表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/119

オカンと竜と青嵐(春の嵐)~13~

クリスマスイブ~。昼の休憩を今とってます。そしてついでに次話をしあげて投稿。次の嵐は大晦日だな。新年明けてしばらくすれば仕事場の嵐も終わる。がんばりましっ!


「じゃあ、ま。行きますか」


 エルルーシェが皇太子であった事に驚きはしたが、それだけだ。心の底から、どうでも良い。

 お母ちゃんに絡む柵を断ち切りに、千早親子は大樹の国へと向かう事とする。何しろ苔の一念な人が、直ぐにでも結婚したいと駄々を捏ねたからだ。


 お父ちゃんエ.....


これから出立だと言うのに、お母ちゃんの後ろからベッタリと張り付き、周囲を威嚇しまくっていた。逆立った狼の耳と尻尾が見えるような気がするが、たぶん気のせいだろう。


「お父ちゃん、大概にしぃや。手ぇ繋がないと飛べないやん」

「..............ん」


 めっちゃ不服そうやなっ!


 超シブシブお母ちゃんから離れたお父ちゃんと手を繋ぎ、幼女は見送りにきた何時もの面々を見上げる。


「なるべく早く戻るけど、万一のために敦は警戒よろしくな。帝国にも霊獣らにも注意して。何かあったら、設置してある石柱に報告よろん」

「うっす!」


 冷静で、むしろ微笑みすら浮かべている阿吽の呼吸な人々の顔を交互に見つめ、エルルーシェは何が起きているのか分からず、右往左往しながらもとまどいがちに声をかけた。


「あの....いったい何の話ですか?」


 その問いに眼を見張り、ああ、とばかりに千早が答える。


「言ってなかったな。あんさんが陛下に報告と許可とかいってたから、もらってくるわ。形として礼儀は通す。実質、どうでも良いが、まあ、お母ちゃんの恩人みたいやしな」


 そういうと、幼女と両親はシュルンと姿を消した。

 唖然とするエルルーシェの耳に周囲のざわめきが入る。


「ガラティアからなら3日くらいか?」

「身体強化かけたら、そんなもんだろ。妹様の魔術は桁違いだからな。すぐに戻られるさ」


 は? え? 何が起きた?


 いきなり三人が消失したのに、街の人間らは何処吹く風。何事も無かったかのように日常へと戻っていく。


 置き去りにされたエルフ達は誰も動けなかった。




 しばらくして慌てたエルフ達が事情の説明を受けるやいなや、すっ飛ぶかのように騎馬と馬車で秋津国から出立するのを、街の人々は気の毒そうに見送った。




「王様ーっ、ガラティア周辺の地図おくれ。ついでに石柱置いてくから設置よろ♪」


 いきなり執務室に現れた三人に驚きもせず、ウサギな王様は侍従に地図を持ってくるよう指示する。

 転移魔法を初めて眼にした侍従は可哀想なくらい驚き、転けつまろびつ、ほうほうのていで執務室から出ていった。

 それをジットリ眺めながらウサギな王様は千早に向き直る。


「お久しぶりですね。御健勝そうで何より」


 くふくふとお髭を揺らし、嬉しそうに眼を細める王様。


「まあね。トラブル続きだけど何とかやってるなも」


 にししっと笑う幼女。


 顔を見合わせる二人は気の合う友人のように砕けていた。


 そんな二人を余所に、ユフレは驚嘆の眼差しで周囲を見回している。


「転移魔法? 本当にあったのね。お伽噺だけだと思ってたわ」


 茫然と呟くユフレを見つめ、親父様は柔らかく眼をすがめ、その髪に口付ける。


「色々あって....な。....便利」

「そうね、便利ね。さすが、私の娘だわ♪」


 おいおい、いきなりイチャイチャが始まったぞ。


 眼を座らせる幼女の傍で、ウサギの王様も眼を丸くしていた。


「エルフとは気位が高く他国人を蔑む傾向があるのですが。彼女は色目だけでなく中身もエルフらしくないですね」

「まあ中身は、あたしのお母ちゃんだからな」


 不可思議顔でコテリと首を傾げるウサギな王様に、千早はかいつまんで説明する。

 説明が終わると、ウサギな王様の眼は死んだように色素を失い、全身に滝のような汗を浮かべていた。


「それは.....不味いかもやしれませぬ」

「え?」


 疑問符を浮かべた幼女から視線を逸らし、ウサギな王様は重い口調で言葉を紡ぐ。


 いわく大樹の国は豊かな農業国であるが、その豊富な魔力から軍事大国でもあるらしい。

 魔力の高さが個人の力で、平民だろうと魔力さえあれば貴族になれる。逆に魔力がなくば貴族は平民に落とされる。

 そんな一貫した身分制度の中で、卓越した魔力を持つ国王は絶対者であり、樹海という魔窟から国民を守る要だった。

 樹海とは魔獣が渦巻く危険地帯だ。世界樹とよばれる大樹の周辺のみが唯一のセーフティゾーン。そこを拠点に今の大樹の国が築かれた。


 一重にエルフの魔力の高さが、それを実現させたのだ。


 魔力高き者は国を守り広げる。魔力低き者は広げた土地を開墾し、税を納め国を支える。

 そうして歴史を綴り、彼の国は魔窟である樹海を逆手に防御壁とし、外部からの侵略を防ぐ盾としていた。


 なるほど。エルフの身分制度には意味があるのだな。


 平民を虐げる訳でもないみたいだし、悪くはない国だ。


 ふむと頷く千早を見ながら、ウサギの王様は言い辛そうにモフモフな手をモジモジさせた。


「つまり....貴女方が相対するのは絶対者である国王陛下なのです。しかも周りは魔力の高い貴族だらけ。業火の中に飛び込むようなもの。それに.....」


 王様はチラリとユフレに視線を投げる。


「彼女は高位の貴族でしょう? あの色目は異質ですが、魔力の高い者を彼らが手離すとは思えない。....ただ事では済まないかと」


 心配気に眼をプルプル揺らす王様に、幼女はニカッと微笑んだ。


「だーいじょうぶ。なんとかなるさな♪」


 根拠皆無な自信と笑顔。

 しかし、ウサギな王様は良く知っている。神々と共にある幼女に根拠など必要ない。

 今は何事も善き方向へと向いているが、もし彼女が悪意に染まれば世界は崩壊へと進むだろう。


 それも神々の思し召し。


 世界の命運は幼女が握っている。


 錯覚ではない現実。ウサギな王様の国で起きた数々の出来事が、それを裏付けてもいた。


 そして心から願う。エルフが幼女の逆鱗に触れないようにと。一歩間違えば神々から鉄槌が降る。大樹の国がキャルマの街の二の舞いにならぬよう、心の底から祈った。


 そう、ウサギな王様が心配していたのは大樹の国である。


 幼女? 欠片も心配する必要などないだろう?


 ウサギな王様の切なる願いを知りもせず、石柱を渡して地図を受け取り、三人は揃ってガラティアと樹海の境へ転移した。



「これがこちらの大陸の1/3の1を占める樹海かぁ」


 広陵な砂漠地帯ぞいに東へ数十キロ。正面には鬱蒼としたジャングルが拡がっている。左右どちらを向いても途切れる事のない広大なジャングル。

 地図は、この大陸の詳細だけで、秋津国の辺りが少し加算されたシンプルなモノ。


「これによると中央にデカイ砂漠で、それを境に西に魔族の国、北にガラティア、西に大樹の国か。ガラティアと大樹の国は少しだけ隣接してるとこあるんやな」

「そうよぉ。そこに公道と関所があるわ」


 ユフレが地図を確認したところ大樹の国のモノと大差無いらしい。ならば、この説明どおり、公道を道なりに向かえば大樹の国に入れるはずだ。

 砂漠と樹海が境界線か。分かりやすくて良い。


「んじゃ、最近覚えたアレで行くか」


 地図をインベントリにしまいこみ、千早はニヤリと口角を上げた。



「転移って、こういう使い方もあるのねぇ、楽チンだわ♪」


 きゃらきゃら笑いながら、ユフレは気持ち良さそうに眼を細める。幼女は公道を目安に視界限界の位置まで転移を繰り返している。秒によるショートカット。

 千早は一度でも見た事のある場所ならば転移できる。視認した場所であれば何処でもだ。

 つまり視界もその内にはいる。

 肉体強化は眼球にも及ぶ。むしろ一点集中の方が効果は倍増する。それを利用して千早は遥か彼方、地平線スレスレな位置をズームアップで確認し、転移を繰り返していたのだ。

 樹海で使えるか疑問だったが、公道が敷かれていたおかげで視界を遮るモノはない。

 点と点を秒で移動する三人は、あっという間に大樹の国首都ウィンバルへと到着した。


「はやーい♪」

「ここが首都か」


 公道沿いにも街や村はあったが、一貫して外壁などはない。だがさすがに首都である。ここには城壁が存在した。

 門の行列を指差しながら、千早はユフレを見る。


「並ぶ?」

「必要ないかな。私、ミスリル級の探索者だし♪」


 見上げる幼子に、ユフレはふわりと微笑む。そして首元から引き出した三角のプレートはミスリルで出来ていた。


 一般に探索者は初級、中級、上級とあり、その上に伝説級がある。

 初級は木級、石級。中級は銅級、鉄級。上級では銀級、金級。最後に伝説級からミスリル、アダマンタイト、オリハルコンとなり、これらはプレートの素材の意味も兼ねていた。

 プレートの素材は探索者自ら用意せねばならない。ゆえに実力さえあれば比較的容易く手に入るミスリル級探索者を人々は目指していた。

 もちろん、容易くは昇級しないが、いつの日かを夢見て手にいれた親指大なミスリルを御守りがわりに持つ探索者も多いらしい。

 伝説級を名乗るには少なくともダンジョン踏破が目安である。

 今現在ダンジョンを踏破し、希少素材を手にいれる事が出来るのは、ユフレを合わせて三名だと言う。

 大樹の国に一人。獣人の国に一人。魔族に一人。そしてカウントされていないが、千早ら来訪者組である。


 ユフレが兵士にプレートを見せると、門の奥から騎士のような甲冑を来た人が現れた。

 恭しく頭をさげながら、お帰りなさいませとユフレを出迎える。


「秋津国からの客人もおられるの。報告と客人を迎える準備も宜しくね♪」


 柔らかく微笑むユフレの言葉で、騎士はユフレから少し離れた位置にいる千早ら親子に気がついた。

 一瞬、呆けたかのような眼をしたが直ぐに隠し、ようこそお越し下さいましたと、こちらにも頭を下げる。


 鬼が出るか蛇が出るか。


 ワクワクしながら、オカンは大樹の国の門を親子三人で並んで潜っていった。


 

とうとうオカンは大樹の国へ。ユフレ関連もありますが、オカンは観光気分でワクテカですww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ