表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/119

オカンと牧場 ~前編~

昨日はお休みしてすいません。度々あるかもですが、御容赦くだせぇ。

( ̄▽ ̄;)


 結局、試行錯誤の末、鶏と鶏卵は市場にのる事になった。料理協会が一手に引き受け、販売も請け負う。

 鶏々の相場が崩れぬよう、やや高値で飲食店中心に販売され、安定した供給が望めるようになった。


 結果、飲食店を中心に商店街の活気が上がる。


 富裕層にも販売を取り計らい、騒ぎは終着を見せた。


 鶏卵も安定した供給が望めるため、卵の相場が崩れる恐れがあったが、幼女の一言で事態は終息した。


「卵専門な探索者を、孤児院の養鶏場に雇いたいなぁ」


 暢気に呟かれた一言。


 今回の騒動に関係者一同が集まり開かれた会議。

 そこに呼び出された幼女は、養鶏が雇用を生み出すのだと説明した。

 街の人々が協力してくれるなら、規模を大きく出来る。さらに潤沢な素材で多くの物を生み出せる。

 鶏卵の黄身でマヨネーズ。残った白身でフィナンシェ。卵一つにしても複数の使い道があり、パンもサラダも何でも種類が増やせると説明した。

 辺境の開拓地である利点を有効活用しよう。土地が腐るほどあるんだから、養鶏を広げるついでに畑や牧場も広げよう。

 幼女の話に集まった大人達は固唾を呑んだ。

 

 彼女は言う。

 貴殿方は、この街をどうしたいのかと。


 誰も何も答えられなかった。

 皆が食べるに困らない事が第一で、それ以外には何もない。仕事をして、糧を得る。

 街とはそういうものだろう?

 

 怪訝そうな各位に千早は溜め息をついた。

 

 そこに女給があらわれる。なんでも孤児院から子供らが来たのだと。


 待ってました。


「ちょいと野暮用だ。まぁ、さっきの事を考えてみてくれ」


 そう言い残すと幼女は足早に部屋から出ていく。


 残された大人の多くは意味が分からず、顔を見合わせるだけ。

 ただ二人。探索者ギルド長タバスと料理協会会長は複雑な顔で思案している。

 あれの言葉が戯れな訳はない。我々に何かを示しているはずだ。

 鶏。鶏卵。雇用。それが示しているもの。

 土地。開拓。農場。牧場。

 それらを考えた時、タバスの脳裏にはある物が浮かんでいた。


 孤児院の炊き出し。


 あれは美味かった。試食したサラダやチキンも言葉を失うほど美味かった。


 そこまで考えて、タバスはカッと眼を見張る。


 ピースは揃っていたのだ。あとはただ構築するだけ。目の前にありながら気づかなかった。


 がたっと立ち上がったタバスに周囲の眼が集まる。


「食糧庫だ」


 不審げな周囲にタバスは更なる説明をした。


 養鶏、農場、牧場。これらが示すのは食糧庫。潤沢な食糧を生み出す土地。

 我々はただ生きるためだけに働いていたが、土地を開墾し、食糧庫なる街を目指せと幼女は言っているのだ。

 開墾し土地を広げるなら人手がいる。農場、牧場の経営や維持にも雇用がうまれ、人が集まる。

 それは辺境の開拓地であるから出来る事。


 大人達は眼から鱗である。


 今を生き、維持する事しか考えてなかった。小さな街で利益や利権を争い、今回のような事態になった。

 

 元々が戦争難民の集まりだ。誰もがうちひしがれ生き延びる事しか考えてなかった。

 ようやく村が出来て、数十年かけて街になり、他の土地との交易も始まりだした。

 教会も進出してきて街としての体裁が整ったばかりで、誰もが現状維持しか考えていなかった。

 

 帝国は未だに戦火を広げている。この大陸の八割は陥落した。さらに戦争難民は増えるだろう。

 この先の荒野は魔族の国に繋がっている。

 実際に見た事はないが、荒野の向こうには海があり、細い陸地続きで魔族の国。そして他にもエルフや獣人の国があるという。

 こことは別な大陸に、こことは別な種族と文化の国があるとされていた。

 だからこそ帝国は此方に来ないのだ。

 何が原因で何が起きるかわからない土地。ゆえに難民が街を作っても放置している。

 我々が住んでいるのは、そういう危ない土地なのだ。

 

 だが幼女の話は、それを逆手に取る。


 帝国のみならず、誰もが見捨ててる辺境の地。それは裏を返せば誰でも住める広大な土地。

 本来なら開墾して活用するに多大な努力と時間が必要だが、すでに街があり、皆で協力すれぱ人の受け入れは可能だ。

 なにより幼女には養鶏と言う切り札がある。

 鶏を増やし鶏卵を採取し、人々に糧を与えられるのだ。あの様子だと他にもカードを隠し持っているに違いない。


 この話にのらない手はないだろう。


 タバスは会議の参加者に、そう説明した。

 困惑と猜疑の入り混じる雰囲気で満たされた部屋に、期を見計らったかのように幼女が現れる。


「話はついたかな? 答えは後で良い。取り敢えず飯食うべ♪」

「「「「は?」」」」


 会議に参加した者達は揃って疑問符を浮かべた。




「これは.....」


 別室に用意された試食とは名ばかりの御馳走の数々。これらは全て孤児院で生産された素材で作られた料理だと言う。

 

「メニューのレシピを横流しする条件で近くの飲食店の厨房借りて作ってる。まだまだ来るから、存分に食べてみてくれ」


 スモークやローストされたチキンにエッグ。茹で卵と、芋や各種野菜等を混ぜたサラダが数種。パンも数種。他にオムレツやスープなど多様な料理が幾つものテーブルに並んでいた。

 見た事ないような料理もあり、会議の参加者達はゴクリと唾を呑む。

 恐る恐る手をつけた大人達だが、一口食べた途端に眼を見張り、お互いに顔を見合せ、次にはガツガツと無言でかっ込み始めた。


 あ~、デシャヴ。子供らと同じだわ。


 夢中になって食べまくる大人達に苦笑する千早の前で、タバスが眼を瞬かせてサラダを口にしている。


「これは濃厚なソースがかかってますね。カリカリと香ばしい欠片はビスケットですか?」

「それにはチーズドレッシングがかかってる。欠片はローストしたパンなり。これを乗せると更に美味いよ」


 そういうと幼女は、ふわふわした白く丸い物をタバスのサラダに乗っけた。


「これは?」

「食べてみたら分かるなり。軽く崩してな」


 言われた通り軽く崩すと、中からトロリと半熟な黄身があふれてきた。


「卵ですか?? どうやってこんな形に???」

「ポーチドエッグっつってな。湯を沸かして酢を混ぜて、グルグル回したお湯の中に卵を割り落とすと、こんなんになるん」


 なんと。


 不思議な調理法だ。初めて聞いた。

 チーズドレッシングと言うのも初めて聞く。

 サラダと言えば塩かレモンを絞って食べるのが此方では定番だ。

 クリーミーで複雑な味わい。

 他にもマヨネーズやハーブドレッシング、玉葱のすりおろしドレッシングなど、見た事も聞いた事もないソースがズラリと並んでいる。

 

「これは牛乳。牛の乳だ。これからチーズやバターが作れる。こっちはベーコン。豚肉をスモークした物。どれも私の故郷から連れてきた家畜だ。此方とはサイズが違う。私の故郷の牛は此方のヤギ並みに大きいんだよ」


 チーズ、バター、ベーコン。どれもこれも初めて食べる食品である。

 チーズそのものも美味いが、平たいパンに野菜やベーコンを乗せて一緒に焼かれたピザなる物の美味さは極上だった。

 誰もが感嘆の溜め息しか出せない。

 スープに使われているホワイトソースなる物も初耳だ。もったりしたスープの中にゴロゴロ野菜と鶏肉。

 シチューと言うらしい。

 寒さが厳しくなってきた昨今、有難い料理だ。

 

「これらは全て孤児院で作れる物なり。家畜の繁殖、普及、加工に販売。この街で大々的にやってみないかな? ノウハウ....やり方は教えるなり」

 

 美味い食べ物は人を幸せにする。


 にかっと笑う幼女に反論出来る者はいなかった。

 こんな美味しい物を日常的に食べられる豊かな街。そんな理想が目の前にぶら下がったのだ。

 手取り足取り、やり方も教えてくれると言う。試行錯誤で苦労する必要もない。


 しかし疑問もある。その疑問はタバスの口をついた。


「何故こんな美味い話を我々に持ちかけるのですか? 独占すれば多大な利益になるでしょうに」


 すると幼女はまたもやキョトンとしてタバスを見上げる。だから、キョトンとするのは此方だと。


「孤児院の幸せのためだよ。孤児院が幸せであるには、その周りも幸せでないと駄目じゃん? 街の皆が豊かで笑顔なら、子供らも笑って暮らせるじゃない。人間は、人に優しくされないと人に優しく出来ない生き物なんだよ。だから、私は街に優しくありたい」 


 タバスは瞬きも出来ず幼女を見つめた。


 至言だった。


 街が孤児院に優しくないのは、街が苦しいからだと幼女は理解していた。だから街に優しくし、街を豊かにしようと奔走したのだ。

 ゆえに価値があるであろう故郷の技術や知識を惜し気もなく我々に与えようとしている。

 自分を凝視するタバスに首を傾げ、幼女はニッカリと笑う。


「美味い食い物が沢山ある美味しい街を作ろうや。働き者は誰でもウェルカムな優しい街をさ♪」


 ウェルカム? 分からないが悪い言葉ではなさそうだ。タバスはニコリと笑い返した。


「良いですね。我々は文字どおり泥の上澄みを啜るように生きてきた。これからは美味しい生活をしても女神様は御許し下さるでしょう」

「女神様? シメジな? あん人も美味いモンが好きやき、歓迎してくれるわ」

「はい?」


 見開くタバスの眼に、千早は己の口が滑っていた事に気づいた。

 そして口元に指でバツを作り、タバスが何か質問する前に黙秘の姿勢を示す。


 ただでさえ得体の知れない幼女の謎が深まり、その後、一人で頭を抱えているタバスが、ちょくちょく千早の周囲で見掛けられるようになる。


 季節は冬到来。ちらほらと降り始めた雪が大地を白く染め始めていた。


 

おばちゃんは思うがままに進みます。誰も止められませんww

♪ヽ(´▽`)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ