オリナス家のトワ③
第17章
トワは、王宮で暮らし、王宮から貴族学校に通っている。
王宮へ来てから、トワの風貌は思いっきり変わった。モモガロンは、スタイリストが付いたのか?と思う程に。
「モモガロン様、トワ様からのお手紙を、従者のモルジャが持って来ました。中を確かめた所、国王陛下から、推薦状が入っていました」
「ーーどういう事?」
モモガロンが、その手紙を開けると、
「ーーートワに、スワルトイ領の学生室での昼食を許可して欲しいと、書かれています」
「・・そんな事を、陛下に推薦してもらうなんて・・・」
「彼、一体、王宮で何をしているのかしら?」
初めて王宮に到着した日、トワは震えながら、王宮の門をくぐった。
王宮は、やはり精霊の一番の聖地。王宮に入ってから、トワの中の精霊がモゾモゾしていた。
夜もぐっすりと眠れて、何を食べても美味しいと感じられるようになった。今までは、本当に日影が好きで、太陽が嫌いだったが、王宮の窓を開けて、晴れた空を見る事が、嬉しいと思えた。
オリナス邸にいた頃は、夜眠るのも怖くて、モルジャには、同室で眠ってもらっているくらいに、不安で仕方がなかった。
しかし、今では、モルジャは、隣の部屋で眠っている。流石にそうだろう、年ごろの男の子が、同室なんて、王宮では、気持ち悪く感じる人間もいる。ーーだけど、不安はなくなった。
王宮で、シャドウ宰相から、初めに指導されたのは、身だしなみと、礼儀作法、姿勢の維持、下を向かない、前を見る。
散髪して、制服も作り直し、カバンや全ても私物も改善され、モルジャ以外に、メイドが二人つき、何とか伯爵家の嫡男らしく見えた来た。
しばらくたって、国王からの夕食の招待が来た。
流石に、まだ、国王陛下の前では、震えが止まらないが、食事は出来る様になった。
会話はなく、しばらくすると、にゃあ様が、陛下から湧いて来て、トワの足にもすり寄って来た。
トワは猫が好きな首の下をゴロゴロさせていると、アンモナイトがトワの体から溢れ出て来た。
「え?どうして・・こんなに・・・」
国王は、無言でトワの状態を見ていた。
「ここに来て、君の精霊は変化があったのか?」
「はい、なんだか、ざわついています。それに、こんなに溢れ出た事はありません。どうしたのだろう?」
一匹の三毛猫が、アンモナイトを食べ始めた。「ガリ、ガリ、ガリ・・・ボリ・・ボリボリ・・」
「えええ~~~!!! 」
一匹が食べると、大勢のにゃあ様も群がる。
「国王陛下、お願いです。---助けて下さい」
国王は、その様子を食事をしながらじっくり見ている。
「いや、私も、にゃあが食事をしているのを始めて見た。すごいな、君のアンモナイト」
「うんうん、いいね。君がここに居る意味がある。父上が亡くなって、君の代になるまで、ずっと、ここにいてくれ!最近、にゃあは、連戦で、疲れていたから丁度いい。モモガロンも学校が始まって、少し危惧していたんだ。そうか・・君の精霊は、いいナ」
「しかし・・僕のアンモナイトが・・・」
その場にいたシャドウ宰相が、トワに尋ねる。
「ここに来てから、アンモナイトの変化はどう?」
「特にありません。小さくなったとか、少なくなったとかもないです。かえって、身が軽くなった感じがして、体が楽になりました。どうしてだろう?」
「それなら、少し、にゃあ様にアンモナイトを分けてあげてくれないか?」
トワは少し考えて頷く。「はい」
「その代わりに、何か君の願いを聞こう」
ーーーそして、モモガロンに推薦状が送られた。
「直接、スワルトイ邸に届けて下されば良かったのに・・・」
「お嬢様、スワルトイ邸は、大変厳しいチェックがあります。トワ様のお手紙が、お嬢様に届く事はありません。わたくし達もそうです。国王陛下の推薦状が添付されていなかったら、お嬢様にはお渡しできません。なにより、公爵はオリナス家を好いてはいません」
「そうなんだ・・」
「では、トワ様が学生室にランチをご一緒することは、どうしましょうか?」
「ーーーそれは・・陛下の推薦状を無視することは、我が国では、できません」
「では、トワ様をご招待いたしましょう」
しかし、トワくんは、どのようにして国王陛下に、推薦状を書かせたのだろう。と5人は思っていた。
最近、自分のクラスでは、これ見よがしに、話をする生徒は減って来たが、廊下を歩けば、情報は耳に入って来る。
モモガロンが立ち止まって、大きな声で話しているグループの話を、聞いている。
「ねえ、オリナス家って、没落したと噂でしょう?没落したのに、嫡男は物凄くイメチェンしていて、おかしくない?」
「どうやら、没落はしていないらしいよ。オリナス伯爵だけが、辺境の地に追いやられて、嫡男は、な・ん・と、王宮で暮らしているみたい」
「でも、オリナス邸は、一時的に国庫に入ったみたいで、あの暗いトワって人が、爵位を継ぐまでは、差し押さえみたい」
「それって、どういう事?」
「良くわからないけど、オリナス伯爵は、何か途轍もない失敗をして、本来ならば、オリナス家は取り壊しだけど、陛下の恩情で、爵位は次の代に引き継がれるみたい」
「そして、トワ様は、王宮あげての再教育で、現在の姿に変身した」
「国王陛下って、本当にお優しい方なのですね。素晴らしい国王陛下ですね」
「ねぇ、昔は、本当に酷かったもの・・。存在さえも感じられなかったでしょう?」
「本当にね~~~。ホホホホ・・・」
「お嬢様・・・」
「これは、どう見ても、国王陛下の一人勝ちですね」
「とにかく、トワ様とのランチが楽しみです」
「お嬢様、トワ様です」
2階の窓から下を見たモモガロン達は、
「道の真ん中を歩いている・・・・、日陰ではなく、壁よりでもないね」
「ええ、本当に、今日のお昼が楽しみね」
待ちに待ったお昼休みが来た。トワとモルジャは、スワルトイ邸の学生室のドアを叩いた。
「お待ちしていました。トワ様、どうぞ、モルジャ様もわたくし達とご一緒に・・・」
モルジャは遠慮したが、シルガーが、手を取り、
「わたくし達も、あなたと立場は一緒です」と告げた。
モルジャは、一瞬、ドアの前で立ち止まり、そして、中に入って行った。
そこは、想像していた部屋とは違っていたが、初めて、トワ坊ちゃんが望んだ事だと思った。
「ーーありがとうございます。よろしくお願いします」
初日は、モモガロンとトワ、二人だけで話をしたかった。二人とも確かめたい事は同じだと、感じていた。
「トワくんは、何歳の時に来たの?」
「うん、10歳くらいだと思う」
「元のトワ様は、やはり・・・」
「うん、きっと、父親か、あるいはオリナス邸の人間に殺されたと思う。初めて、目覚めた時に、喜んでくれたのは、一緒に成長したモルジャだけだったから・・。その日から、ずっと、オリナス邸の部屋に籠っていて、学校も、ずっと行ってなくて、高等部になってから、登校することにした」
「そっか・・・、でも、どうして、絵コンテ?」
「そこから聞く?」
「うん」
「モルジャが言うには、オリナス家の財政は逼迫していて、僕が爵位を継いだ時代には、どうにもならない状態になっていると、教えてくれた」
「だから?漫画?」
「うん、この世界には、物語の本はあるけど、漫画はないでしょう?だから、部屋の中で出来る事を考えたら、これが一番、儲かるかと、思って・・・」
「う~ん、どうかな?それについては後で考えましょう」
「でも、多分、もう、漫画を描かなくても生活できそうなんだ」
「どうして?」
「にゃあ様が、僕のアンモナイトを食べるから・・・」
「国王陛下は、すごい事だと、おっしゃって、僕はにゃあ様に、アンモナイトを提供する仕事を得たんだ。これで、きっと、生きて行けると思う」
「あなた、それでいいの?」