上手い話
第26章
トワは、夏休みになって時間ができたので、第2話に取り掛かる予定だった。
王宮のアシスタントたちも楽しみにしていて、その期待は、物凄く大きかった。
真剣に、2話の絵コンテに取り掛かっていると、アシスタントの一人が、トワの所にやって来て、「トワ様、僕が家に帰る途中で、一人、また一人と、僕に、漫画の原稿を渡す人がいます」
「持ち込み?売り込みかな?誰かに護衛を頼む?」
「いいえ、身ぎれいで、怪しい人とは、思えませんが、とても熱心で、どうしてもトワ様にお渡ししてくれと、頼まれます」
「そうか・・」
トワは、最初は気にしないでいたが、どうやらそのアシスタントを受付窓口だと、勘違いし始める人が多くなり、持ち込み企画は、山のようにトワの元に届けられた。
トワは、手に取り読んでみると面白いし、内容が、もの凄くいいモノもあった。
「今度、声をかけられたら、僕が会ってみたいと伝えてくれる?」と、そのアシスタントに話した。
当然の事ながら、モルジャには、反対されたが、モルジャと二人のメイドも同席できる店を探し、その彼に会ってみた。
彼の名は、シュネールと言い、アシスタントを待ち伏せしている時に、他の漫画描きとも知り合いになり、代表して、トワとの面談に望んでいる。
「初めまして、シュネールと言います。僕がどうしてこのように、トワ様を頼った経緯を、お話いたします。僕たちは、元々、個人で活動していました。僕らは、この国に来てからは、それなりに仕事をしたり、ホームレスだった人もいます。・・・そして、僕はある貴族の元で暮らしていました」
「ーー使用人だったの?」
シュネールは首を横に振り、
「・・・・・トワ様を信用して、お話します。・・僕たちは全員、精霊持ちです」
「本当?スゴイね。僕と一緒なの?」
シュネールは、目に涙を溜め、上を向きながら・・
「トワ様は・・・、僕たちとは違います。僕たちは、悪の精霊持ちです」
「・・・・・・」
「最初、この国に来て、この国を手にすることなんて、チョロイと思っていました。だって、あの国王のにゃあ様を倒して、王座に就けばいい事で、たった、それだけでした。後は、国王陛下のように勝ち続けるだけだった。それが僕の目標で、今は、気にくわない貴族たちのご機嫌を取るだけで、いいと・・」
「でも、あの日、新聞を読んで、タツトヨリイ公爵は真の精霊持ちで、オマケに犬・・・」
「僕は、その時、悟りました。ーー国王陛下には、敵いません。犬でも勝てない・・・」
「その後、貴族たちの間では、国王陛下が心より信じていたタツトヨリイ公爵が、国王陛下に謀反を起こし、その後は、きっと、陛下はすべての貴族を調べると、恐れ始めました。ーーそして、僕たちは、一気に邪魔な存在へと降格して行きました」
「その後は、路頭に迷うような生活で・・・、多少の給金をもらっていたので、僕は宿屋に泊まる事ができましたが・・・。失意の中に居ました」
「そして、トワ様が発行された漫画を読み・・希望が見えたようでした」
「トワ様には、わかると思いますが、僕たちは全員、オタクです。この世界しかありません。それも、オンラインゲームが得意です。しかし、そこにたどり着くまでには、紆余曲折あったのは、わかって頂けますか?」
「僕たちに、何か手伝いさせてもらえませんか?ーー仕事を下さい」
トワは彼らの話は、本当の事だと思った。実際、僕も転生人で、モモガロンもそうだ。ただ、どこかで、悪と真に分かれるだけで、貴族と庶民に生まれる確率と似ている。そして、僕とモモガロンは、特別、恵まれた人間に思えた。
「僕は、今、実は資金が豊富にある。それを君たちに提供しよう」
「トワ様・・」とモルジャは、一言呟いた。
「でも、今後の事は、今は返事できない。それでも、僕は君たちに生きていて欲しい。この世界で・・この国で、僕と一緒に・・」
それから、トワは自分の中にこんな勇気があるとは思わなかったが、その後、すべての悪の精霊持ちに会い、話を聞いた。皆は、この国で、仕事をして普通に生きて行きたいと願った。
そして、もしも漫画の出版が始まるのであれば、その仕事を手伝いたいと・・。
スワルトイ邸のテーブルに戻る。
「それで、モモガロンに相談することになった」
「私はいい事だと思うけど、この国では、トワくんの作ったレベル位が、今は、丁度いいと思うけど、最初から物凄くクオリティが高い物を出すと、後が続かないし、競争になると、また、雰囲気が悪くなるでしょう?」
「それに、今は、アシスタントさんを紹介してもらっている立場で、今後、出版を増やすと、衝突もおきるでしょうね?」
「僕も、人をまとめて統率する力が、自分にはないとわかっている。だから、シャドウ宰相は、王宮から、人を派遣して、商会を作ってくれると言ってくれた」
「ああ、いいのでは?それがいいよ。それなら、国も儲かる仕組みで、悪の精霊持ちの人達は、公務員になるの?」
「公務員になるかは、わからないけど、国の管理下になる」
「ふ~~~ん」
「そこで、編集長をモモガロンに頼みたい。僕は、結局素人で、アシスタント任せでしょう?最終チェックは、モモガロンに頼んでいる。今後も、最後にGOを出す人になって欲しい。駄目だろうか?」
「え~~~、そんな大役を・・出来ないよ」
シャドウ宰相が、ここで話し出す。
「今回、モモガロン様が、その編集長という仕事を引き受けて下さると、今まで以上のマージンをお支払いします。そして、あなた個人の商会の設立を国が認めましょう」
「え?」
国が認める商会と言う言葉に、モモガロンは反応する。
この国では、一般商会と、認定商会があり、貴族の中でも、認定商会を持っている人は、とても少ない。勿論、お爺様はご自分の商会をお持ちで、沢山の品物を販売しているらしいが、認定商会とは、伝承されない仕組みで、例え、モモガロンが、後を継いだとしても、認定商会にはなれない。
「どうして、そんな特典を頂けるのでしょうか?」
「流石、いい質問です」
「彼らから、沢山の情報が聞いて、有事の時には、国王陛下をお助けしてもらいます」
「そ・そんな事、その人達は承諾したのですか?」
「承諾してくれました」
「モモガロン、僕は、彼らが根っから悪い人間ではないと思っている。ーーーただ、現実を見るのに時間がかかって、自分を見失っていた。それを悪用していた人達に、操られていただけだ。僕も、その立場になっていたら、そうなるかも知れない」
「いい人だと思うけど・・・オタクって・・、誰も傷つけない・・・」とトワがボソッと言う。
モモガロンは、トワの純粋さが好きだけど、自分がその人達に会っていないので、返事に困っていた。
「この話は、いったん持ち帰らせてもらいたいです。皆にも、相談しないと返事は出来ません」
「わかりました。それでは、スワルトイ領での、今後の予定について話していいでしょうか?」
「それは、お爺様とお話しした方がよろしいかと・・・」
「モモガロン、君は、当然、察していると思っているけど・・・?聞くところによると、君の別邸は、最近、素晴らしいリフォームをしたらしいね。湖が一望できて、広大な芝生の広場も備え付けていて、国王陛下の研究に役立つ為に、作ったのか?」
「シャドウ宰相、そのように、回りくどく聞かないで下さい。私の別邸は、にゃあ様がお風呂に入る為に作ったのではありません。自分の休暇用です」
「しかし、国王陛下は、さっき、スワルトイ公爵から、湖の説明を聞いて、とても喜んでいたよ。モモガロンが、にゃあ様の為に、用意してくれたと・・・」
「そんな・・、そんな事・・、違うと言って下さい」
「この国に、国王陛下に、違うと言えるのは、君だけだと思うけど・・・」