スワルトイ領②
第25章
国王陛下の一行は、お忍びと言う概念がないのか?大勢の護衛と使用人、シャドウ宰相、トワを連れてスワルトイ領の領主邸を訪れた。
突然のご訪問であったが、いつも統率の取れているスワルトイ家の使用人たちは、すぐさま整列し、ボルト家令のもと、立派に出迎えが出来た。
スワルトイ公爵は、国王陛下の前に立ち、感謝を述べる。
「国王陛下のご訪問を心から感謝いたします。どうぞ、わたくし共でお手伝いできる事があれば、なんなりと、お申し付けください」
スワルトイ公爵の後に、モモガロンが続く。
「国王陛下のご訪問を心から嬉しく思います。どうぞ、スワルトイ領でごゆっくりして下さい」
国王陛下は、頷き、スワルトイ公爵との会談に臨んだ。
その後、モモガロン達は、そそくさと、自分の別邸に戻り、次の指示を待った。
「お嬢様・・、国王陛下は、なぜ、突然、こちらにいらしたのでしょうか?」
「国王陛下が動くと、悪の精霊たちも動く為に、なかなか王都から出る事は、なさらなかったはずですが、今回は、大勢の護衛と共に、このスワルトイ領に電撃訪問のようですが?」
「それには先ず、上層部の人たちを動かさなんと行けないでしょう?例え、国王陛下のお力が、この国では、最大としても、タツトヨリイ公爵が亡くなって、一層、お爺様のお力が強くなるのに、反感を持つ人達も、いるでしょう?」
「それには、きっと、今回のタツトヨリイ公爵の謀反の内容が、議会で明らかになって、国王陛下が、大叔母様に敬意を払い、弔問の為、スワルトイ領をご訪問する事を許したと思います」
「ーーーいい口実はできたと言っていいでしょう」
「お嬢さま・・・そのようにハッキリと・・」
夜には、豪華な歓迎の宴が設けられ、モモガロンは、一般の貴族学生としての身分を装い、末端の席で、食事を取っていた。
しかし、突然の訪問ににしては、準備が整い過ぎていると、モモガロンは感じていた。
今日は、モモガロンをエスコートする為に、コベルが付き添っている。
「ねぇ、100歩譲って、国王陛下のご訪問が、1週間前に決まったとしても、料理やアメニティは、直ぐに、100人以上の出席者の為に用意できるの?そんなにスゴイのかしら?我がスワルトイ領は・・・?」
「・・お嬢様、お嬢様と国王陛下が初めてお話した時に、お嬢様の別宅の前にある湖の話をされたと思われますが・・、その話を、陛下は心に留めていらしたようで、常々、公爵様にお聞きになっていました。感のいい公爵様は、その時からご準備なされていたと思われます」
「そうよね。この塩漬けとか、絶対に無理だと思って・・・貴重でしょう?--美味しいけど、好物だけど・・、なんだか悔しい・・・」
すべてのスワルトイ領の偉い人達は、国王陛下に視線が言っているので、モモガロンがプリプリしながら食べていても、誰も気にしない。
ただ、一人、国王陛下だけは、グラス越しに、モモガロンのそのような様子を、微笑みながら見ていた。
シャドウ宰相が、
「公爵の誠意のご馳走を、彼女は怒りながら食べていますね」
「ああ、折角の夏休み、公爵に甘えた方のだろう・・?」
「・・・・・・それは・・ないかと・・」
晩さんが終わり、ダンスとドリンクパーティーに移って行く。スワルトイ領の、美し楽団は国王陛下の好きな音楽を奏でる。
「楽団の人たちの衣装も新調したの?」
「はい、人数も増やし、楽器も取り揃えました。陛下の好みもリサーチ済みだと、公爵様の側近たちは、やり切った顔で、申していました」
「そこまで万全なの?それでは、国王がお国入りするだけで、大変な出費だわ・・。王都に居てくれた方がいいのでは?」
「今までは、本当に国王陛下が、領土を回る事は少なかったです。しかし、最近では、何故か安全だと、シャドウ宰相が判断され、スワルトイ領を皮切りに、多くの領土を視察なされるご予定です」
「ーーどうして?」
「その理由は、僕が説明するようにと、シャドウ宰相から仰せつかって来ました」
と、トワが話す。
モモガロンは、いつの間にか、側にいたトワに、飛び上がる程驚いて、
「トワくん、存在感が無さすぎ。死ぬほどビックリしました」
「すみません、サルポートが、君に、近づくことを許してくれたので、やっと、ここまでたどり着けました」
モモガロンの周りは、常に1m以上の空間が維持されるように、4人は警備をしている。4人の許可がなければ、当然のように、話しかける事はできない。例外は、国王陛下、シャドウ宰相、スワルトイ公爵関係者、そして、最近、トワが加わった。
「少し、どこかで話せないかな?」
5人は、どこが安全で、モモガロンの評判が落ちなくて、いい場所を考えていると、シャドウ宰相も、こちらにやって来て、話し合いに参加することが決まった。
「お嬢様、ダンスホールの横に、貴賓席がありまして、音楽を聴きながら、軽食も取れる席がございます。あちらでしたら、会話もかき消され、傍から見てもタダの雑談に思えると思います」
「ええ、そこに、移りましょう」
流石に、モモガロン達と一緒にシャドウ宰相も移動するとなると、視線を感じるが、貴族学校の友達の訪問であれば、それで、納得する人間もいる。
それに、今日は、国王陛下が、このスワルトイ領にご訪問された記念の日。小さい事には、あまり目が行かない。
3人が、テーブルに着くと、素早くお茶とお菓子が用意され、他の4人は、厳戒態勢の警備に身を投じる。
音楽が流れる中、小さな音も聞き逃さないように、身を引き締めて、集中し始めた。
「シャドウ宰相、国王陛下に対しての、危険が減ったとはどういう事でしょうか?」
「多分、減って行くのではないかと、予想しました。だから、今回、思い切って、こちらのスワルトイ領に出向くことになりました」
「それって、予想の段階で、スワルトイ領を選ばれたのですか?そんな・・、ヤメて下さい。今回の国王陛下の滞在で、莫大な支出です」
「モモガロン、そのような事を気にするスワルトイ公爵ですか?あなたのお爺様は、そのような方ですか?」
「もちろん、お爺様は気にしませんが・・・・」
「今までは、国王陛下がどちらかに向かわれると、必ず、悪の精霊が現れ、勝負を挑む事となります。そして、町や田畑、民家までも破壊され、一般の人々も傷を負う事がありました」
「その為、陛下は、災害が発生した場合や、他国との小競り合い等、ご自分が行かなくては解決できない場合のみ、視察に訪れ、ご自分の聖地以外は気軽には出かけて行きません」
「そのような状態が、先代から続き、問題のある領土にも出向くことができませんでした」
「では、今回は、なぜ強行したのですか?」
「それは、悪の精霊持ちを、貴族達が放出し始めました」
「え?」
「前回の謀反はバルガガ伯爵が起こし、今回は、国王の一番近くにいたタツトヨリ公爵が起こしました。2度ある事は、3度あると、国王が、貴族達の調査を開始すると噂が流れ、彼らの衣食住を保証していた貴族が、悪の精霊持ちを、手放し始めました」
「それは、確かな情報なのですか?」
「ええ、彼らは、生きる為に、トワ様を頼られて、接触を持ち始めました」
「どういう事????」