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オカンと竜と青嵐(春の嵐) ~1~

ブクマにお星様増えましたっ、ありがとうございますっ! 執筆の原動力です、頑張りますっ!!

 ♪ヽ(´▽`)/


「これはなんですか?」


 北の街を職人都市とする事になり、和風建築で統一したいとの人々の要望から、千早が精査する事を条件に許可をした。

 それに伴い親父様が、面白いと薄く笑み、北の街に居を構えたのだ。

 そしてタバスが見上げているのは鯉のぼり。

 こちらの暦は地球世界と同じなので、5月に入って親父様は鯉のぼりと鎧兜を出してきた。

 豪族のころから継がれてきた古い鯉のぼりは巨大な物で、全長十メートル近い。悠然と空を泳ぐ四匹の姿は、中々に壮観である。


「鯉のぼりっつーんだ。うちらんとこでは鯉は滝を登ると龍になるって言い伝えがあってね。男の子の立身出世を願って飾られる物だよ」

「なるほど。親心ですね」


 感心するタバスの横で、幼女は久々に見る親父様の鯉のぼりにワクワクしていた。

 五月五日は明明後日だ。ちまきと柏餅でも作るべかな。御馳走も欲しいな。

 そういや忙しさにかまけてて雛祭りをスルーしてしまった。ついでにやるか。


 そうとなれば、善は急げ。食材確保だ。


 幼女はタバスと別れると、塩田近くの漁師小屋にむかった。

 こちらでも海の幸は捕れる。千早はなるべくこちらの物で食材を賄いたかった。地産地消。土地神様の恩恵を身体に取り入れる事は大事である。

 ここらだと今は何が旬なんだろう。

 ワクテカに胸を踊らせる千早を待っていたのは、異世界の非現実であった。


「へあ? 春は漁に出られない?」


 漁師達は、コクコクと頷いた。


「春は冬眠から目覚めたモンスターらが暴れるんで漁には出られねっす。船が木っ端微塵なるっす」


 そういうと、漁師は海岸からずっと沖を指差す。

 そこには何やら蠢く影が見えた。時折長い鎌首をもたげ、ゆったりと水面を滑っていく。


「あれが毎年ここらを荒らす竜です」

「竜? ドラゴン?」

「んにゃ、姿形が似てるんで竜っていってますが、鱗もないし、ドラゴンではないっすね」


 うーむ。どうするか。どうしてくれよう。


 しばし千早が思案していると、件の竜とは別な影が帝国側からやって来た。

 船のようだ。数隻の大きな船が竜に近づいていく。

 そして少し離れた遠距離から、数多の魔法が放たれた。その全ては竜に命中する。


「あれは?」


 幼女の問いに漁師は苦虫を噛み潰したかのような顔で答えた。


「帝国の魔法使いどもです。あちらも竜が邪魔なんでしょう。漁に出られませんしね。まあ、毎年の事です」


 吐き捨てるような声に首を傾げ、千早は事の成り行きを見守った。

 攻撃を受けた竜は当然怒り、反撃する。大きく竜がうねるたびに海が荒れ、戦闘の余波の高波がこちらの海岸をも襲ってきた。


「これだっ、たまったもんじゃないっ」


 荒れる海で軋む舟を守るかのように、漁師は繋いであった縄をほどく。舟は波に押し上げられながら、しだいに沖へと流されていった。

 高波で漁師小屋も水浸し。周辺の道具も流されないようにしっかり固定してある。


「あのせいで毎年春は仕事になりやせん。竜も帝国も面倒極まりないっす」


 唾棄するような呟きに頷きつつ、千早は竜と帝国船の戦いを眺めていた。

 勝敗は明白。竜の圧勝である。

 半壊した船を駆使し、帝国側はほうほうの体で逃げ出していった。


 うーん。春の風物詩的な感じか。物騒極まりないが、これも異世界あるあるなんだろうな。


 何とか出来なくはないだろうが、むやみやたらに世の理を乱すのもどうかと思う。

 迷惑というだけで野生の竜を討伐するのも気の毒だしな。甚大な被害がある訳でもないし、致し方無い。

 むしろ下手な手を出して、竜を暴れさせる帝国側が厄介である。


 聞けば竜は毎年あの海域で産卵するらしい。

 子供が孵化すると親子で並んで沖へと向かう。それまでの我慢だと漁師達は話す。


 なにそれ。すっごく見たいんだけどっっ!


 カルガモの親子みたいな感じだろうか。やだ、ちょっと、すっごく可愛くね??

 キラキラと眼を輝かせる幼女に、漁師らは苦笑しながら肩を竦めた。


「微笑ましい光景ですよ。あれがあるから、孵化まで我慢してやろうって気にもなりますしね」


 だからむしろ迷惑なのは帝国側のいらん手出しなんです。と、漁師らは忌々し気に立ち去る帝国の船を睨み付けていた。


 なるほど、了解である。


 千早は、にぃぃぃっと残忍に口角を歪めた。




 帝国船は翌日もやってきた。


 しかし今日は何時もと違う。進む海の上にはいつの間にか柵のような物が出来ていた。

 

「は? なんだ、あれは?」


 件の柵はディアードのある陸地から、真っ直ぐに海を横断し、その先は遥か彼方まで霞むように連なっている。

 見た感じ細い金物で出来ているようだ。


「かまわん、このまま進め。壊してしまえ」


 船員達は言われた通り船を進める。

 すると、バキバキと音をたてて、()が壊れた。


 柵は太さ一センチ程度の棒が幅十センチの間隔で五本並んでいるだけ。

 船で押せば壊せるだろうと思うのも無理はない。

 

 ただ、その素材がアダマンタイトであった事が船の敗因である。

 しかも並べられた棒は菱形で、鋭利な角が木製の舟板を容易く切り裂いた。

 完全に破壊された船首から浸水するが、魔法使いらが船首を凍らせて浸水を止める。

 いきなりの事態に狼狽え、右往左往しつつ、慌てて引き返す船を上空から見下ろしながら、千早は無邪気にニッコリ笑っていた。

 帝国の船を追い返した幼女を、竜が円らな瞳で見つめているとも知らずに。


 竜を脅かさないように距離をあけ、ひよひよと海岸まで飛んできた千早は、海岸に多数の人々がいる事に気がつく。

 人々の方も幼女に気づき、軽く手を振っていた。


「なじょしたかね?」


 千早は人々の前に降り立ち、小動物のように小首を傾げる。

 人々は困惑気に顔をしかめ、タバスがその心情を代弁した。


「なじょしたも無いですよっ、帝国船に向かって妹様が飛んでいったと聞き、何事かと皆駆け付けたんですっ!」


 あ~。そっか、心配させたか。


 千早は思いつくがままにやったため、今回の事は誰にも話してなかった。

 話すほどの事でもないしなぁ。柵を作っただけだし。


「帝国船が竜にちょっかい出せないように柵を作っただけなり」


 その言葉に人々が視線を海に振ると、そこには薄青い線が遥か彼方の水平線まで続き、煌めいていた。


「確かに。何かありますね。よくあんな小さな柵で帝国船を追い返せましたね」


 タバスの横でリカルドが不思議そうな顔をする。


「アダマンタイトで出来てるからね。船首が壊れて慌てて逃げ出してったよ」

「へぇー、なるほど。アダマンタイト....」


 何気無く復唱し、一呼吸の間をおいて、リカルドとタバスの絶叫が重なった。


「「アダマンタイトぉぉっ??!!」」


 眼を限界まで見開き、幼女をガン見する二人に、周囲の人々も同調する。


 しまった。黙っとくんだった。

 

 騒然とする人々の視線に、うんざりと空を仰ぐ幼女である。



 


 そして街に戻るとタバスらから執拗に絡まれた。


「踏破者でしたね、うっかりしてましたよ。で? 他にも希少金属ありますよね? 買い取りに出して下さい」

「いや、俺に売ってくれっ、丁度武器を新調したかったんだ。大金貨三百までなら出せる」


 やいのやいのと騒ぐ周囲を一瞥し、千早は面倒臭そうに呟く。


「加工は?」


 途端にピタリと人々の喧騒が鎮まりかえった。

 そう。ミスリルあたりまでなら扱える職人はいる。ディアードの街でも数人は扱える。

 しかし、ヒヒイロガネやアダマンタイトとなると、扱うには鍛冶、彫金、錬金が、スキル大以上必要になるのだ。

 どれか一つでも大になるには並みならぬ努力が必要である。三つともなれば、天賦の才が必須。

 当然、職人に当てもない人々からは、瞬く間に熱量が失せていった。


 タバスとリカルド以外は。


 鉱石だけあっても仕方無い。希少金属に浮かれはしたが現実を理解して、多くの人々は探索者ギルドを後にした。


 ほぼ全ての人々が出ていき三人切りになると、タバスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。


「売る分には鉱石でも全く問題ありませんから。それに....なぁ?」

 

 タバスは意味ありげな視線をリカルドに送る。


「おうともよ。職人なら目の前にいるしな」


 リカルドも獰猛な肉食獣の眼差しで口角を歪めた。


 ちっ。やっぱ気付いてやがったか。


 千早は軽く嘆息する。


 多くはアダマンタイトという希少金属にしか目がいっていなかったが、歴戦の強者な二人は当然柵である事を注視する。

 柵に加工した。つまり、千早はアダマンタイトを扱える職人だと理解したのだ。


「ほんと多才ですよね。魔法は神に列なる者の天賦としても、よもや職人技まで伝説級とは。鉱石で売ります? 加工して売ります?」


 確定口調はやめんかい、タバス。


「いや、売るなら俺にっ。長剣一本頼んますっ!」


 拝むのはやめろ、リカルド。


 再び、やいのやいのと騒がしくなった二人を据えた眼で見つめ、千早は仕方無さ気に溜め息をつく。


「アダマンタイトを武器では出せない。爺様に止められとるでの。ミスリルを鉱石で五つ出す。リカルドには、あたしが剣を作る。ミスリルでな。上等だろ?」


 複雑な顔をしつつも二人は頷き了承した。


 アダマンタイトを逃したのは残念だが、ミスリルでもダンジョン産の物なら極上品だ。否やがある訳がない。

 

 かくして目的の物を手に入れる事となり、上機嫌な二人だったが、後日リカルドが手に入れた長剣が、職人羨望のナンバーズであった事を知ったタバスが、幼女に絡んで大いにごねていたのは御愛嬌である。


 青嵐一過。


 今日も異世界は、事もなし♪


常に騒動が起きるオカンの日常。もはや日課の如くいなしていくオカンですww

 ( ̄▽ ̄;)

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