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オカンの異世界観光 ~1~

オカンの異世界観光始まります♪

♪ヽ(´▽`)/


「んじゃ、あとは頑張ってな」


 しゅたっと敬礼して千早は驚く王宮の人々を余所に、そのまま謁見の間から出て行こうとする。


 その後ろ姿に呆然とするウサギな王様と穴熊な侍従長。


「え? は? これ、爺っ、何か聞いておるか??」

「いえ、何も.... 来訪者様、いったいどちらへ?」

「へぁ? どちらも何も、要件は済んだし寄り道しながらディアードへ帰るけど?」


 当たり前の事である。


 唖然とする周囲を一瞥し、幼女は再び歩き出した。


「いや、それはっ、あの.... え?」


 まさかの事態だった。王宮に迎えられた者が出ていくなど有り得ない。前代未聞である。

 しかし迎えた気になってたのは王様達だけで、幼女にその気は全くない。

 何不自由ない王宮の暮らしを捨てて市井に下りるなど考えもしていなかった王様達は、ここにきてようやく幼女がお客様気分だった事を理解した。


「あのっ、貴女さえ良くば、このまま王宮で暮らしませぬか? 出来うる限りの待遇を持って歓迎いたします」


 両手を広げて歓待を示す王様に、幼女は振り返って、そっけなく答えた。


「遠慮する。あたしの街が対岸にあるし、家族もいる。ちょいと観光したら戻らないと。春になる前に畑とかやる事が山ほどあるなり」


 貧乏暇なしなりよ。そう笑い、幼女は謁見の間から出ようとしたが、数人の兵士に(さえぎ)られた。

 訝る千早に、いけだかな兵士は不遜な態度で胸を反らす。


「陛下のお申し出です。御一考ください」


 立ち塞がる兵士を剣呑な眼差しで見据え、幼女は軽く首を捻ってウサギな王様に声をかけた。


「これがあんたらの言う歓待か。良い趣味だな」


 ウサギな王様は慌てて玉座から降り、小走りで扉前に立ち塞がる兵士の元までやってくる。

 

「無礼な真似をするでないっ、この方は我が国の恩人ぞっ、そこを空けなさいっ!」

「しかし、せっかくの陛下の御言葉に沿わぬなど慇懃無礼(いんぎんぶれい)にもほどがありましょう。来訪者といえど、たかが平民。御話はうかがっておりますが、正直信じられませぬ。こんな幼児が女神様の神属などと」


 どうやらこの兵士は、前回の事案の際に王宮に居なかったらしい。

 話にしか聞いていないので、支援物資の事はともかく、神域結界や白銀色の瞳などは信憑性がないと思っているようだった。


「信じようが信じまいが構わん。あたしはあたしだ。好きにさせてもらう。すまんな王様。ちょい壊すわ」


 言うが早いか、王様らが止める暇もなく、千早は目の前の兵士の鎧を軽く捻る。右腕の手甲部分がひしゃげ、嫌な音をたてて兵士の右腕が捻れた。


「ーーーーーーーーーっ!!」


 声にならない絶叫を上げ、件の兵士が床に転がる。無様に転げ回りながら、飛び散る血飛沫とともに兵士の顔は恐怖で歪んでいった。

 そんな哀れな兵士を、幼女は残忍な微笑みで睨め下ろす。欠片ほどの感情も含まれない鋭利な瞳。

 

「知らないのは悪い事じゃない。しかし、知ろうとしない怠慢は最悪だ。仮にも王宮の警護を預かる衛兵が、王宮であった事件の事実確認もせず、己の推測と思い込みで動き、軽んじた発言をするなど言語道断。国王陛下の護衛としての自覚もなく万死に値する」


 兵士は恐怖に顔をひきつらせ、少しでも幼女から離れようと必死に後退る。


「こんなんに警備任せなや、王様。己を知らず、相手の力量も測れず、自滅まっしぐらな衛兵なんぞ害悪以外の何物でもないぞなもし」


 呆れたような声音で呟き、幼女はインベントリからポーションを出すと兵士に投げつけた。

 それと同時に宙に指を滑らせ、捻った手甲を元通りに復元する。

 瞬く間に兵士の腕は完治したが、負傷したさいの夥しい血痕はそのままである。


「さて... ほな行くかな。王様も元気でな♪」


 軽く手を挙げる幼女に、ウサギな王様は急いで玉座に戻ると、何かを手に千早を追いかけた。


「これをお持ちくださいっ!」


 振り返った幼女に手渡されたのは、真っ白でフカフカな綿毛のような物。

 長めの飾り紐に繋がれたそれは、地球にあったウサギの足と呼ばれるチャームに良く似ている。まさか、本当に獣人の身体の一部ではあるまいな。

 自分の想像に総毛立ちながら、千早は恐る恐る毛玉を見る。

 ウサギな王様はニッコリと頬を膨らませ、髭をヒクヒクさせていた。


「原種にちかい獣人は、幼少から成人まで何度か脱皮いたします。それは私が一番最初に脱皮した時の左手でございます。純白の体毛は王族の証。飾り紐には王家の紋章が刻まれております。有事の際には貴女の身分証明になるでしょう」


 本当に獣人の一部だったよ。考えてたような生臭い物でなくて一安心だが。

 ウサギな王様の最大限の厚意。獣人が己の身体の一部を差し出すのは絶対の信頼のあらわれだそうだ。

 ありがたく受け取り、千早は飾り紐を器用に結び、ローブの胸元にかざった。

 紐細工の桔祥結びである。

 おお、と周囲がざわめき、王様の差し出した手を取ると、幼女とウサギは固く再会を誓いあった。


 なんのかんのと紆余曲折ありはしたが、終わり良ければ全て良し♪♪


 千早は清々しい気持ちで王宮をあとにした。




「さーてと。どこに向かうかなぁ」


 王都は支援が行き届いていたらしく、然したる混乱も見受けられない。王様に悪事が露見せぬように宰相らも悪知恵を働かせていたらしい。


 そこそこ活気のある街並みには屋台もあり、小腹が空いた千早は、何かめぼしい物はないかと物色する。

 そんな幼女の背後から凄い勢いで駆けてくる者がいた。

 土煙をあげて爆走してきたのはリカルド。眼を血走らせて無言で駆けてくる。


「俺を置いてくって、どういう了見っすかぁぁぁっ」


 忘れてたわ。ガチで。


「いや、忘れてただけ。悪い」


 全く悪びれない顔で幼女はテヘっと舌をだした。

 

 可愛くはあるが残念なモノを見るような眼差しのリカルドに、千早は近くの屋台から焼き立ての肉が挟まったパンを二つ買う。


「ほらほら、悪かったって。とりあえず食おう」


 買ったパンを片方差し出しながら、千早は橋のたもとに座り込んだ。

 憮然としたままパンを受け取り、リカルドも同じように座り込む。

 そしてパンにかぶりつき咀嚼しつつ、どちらともなく無言で視線を見合わせた。

 そこそこな量の肉がはさまったパンは、少し固くぱさついている。たぶん混じり物。芋か何かで嵩増しかな。肉も味付けなどはされておらず、僅かな香草をまぶして臭みを消しただけの物だった。


「イマイチ...」

「ですね。微妙」


 不味いというほどではないが、けっして美味くもない。この国の内情を食べているかのようで、少し切なくなった。

 千早はインベントリから某食品メーカーの塩コショウを取り出し、ささっとパンの肉にかける。

 うん、幾分マシになった。

 それをリカルドに手渡し、続いてチーズを出すと、まだ暖かい肉とパンの間にはさむ。

 うん、美味い。カロリーは美味さの証よな。

 とろけたチーズが糸を引く。ハフハフと食べる幸せそうな幼子を見下ろしつつ、リカルドも千早に倣い塩コショウしてチーズをはさんだ。


「やっぱ街のチーズは美味いっすね」

「だべ? お手軽だけど塩コショウも利いてて美味いな」


 で、まぁ、なんだ。

 もっしゃもっしゃと頬を一杯にしながら、千早は自分等を凝視する複数の視線に気がついていた。


 いたたまれない。


 視線の先には数人の子供。

 襤褸(ぼろ)を重ねただけの着膨れ姿で足は素足。明かに異形と思われる角や翼があり、王宮の話にあった魔族だと思われた。

 なんでもガラティアと砂漠をはさんだ所に位置する魔族の国ディスバキルは、環境的にも非常に厳しい国で強さこそ正義。

 弱きは罪悪とされ身体的弱者は成人を迎えるとともに砂漠に放逐されるという。

 そんな人々がかろうじてガラティアに辿り着き、市民権を得て、終の住みかとして一区画に街を作った。

 ガラティアに魔族が住むのは、そういった理由だそうだ。

 

 世知辛いねぇ。力が全てって、どこぞの戦闘民族かよ。力には色んな種類があるのにねぇ。


 今だに此方をジッと見ている子供らに手招きし、千早は難民用スープの鍋をインベントリから出した。


「餓えた子供を放置とは、ファーマーに対する挑戦と見た。ほら、来い。飯にするなも」


 にかっと笑う幼女を見つめ、困惑気に顔を見合わせた子供らだったが、スープの誘惑には勝てず、一人二人と近寄って来る。

 警戒しながらゴクリと喉を鳴らす子供らに、千早はたっぷりスープを注いだ器と、これまたインベントリから出したパンを切り分け差し出した。

 スープとパンを受け取り、子供らは夢中になって器をすする。

 濃厚で暖かいスープに溜め息をつき、ついで食べたパンに眼を見張った。

 柔らかく香ばしいパン。噛むほどに豊潤な麦の香りと甘味が口に広がる。パンとは、こんなに美味しい物だったのか。

 御互いに視線を見合せながら、子供達は無言でパンを頬張っている。

 

「おかわりは幾らでもあるでな。たんと御上がり♪」


 子供らは眼を丸くして微笑む幼女を見つめた。


 皆半泣きになり、嗚咽を上げながらスープをすする。久しく触れていない人の優しさに我慢のタガが外れたようだ。


「ありがとうございます...」


 一番年長らしい子供が呟いた。


「うん。後で話を聞かせてな。とりあえず今は食え♪」


 女神様じゃなかろうか。


 降って湧いた幸運に、子供らは千早を崇め奉るかのような煌めく瞳で見つめていた。


 当たらずとも遠からず。


 やはり千早の道行きに平穏の二文字は存在しない。



オカンがオカンであるゆえに平穏が程遠いという事実に、いつ千早はきづくでしょいかね。こちらの一般人なら孤児を見かけてもスルーです。スルー出ないオカンが揉め事を招くのですwww

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