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オカンは激おこぷんぷん丸《古っw》

オカンの怒りが炸裂します。

( ̄▽ ̄;)



 一時の騒動で少なくないギャラリーが出来てた周囲から、ふいに草部が現れた。

 千早お手製のリュックと少なくない荷物を持って。


 ああ、やっぱりな。来ると思った。


 千早はしばし前の自分の予感が的中した事に舌打ちする。親父様も仕方無さ気な顔をしていた。


「....来た。...な?」

「うん。来ると思ってたよ」


 自分達が異世界に渡ると決めたあたりから、敦は挙動不審だった。やけにこちらを気にし、物思いに耽る事も多かった。

 元々、至高の間に棲みたいとか、敦の思考は完全に異世界寄りで、いずれはあちらに行くのだろう予感はしていたから驚きはしない。

 ただ、自分達に付いていこうという思惑はいただけなかった。


 その辺は本人にも自覚があるのだろう。最奥にいるはずの二人を上層で見つけ、草部の瞳は大きく揺れた。

 しかし直ぐに眼をすがめ、真剣な面持ちで二人に近付いていく。


「俺も....あちらに渡ります」


 覚悟を決めた真摯な眼差し。


「一人で?」

「....出来れば貴殿方と同行したい」

「うちらは親子やけど、あんたさんは違うんえ?」

「ずっととは言いません。出来れば仲間に....贅沢を言えば隣人になりたいです」

「定住地を決めるまで一緒したいって事か」

「はい」


 なるほど。おんぶに抱っこな訳ではないか。それなりに考えてはいるようだ。

 女神様いわく、あちらに渡った者は後続の為に地球人の受け入れ基盤を作って欲しいと言っていた。

 草部ならば最適だろう。地球にダンジョンが出来てから、ずっとダンジョンと共にあったのだ。

 なんのかんのと言っても千早は草部が可愛かった。爺様の姉弟弟子であり、自身の弟子でもある。幾らかの打算と引き換えに千早は草部の同行を受け入れる。

 しかし千早が頷いた途端、周囲がどよめいた。


「マジかっ、草部班長あちらに渡るんかっ」

「え? これからの探索は? 班長抜けてやれんの?」

「いやいや、ないないっ、鑑定持ちなのにっ」

「誰か上をよべっ、一大事だっ!!」


 固唾を呑んで会話を聞いていた人々が騒然とする。


「しまった、こうなると思ったから最奥で話したかったんだ」

 

 あちゃーっと両手で顔をおおい、草部はその場にしゃがみこんだ。

 まぁ、勢いだったんだろうな。私らを見つけて周囲が眼に入らなくなった。

 千早は草部の手を取ると、飛ぶか? とニッコリ笑う。一も二もなく草部は頷いた。


「なんだ、この騒ぎはっ!!」


 三人が転移しようと御互いに手を繋いだ時、相変わらず空気の読めない男、松前博士がギャラリーを掻き分けて現れた。

 瞬間、千早の眼が剣呑に光り、研ぎ澄まされた刃の如き鋭い眼光で件の男を射抜く。

 姉弟の騒ぎで忘れていた。千早はこの為に上層へやって来たのだ。


「なんだお前ら。引きこもりは止めたのか? ならば私の研究につきあえ。そこの婆ぁ、マジックボックスに薬品や素材持ってるだろう。さっさと出せ.....っ」


 そこまで言って、松前博士は息を呑んだ。

 目の前の幼女の瞳は銀色に輝き、全身から薄紫の靄が立ち上っている。背の中程まである黒髪は重力を失ったかのように靄の中をゆったりと漂っていた。


「な...っ、え? あ?」


 いきなりの変貌に度肝を抜かれ、松前博士は眼に見えて狼狽える。


「....貴様、人間か?」


 怒気に彩られた低い幼女の声音。こちらの台詞だっと叫ぼうとした松前博士の口は、続く幼女の言葉に凍りついた。


「1996年、ジェニファー・アンダーソンを自宅地下室にて殺害」


 驚愕する周囲を余所に、千早は淡々と言葉を続ける。その口から語られた被害者数はなんと18人。


「そして去年。愛知健康の森で、三上渚を拉致。近くの農家の納屋に連れ込み、.......口にもしたくない殺し方ばかりだな」


 戦慄く口をパクパクさせ、松前博士は限界まで見開いた眼で幼女を見る。

 少し俯き気味な幼女の顔には陰が落ち、妖しく輝く銀色の瞳が無感動に松前を見据えていた。


 松前は白衣の上からでも分かるほど冷や汗がしたたり、全身がブワッと泡立つ。

 

 なんなんだ一体っ、なんなんだ、この生き物はっ!


 驚愕に強ばる松前の前で、千早は解析した事を心の底から後悔した。

 奴の職業にある快楽殺人狂。これは何の罪もない者を拷問し、三人以上死に至らしめた者に生える職業だった。

 被害者の殺害方法は凄惨を極め、死が救いになるだろうほどの悶絶な苦しみを味わっている。

 並んだ文字を読み取る度に千早の怒りゲージが跳ね上がり、沸点を越えた瞬間、魔力が千早の全身を駆け抜けた。

 全身にみなぎる魔力は靄となり周囲を隔て威嚇し、溢れ集中する魔力が瞳に集まり変色させる。

 暴力的な激情に支配され、千早は松前の罪状を洗いざらい吐き出した。


 そして今。千早は怒りを通り越し、無感動な瞳で松前を睨めつけている。


 歯の根の合わない口をカチカチと鳴らし、強ばり動かない手足を必死に操ろうとしている老人の姿は滑稽だった。


 もう、こいつ死んでも良いよね? いや、鬼畜な老害は死んだほうが良い。


「終わるが良い。見下げ果てた卑怯者が」


 千早が軽く指を振ると、キンっと音をたてて松前の周囲に結界が張られる。大人一人分程度の小さな結界。その結界内部から千早は空気を抜く。

 呆然とする人々の前で、しだいに松前の状態がおかしくなり、喉をかきむしり出したあたりで、ようやく周りは事態を把握した。

 悲鳴のような声があがり、松前の周囲は蜂の巣を蹴り飛ばしたがごとき騒ぎになる。

 これが幼女の仕業なのだと分かってはいたが、どうにも出来ない。

 結界を壊そうと試みる者。千早に、止まれっ、やめてくれっ、など叫ぶ者。

 しかし無感動な眼のまま幼女は微動だにしない。

 松前が泡を吹きはじめ、眼球が白目を剥いた頃。老人の死を確信し、重く淀んだ周囲の空気が初めて動いた。

 

 パンッ!!!


 甲高く大きな音が辺りに響き渡る。


 千早は呆けたように眼を丸くすると、何度かパチパチと瞬きした。

 眼の前には大きな手。合わせるような大きな両手を見つめながら、千早は手の持ち主を見つめる。


「....親父様?」


 正気に返った幼子と目線を合わせ、親父様は薄く笑みをはく。


「もう...良い? ...な?」


 親父様がしたのは猫だまし。一点集中を崩すに最適な技である。

 親父様の言葉に素直に頷き、千早は結界を解いた。

 途端、崩折れるように松前がドサリと倒れる。

 慌ただしく松前を介護し、周りが奴に気を取られているうちに三人は至高の間に転移した。





「....殺すつもりだった」


 千早は陰惨に眼をすがめて、被害者達がどんな目にあって息絶えたのか語る。

 ポツポツと語られる話に、草部は驚愕で眼を見開き、親父様は微かに眉を潜めた。


「アレは人間じゃない。けだものにも劣る畜生だ」


 絞り出すような千早の言葉を聞きながら、親父様は幼子を優しく抱き締める。


「殺人... 法は...お前に味方しない。...な? お前は...法じゃない」


 諭すように静かな声音。千早は小さく頷いた。


「それでも...なら。俺が....な?」


 親父様の言わんとする事を理解し、千早が勢い良く顔を上げる。その顔には驚きと焦りが浮かんでいた。


「そんなん、あかんっ。親父様を人殺しにはできんっ」


 狼狽える幼子の頭を撫でながら、親父様はふわりと微笑んだ。


「同じ....な? 俺も...嫌だ」


 千早が手を汚すくらいなら自分がという親父様に、幼女は全力で抱きつく。最近、肉体年齢に引きずられているのか、感情のコントロールが甘い。

 

 端から見たら微笑ましい親子の包容だか、その内情か恐ろしく物騒なため、草部は頬をひきつらせた。


 爺様の勧めで解析結果をコピペし、千早は神埼の執務室の机に、そっと置く。

 これだけ詳細な状況説明があれば、ザクザク証拠を発掘出来るだろう。

 満足気に胸を張ると、ふたたび千早は下層最奥に転移した。




「これでもう心残りはないかな?」


 千早は指折り、片付けるべき事案を確認する。

 地球世界に関わる事は全て終わらせた。薬品関係も神埼が引き継いだ。ダンジョンも一般開放されて裁定に挑む探索者も増えた。

 危険視されていた厄介な博士に引導も渡したし、もう心おきなく異世界に渡れる。


 千早は晴々とした顔で、件の祠を見つめた。


 あとは時間を待つばかり。


 新たな世界への門出に興奮し、ワクワクが隠せない三人を眺めて、老いたドラゴンはうっそりと笑う。


 異世界来訪カウントダウンが始まった。


色々ありましたが、とうとう異世界来訪です。草部も加わり、向かうところ敵なしなオカン一行でし。

....回収してない伏線は、もう無いよね?

σ(´・д・`)

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