人間の思い込み
第10章
「お嬢様・・・」
「お爺様、なんでも知っていますのね。流石ですとしか言えません。」
「とにかく、今日は、全力をだしてね。マルサナ! 」
「お嬢様、私はいつも全力です。」
「ハハハハ」と笑い、今日のテストが、無事に終わる事をひたすら願った。
予定通り、午前中で試験は終わり、その後、急いで学生室に昼食の為に移動する。
最近は、スワルトイ邸から持ち込む為に、ランチの質がどんどん上がって来ている。
「お嬢様・・・今日はレストランのようなランチです。それも、当然の様に、7人分・・・」
ドアがノックされ、国王とシャドウ宰相は、当然の様にやって来た。
「今日は、国王陛下のお好きなものばかりだ。」
「はい、お爺様がご用意して下さいました。」
「そう言う所は、本当にすごいお方だ。」
「あの悪の精霊使いは、どうなされましたか?」
「彼には、冷静に話をして欲しかったが、なんせ、裸で、いきなり国王の御前だ。震えながらも、ヤケクソになって、いつものように精霊を出し、敗れた。」
「何も聞き出せなかったのですか?」
「ああ、そうだ。」
「では、伯爵の方はどうして急死なさったのですか?」
「王宮から近衛兵が向かったが、その前に自害していたらしい・・」
「それでは、誰かが、王宮での戦いを伯爵に告げたのでしょうか?」
「そう言うことになるな・・・・」
「しかし、モノガロンのおかげで、今回、分かったことは多い。私の近くには情報を流す人間がいると、言うこと。その人間が貴族をけしかけていると、言うことだ。」
「ーーーそして、その人間も精霊の持ち主だ。」
「お心当たりは、ございますか?」
「今は、わからない。」
「わたくしは、にゃあ様の事をネコと呼んでいる事が、疑問でした。」
シャドウ宰相は、急いで、モモガロンを見る。
「私たち3人で、そのふたりの会話をききました。悪の精霊を持っている男は、自分の精霊を試したいだけで、この国の主権には全く興味がない様子でした。それに、王都門の外には、沢山の精霊使いがまだいるような、話もしていました。」
「どう言う事でしょうか?」
「王都門を閉める事を決めたのは、国王陛下ですか?」
「爆破テロがあって、王都門が閉まり、襲撃が2回あり、伯爵家が2つ消滅しました。この一連の出来事に何か関連があるのでしょうか?」
「シャドウ宰相の占いでは、どのように出ている?」
「はい、私の占いでは、これからも悪の精霊の攻撃は続くと出ています。それは、王都門が開いても、閉じていてもです。誰かが、こちらに手招きしています。」
「それは、誰ですか?」
「モモガロン様、占いではそこまでは分かりかねます。しかし、年が明ける前に王都門を開けた方が、良いと、出ています。王都門は鬼門ではありません。風を取り入れましょう。」
「本当に、占いの様ですね。」
「はい、本当に占っていますので・・・」
シルキーが、食事後にエッグタルトを国王陛下にお出しして、今日の昼食会は終了した。
その日の夜、モモガロンの部屋の窓をノックするシャドウ宰相がいた。
モモガロンは、びっくりして、心臓がバクバクして、思いっきり抗議した。
「あな、あな、あなた、人を呼びますよ。」
「いや、外に水の入った大きな桶のような物があったから、これなら行けると思い来てみた。」
「あれは、プールと言います。」
「ああ、ちょうどいい大きさだ。」
「何か御用でしょうか?こんな夜中に女性を訪ねるなんて、許されませんよ。」
「いや、どうしても気になって、今日、君はネコと言う単語を国王に話した真意を聞きたい。」
「シャドウ宰相の思っている通りです。」
「ーーー悪の精霊を持っている人間は転生人と考えたのか?」
「そうです。」
「にゃあ様を、猫と言う人間は、この世界には存在しないはずです。この世界には犬もいないのですよ。」
「食用の肉は、すべて養殖で食べる為に育てています。まして、ペットで飼っている人間もいません。動物園も無い。それなのに、化け猫って、あの人は言ったのです。私だけが聞いたのであれば、隠すこともできました。しかし、あの時は、3人で盗み聞きをしたので、隠す事ができません。」
「それだけか?」
「だから、シャドウ宰相の思っている通りです。」
「精霊は、その人の持っているイメージが精霊となっています。しかし、力は反比例です。私が描いたイメージの生き物は竜でした。多分、シャドウ宰相もそうだったのでしょう。発想が一緒だったのは、少し、恥ずかしいですが・・・・。」
「うん、私も同じ考えだ。」
「では、国王陛下は転生人の可能性が?」
「イヤ、それはない。彼はこの世界で生まれて、育っている・・・はずだ。しかし・・・生まれてすぐにこの世界に来ていて、赤ん坊の時に見たものが脳裏に焼き付いていたら・・・」
「そうですよ。どこかで、生まれて初めて接した生き物が、ネコだったら?国王の前世は猫屋敷の子供だったら?」
「それと、気づいたことがもう一つあります。悪の精霊の出す化け物は、私のいた世界では良くゲームの中に、存在していました。物凄く、怖そうで、凶暴で見てくれもやばくて・・・悪の象徴です。」
「シャドウ宰相は、この世界に来て、長いですか?」
「ああ、それなりだろう。」
「では、ミミズとか、昆虫類はこの国には存在しますか?」
「多分、いるのではないか・・?」
「ああ・・良かった。本当に良かったです。誰かがミミズを連想していて、それが巨大化して、にゃあ様が倒される想像をずっとしていました。良かったです。」
「私の考えは、ーーゲームキャラ<竜<猫なら、ミミズがいたら、きっと、ミミズが1番強いのではないでしょうか?ーーーでも、ミミズの存在が確認できていれば、これで、ひと安心です。」
「シャドウ宰相も猫とミミズが戦うのは見たく無いでしょう?」
「ーーーしかし、ネズミはこの世界にはいない・・・。」
「やめて下さい。そんな怖いこと言わないで下さい。ネズミが猫を仕留める姿をみたくありません。」
「私、あの夜から物凄く考えていて、脳内がおかしくなりそうでした。」
「それは、本当に慣れるしかない。私も、さすがに少し時間がかかった。」
モモガロンは、はっと、閃いた。
「そう、それですよ。それです。」
「??????」
「きっと、そうです。国王にわざと挑戦している人間は、どうしても、納得がいかない人間では無いでしょうか?」
「どう言うことだ?」
「ネコがこの世界で最強だと、どうしても認められない転生人です。」
「しかし、それなら、大叔母様の暗殺はどうなる?一体、彼女の精霊は何だったのだろうか?」
「それは、きっと、お爺様にもわからないと思います。小さな精霊は一般の人には見えないのですから・・・。」
その後、シャドウ宰相とモモガロンは、その夜遅くまでこの国に存在する生き物について話し合い、とにかく一度落ち着いてから、もう一度、話し合う事にして別れた。
その数日後、年が明ける前に、王都門の通行は許可され、領土との往来ができるようになった。
沢山の人々は多くの商品を王都に運び、王都の人々は活気づき、経済は復活の兆しをみせた。
しかし、年明けすぐに学校が始まる為に、モモガロンと公爵、ヒロイは王都に残り、新年を迎える事になった。
新年が開けると、ヒロイは1歳になる。秘密の出産から1年が過ぎた。
モモガロンは、ヒロイの父親の事は、あまり考えないようにしていた。しかし、ヒロイの周りにふわふわ飛んでいる綿毛のような精霊の事が、気になり始めているのも事実だった。
「君は、一体、どんな国からいらしたのですか?」
「本当はお幾つですか?」