オカンとエルフと悪役令嬢 ~4~
えと....いつもブクマやお星様ありがとうございます、実は評価ポイントが星5から4.3になってしまいました。もし宜しければ、さらに皆様からのお星様が一個ずつ欲しいです。ほんとうに良かったらで良いので、まだ星をつけていないとか、三つ目あげるよーって方がいらしたら、ぽちっと一つ下さいませませ。
m(;∇;)m
「まあ、予想はしてた。うん」
きらびやかな御所を前にして、エスガリュヒア王はタラリと冷や汗を垂らした。
絢爛豪華な佇まいの建物は、迎賓館の十倍はある。基本的な作りは似ているが、細部の意匠や組み合わせのグレードが全く桁違いだった。
どこもかしこも広く空間が取られ、シンプルな中にある繊細な浮かし彫りや透かし。木の暖かみと紙や漆喰の白を基調とした邸内は大胆な余白がまるで背景のように溶け込み、各意匠の凝った調度品の存在感を上げている。
日本で言う余白の美。精密な計算で配置された意匠や調度品を、これ以上に際立たせる手法は有りはすまい。
千早も素直に感心していた。
よほど勉強したのだろう。幼女が不安視していた、なんちゃてジャパニーズ要素は成りを潜め、上品な中にも華美にならない程度の装飾を施している。
これなら合格だ。
ユフレに着付けをしてもらいながら、千早は、ここなら住んでも良いかなと考え始めていた。
冷や汗を垂らしつつ御所を見上げているエルフらに気付き、タバスや敦が迎えに出る。
「ようこそ御所へ。ここは妹様の住まいとなる御殿です。上履きに履き替えておあがり下さい」
何十人もが出入り出来る大きな玄関から、広く長い廊下を歩き、高い天井を見上げながら案内されたのは最奥の大広間。
開け放たれた重厚な観音開きの扉の向こうには、眼にも鮮やかな多数の料理が並んだ大広間になっていた。
広さとしては百×二百メートル程。大樹の国要人七十名が揃って固唾を呑む。
「騎士や護衛の皆様も別室でおもてなししております。御存分に御召し上がり下さい」
タバスに勧められ、エルフらは恐る恐る皿を手にした。
広間中央に複数並んだ円形のテーブルには溢れんばかりの大量な料理。それぞれテーマがあるようで、テーブルによってガラリと雰囲気が変わる。
立食式ではあるが、湖に面した側には大きな窓が複数あり、そこから続くバルコニーに四人掛のテーブル席が幾つも用意されていた。
エスガリュヒアが飲み物を口にしながら皇太子と談笑していると、広間の奥まった扉から誰かが入って来るのが見える。
軽く眼を凝らすと、それは黒髪の親子だった。
見慣れない衣装に身を包み、にこやかな笑みを周りに振りまきながら、こちらへと向かってくる。
「楽しんで頂けてますか?」
「これからだな。今は口を湿らせている」
にぱーっと笑う幼女は不思議な姿をしていた。
首から足首まですっぽりと包み込む衣服。太くて固そうな帯を背中で華のように結んでいる。
艶やかな布地に馬車と花をあしらった美しい模様。裾から上へと広がり、下地は紫の無地だ。首もとに重ねられた複数の襟にも美しい模様が織り込まれ、光の加減で浮かび上がる。
帯も深い緑に銀糸の刺繍。精密なそれは一目で名のある職人の一品だと窺える。
「これは染めなのか? まるで布に直接描かれた絵画のようだな」
「そうですね。染めにあたりますが、描いてもおります。友禅染という祖国の技法です。この衣装は私の祖国の正装にあたる民族衣装です」
「馬車がモチーフとは珍しい。もっと女性らしいモチーフはないのか?」
「馬車ではなく牛車ですね。時間を気にせず、ゆったりと進む乗り物です。私の祖国で昔の貴族階級が使っていたので、高貴な柄として衣装にも用いられます。もちろん他にも多くの意匠がございますよ」
なるほど。高貴な乗り物なのか。
エスガリュヒア王は得心顔で頷いた。
ユフレを見ると同じような黒い衣装に白く首の長い鳥と...あれは亀ではなかろうか? 何故に正装の柄が泥の中を蠢く水棲生物なのか。
訝しげに首を捻る国王の背後で、いきなり歓声が上がる。
何事かと振り返ると、そこには悶絶気味に軽く足踏みをするエルフらがいた。
どうやら幼女と話している間に料理を食べていたようだ。
我より先に食すとは.....。
剣呑な光を浮かべるエスガリュヒアの眼に、仕方無さそうな皇太子の苦笑が映った。
「無理もないです。ユフレすら歓喜に奮わせた料理ですから」
なんと! あのユフレがか?!
エスガリュヒア王は丸く眼を見張り、通りすがった侍従にグラスを預けると、皿を片手に料理へ向かった。
確かに色鮮やかで多彩な料理だ。刺激的な匂いが鼻孔を擽る。
王は前菜らしき生野菜と薄く削ぎ取られた肉を皿に取り、躊躇なく口へ運んだ。
途端に絶句。迎賓館のもてなしで受けた茶菓子を軽く上回る衝撃である。
周囲がこんがりと焼けた肉は香ばしく、真っ赤な内部も生のようで生ではない。肉汁が滲む程度な絶妙の火加減で熱が通っている。かかっているソースも濃厚で肉の旨味に負けていない。
添えられていた焼き野菜も赤、緑、白とカラフルで、赤はトマト。白はジャガイモ。....緑は分からない。粒々した食感が実に楽しい野菜だ。
食レポかと突っ込みたくなる彼の思考だが、この間五秒。
次には、くわっと眼を見開き、ギンッと音がする程の勢いで幼女を睨めつける。
「この料理は?!」
「ローストビーフです。味付けした牛の肉の塊を野菜と一緒にオーブンで焼き上げた物です」
殺気すら感じる迫力に気圧され、千早は数歩後退った。
その間にもエスガリュヒア王は、シュバババッと音をたてて次々に料理を口へ運ぶ。
それを茫然と眺めていたエルフ達だったが、はたっと我に返り、王様に負けじと料理を食べだした。
無言でかっ食らう国賓達にディアードの要人らはドン引きだ。
ただ、王様のみは、あれは?! これは?! と、所々で説明を求めてくる。
それに答えながら、幼女は侍従を振り返り、メインイベントの用意が整ったのを確認した。
絶品料理の数々に舌鼓をうち、幸せそうな笑みに緩みまくったエルフらの前で、千早は軽く咳払いをする。
そして手にしたグラスをかかげ、ふわりと微笑んだ。
「こちらは秋津国特産の果実酒にございます。特殊な製法で酒精を強くした物。是非とも御賞味下さい」
幼女がそう言うと、シェリー酒用の小さなグラスを侍従達がエルフらに配り始める。
アルコールは人によっては受け付けない可能性もある。ゆえに味見程度の一口サイズのグラスを使用した。
赤く透き通る美しい液体を見つめ、エルフらは香りに感嘆し、味に絶句する。
しばし無言で御互いに眼を見合せ、次には揃って幼女に視線を向けた。聞かずとも理解出来る視線の集中砲火。
うん、堕ちたね。毎度有り難うございます。
各料理の材料から調理法。〆の葡萄酒の製造法。どれもこれもが未知の領域&知識。詳しく聞いたが、ユフレに地球の現代知識を学んだエルルーシェにすら理解が及ばなかった。
これらが日常的に周囲に溢れている地球人でなくば、理解するのに新たな学びを強いられる。
こちらには林檎酒と蜂蜜酒くらいしか存在しない。醸造や蒸留といった専門知識から学ばねばならない。
今回の酒は地球から持ち込んだ物だ。いずれ秋津国でも作るが、まだ少し先の話。
料理にしても、こちらには香草やスパイスなどの概念がない。どこの料理も塩か果物の酸味や甘味を利用している。
地球でも昔はスパイスが金と等量の値段で取引されていた。そこまでは行かずとも、秋津国の良い財源になるだろう。
ほくそ笑む幼女に苦虫を潰し、エスガリュヒア王は悔しげに小さなグラスを見つめた。
知識を得るどころの話ではない。その知識の理解すら及ばぬ現状で何が出来ようか。
王の目論みは見事に瓦解し、視察や調査で知識を得る事は諦め(得ても理解出来ないから再現不可能な事に気付いた)秋津国から専任の職人を派遣してもらい、学びを視野に入れる事にする。
それまでは輸入で賄い、料理や酒を楽しもう。
さすが一国の王。へし折られても打たれ強いし、切り換えも早かったww
そして幾日かが過ぎ、それぞれが興味の赴くまま、エルフらは各所を視察に回っていた。
タバスを筆頭とするディアードの街の要人らが案内を引き受け、千早の今日の担当は魔術師達。
何でも石柱の術式や、秋津国の魔術師状況を知りたいらしい。
そして今現在。幼女から簡単な秋津国魔法事情の説明を受け、エルフの魔術師達は茫然と立ち尽くしていた。
はい、どれもこれも全くもって理解できません。
ってか基準がおかしいだろ? 探索者はもちろん農民に至るまで、ほぼ全員が全属性精霊支援持ちって何なんだよっ!
農民なんて生活魔法くらいしか使えないもんだよな? なんでサラマンダー喚べるのさ。農民だよね? 焼き畑する? うん、わかるよ。サラマンダー使えばあっという間だよね?
.....焼き畑にサラマンダー使うなあぁぁぁっ!!
こっちは染色ですか。絞り染め? 初耳な手法ですね。糸で模様になる部分を絞ると。ほうほう。染めたあと糸をほどくと白抜きな模様になる? なるほど。
ところでさっきから染め布を濯いでる水が勝手に動いてますね。ウンディーネが濯いでる? 桶から水がとめどなく溢れてるのは、そのせいですか。
.....ウンディーネに濯がせるなよ、罰当たりが。
建物に靡く洗濯物と戯れているのは無数のシルフィード。
かくれんぼかな? ....楽しそうだね。
畑の至る処にはノームが顔を出してるし。通り掛かった農夫とハイタッチしてるし。何か良い事でもあったんでしょうかね?
そして収穫。ノームが運んで来るのを受けとるだけの簡単な御仕事です。
.....それはもう、農作業してない。
いったい何なんだ、この国はぁぁぁぁあっっ!!
「土が良くなったせいかなぁ。何処からか、わらわら現れたんだよね」
何でもない事のように呟く幼女。
いや、精霊ですよ? 蝶々か蜻蛉が寄ってきたみたいに言わないで下さい。
大樹の国騎士団魔術師らは、じっとりと眼を座らせた。
彼等は第一線で活躍する魔術師達だ。秋津国からもたらされた石柱の謎を解こうと血気勇んで親善特使に参加した。
だが、初手から見事に躓く。
「石柱の魔術式? 精霊に手伝ってもらったよ」
さらりと紡がれる幼女の爆弾発言。
精霊は気まぐれで人語を理解しつつも要望に応えてくれるのは稀である。そもそも呼び出しに応じる事すら稀有な事象だ。
エルフらが唖然とした口調で説明すると、幼女はキョトンとした顔で首を竦める。
「んなバカな。ここじゃ子供にだって精霊は喚べるし、その辺にゴロゴロいるなりよ?」
「「「「「は?」」」」」
異口同音の五重奏。
百聞は一見に如かず。千早は精霊が視認しやすいようにヴンっと魔力を波打たせて放ち、大気中に波紋を作る。
すると波紋の狭間に多くの影が浮かび上がった。
わっと眼に見えるようになった精霊達。幼女の言うとおり、そこかしこに、わらわら居る。
「これは....っ」
エルフの魔術師達は身体強化で魔力を瞳に集めて眼を凝らした。すると、影でしかなかった精霊の形が立体的になり、それぞれの個体を浮き彫りにする。
「信じられない.....」
笑顔の人々にまとわりつく精霊達。
「本来は呼び出した人間にしか見えないらしいが。それなりの魔力があれば、誰にでも見えるっぽいなり。喚ばなくても、その辺に野良がわらわら居るしな。御駄賃上げれば何でも手伝ってくれるよ」
言うが早いか、千早は洗濯物に絡まるシルフを手招きし、寄ってきたシルフに魔力を与えると探索者ギルドへ伝言を頼んだ。
「タバスを呼んでくれ。教会に来てと」
幼女の掌の魔力をすすり、シルフらはニッコリ笑うと軽く頷き何処かへ飛んでいく。
「...と、まあこんな感じだ」
いやいやいや、どんな感じですかっ!
全く理解不能である。
落とした顎が戻らないエルフらを置き去りにして、幼女は教会の中へ入っていった。
取り残されたエルフらのうち、年若い魔術師が茫然と呟く。
「あれが秋津国の日常であるならば。...我々は勘違いをしていたとしか申せませんね」
その通りだった。
我々は盛大な勘違いをしていた。
驚異なのは来訪者ではない。来訪者により変わった人々。秋津国全国民が驚異なのだ。
数は力だ。それが全国民なれば、その凄まじさは計り知れない。既に人々の進化とも言える現象は終わっている。
教養高く知識に富み、豊富な魔力で精霊と戯れる国民。
魔術師達はぞっと肌を粟立たせた。首筋にヒヤリと冷たいモノが伝う。
何の冗談だ。有り得ない。
秋津国の日常に畏れを抱き、魔術師の一人はやもたまらず王へと報告に走る。
茫然と立ち竦んだまま彼等は、オカンに呼び出されたタバスに声をかけられるまで、身動ぎ一つ出来なかった。
規格外なのはオカンだけではなかったww 震撼するエルフらを余所に、嵐は着々と近付いてきます。




