在庫を確認して、列の一人一人に届け、会計をしてもらう。
すべての人が1品でも購入出来て、お店の中が空になって、近衛兵たちに感謝を述べて、モモガロン特注のカギでドアを閉鎖した。
「死ぬ~~~。こんなに売れるとは思っていなかった。明日からどうしたらいいのだろう」
店員は、すべて精霊持ちで、制作に携わりながら、お店も手伝い、ホワイト商会から賃金も受け取る。つまり、副業だが、お客の動向もわかり、マーケティングも出来る。
今日のシフトに入っていた6人は、何もない床に寝転がり、天井を見て、泣いていた。
「この世界は、最高だ」
「ああ、僕たちはホワイトだ。ホワイト精霊持ちだ。はははは・・・・。生きてて良かった」
そんな6人の気持ちは、サルポートとコベルには、わからなかったが、とにかく初日は、2時に完売してしまい。今後の事を考える事にした。
貴族学校からは、一度も寄り道をしたことがないモモガロンだったが、車の中から少しだけ、ホワイトの様子を伺っていた。
「お嬢様、様子を見に行かれますか?」
「いいえ、今日は人の目があるでしょう。それに、概ね、想像がつきます」
「ええ、私たちも、悲惨な状態が想像できます」
夕方から、ヒロイが眠りにつくまでは、極力、一緒に過ごした。
ヒロイの保育園も順調に始まり、少しづつ、意思の疎通も出来る様になり、ヒロイにも母の元に帰る事が認識できるようになって、益々、可愛くて、本当に、ずっと一緒にいたいと思っていたが、現実は、そうはいかない。
「ヒロイ、どうしましょう?お母様のお店は、売る物が無くなってしまったわ・・・」