青葉祭
第18章
「僕が出来ることがある事が、嬉しいよ。僕はこんな性格だから、前世でも、イジメられていた。この世界でも、使用人にさえも、バカにされて、でも、アンモナイトが僕を支えてくれて、生きる力をくれていた」
「アンモナイトたちは、にゃあ様の餌になることは、怒っていないの?」
「うん、王宮では、僕の中で活発に動いて、数も増えて、元気になって行くのが感じられる。不思議な所だよ。互いに、いい関係のような気がする」
(それについては、モモガロンも同じことを考えた。)
「そう・・・、でも、漫画は諦めるの?」
「僕の絵は、どう思う?」
「ーー下手だと思うけど・・・」
「僕もそう思うよ。だから、王宮では国王陛下より、給金を頂けるので、その給金で、僕の文章や簡単な絵コンテを説明して、絵の上手な人材を探そうと思う」
「ええ、いいアイデアだわ。絵は他の人に任せるのね?」
「そうするつもり、それには、指導者が必要になる。どのように制作するとか、色々なテクニックを今度の夏休みに、指導して欲しいのだけど・・。どうだろう?」
「・・それは、その内容次第ね。面白くて、もっと、見たい、読みたいと、思う物ならいいけど・・・」
「じゃあ、夏休みまでに、ネームを作るのはどう?」
「ネームは、すでに大体出来ている」
「そうなの?」
「君が手にした一枚は、ネームの中の一枚だよ」
「・・そうだよね」
「話の内容は、どんな感じ?恋愛ものとか?」
「異次元世界に転生した勇者が、その世界の最強のアンモナイトを仲間たちと一緒に探す話だ」
「う~~~ん、今年の夏は、王宮で過ごすかどうかわからないけど、何か手伝えることがあれば、勿論、お手伝いします。それには交換条件で、私の身分を聞かれたら、おばあ様の遠縁だという事を守って下さい」
「それは、シャドウ宰相からもキツク言われたので、大丈夫です」
それから、トワは毎日、モルジャと一緒に学生室に来るようになり、二人はだんだんと雰囲気に慣れて行った。
数日後に、モモガロンは、トワから第1話のネームを手渡されたが、そのまま、自室の机の引き出しにしまった。
青葉祭、国王陛下が、貴族たち恒例のイベント日。
どういう訳か、モモガロンにも招待状が届いていた。週末は、いつも工夫をして、ヒロイと遊ぶ日と、決めているのに、絶対に出席したくない。ーー仮病だな!
最近のヒロイは、今、小さな滑り台、小さなブランコに夢中で、広い庭をよちよちと歩き、たまには転び、また、起き上がる。毎日、毎日、運動、睡眠、食事の繰り返しで、大きな病気もしないで、すくすくと育っている。
その日、初めて足でよちよち漕ぐ、子供用の乗り物を用意して、乗せて見ようと思っているのに・・・。
「お爺様、断る事は出来ないのでしょうか?」
「ああ、陛下は、何故かあのトワをすごく気に入ったみたいで、これからは、どんな行事にもトワを参加させると、家臣たちに命令を出した」
「??????」
「・・・トワはどちらかと言うと、色白で、線も細く、弱々しいイメージだ。それに、最近は、二人で夕食を召し上がっているらしい・・・。ーーウウン(咳)、陛下は、成人しているが、まだ、王妃を娶っていない。それは、この国の弱点でもある」
「陛下は女性とのウワサもないのでしょうか?」
(意外だ!イケメンで、話がわかる人なのに・・・)
「陛下のご両親は、陛下に許嫁を決める前に、亡くなってしまったので、陛下は自由にお妃を選ぶことが出来るが、今のところは、運命の女性に巡り合っていないと思われる」
「ーーお爺様・・、私にはヒロイがいます」
「イヤイヤ、モモガロンには、トワのパートナーとして、出席して欲しいと、シャドウ宰相からの依頼だ」
モモガロンは、お爺様の不可解な言動を考えて、一つの結論に達した。
「ーーそれって、もしかして、陛下は男色だと、思われているですか?」
「・・王宮では、そのように囁く輩もいる。しかし、私はもちろん女性がお好みだと思っている」
「その日は、大勢の貴族たちが、王室御用達の会場で、弓道、射撃、競馬、球技などのイベントを楽しむ、一大イベントだ。そこへ、トワと共に登場することは好ましくない。だからと言って、トワを王宮で、待たせる事はどうしても許可されない」
「トワも、大勢の貴族たちに囲まれて、従者1名、メイド2名では、潰されてしまうのが、目に見えている。・・モモガロン、陛下とトワを救ってやって欲しい」
「しかし、お爺様・・陛下が、本当にトワを好いていたら・・私はどうなるのでしょうか?」
モモガロンは、少し悪戯心でお爺様に聞いてみた。
お爺様は、顔の汗を拭きながら答える。
「ヒロイと共に、領土に戻っても構わない」
モモガロンはにっこり、
「わかりました。お受けいたします」
お爺様との話が終わり、自室に戻ると、シルガーは、少し怒った顔で、モモガロンに尋ねる。
「お嬢様、その日は、きっと、陛下の男色のウワサを、消す為だけではないように思われます」
「そうね。きっと、陛下は、その日、何かを、おびき出しているかも知れません」
「それは・・・、危険が伴う事でしょうか?」
「トワに危険が及ぶことは確かでしょう。だからあなた達が必要で、もしかしたら。にゃあ様の為かもしれません」
「それなら、スワルトイ様に、本当の事をお話しして、お嬢様は、欠席する方が安全ではないでしょうか?わたくし達が、トワ様にお付きしますから・・・」
「でもね。もしも、本当に国王陛下とトワが相思相愛だったら、わたくしは、もう、王都には居られない程の恥をかくのよ?」
「あの素晴らしい国王陛下が、そんな事はありません」
「その話は全くの嘘でも、本当でもいいの。大事なのは、お爺様が貴族学校を退学して、ヒロイと領土に戻ってもいいと、言われた事です」
「その日、何か起こって、陛下、トワ、わたくしは襲われるかも知れません。そこ現場をこの国の上級貴族は絶対に目撃するでしょう。そして、わたくし達は、今度は王都の貴族中の話題に上ります。学校内ではそれこそ、雨、アラレで、その訳のわからない話題で持ち切りでしょう」
「そんな酷い状況の中で、私が泣いてお爺様に懇願したら、皆んで領土に戻れるのですよ。こんなチャンスを逃がすわけにはいきません。とにかく、その日は、警備には力を入れて下さい。ふふふ・・、サポールトとコベルにも、失敗は許されないと伝えて下さい」
「お嬢様・・・・」
王都で一番盛り上がるフフフのイベント(青葉祭)当日の早朝。
沢山の車や馬車は、これ見よがしに、沢山の荷物を積み、国王陛下の招待状を手に、モモガロン達が、前回訪ねた王室御用達の山の中に入って行く。
現代で例えると、おじさん達が、ゴルフ、競馬に興じるように、色々な野外スポーツに出向く。
ここの施設は、すべて王室専用で、当然の事ながら、色々な場所に休憩できる施設も整っている。
陛下と一緒にそれぞれを回る人間は、限られているが、それでも、至る所で、陛下に出会う事が可能があり、陳情を述べる者、縁談を申し込む人、それぞれが目的を持って、陛下のチームに近づいてくる。
ここで、陛下のチームを紹介しておこう。
国王陛下、シャドウ宰相、お爺様、タツトヨリイ公爵、トワ、モモガロン、それぞれの従者、使用人がこのグループで動いている。結構な大人数だ。
情けないが、国王陛下、シャドウ宰相、お爺様、タツトヨリイ公爵、すべて独身で、パートナーはなし。
「このグループ、平均年齢も高いが、独身率、100%だ。これでは、良からぬ噂も立つワ・・」