にゃあ様のお世話係②
第12章
そのまま、取り残されたモモガロンは、仕方がないので、沢山の猫たちと遊ぶことにした。
最初に、モモガロンの近くによって来た子猫は、この前の三毛猫くんで、その三毛猫を抱いて、首の下をゴロゴロして、背中を撫ぜたりしていると、少しずつ他の猫も近寄ってきた。
柄は、色々な柄の猫が存在するが、基本は白い猫が多かった。全員の目が、だんだんとモモガロンに注がれているのを感じていた。
そこで、モモガロンは、部屋の装飾品の中から、高そうな鳥の置物の羽を拝借して、それを自分のリボンの先端に付け、椅子の上に立ち上がり、大きく波を描くように振ってみた。
結果は、想像通りで、一斉に猫たちは宙を舞い、その羽を追いかけ、右往左往して、一糸乱れぬ舞いを見せてくれた。
「おおおお~~~。やっぱり、猫なのね」
それから、この部屋には防犯カメラがないのをいいことに、モモガロンは子猫たちと遊んだ。自分の手にリボンを巻き付け、久しぶりに、部屋の中を走った。最後は、庭にも出て見て、猫たちと一緒に庭を散策したりした。
「この世界に来て、初めて、こんなに運動したかも・・この若さで、こんなに体力がないのは、駄目だわ。どうにかしないと・・・。アー、しかし、疲れた」
その後、モモガロンは日差したっぷりのソファーに座り、猫たちと昼寝を始めた。
モモガロンがモソモソ動くと、猫たちも少し動き、それでも、一緒にたっぷりと昼寝をした。
夕方になり、シャドウ宰相が、モモガロンを起こしに来る。
「モモガロン様、起きて下さい。・・・モモガロン!! 」
モモガロンはビックリして飛び起き、
「すいません。寝過ごしました。ーーーー国王陛下は?」
「今日は過去に氾濫を起こした河川の視察に向かいました」
「シルガーたちが、廊下で心配そうに待っていますよ」
「こんなにぐっすり眠れたのは、この国に来てから初めてです」
「それは、良かった。明日からもよろしくお願いします」
「あの・・・私って、必要ですか?」
「はい、必要です」
「本当に必要なのか???」と、思いながら、モモガロンはスワルトイ邸に帰って行った。
次の日、万全の用意をして、猫たちが喜ぶおもちゃを、ヒロイのおもちゃ箱から拝借して、カバンに詰めた。
「お嬢様、昼食はどのようになさいますか?」
「みんなはどうしているの?」
「わたくしたちは、王宮に食堂がありますので、そちらで取るように指示を受けました」
「そうなの・・、でも、わたくしはあの部屋から出るのは難しいかも知れません。サンドイッチとお茶を、用意して下さい。お願いします」
「わかりました」
モモガロンは、昨日、初めて、一人で過ごしてみて、心が洗われたように、のびのびした印象を持った。なんだか、あの幸せな空間・・誰にも邪魔されたくない感じだった。
朝、早く起きて、ヒロイと少し遊んで、王宮に出かける。手には、いっぱいの猫用のおもちゃを持って。
シングルマザーのルーティンとしては、いい感じだ。また、新学期が始まると、お互いに離れがたい存在になってしまうより、このままの状況に慣れる方が、お互いの為にも、いい様に思えた。
国王陛下は、今日は姿を見せず、モモガロンは、陛下特別執務室に入って行った。
昨日と同じ、ほんわか暖かい、最高の温度調節の中にいるのは、相変わらすの三毛猫君だけだった。
「どうしたの?お疲れなの?」
三毛猫はモモガロンに擦りより、モモガロンの差し出した手を舐めている。
「本当にどうしたのかしら?元気が無いわ・・・」
三毛猫くんは、モモガロンの腿のあたりに張り付いて、離れなかった。こんな状況も想定して、今日は、勉強道具も持参していた。静かな午前中は、ゆっくりと過ぎて、シャドウ宰相が、ドアをノックした。
「お疲れ様です」
「ふっ、久しぶりに聞く言葉です。しかし、今日は本当に疲れています」
「どうしたのですか?」
「昨日、襲撃がありました」
「え?今日の新聞には掲載されていませんでしたが・・・国王陛下は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。しかし・・・敵は、マンモスでした」
モモガロンはびっくりして、シャドウ宰相を見る。
「ええ・・・記事にもならない程の戦いでしたが、かなり強敵でした」
「マンモスって、象よりやはり大きいのですか?」
「もちろんです。物凄く大きかったです。昨日、陛下をお迎えに河川区域に出向いた時、突然の出現でした」
「だから、今日はにゃあ様たちはお疲れなのですね・・・・。可哀そうに・・」
「空から来る派手な敵たちは、大体が、にゃあ様のネコパンチで、ハエの様に仕留められて、いたって簡単でしたが、マンモスとはまるで相撲を取るように、力と力の勝負で、かなり疲れたみたいです」
「では、今日は静養しましょう。わたくしの事は気にしなくて大丈夫です。勉強道具を持参しましたので、お昼を頂いて、またお昼寝します」
「では、ごゆっくり」
その後、モモガロンは昼食を静かに済ませ、残ったハムを三毛猫くんの口元に運んでみたが、流石にそこは精霊で、食事はしなかった。
「そうだよね。食事は取らないよね。何か違うエネルギーを吸収しているの?」
食事を済ませ、部屋を改めて見回すと、流石に特別執務室だけあって、ここには何でも揃っている。
「キッチン、トイレ、シャワー浴槽付き、この大きな鏡は何にするのだろう?」
そこはまるで、スポーツジムのレッスン教室の様で、モモガロンはお腹いっぱいで、昼寝をすることに少し抵抗があったんで、その場所で運動を始めた。
「ーーーこの、ドレス・・動きにくい。今日は、もう誰も来ないかしら?戦いの後だし・・?」
この世界のドレスを脱ぐことは至難の業で、ドレスの着脱は、すべてメイドがしてくれるので、どうしても脱げない。
「こんないい場所・・・滅多にないのに・・・う~~~ん、ヨガにしよう」
それから、少し、体を動かし、昨日の安眠ソファーに横になり、眠りにつく。モモガロンが眠りにつくと、周りには沢山のにゃあ様が寄り添い温める。
「モモガロン・・モモガロン! 」
「ーーー起きて、起きます」
「・・・国王陛下!! すいません。つい、居眠りをしてしまいました」
「イヤ、君が、にゃあ様に、埋もれている様だったから、大丈夫かと思って、重くないの?」
「いいえ、全然、重くないです。精霊ですから・・・」
国王陛下はモモガロンをにゃあ様の中から救い出し、お茶を差し出す。
「昨日は、大変だったと、シャドウ宰相から聞きました。お怪我はございませんか?」
「ああ、大丈夫だ。それより、君は、そんなに精霊たちに好かれていて、なんともないのか?」
「ええ、別に普通です」
「君の、精霊には変化はない?」
「どうでしょう?国王陛下はにゃあ様が疲れているとか、機嫌が悪いとか、求めている物を感じ取る事ができるのですね?」
「わたくしの精霊は、本当にお守りみたいな安心感をわたくしに与えてくれていると思います」
「そうなんだ。僕の精霊が、余りにも君に懐くから、迷惑かと、少し心配になってしまった」
「もしも、大丈夫なら、君の精霊を僕に見せてくれないか?」
「ここで、ですか?」
「ここで、私の精霊を呼ぶには、場所が小さすぎます」
「大きいの?」
「はい、この前、陛下が戦っていた悪の精霊よりも大きいです」
「ダメか・・・、それでは、機会があったら紹介してくれ」
「はい、わかりました」
その後、国王は、しばらく考えていたが、モモガロンは、定刻に迎えが来たので、その日は暇を告げて屋敷に帰って行った。