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オカンと竜と青嵐(春の嵐)~終幕~

明けましておめでとうございますっ! 今年も投稿頑張ります、宜しく御願いいたしますっ♪

 

そして今回は残酷な描写ありです。御注意ください。


『弱肉強食で弱い者が糧となるは当然だ。我に申し開きすべき事などない』


 虚勢だ。しかし、リヴァイアサンは間違っていない。

 今回とて本来ならラプトゥールは子育て中で、こんな大規模な戦いになる予定ではなかった。

 子育て中のラプトゥールは霊力を失い、リヴァイアサンに太刀打ち出来る力などないはずなのに、何故か完全体で現れて、驚愕しているうちに配下を従えての争いとなった。

 

 今まで、春はラプトゥールが無力であるがゆえに出来た暴挙であって、完全体で金色を纏う神獣の相手は部が悪い。

 間違いなくラプトゥールの子供らは孵化したはずだ。ある程度成長するまで親の魔力を必要とする幼獣がいるのに、何故完全体になれるのか。幼獣に魔力を与えているうちは完全体にはなれないはずなのに。

 

 リヴァイアサンには、わからない事ばかりだった。


 そんな見え見えの強がりを貫くリヴァイアサンの虚勢に、幼女は容赦ない一撃を放つ。


「そうさな。弱者を食らうは強者の特権と。なれば、アタシがアンタを叩きのめして淘汰するのも世の理よなぁ?」


 ギラリと眼を光らせ、千早は立て続けに氷結魔法をリヴァイアサンに向けて打ち込んだ。

 あっさりと鱗を抉られ、激痛にのたうつ龍。まるでアイスクリームをしゃくるかのように、あっさりとリヴァイアサンの身体が削られる。


『何をするっ』

「何をするじゃないわっ! おまいこそ何をしとるんじゃっ!」


 くわっと眼を見開き、幼女の白銀色の瞳孔から言い知れぬ怒りが洩れ出ていた。


「世の中は弱肉強食だ、おまいらが何をしようが、どうでも良いっ! おまいが魔力を得るために楽な方法を選ぶのも、ラプトゥールが子供を食われて激怒するのも、どちらも間違っちゃいないっ! だがなぁ....」


 千早は凍てつく魔力をぶわりと膨らませて、次には一気に弾けさせた。

 絶対零度の魔力が放射状に拡がっていく。


「そのせいで秋津国に多大な被害が出るなら、弱肉強食よろしくで、アタシがお前らナマスにして切り刻んでやるぞっ!!」


 放射状に拡がった魔力は、瞬く間に周辺のモンスターを冷気の風で切り刻んだ。ナマスよろしく、無惨な肉塊となる配下のモンスター達。赤黒い血が海原を染めあげていく。

 かろうじてラプトゥールとリヴァイアサンは魔力に抗い、原型を留めていた。

 両者満身創痍だが、薄皮一枚なラプトゥールに対し、リヴァイアサンは全身に深手を負い、情けない悲鳴を上げている。


『ひいぃぃっ、何故だっ? 我の魔力は神々に次ぐ高さなはずだ、何故、こんなに容易く?』

『神々に次ぐ? 有り得んな。わたくしとて神々の足元にも及ばぬわ』


 醜態をさらすリヴァイアサンと、力量を正しく把握しているラプトゥール。彼女は数回魔力を瞬かせると、薄皮一枚の傷を見る間に治癒した。

 

『人の子ならざる者よ。貴殿は何者か?』


 真っ青な瞳でラプトゥールは幼女を見つめる。

 人の子ならざる者か。まあ、間違っちゃいないな。

 軽く苦笑し、千早は改めて自己紹介した。


「チハヤ・スメラギ。異世界からの来訪者だ」


 見つめ合う二人の間に、空気を読まぬ馬鹿野郎様の雄叫びが割り込む。鬱陶しい。


『我の魔力は倍にはなったはず、もう一度貴様の子供を食らえば、今度こそ貴様を越えられるはず、うおおおぉぉっ』


 のたうつリヴァイアサンを、呆れたかのような氷点下の眼差しで見据え、千早は目の前の竜に首を傾げた。


「そういや子供らがいるんだよな? こいつらが探してたって事は、今回は拐われてないんだろう? 子育て中は霊力がなくなるって話だが。今のアンタは弱っているようには見えん。子供らはどしたん?」


 不思議そうな幼女に、ラプトゥールはふくふくと微かな笑いをこぼす。


『信用がおける者に預けてあります。魔力も十分な方なので、子供らは安全です』

「ふむ」


 予想外の答えだが子供らが無事なら、まっいっか。

 納得顔の千早の耳に、未だにキャン×キャン叫ぶリヴァイアサンの声が聴こえた。


『我は最強なのだっ、最強になるのだっ、今度こそ金色を纏うのだ! 貴様の子供らを寄越せぇぇっ!!』


 激痛にのたうちながらも、龍はラプトゥールを厳つい眼光で睨めつける。それに清しい一瞥をくれ、彼女はリヴァイアサンに辛辣な眼差しを向けた。


『阿呆が。そんな瀕死で、わたくしに敵うと思うてか。なんならトドメを差し上げますが? そうだわ、片付けてしまえば今後の憂いもなくなるわね。不味そうだけど、半分はわたくしの子供らの魔力ですもの。返して頂こうかしら』


 竜は獰猛に口を開き、捲り上がった牙がテラテラと陰惨に輝く。そしてそのままリヴァイアサンの喉笛に噛みついた。

 深々と食い込んだ牙が容赦なく龍の首を噛み千切る。

 

『うぎゃあぁぁぁあっ! よせっ、やめ..っ、がふっ』


 噛み千切った肉片をこれみよがしに咀嚼しながら、ラプトゥールは低く呟いた。


『わたくしの子供らも同じように泣き叫んだ事でしょうね。貴方は止めたのかしら?』


 ひゅーひゅーと虫の息で白目を剥くリヴァイアサンに、ラプトゥールの言葉は聞こえていない。

 それを忌々しげに睨めつけ、竜は数回瞬いた。

 するとリヴァイアサンの噛み千切られた喉笛が癒され、あっという間に元に戻る。

 意識を取り戻した龍に、再びラプトゥールは襲いかかった。何度も何度も。

 死なない程度に噛み千切っては癒し、再び噛み千切る。


「えげつないなぁ」


 執拗なラプトゥールの行為に千早はドン引きだった。


 しかし、まあ、気持ちはわかる。


 自分とて、もし娘が食い殺されたとあれば、同じ事をするだろう。間違いなく殺してなんかやらない。

 生まれてきた事を後悔するほど痛め付け、死が救いになるほどの状態なまま生きながらえさせつつ地獄をみせ続けてやる。

 

 肉片が飛び散る惨状を静かに見つめ、千早は未だに会えぬ夫と娘に想いを馳せた。

 



 しばらくして気が済んだのか、ラプトゥールはリヴァイアサンをボロボロにしたまま放置する。

 身体の1/3を食い千切られ、全身ズタボロの龍は、もはやピクリとも動かない。辛うじて聞こえる呼吸音から、死んではいない事だけが確認出来た。


「生かしとくん?」

『あれだけ食い散らかしたれば、元の魔力の半分も維持は出来ません。それでも一応は霊獣でありますから、数百年も時間をかければ脱皮して完全体に戻るでしょう。元の完全体です.....我が子らの魔力は取り返しました』


 聞けば、あんなんでも西の覇者であり、凶悪なモンスターらへの威嚇としていないと困るのだそうだ。


『わたくしのみでは、この広大な海原を統治する事は出来ません。ゆえに分身たる子供らを産み出そうとしたのです』


 つまり子供らが成長し、統治が行き届くようになればお役御免か。短い命かもしれんな、あいつ。


 少し遠い眼をする幼女に、ラプトゥールは遥か高みから静かに頭を垂れた。


『お力添え感謝いたします。もし、あやつが深手を負ってなくば、こちらにもかなりの被害があった事でしょう』


 千早は軽く眼を見開く。

 まあ、結果的にはそうなったが、幼女の刃は全てのモンスターに等しく振り下ろされた。

 それを薄皮一枚で凌いだラプトゥールの実力があってこその今である。感謝するに能わない。

 こちらは国に被害がなくば、あとはどうでも良いのだ。

 そう言うと、ラプトゥールは柔らかく眼をすがめ、肩を揺らすだけの笑いをもらした。


『ここも随分とさっぱりしました。新たなモンスターが生まれるまで静かに暮らせそうです。素材や魔石は御入り用ですか?』


 言われて気づいた。周囲はモンスターの残骸で死屍累々である。ぶっちゃけ気持ち悪い。

 そっと視線を逸らす幼女に思わず吹き出し、ラプトゥールは周囲の肉片から魔石のみを選び出して、波を操り寄せ集める。

 仄かな魔力に包まれた魔石はプカプカと浮かび、ざっと大小五百ほどの魔石をラプトゥールは千早に差し出した。


「良いのか? あんたの仲間らのもあるだろう?」


 無差別に周囲三百メートルほどを切り裂いた氷結の刃に、抗い生き残ったのは二対の霊獣のみ。

 あとは肉片となり、文字通り大海原の藻屑となっている。


『仲間などではありません。勝手にまとわりつく虫のような物。居ても居なくても構わない輩です』


 自分の分身となる子供ら以外はどうでも良いらしい。


 なるほどな。慕って集まっているだけって事か。


 モンスターらの希薄な序列を垣間見る幼女だった。




 そしてフヨフヨと海岸に戻る千早の後をラプトゥールがついてくる。でっかい巨体を滑らかに滑らせながら。

 当然、海岸は大パニック。幼女が追われていると勘違いし、大勢の探索者らが臨戦態勢で待ち構えていた。


「あ~、違う違う。平気だから」


 軽く手を振りながら、千早も全身に疑問符を浮かべている。何故にラプトゥールがついてくるのか分からない。

 尋ねても、海岸に少し用があるとしか言わない。


「で、用って何さ?」


 海岸で怯えと闘気を同衾させつつも、いざとなれば迎え撃とうと身構える人々を優しい眼差しで見つめ、ラプトゥールは軽く首を傾げる。


『おかえり。待たせたわね』


 意味不明な竜の言葉。

 幼女は訝しげに眼をすがめるが、そのラプトゥールの視線が自分らを通り越し、さらに後方を見つめているのに気づいた。

 はっと振り返った千早の眼に映ったのは六人の赤子。

 何時の間にやら海岸に並んで立っている。昨日保護した時より、明らかに成長していた。

 今の子供らは生後一年くらいか。両足をふんばり、覚束ないながらも歩いていた。


「まさか....」


そのまさかである。


 子供らは海に駆け出す。エメラルドグリーンの髪にスカイブルーの瞳。それらはまごうことなくラプトゥールと同じ色彩だった。


 駆け出した子供らは服を脱ぎ捨て、勢い良く海に飛び込む。浮かんできた姿は、ヒレのないラプトゥールの極少版。

 ちっさな竜が水際でパチャパチャと跳ねている。


 ああ、可愛い。可愛いんだけど、この状態は無ぇわっ!


 絶句する人々を見下ろし、ラプトゥールは再び頭を下げた。


『子供らを預かっていただき、ありがとうございます』


 呆気に取られる幼女に、ラプトゥールは改めて説明をする。


 以前に帝国の船を蹴散らした事が発端だった。


 煩わしい人間の攻撃に辟易していたところに幼女参上。帝国船を撃退したうえ、竜らを遠くから見守り干渉せず、試しに近づいてみたが、何の手出しもしてこなかった。


 信用出来る人間だと判断する。


 しかも幼女は神とみまごうほどの魔力を持ち、余剰魔力がだだ洩れな秋津国は子供らを育成するに十分な魔力で満ちていた。

 これは好機。ラプトゥールは子供達を預けられると確信し、リヴァイアサンとの因縁に終止符を打とうと決めたらしい。


 えー.....。今回の霊獣大戦の切っ掛けはうちらかよ。


『ここの魔力は心地好い。わたくしの拠点に相応しいです。すぐそこに産卵に適した暖かい海域もある事ですし、幾久しく御世話になりたいと存じます』


 ニッコリと眼を細め、ラプトゥールは無邪気な笑顔で千早を見つめた。さらりと放たれた言葉は決定口調である。


「はえ?」


 現状が理解出来ない....いや、理解したくないオカンは間抜けな声で返事をした。


 徐々に知名度を上げつつある秋津国。

 ここは真っ当に生きようとする者ならば、誰でも歓迎する。


 その噂に魔物も可であると註釈が入るのは今暫く後の事だった。常に規格外を爆走するオカンに、新たな伝説が付加された春のとある一日である。


 青嵐、完全一過。春が終わり、力強さを増してきた太陽に、清しい初夏の風を感じ始める秋津国だった。

 

人のみならず、モンスターもが棲みつく秋津国ww新たな来訪者、新たな種族を加え、さらにドタバタが加速する悪寒www

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― 新着の感想 ―
[一言] オカンは強し(^_−)−☆ ラプちゃん的な魔物もつまりはオカンですから、そりゃ強いですよねぇ…精神的にも…性格的にも…♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪ たまぁに出てきますねぇ、千早ちゃんさえ舌を巻く…
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