やはり、前世を覚えている
第22章
アガサスは、真の精霊持ちだった為、心配性の両親によって、スワルトイ領を出たことがなかった。
その為、結婚前に、お妃教育を受ける必要があり、当然、未来の王妃の為、警備は厳重で、王都を目指す道は、何度も、近衛兵によって、調べられた。
王都では、お妃歓迎のムードは最高潮に達していて、多くの国民が、アガサスの到着を待ち望んでいた。
アガサスが王都に向かう前日、タツトヨリイ公爵邸では、当時のタツトヨリイ公爵が、不機嫌そうに、嫡男に話している。
「我が家は、どうして娘が生まれなかったのだろう。このままスワルトイ家の娘、王妃になれば、我がタツトヨリイ家は、スワルトイ家に負ける事になる。すでに、領土の広さで負け、階級でも、3番目に落ちる」
「しかし、父上、スワルトイ家との縁談は、国王陛下、たっての希望だとお聞きしましたが・・」
「ああ・・、これは、国家秘密にかかわる事だが、お前にだけは告げておこう。どうやら、スワルトイ家の娘は真の精霊持ちだそうだ」
「え??本当ですか?」
「ああ、国王陛下も、最近は、疲労が溜まるらしく、王室に新しい精霊を迎え入れたいと申していた」
「ああ、今まで、同列だと思っていたスワルトイ家に、してやられた」と言い、タツトヨリイ公爵は、その日、大酒を飲み、酔いつぶれるまで、悔しいと騒いていた。
「真の精霊持ちが他にも・・・・」
フラール(後のタツトヨリイ公爵)は、何故か、その精霊持ちに会って見たいと思った。
「どんな精霊をもっているのだろう。彼女は本当にこの国の為になるのか?知りたい・・・」
フラールは、自分の精霊に乗り、アガサスが通る道で待ち伏せをした。
そして、立派な近衛兵に、守られ黄金の馬車は、ゆっくりと休憩所に留まった。
「お嬢様、王都までまだまだ時間がかかります。こちらで一時休憩になさいましょう」
「ええ、わかりました。皆さんもどうぞお休み下さい」
アガサスは、馬車からその華麗な姿を表した、その時、その姿を見た瞬間に、前世に戻った。
「ハガ・・・ハガなのか?本当に?」
アガサスは、美人だが、ハガの顔のままだった。当時のハガは男性でも、優しい顔の持ち主だった。
フラールは、気持ちが抑えられなくて、そのまま突進していき、一瞬の間にアガサスをさらって走り、森の中に消えていった。
フラールは、国王に嫁ぐハガを許せなかった。嫉妬だと言えば、それは正解だった。
「王妃!! 大変だ。王妃が誘拐された。精霊だ!! 」
「お嬢様! 誰か~~~~誰か、お嬢様を・・」
「急げ! 王妃を救出しろ!! 」
フラールは、この世界で初めて精霊を完成させ、大きな犬に乗り、アガサスを抱え、とにかく逃げた。
「イチ・・お前もこの世界に来ていたのか?」
その言葉を聞いたイチは、その場で止まった。
「ーーどうして?わかった・・・」
「ふっ、この犬、お前の犬だろう?あの時、一緒に戦った犬だ」
「お前も精霊持ちだとは思わなかったよ」
「どういう意味だ?」
「精霊って、心が綺麗な人間に宿ると、思っていた。一緒にいた好きな男を捨てて逃げるような人間にも宿るなんて、この世界も、大したことはないな」
「ハガ・・、俺が、お前を置いて逃げたと思っているのか?ーー俺の気持ちを知っていながら?」
「どうした?ここで決着をつけるか?犬と鷹、どちらが強いか?知りたいだろう?」
「ハガ・・、僕に会いたく無かったか?」
「どうして?会いたい?あの日、あの時、一緒にリタイアしていたら、僕たちはずっと一緒にいられたかも知れないのに、お前は、拒否して、逃げたんだ」
「違う、・・・違う、ハガ・・・・」
ハガはすでに鷹を完成型にして、イチの犬に襲いかかった。
「イチ、今日、私を拐った事を後悔させてやる」
「ハガ、聞かせてくれ、お前は、本当に国王陛下に嫁ぐつもりか?相手は男だ。それでも、本当に嫁ぐのか?」
「イチ、僕は、男でも、女でも、別に気にしない。一緒にいるだけでいいんだ。お互いが必要とする関係で良かった。ただそれだけで良かったのに・・・」
ハガのその言葉を聞いた時に、イチは戦いを止めようと思った。所詮、自分の犬はハガの犬には敵わないと思っていた。
しかし、結果は、 フラールの考えと反対だった。そこには、血を流し消えそうなアガスタが倒れていた。
フラールはアガスタを抱きしめ、追ってきた近衛兵や護衛達に気が狂ったように、襲いかかった。
「自分が、どうして、ハガを殺すことができる! こんなに愛していたのに・・・」
フラールは、自分も死にたかった。しかし、ここで死ぬ事は、タツトヨリイ家の事を考えるとできなかった。タツトヨリイ公爵は、フラールをとても大切に育ててくれた。
今世では裏切る事は出来ない
「イチ、あの日の朝、僕は人生で一番の失敗をした。あの時、武将の所に出向き、大砲を打つことをヤメる様に、説得に行って、その場で、殺されてしまった。僕は、一緒に生きるつもりだった。ゴメン、本当にごめん・・・・」
その後、王都に戻った時は、大騒ぎで、国中が犯人騒ぎを叫んだ。
父上から、
「彼女は、国王陛下を助ける為に、この国の為に、嫁ぐ決心をしたと、スワルトイ公爵は泣きながら、国王陛下に縋って泣いていた。あんなスワルトイの姿を見たのは初めてだ。心からお悔やみを申し上げたよ」
イチは、2度、ハガを殺してしまった。
それから、魂を無くした様に、生きて、イチが成し遂げたかった国王陛下の側で、この国を守る事を、ただそれだけをする人生だった。
僕は、いつも間違って、きっと、いつも死にたかった。
イチは、生涯独身で、自分の死後はタツトヨリイ家は無くなる、それでも、ヴィッセルス国に仕え、国王陛下に仕えた。そんなタツトヨリイ公爵を、前国王も、現国王陛下も、にゃあ様も信用していた。トワが王宮に入るまでは・・・
「陛下は、私が、おかしくなったとお思いでしょう?でも彼女は男性で、唯一、愛した人でした」
「ただ、僕はいつも彼を殺してしまいます。ただ、愛しているだけなのに・・・」
「では、なぜ、トワを殺そうとする」
「わかりません。私の心がどうしても許せないのです。国王陛下、あなたを殺すことはしたくありません。しかし、私のワン様は、あなたがそのトワの精霊を守るのであれば、あなたと戦わなければなりません」
「タツトヨリイ公爵、本当にそれでいいのか?」
「はい、それがのぞみです」
トワのアンモナイトの精霊は、元に戻り、にゃあ様とワン様の一騎打ちが、遠くのモモガロン達でも、理解出来た。
「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、どう見ても国王陛下が優勢です」
ワン様は警察犬のような犬で、飼い主には忠実ですと、胸を張っているような精霊で、にゃあ様は、いつも通り、招き猫が大きくなったような、少し不機嫌な顔をした猫だった。
これは・・、にゃあ様の一発の猫パンチで、決まるな~~と、思っていると、結果はその通りになった。
「はぁ~~」きっと、何十年も、生きて、沢山の精霊たちを見ていたはずなのに、なぜ、気づかない?
「さぁ、屋敷に戻りましょう。ヒロイが待っています」と言って、屋敷に戻った。
その日の夜、お爺様が帰ってきて、
「タツトヨリイ公爵は、年のせいで、頭がおかしくなったんだろう。アガサスの事を、男だと叫び、自分が、愛したただ一人の人だと・・・」
「私は、アガサスが生まれてから、ずっと一緒に成長していて、王都に向かう時の美しいアガサスを忘れた事はない。それなのに・・・まったく、無礼だ」
モモガロンは、やはり精霊持ちは、前世をしっかり覚えていると、確信し、
「国王陛下とヒロイは、どのような暮らしをなさっていたのでしょう・・・?」