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オカンと牧場 ~後編~

美味しい物は大好きです。お手軽に幸せになります。千早の美味しい街大作戦、始まりです♪

♪ヽ(´▽`)/


「今がチャンスだべな」


 千早は指で軽くテーブルを叩きながら呟いた。

 農閑期である冬。今なら人々には時間がある。


「過去になぞらえるなら飯を餌にするべ。子供らば集まるだろう。上手く行けば大人らも」


 淡々と呟く千早に、敦が眼をすわらせる。


「最上さん、最近年寄り臭さに磨きがかかってませんか? 親父様よりも婆臭いですよ、口調が」


 言われて千早は眼を見開いた。

 いや、中身婆ぁだしと思いつつも、よくよく思い返すと、確かに古臭い言い回しが多いかもしれない。


「まぁ中身婆ぁだしな。爺様と長々暮らして口調が移ってたかもしらん。あと最上じゃない。こちらに来てからは(すめらぎ)になった」

「すめらぎ?」


 首を傾げる敦に、そういや話してなかったなと、千早は件の御子様の事から話し出した。


「じゃ、親父様らは陛下の御親族にあたるって事ですか???」

「まぁ、そうらしい。眉唾物だが、実際に血族にしか抜けない懐剣とかあるしな。で、こちらに来るのを機に当主が受け継いできた名前を復興させようってなったんだ。千年の時を越えて甦った家名。浪漫だべ?」


 敦は唖然とする。それであの騒ぎか。

 異世界来訪直前に起きた指名手配騒ぎを思い出す。あの時首相は件の国宝の正しい所有者である確認が出来たといった。 

 それは陛下の血族である確認の事だったのか。

 世が世ならば千早は殿下と呼ばれるべき御方だ。しかし.....


「.....似合わねぇ」


 思わず吹き出す敦に、なんだとぅっと幼女が蹴りを飛ばす。

 一見微笑ましいが、ドラゴンに鍛えられた幼女の蹴りは本物。悲鳴を上げて逃げ回る敦の姿に、周囲の子供らは笑って囃し立てていた。

 

 その話を小耳に挟み、アルス爺がじっとりと冷や汗を流している。


 つまり.....この幼い来訪者様は、あちらの皇帝の一族に列なる者? 皇族? 姫君?


 思わぬ暴露情報だが、ゆえに悠久の知己であられたのだろうと得心もする。

 青年の言葉ではないが、元気で溌剌とした無邪気な幼女は、とても深窓の姫君にはみえない。

 確かに大の大人達を凌駕する知識と技術を持ち、男どもを手玉にとって、あれやこれやと指示し、街の発展を進め始めたが、孤児院では腕白な子供の一人でしかなかった。

 食べるに困らなくなった孤児院は笑いが絶えない。さらに幼女の指示で読み書きや計算なども始めた。なんと幸せな事だろう。

 以前の貧しさなど欠片もうかがわせない今の孤児院を一瞥して、アルス爺は好好爺な相好を崩した。


「孤児院でやっている授業に街の子供らも参加させる? 出来るなら大人も?」

「んだべ。文字も数字も読めねでは測量一つ出来ね。飯ば餌にして人ば集めるべ」


 さらに口調が酷くなってませんかと敦が言うと、しゃかぁらしか、このせんしょこきがっと呪文が返ってきた。

 あうあうと慌てる敦に、親父様がぼそりと呟く。


「...喧しいわ、この怠け者が。...な?」


 どこの言葉ですか~と脱力する敦に、親父様はコテリと首を傾げる。


「尾張? 三河? ....俺の婆が。....にゃもにゃも? ...な?」


 まさかの親父様の片言通訳。....この親子は。


 かろうじて意味は理解出来るが、にゃもにゃもってなんだよっ!

 どうやら千早は色んな方言が混じっているらしい。生まれは岡崎だが、貿易の仕事をしていたため、単身赴任が多く、各地に住んだり出掛けたりして、色んな方言が混じってしまった。

 なもなも、にゃもにゃもは岡崎の古い方言。爺様、婆様が良く使う語尾である。若者は、だらぁとか、にゃーとか、とかく謎な語尾の多い地域だ。

 どうやらドラゴンの爺様と暮らしているうちに方言が定着してしまったようだ。爺様の言い回しが古臭い口調だったからつられたらしい。

 

「美味ゃあな。上出来だなも」 

「うん。...懐かしいな。...婆ぁが。...な?」

「なぁほい親父様♪」


 婆っ子だった千早は、口調も婆にそっくりである。親父様は娘の頭を撫でながら、懐かしそうに微笑んだ。


 暗号かよ。


 敦は天井を仰ぎ、しばし遠い眼をした。



 そんなこんなで季節は移り行き、千早は荒野を土魔法で耕していた。

 雪は深いというほどでもない。まあ足首が埋まる程度には常時降っているが、吹雪いて被害が出るとかいう地域ではなかった。

 しかし荒野は雪が溶けても水が染み込まず、全て傾斜に流されてしまう。

 ゆえに大地に水が染み入るよう千早は畑予定な土地を割り砕いている。

 元々が荒涼な土地だ。あまり細かくすると汚泥になってしまう。だから、荒く砕くだけ。

 春になったら野草の種をまき、畑予定地を柵で囲って豚を放ち、数年かけてゆっくり土壌改良せねばならない。


 急がば廻れである。


 まずは土地に水を蓄えさせねば。雪融けが来る前に予定地の準備を完了しておきたい。

 勝手に雪が溶けて大量の水が畑に染み込むのだ。儲けもんである。


 幼女は黙々と作業を続けた。



 

 一段落した頃に荒野側から誰かがやってくる。数人の男らが千早を見つけ、軽く手を振った。


「今日も開墾か。精が出るな」

「言いだしっぺやしね。言うた分くらいは働かねば」


 子供らしくない大人びた口調。声をかけた男性は、やや眼をすがめた。


 数ヶ月前にふらりと現れた三人組。


 孤児院長であるアルス爺の遠縁にあたるとかで、気づいたら孤児院に居着いていた。

 何でも東の小さな島国出身だとかで、国を出る時に連れてきた家畜を増やし、この国にはない多くの料理を披露する。

 さらに増やした家畜を利用して、街に大規模な農園や牧場を作る事になり、今は街中が活気づいていた。

 孤児院で細々とやっていた養鶏場も大きくなり、卵採取専門だった探索者達が働いている。

 野鳥や魔獣の巣から卵を奪うよりも安全で収入もあがり、連中は喜んでいた。


「あれが牧場か? だいぶ広くなったな」


 男性が視線を向けているのは孤児院裏の森あたりにある牧場だった。

 多くの巨大な牛と豚が放牧され、雪なぞモノともせずに歩き回っている。


「あれらが土を肥やして畑を良くするんだ。来年はこちらに移して肥やしてもらう」


 そうか。じゃあ、あそこは再来年から畑になるんだな。男性の顔に笑みが浮かぶ。

 幼女が言うには、土地は休めないといけないモノらしい。同じ種類な作物を続けて育てていると、連作障害なる物が起きて収穫がガタ落ちになるとか。

 植える物の種類をかえ、ローテーションを組み、数年おきに土地を休ませる。

 幼女からもたらされる知識には全く舌を巻く。我々にとって完全に未知な知識だった。

 

 今や多くの人々が養鶏や牧畜に関わっている。

 バターやチーズなどの乳製品。ベーコンや腸詰めなる加工肉。どれもこれも初見な物ばかりで、食べ方からレクチャーしてもらわなくてはならなかった。

 そして、その美味さに絶句する。


 あれも良い思い出だ。


 以前は冬に肉など欠片でも口に出来たら幸運だった。貧しい街だった。厳寒の季節には餓死者や凍死者が当たり前に出る街だった。

 それがどうだ。今年は凍死者どころが飢えてる者すら居ない。

 難民専用の建物が建てられ、雑魚寝ではあるが寒さを凌げる寝具が与えられている。

 孤児院では毎日炊き出しが行われ、朝夕と温かい食事が振る舞われた。

 代わりに難民は労働力を提供する。

 結果、みるみる牧場は大きくなり、さらに人々を潤してくれた。

 開墾した土地に新しい家が建てられ、順々に難民を受け入れていく。

 街の人口は倍になり、土地も拡張され、新たな商店街や街並みが増えていた。


 ほんの数ヶ月の出来事である。


 幼女いわく、人的資源に勝る宝無し。

 いくら資金や食糧があっても人がおらねばただの持ち腐れ。難民は金の卵。喜んで受け入れるべし。


 世間の常識と全くの真逆である。


「難民くらい幾らでも食わせてやるわっ! ファーマー舐めんなっ!!」

 

 眼力半端ない幼女の力説に圧されて、探索者総出で奴隷狩りに追われる難民を馬車で拾って回ったのも、良い思い出。


 あれから、あっという間だった。たった数ヶ月で街は変わった。

 幼女は冬でも育つ野菜の種を所持していたのだ。

 雪の中でも元気に青々とした葉物や根菜。

 幼女の言葉は嘘偽りなく、本当に難民を養ってしまった。

 冬でも雛鳥が生まれ、増える鶏。毎日産まれる沢山の鶏卵。牛乳も毎日絞られ、市場に卸されたり乳製品に加工されたり。

 子供らは毎日孤児院の教会に通い、文字や計算の授業を受ける。手の空いてる大人も時折参加する。

 目当ては孤児院の絶品なお菓子だが、授業も楽しいらしく、九九なるものを一生懸命唱えていた。

 毎日美味しい食事が摂れて、こちらも俄然ヤル気になるってもんよ。

 

 男性は小さな幼女を尊敬の眼差しで見つめた。


 彼の名はリカルド。探索者の中でも名うての強者である。彼が率いるパーティの名は(あかつき)


 リカルドは思った。この幼女は太陽のようだと。


 昇る朝日のように常に不屈を誓い、名付けたパーティ名。太陽は彼にとって特別に思い入れがある。


 それを話した時、幼女が小さく口ずさんだ。


「明けない夜はない。やまない雨はないってね」


 至言だと思った。心に染み入る複雑な思い。


 聞けば幼女の国にある言葉らしい。諦めるな立ち上がれ。困難は乗り越えられる。今が正念場だ。必ず陽は昇る。明日はやってくる。


 そういった意味があるらしい。


 素晴らしいと思った。その通りだと。


 以来、彼は何かにつけて幼女の周りにいるようになった。幼女の言葉や行動の端々がリカルドの琴線に心地好く触れるのだ。

 

 今回も幼女が開墾すると知り、荒野方面の海で作っている塩の運搬を請け負った。

 行き帰りに幼女に逢えるからだ。


 ニッコリ笑う二人に邪気はなく、リカルドのパーティと連れだって千早は街に戻っていった。


 しかし、この数ヶ月の事が、漸くしてまた大騒動を引き起こす。


 相変わらず千早の人生に平穏の二文字は無い。


 

 

ブクマとうとう二桁ですっ! ありがとうございますっ!!

 電子の海の片隅でワニがサンバを踊っています♪

♪ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いきなり出てきた『方言ちゃんぽん』でキャラづけ♪が、違和感を通りこえて不快でしかありません。 そもそも、読者は小説内の情報を、自分の中にある『型』と照らし合わせて、把握して、読み進めて…
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