オリナス家のトワ②
第16章
季節がいい昼下がり、トワは、シャドウ宰相と一緒に、スワルトイ領の学生室のドアを開けた。
そこは、この国に来てから、初めて見た光景だった。(都会のお店のようだ。)
サポールトが、前に出て挨拶をする。
「トワ様、お待ちしていました。こちらへどうぞ・・・・」
トワは、あちこち見ながら、奥の日差しの差す場所を目指して移動していた。
その時、足も元に・・・
「この世界に・・猫、珍しいな・・・?スワルトイ家は、金持ちなのか・・・?」
その小さな呟きを聞いたシャドウ宰相は、「ビンゴ!!」
「君は猫が見えるの?」
「ええ、見えます」
「君は生まれた時から、この世界で暮らしているの?」
「どういう意味でしょうか?」
二人がそんなやり取りをしていると、いつものテーブルにすでに国王陛下は腰かけ、とっくに食事をしている。
サポールトが、トワに、「トワ様、こちらへどうぞ」
テーブルには4人が腰掛けて、昼食がスタートした。
「国王陛下、彼はにゃあ様がわかるようです」
トワは、まだ、一口も食べていないが、今のシャドウ宰相の一言で、益々、食べる事が出来なくなった。
トワは、急いで立ち上がり、
「こ・こ・国王陛下・・・・・、失礼しました。同じテーブルにご招待いただいたとは思ってもいなくて・・・。ば、僕、いえ、わたくしなんかが・・ここに居てもよろしいのでしょうか?」
「まぁ、いい、ここは学生室だ。狭い・・・、色んな意味でな! 」
「・・・・・・」
「所で、君の精霊は、どんな精霊だ?」
トワは立ち上がり、震え、一歩下がって、また、震え、歯がガチガチ言い始めて、何も言えなくなった。
「・・・・・・」
「私に言えないのか?」
「ぼ・僕の、僕の・・精霊は、まだ、完全型にしたことがありません・・・。僕の中に彼が存在することは確かですが、でも、彼を粗末にすることはありません。この世界の大事なパートナーです」
「うん、それはとてもいい事だ」
モモガロンが、
「その精霊は恐竜型?空を飛んだりするの?」
モモガロンが初めて話しかけ、トワは彼女を初めて認識して、首を横に振った。
「き、君が、モモガロンでいいの?ーーあの絵を描いた?」
「そうです」
トワは、モモガロンに話す。
「僕の精霊は、化石だよ。アンモナイト。僕は彼の事がものすごく好きで、偉大で、一番大切だと思っている。だから・・・・」
シャドウ宰相とモモガロンは、互いの顔を見て、物凄く驚いていた。
国王が、
「どんな物だ?」
そこで、モモガロンは、マルサナから紙とペンを渡され、サラサラっと、書いた。
「こんな感じ?」
トワは頷いて、手の中に一つ出してみた。
そこの4人は、トワの手の中のアンモナイトが見えている。
「これは・・・何かの役に立つのか?」
「それは、これからだと思いますが、陛下、ーー彼は『白」でよろしいでしょうか?」
「君は・・・、自分の精霊の事を誰かに話した事はある?父親とか・・」
「いいえ・・、誰にも話していません。多分、僕のアンモナイトに気づいた人は、彼女が初めてです」
シャドウ宰相が、トワに忠告する。
「トワ様、この世界には、猫はいない。君が見えているのは、にゃあ様だ。・・知らなかったのか?」
「はい、僕は自分の精霊しか見たことがありませんでした。新聞に書かれている事は、嘘だと思っていましたので、この世界で、何が本当で、何が幻なのかが、まだ、わかりません」
「ただ、今日、この世界で、僕が信じられる人が現れて、僕をランチに誘ってくれたと思い、ここに来ました」
「うん、わかった」
「彼は自室に籠っていて、世間にとても疎いようです。陛下、彼をどうしますか?」
「そうだな・・、オリナス家は、ただ一人、君だけが、爵位を受け継ぐことが出来るはずだ。例え、オリナス伯爵が、外でどんなに頑張っても、私が認める事はない」
「どうだろう?君は、あまりにも無知で、世間を知らなすぎる。嫡男なのに、父親やオリナス家でも、疎まれていると、聞いている」
「ーーーーーー」
「しかし、本当の君は、この国では、貴重な存在で、稀な精霊持ちだ。だから、これからは、王宮で生活しないか?私からオリナス伯爵には、通達しておく、モモガロンも、長い休みの間は、王宮で過ごしている」
トワは、その時、初めて顔を上げてモモガロンを見た。モモガロンも、トワに微笑んだ。
トワは、少し考えて、
「ーーーよろしくお願いします」とトワは、小さい声で国王陛下に頭を下げた。
それから、食事が終わり、デザートを食べ終わった時には、トワは物凄く嬉しそうで、国王陛下が、ご退席した後に、モモガロンは、トワにお土産を渡した。
「これ・・・」
「後で、召し上がって下さい。この国にはお米があって、本当に良かったと思っています」
「・・・ありがとう」
その後、国王陛下は、オリナス家に通達を出し、トワは、王宮で暮らす事になった。
その理由は、簡単で、トワ・オリナスへのネグレクトの為の保護だった。トワの母親は、トワが生まれて直ぐに他界している。その為に、トワは、貴重な嫡男だったが、オリナス伯爵の描く嫡男には、ほど遠く、殆ど、屋敷には戻らず、愛人宅で暮らしていた。
国王陛下は、抗議にきたオリナス伯爵に、
「伯爵の爵位だけで、生活出来ているのは、トワがこの世に存在できているからだ。本来なら、オリナス家を潰しても、私は一向に構わない。君には何か産業があるのか?」
「ーーしかし、トワが我がオリナス家を継いでも、その先は、どうにかなるとも思えません」
「君は、最後に彼と話をしたのは、どのくらい前だ?」
「ーーーーーー」
「僕は、彼が貴族学校を卒業できたら、この王宮で、仕事に就かせる。今、オリナス家に払われている給金は、そのまま、オリナス家で使うといい。だが、彼を保護するに当たって、それなりの金額の賠償を命じる」
「国王陛下・・そんな・・」
「その後、オリナス家では、大勢の使用人は雇えないだろうから、トワの従者だけは、こちらで雇用することにした。以上だ」
オリナス伯爵は、立ち去る国王陛下を、ただ、見送る事しかできなかった。
あの日、トワがモモガロンからお土産は、白いご飯を三角に握っただけの、塩おむすびだった。
次の日、王宮からシャドウ宰相が、迎えに来た。その時の、トワの唯一の望みは、いつも一緒にいてくれた従者のモルジャの同行だった。
「あの・・モルジャも一緒で、よろしいでしょうか?・・彼は、この家で唯一信頼できる人間でした」
シャドウ宰相は、当然の事ながら、モルジャの事も調べていた。
「ああ、よろしいですよ。モルジャの家には、私から知らせておきます」
モルジャの家は、モモガロンのおばあ様の乳母の家で、それなりの教育を受けている。だからではない。今回、トワの精霊が、トワといる事を許したモルジャも、信用に値ると、シャドウ宰相は、判断した。
精霊は、主人よりも早く敵を見分ける。だから、オリナス伯爵は、結局、トワには近づけない。
こうして、オリナス家の半没落は、王都での一大ニュースとなった。
貴族学校に登校すると、その話題で持ち切りだった。
感のいいクラスメート達は、とっくに気づいていて、
「少し前、オリナス家の話、誰がしてなかった?」
「うん、私もそう思う」
「ねぇ、私、両親に絶対に、あの5人には、近づかないように、キツク言われた」
「この話、絶対にやめようよ。もうこのクラスから、没落組を出したくないよ・・」
モモガロンは、最近、学校生活が楽しみになって来た。人の変化は、本当に面白い。




