初めての対峙
第2章
「お嬢様、ヒロイ様が王都に入られていて良かったですね」
「ええ、お爺様は私を思って、こちらに連れて来たみたいです。秘密裏に会えるといいのですが・・・」
「私達4人で何とかしてみます」
「でも、私がスワルトイ邸を訪ねる事は出来ません。そうなると、お爺様がヒロイを手放してくださるのか?本当に可愛がっていらっしゃるから・・、それもお気の毒で・・」
爆破テロから1週間後に貴族学校は始まった。
学生たちは標的になった貴族の事などで話題には事欠かない。
モモガロンの身分は末端の身分としての入学だったので、知らぬ存ぜぬを貫き通せばそれで済むことだった。そして、誰も話しかけない。
「お嬢様、バルガガ家のご子息はこの学校に在籍されているみたいです」
「へ~~。バルガガ家は位は高いの?」
「伯爵でいらっしゃいます。領土は随分と北に面していて、国境付近の警備を国王から任せられています」
「そうなると、簡単な意味では敵国って事になるけど、はっきりとは言えないわね」
「大叔母様の事を考えると、国内外の誰が敵なのは、いつまでだってもわからない。間抜けな国王だから仕方がないけどね」
「お嬢様、声が大きいです」
モモガロンの大叔母は、当時の国王へ嫁ぐ道のりで、暗殺された。勿論、大叔母もそれなりの精霊の持ち主で、どんな敵が来ても倒せる自信があったはずだ。しかし、暗殺されたのだ。
お爺様は、妹、息子夫婦も失い、残ったのはモモガロンだけだった。
だから、モモガロンが妊娠したと聞いても、怒ることはなく、顔や体中から喜びを表し、思いっきり大切にしてくださった。
生まれてきた息子は、生まれ落ちた瞬間から綿毛のような精霊たちに歓迎されていた。
初めて曽孫を抱いたお爺様のお顔が忘れられない。顔をくちゃくちゃにして、泣きながら抱き上げ、可愛くて、立派で、自慢の曽孫とおっしゃって、ずっと抱いていた。
そのお爺様の様子を見たときに、この世界で暮らしていくことを許されたと思った。自分の存在意味を見出したようだった。
息子と離れて暮らすことは死ぬほど辛いことだが、お爺様に任せた方がこの世界では安全安心。
お爺様の陰に隠れているモモガロンも、実際、暗殺されずに、こうして生きている。とにかく、全ての謎が解明されるまでは、お爺様のもとで静かに息子と暮らしていたい。
しかし、お爺様の意向では、学業はどうしても必要で、貴族学校に入学に際し、特別に配慮してもらう為に、1人だけ、どうしても身分を明かさなくてはならなかった。
どういう理由でお爺様の信頼を勝ち取ったのか分からないが、お爺様はいたく気に入っている。
この国のシャドウ宰相・・
私た5人は、同じクラスでなくてはならない、オマケに、モモガロンを囲むように席順が決まっている。権力と財力で勝ち取ったクラス内の安全地帯。
危険が伴う事を嫌うモモガロンは、初めて宰相を紹介された時、あまりのイケメンぶりにビックリしたことを覚えている。入学前の、あの日以来、会う事はないが、王都にはイケメンが大勢いるのかと思い、少し楽しみにもなった。
貴族学校は特に校則がなく、緩い学校と言える。校内のテストは学期末には行われるが、貴族生徒は気にしていないように思える。
「どうして?お爺様はこのような学校に通わせたかったのかしら?領土内の学校ではやはり不都合だったの?どうせ、結婚も、出産もしないのに・・・・」
「はい、貴族間では、この学校の卒業でなければ、貴族ではないという風習がございます。やはり、将来の為に望まれたと思われます。幸い、年齢制限はなく、成績優秀者は3年で卒業することが出来ます。ここで、3年、4年、頑張って、領土にお戻りになりましょう」
「ーーーーーー」
従者4人は、一番の年上は、コベル18歳、すでに貴族学校を卒業できる程の学力を身に着け、知識の幅広さは、スワルトイ領では誰にも負けない。当然だが、文武両道。
次にサルポート、17歳、それなりの学習能力、一度、見かけた人物を正確に覚える事が出来る。情報収集は趣味の様にしている。当然だが、武道はアクロバットレベル。
シルガー、16歳、モモガロンの気持ちに寄り添えて、生活面を助ける。特技は薬関係、特に毒には詳しくて、モモガロンの身を守る事が生きがい。武道はそれなりにできる。
マルサナ、16歳、誰よりも早く走り、飛び、モモガロンの為なら人を殺す事も出来る。武道者。
弱点は勉強で、コベルが一番、気にしている仲間でもある。
貴族学校の入学は本来なら15歳からの入学が正当な入学であるが、地方貴族は資金や家庭の事情により、18歳までは入学を許されている。卒業は、なるべくなら22歳までにすることが望ましいが、その後も学校に残って研究等を行う事もできる。
そう、21歳のエビクール国王の様に・・・・。
ヴィッセルス国のエビクール国王は、どういう訳か、たまに貴族学校を訪れる。
(国王の仕事が暇なのかしら?)と、最初の頃は思っていたが、ご自分の研究棟を学校内に設けていて、そこで、何かの研究をしているようだ。その研究は、サルポートでも未だに突き止めることが出来ていない。
「お嬢様、今日のお昼は、どちらでなさいますか?」
「シンガー、学校内では、モモガロンって、呼んでくださいね。5人だけでの移動で、誰にも聞かれていませんが、学校内では、お嬢様は禁句です」
「すいません。何度も、部屋で練習したのですが、5人になったとたん気が緩みました」
「練習って、真面目ね。今日はどこか外でもいいかしら?お天気がいいので、ピクニック気分で、ゆっくりしましょう」
「外ですか?テーブルと椅子の用意が間に合いません。どこかベンチを探しますか?」
「地べたでも大丈夫ですが、流石にそれはNGかしら?」
「はい、領土と違い、貴族の集まりの中で、地べたに座って、お食事を頂くことは出来ません。誰かに見つかって、モモガロン様の評判が下がっては行けません」
「評判って・・・」
サルポートが、
「校内には、領土別に1室、部屋が設けてあるみたいです。他の領土の生徒達は余り使用していませんが、私たちは、その場所を使うのはどうでしょうか?食堂やテラス、カフェテリア、庭園、サロンはすでに有名貴族たちが独占しています」
「そう?いいわね。部屋の方が安全だし、スワルトイ領の部屋を見に行きましょう」
ヴィッセルス国に於いて、我がスワルトイ領は一番の敷地面積を誇り、王都のスワルトイ邸は王宮の次に広く、この国、1番の金持ちと言える。当然ながら、どの貴族よりも位も高く、お爺様は、王室の中では一番の年上に当たる。
さぞかし、立派な部屋と思い、その部屋のドアを開けると・・、ものすごい臭いと埃が5人を襲った。
マルサナはモモガロンを抱き、その場から3mくらい避難していた。
「ゴホゴホ、ゴホ・・、どういう事ですか?どうしてこのように荒れているのですか?」
「わかりかねます。ゴホゴホ・・・ゴホ・・・」
その時、モモガロンが、一番会いたくないシャドウ宰相が現れ、
「モモガロン嬢、どうなさいました?埃まみれですが?」
「どうなさいましたって、この棟のスワルトイ領のお部屋を、使おうと思いまして来てみたら、物凄い埃で、一体、この部屋はどうしたのですか?」
「はい、長い間、スワルトイ領からの学生がいませんでしたので、使っていなかったのではないでしょうか?当然、この領土棟の中ではスワルトイ領のこの部屋が、陽も当たりも一番いい場所で、一番広い部屋になっていますが、長年、スワルトイ領からは学生の入学がありませんでしたので、埃が溜まったようですね」
モモガロンは微笑みの中、歯を食いしばって、シャドウ宰相に聞く、
「この部屋のリフォームの許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「本来なら、学生課を通して許可申請をするのが、正攻法でしょうが、勿論、モモガロン様の申し出でしたら、わたくしが許可申請を早急に通しておきます。他に何かお手伝いがありますか?」
「いいえ、この部屋の工事は、我が領土の人間に頼みますので、学校内への通行許可を、迅速に学生課に申し込みます。ありがとうございました」
シャドウ宰相とモモガロンは、貴族の風格を忘れずに微笑み合い別れたが、モモガロンの握り締めた拳は震えていた。
「お嬢様・・・・・」