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オカンとエルフと悪役令嬢 ~10~

sideキャスパーとして書いていた分に加筆して投稿します。先に投稿するとネタばれになるし、後日投稿だと、本編が中途半端になる。

 ので、今日は二度目の投稿です。明日からは何時も通り、一本ずつ投稿します。


「では、御父様、御母様。長らく御世話になりました」


 ラルフローレは深く頭を下げ、見送る両親や家令達に別れを告げる。

 両親は何とも言えない複雑な表情で愛娘を見つめていた。


「冤罪であろうに....力及ばぬ父を許してくれ。陛下には逆らえぬのだ」


 学園において皇子は陛下の代理人。その皇子の決定は覆せず、陛下に願い奉るも、父はすげなくあしらわれたらしい。

 たとえ侯爵家であろうと、たかが小娘一人。

 多くの国々を併呑し巨大な帝国の頂点となった皇帝陛下には、羽虫のごとき存在である。

 むしろ羽虫が皇子を煩わせるなど有り得ぬと叱責を受ける有り様だった。

 

「仕方御座いませんわ。皇子の不興を買ったのですもの」

「しかし、この大陸にはもはや国と呼べる地域はない。国外追放となれば、海を渡り未知の大陸へ向かうしか..... 軍の護衛もなく魔獣が溢れかえる海原を渡るなど、極刑にも等しいではないかっ!」


 指が白くなるほど拳を握り締め、侯爵は唇を震わせた。

 それを柔らかく包み、ラルフローレは父親の指に口付ける。


「伯父様からうかがいましたの。辺境に小さな国があると。帝国にも手出しは難しい強い国だそうですわ。優しく礼儀正しい人々があふれ、豊かで何者でも受け入れてくださると。そこに向かおうと思います」


 優雅に微笑むラルフローレの顔に落胆はない。

 侯爵は従兄弟にあたるキャスパーが秋津国より帰還し、皇帝に謁見した日を思い出した。


 辺境で行方知れずとなった部隊が、実は秋津国に攻め込み捕獲されていたと言う事実。

 驚愕する貴族らはキャスパーの説明に瞠目する。

 戦時賠償の身代金が支払われず、各々で支払うため、捕虜らは秋津国で働いているという。

 その話に険しく眼をすがめ、皇帝陛下は文官らに詳細を尋ねた。文官らは、上申した身代金の支払いを上から却下された事。交渉拒否の書簡を秋津国に送った事など、可哀想なくらい震えながら陛下の御前で説明する。


「誰の指示か」


 陛下が臣下らを一瞥すると、一人の側近が進み出た。


「わたくしでございます」


 薄く笑みをはき、宰相補佐である男は当たり前のように陛下に事情を説明する。

 男の名はシュバルツァ・モンテネール。伯爵家三男で、魔法学園を優秀な成績で卒業した男だ。

 皇帝陛下側近であり、戦に参加した事はない。

 以前から、騎士学園を主席で卒業したキャスパーに、並みならぬ敵愾心を見せるきらいがある。

 そんな男は皇帝陛下に歩みより、下卑た笑いを浮かべた。


「勝手に辺境に攻め込み捕獲されるなど、誇り高き帝国軍人にあってはならない失態です。陛下の輝かしい威光に泥を塗った愚か者らを処分すべく、わたくしの判断で身代金要求を棄却いたしました。とうに処刑されるか奴隷になっているものとばかり思っておりましたが.... よくもまあ、恥ずかしげもなく陛下の御前に出られたものです」


 話を聞きながら、皇帝はキャスパーを見つめた。


「無事で何よりだ。して、他の兵士らは如何がした?」

「払われなかった身代金を自身で払えと言われ、秋津国元首の元、労働に従事しております。ある事情から捕虜ら全員の収益を身代金換算し、わたくしと数名のみが身代金を支払い解放されました」

「そうか。身代金は幾ら要求されていたのだ?」


 そこでシュバルツァはしばし口ごもる。

 しかしキャスパーが即座に答えた。


「一人につき大金貨一枚です。合計して大金貨百枚弱かと」


 途端、皇帝の顔が憤怒に彩られる。

 豹変した皇帝陛下の魔力により、周囲の人々がゾワリと全身を粟だたせだ。

 

「兵士一人に大金貨一枚か...格安だな。しかも、我らはそれを支払わなかった訳か。....シュバルツァ」

「はいっ」

「兵士の命より大金貨一枚が大切か? 我は命掛けで戦う兵士らを簡単に見棄てるケチな主と秋津国には思われたであろうな」

「し...しかし、身代金を支払えば敗戦が明らかになります。陛下の輝かしい威光に傷が....」

「明らかも何も負けたのだろうが。キャスパー率いる辺境警備隊が負けたのなら、他の誰にも勝つ事など出来ぬ状況だったであろう。そんな中、生き残った兵士らを我に確認も取らず勝手に見棄てるとは」


 皇帝の鋭利な眼差しかシュバルツァを射抜く。


「たかが大金貨百枚も払えぬ情けない皇帝か。たいした恥をかかせてくれたものだな、シュバルツァよ」


 敗戦の事実より、身代金を支払わなかった事実の方が明らかに恥ずかしい結果を生む。

 敗戦の汚名は後日灌ぐ事も出来ようが、僅かばかりな金子を惜しみ、兵士を見棄てたなどという悪評は長らく消える事はない。

 後の歴史家が事実を知れば、醜聞も極まりなく悪辣な皇帝だと書き連ねる事だろう。


 皇帝は即座に秋津国へ使者を送り、身代金の精算を申し込むよう側近に命令する。

 キャスパーらが消息不明となってから二ヶ月ほどたつ。今更かもしれないが、為すと為さぬとでは万人への受けが雲泥の差であろう。


 これまで帝国は秋津国を国と認めてはいなかった。


 辺境の反乱軍的な位置におき、剣を交えた事はないが、大した戦力があるとも思っていなかったからだ。

 だがキャスパーからの報告で、彼の国がただならぬ文明国である事を理解する。

 物理的に大陸を切り離した魔法技術一つにしても瞠目すべき事実だが、キャスパーらは秋津国その物を見聞していた。


 その中心たるは女神様からの御神託にあった来訪者達。


 異世界から持ち込んだと言う知識、技術、物品が彼の国には溢れ、誰もが笑顔で豊かに暮らしているという。

 帝国の文化を遥かに凌駕し、戦い破れたキャスパーは、有り得ない数々の戦法に膝を折った。

 魔術師は攻撃のみならず、戦う兵士らに治癒や支援魔法を飛ばし、その後方支援を受け不屈で倒れる事のない強靭な兵士達。

 騎馬を無力化する罠や、容易く兵士らを閉じ込め捕獲する罠。

 幸いな情報は、秋津国は戦を厭い専守防衛だと言う事。つまり攻め込まなくば何の害もないらしい。

 籠城戦は攻撃する側が著しい消耗を受ける。そんな馬鹿みたいな戦を起こす気は毛頭ない皇帝である。

 

 なれば秋津国を国と認め、帝国から切り離すが上策だ。

 あれを反乱軍とすれば国として放置は出来ない。反乱軍を諫める処理もしないとなれば、征服してきた国々が不満を抱こう。新たな反乱が芽吹く危険性すらある。


 皇都から遠く離れた辺境なうえ、好都合な事に帝国の領土から離れたのだ。これを機に彼の地を国と認め、あの小さな大陸に封じ込んでしまえば良い。帝国は安泰である。


 しばし思案し、そんな事を考えていた皇帝に、キャスパーは更なる爆発発言をブチかました。


「次いで御報告が。秋津国は対岸の陸地と交流がございます。彼の国には獣人や魔族が当たり前に出入りし、さらにはエルフも親善に来ると聞き及んでおります」


 皇帝陛下の瞳が瞬間凍結。


 謁見の間に集まっていた貴族らも表情を強ばらせたまま微動だにしない。

 水を打ったような静けさの中、キャスパーは仕方なさげに溜め息をつき、一枚の巻物を取り出した。

 それは秋津国で作成された世界地図。帝国、ガラティア、大樹の国の地図それぞれを合わせ、幼女が上空から大体を把握した陸地が描かれた最新の地図である。

 一番右下に帝国の大陸があり、その左には帝国の五倍はあるガラティア。その上にガラティアの十倍はありそうな樹海と大樹の国の文字。さらに左に樹海と同じ規模の砂漠があり、その向こうには険しい山々や火山の表示と魔族の国の文字が書かれていた。


 そこまでで地図の1/3。


 残りは大まかな陸地のみが表示され、特定の位置にドワーフや鳥族、竜族など、聞いた事もない種族名が記されている。

 

「これは秋津国で作成された世界地図なるものです。各国の情報を合わせ、秋津国では標準とされています。この右下の小さな大陸が帝国です」

「これが? 拳ほどの大きさではないか。我が国はこんなに小さいのか?」

「左様でございます。そして秋津国は我が国より遥かに強大な国々と懇意にしている。....お分かりいただけますか? 彼の国の驚異が。秋津国に手を出せば、その背後の国々も敵に回すのです」


 確認されてはいないが話には上っていた。

 

 辺境の更に先は別種族が住まう大陸であると。

 事実、たまに流れ着く異種族の水死体など、信憑性に足るものもあり、狂暴そうな見てくれから好戦的な種族だろうと判断され、辺境は危険地帯と認識されている。

 だからこそ、そこに出来た敗戦国難民の街を皇帝は放置していた。いずれ滅ぶだろうと楽観視もしていた。


 しかしディアードはしぶとかった。


 小さな村から街になり、度々襲う災害や疫病にも負けず、しだいにその存在感を増していく。

 イラつきを隠せなくなった皇帝は、教会派遣を隠れ蓑にして、一人の暗殺者を差し向けた。


 敗戦国の難民どもが人並みに暮らすなどあってはならない。


 派遣した教会関係者に含みをもたせ、皇帝は難民どもを惨めに苦しめるよう仕向けた。地べたを這いずり死にゆくようにと。


 それは上手くいっていた。なのに.....


 たった数人の来訪者により、その目論みは瓦解した。

 ならば実力行使と軍を派遣すれば、人知を越えた御業により進軍を阻まれる。

 歯噛みする皇帝に出来る事は、辺境警備を強化し、難民の流出を防ぐくらいしかない。


 そこへ今回の事態である。


 帝国と名乗りながらも、その実、井の中の蛙だと知らしめられた。世界は遥かに大きく強大だった。


 茫然とする人々を一瞥し、キャスパーは更に爆弾を投下する。


「今回、わたくしが帰国したのは帝国の危機をお知らせするためです。帝国南の海域にモンスターらが集結しております。伝説の霊獣を含み、海のみならず大地すらも割りかねない大事にございます。あの海域には海底火山があるとかで、大地が砕けた場合、帝国のみならず世界の半分が壊滅の憂き目に合うと秋津国の人々は判断しておりました。....多分、間違いないかと」


 神妙な面持ちで皇帝陛下を見据えるキャスパー。


 その眼に宿る絶望は瞬く間に部屋を伝播していき、狼狽える人々で謁見の間は上へ下への大騒ぎとなる。


 ただ一人、深くフードを被った魔術師のみが、口に弧を浮かべほくそ笑んでいた。

 

現時点より少し前の話です。キャスパー伯父様の力を借り、悪役令嬢は世界にはばたきますww

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