ハガからアガサスへ
第21章
タツトヨリイ公爵は、いつも被っているフードを脱いだ。
「国王陛下、あなたは私の気持ちにお気づきではないのでしょうか?」
その場の誰もが息をのんだ。
「どういう事だ?ーーータツトヨリイ公爵・・・・」
「私は、すでに老人ですが、多分、この国で一番の国防に成れる存在です。私のワン様は、あなたのにゃあ様よりも、絶対的に強いです」
「それでも、私はこの国の為、あなたの為に、静かに60年以上も暮らしてきました。すべてはあなたの為です」
「この国の王は、本来なら私です。国王陛下。猫と犬の力の差は明白です」
「それなのに・・・、あなたは、やはり若い精霊持ちに心を奪われたのです。私のこのすべてを捨てた愛情よりも・・・。あんな・・・子供に・・・本当に、不純です」
シャドウ宰相が、
「不純なのは、タツトヨリイ公爵、あなたの方ではないでしょうか?国王陛下は、本当に男性がお好きだと思っているのですか?陛下がお年頃になられた頃より、その噂は絶えず存在していました。なぜでしょう?」
「陰で、あなたが流していたのですね。その時の占いでは、当時、その噂は、吉でしたが、最近では凶と出ています。あなたが、トワに対して不穏な動きをしていたのは、すべて、陛下はお見通しです」
「あなたもわかっていると思いますが、陛下の周りには、信用できない人間はいません。その判断を下しているのは、精霊であるにゃあ様です。あなたが、陛下のお側て仕える事を許していたのも、にゃあ様でした。ーーそして、にゅあ様は、トワとトワの精霊も受け入れました。しかし、トワが王宮に来てからは、にゃあ様は、あなたを拒絶し始めたのです」
「国王陛下は、大変悩み、苦しみました。そして、私達は、長年、疑わなかったあなたを調べ始めました」
「・・タツトヨリイ公爵、あなたはスワルトイ公爵の妹で、前国王に嫁ぐはずだったアガサス様を、殺害しましたね?」
その話を聞いて、スワルトイ公爵は、後ろに一歩倒れる。勿論、急いで、側近が助け、
「タツトヨリイ公爵、どうして、どうして、そんな・・・・妹が、彼女が何をした!」
「ふっ、スワルトイ公爵、あなたは彼女を知らない。彼女は男性です。男なんだ! 」
「君は、頭がおかしい。妹は、誰が見ても女性だ。そして、真の精霊持ちだった」
その場の全員は、この辺から、タツトヨリイ公爵は、年齢もあり、頭がおかしいと周りは感じ始めた。
「彼は、鷹を自由に扱う鷹主で、私は、犬達を取り仕切る仕事をしていた。私は、前世も、今世も愛していたが、彼はノンケで、決して私の気持ちに気が付いていなかった。いや・・気づいていたんだ・・。あの日、あの時まで、バカな私が、気づかなかった」
タツトヨリイ公爵とアガサスは、前世では、武将に仕える仕事をしていた。
その国は、常に戦国時代で、周りが常に戦っているので、今、どこで、誰が何人位で、戦っているかを知る事が重要で、目の前の敵を倒しても、横から攻められて、全滅することがある。
情報は鳩や鷹、他の動物、人間が届ける。戦いにはもちろん、馬が最も多く活躍するが、山を越える時には犬も常に連れていた。
二人の出会いは、山の中、武将の指示が上手く伝わらず、イチが、制裁を受けている時に、ハガが、林の中から鷹を使って、助けてくれた。
二人は逃げて、結果、その戦いは、その武将の失策が原因で、負けてしまい。二人は次の武将を探し、山を下り、町へと向かった。
「次のパティーを探すには、町の宿で、求人を探すのが、一番効率がいい」
「犬たちは、どうする?」
「僕の犬は利口だから、いつもは自由にさせている」
「僕の鷹もそんな感じだ。それなら、一緒に宿にいくか」
「ああ、今はそれが得策だろう」
二人は宿屋を探し、それから、一緒に生活を始めた。その町を中心に色々なパーティーに一緒に参加して、互いに助け合い、お金を稼ぎ、食事をとり、眠った。
そんな生活を1年程過ごし、お金も貯まって、それから、大きな戦いのパーティーに参加することにした。
この頃には、イチは、ずっとこの町でハガと一緒に暮らす事が、一番の願いに変化していた。
「今度のパーティーに参加すると、半年は戻れない。ここの宿屋は解約して行こう」
「しかし、今まで、ここに戻る事が、戦いに出た時の目標だった」
「今度の仕事は、どこに移動するかもわからない大仕事だ。この戦いが終わったらまた宿屋を探せばいい」
イチはその言葉を信じて、二人で、大きな戦いに臨んだ。
戦いにおいて、鷹と犬が手を組む事は珍しい事で、ほとんどが人は、一人で行動する。
しかし、二人で組むと、戦術や情報は2倍になり、危険も少なくなる。
イチの犬は俊敏で、体も大きく強い。ハガの鷹は鋭い眼光で、力強く大空を駆け巡る。
最初の出会いで、助けられたイチは、常に、ハガに庇われている事が多くなった。
イチは、初めの頃は、少し気に障っていたが、だんだんと、庇われている事に慣れて、それが、恋する気持ちに変わっていた。
「ハガは、僕の為に一生懸命に戦ってくれて、僕の犬をいつも気にしてくれて・・本当に有難い」と、考えるだけでも、心が熱くなった。
ある夜、焚火を囲み、夕食を取っていると、
「あの武将、大きな大砲を手に入れたらしい。明日、西の方角に打ち込むと聞いた」
「鷹が西の方角に飛びたがらない。きっと、そこは、危険すぎるに違いない。どうする?」
「どうするって、武将が、その方向に向かうのであれば、行くしかないだろう」
「他の鷹主から手紙が来た。どうやら、リタイアするらしい。止めないか?」
「ハガ・・、君はいつも僕の犬たちをバカにしている。僕が弱いと思っているのか?実は、犬は鷹よりも十分に強い。今度は僕が、君と君の鷹を庇って、西を通過してみせるよ。犬の強さを、実感させてやる」
「イチ・・・、何を言っている。誤解だ。そんな事を言っているのではない。犬だろうが鷹だろうが、西には、どうにもならない危険が待ち受けていると、言っているんだ」
その夜は、話をしないまま二人は背を向け眠りについた。
翌日の早朝、そのパーティーの武将は、遂に、大砲を討ち始めた。その衝撃で、火山の噴火が起こり、二人のいる砦のテントにも、沢山の燃える石が降って来て、同時にガスが発生して、苦しくなってきた。
ハガは鷹たちに遠くに逃げる様に告げ、イチを探したが、イチはすでに見当たらなかった。
「あいつ・・・・」
そして、ハガは、その場で命を落とした。
そして、目覚めたハガは、スワルトイ家の娘として、転生された。
ハガは大いにビックリしたが、自分の中に鷹の存在を感じ、精霊の事も知った。
両親は、ハガの精霊の事を知ると、物凄く驚いたが、この世界では、真の精霊はとても貴重で、素晴らしい事だと教えてくれた。
「自分の鷹は、本当に素晴らしい。いつかこの国を救うかも知れない・・」
そして、両親と兄は、優しく、家は裕福で、使用人達も親切だった。そして、この世界では戦いによって、一般の人達は死ぬことは無い。国王陛下が国民を守っている。ハガは初めての平和を喜んだ。
ハガが年ごろになると、王室との婚姻の話が持ち上がった。
スワルトイ家は、元々は王家の分家の様な存在で、何代か前には、国王の兄弟が存在していた。
兄のサーデイは、心配して、何度もアガサスに尋ねる。
「アガサス、本当に国王の元に嫁ぐのか?それでいいのか?」
「勿論です。わたくしが嫁ぐ事で、この国がずっと平和であればいいと思います。精霊戦士が国王陛下お一人では、大変です。わたくしも、わたくしの精霊と一緒に、陛下をお助けしたいと思います」
「アガサス・・・、精霊がやられると自分の命も消えるんだ。・・そんな危険な事をする為に、嫁ぐ必要はない」
「兄上、これは、真の精霊を持った人間の勤めです。安心して下さい。私は大丈夫です」