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オカンのお父ちゃん ~後編~

明らかになる石動家の秘密。謎な両親にはポロポロ零れ落ちる秘密がおてんこもりなようです。

( ̄▽ ̄;)


「あらかた片付いたかな」


 千早親子は最後の食べ納めと、ホテルのレストランへ訪れていた。

 この手の職人技は流石に持っていけない。まさかどこぞのファストフード宜しく、作らせた端からインベントリに入れる訳にもいかないしな。

 ちなみに有名料亭や旅館の懐石弁当や松華弁当などは、ごっそり注文してインベントリに納めてある。

 日本のお弁当文化万歳。

 カチャカチャと言葉少なに食事を摂る親子。

 最初入る時、入店の年齢制限に引っ掛かったが、この子は大丈夫という親父様の無言の圧力に店側がへし折れ、今に至る。

 

「....旨い。...な?」

「うん。あちらでも作れると良いね」


 にこっと笑う父親に、にぱっと笑う幼女。

 ほっこりとする光景に、周りがきゅんっという妙な音で満たされる。

 サラサラ黒髪な男性と幼女は良く似た面差しで整った顔をしており、個人でも美形の部類に入るだろうが、二人揃うと眼福だった。

 しかも親子で睦まじく食事とか。会話までは聞き取れないが、表情からして、美味しいね、美味しいなとか想像で脳内補完する従業員と客達である。

 給事にあたるウェイターは細々と世話を焼き、親切な店のおかげで千早親子は優雅な晩餐を楽しんだ。

 店を出る時に千早が御馳走様でした。ありがとうと笑い、それを見送りながら、こちらこそ至福の時間をありがとうと思う店内従業員と客達の思考は、見事に一致していた。


 転移で至高の間に戻った千早親子は、爺様に声をかけて自宅に戻る。

 少し難しい顔の千早を一瞥し、親父様は小さく呟いた。


「....来る?」

「多分。どうすっかなぁ」

 

 御手玉のようにポーションを鑑定しながら振り分けていた千早の脳裏に久々のシグナルが走った。


《熟練値が到達しました。鑑定が解析と重複します》


 レベル100を越えてから久しく聞いてない無機質な音声。解析? なんだろ?

 千早は鑑定を解析に切り替え、手元のポーションを見る。するとポーションの詳しい内訳と作り手が使った素材や作業工程の説明が映し出された。


 なるほど、解析だわ。


 そして映し出された説明に幾つか色ちがいの文字があり、それを更に鑑定あるいは解析にかける事が出来る。理解出来ない事がないよう細心で至れり尽くせりな仕様だった。


 千早は悪戯心で親父様の職業を解析する。

 農夫 樵 釣人は分かるが、獣使がわからない。気になっていたのだ。


 ・獣使

 野獣、魔獣を手懐け使役可能。相手に力を認めさせるか、絆を結ぶ事で従属となる。


 絆を結ぶが色違いになっている。重ねて解析を入れると、病気で瀕死になった鶏をつきっきりで看護し、その鶏や周囲の鶏から絶大な信頼が寄せられ、職業になったようだ。

 親父様らしい。

 自分の知らぬ親父様の経緯にほっこりしつつ、千早はハタッと我に返った。


 これ使えるんじゃね??


 新しいスキルに可能性を感じ、千早は親父様に声をかけてダンジョン上層、自衛隊拠点に転移した。


 ちなみにダンジョン上層では少々騒ぎが勃発している。


「だからぁ、私達は姉弟で千早は妹なのっ、あんた知ってるでしょっ、逢わせなさいよっ」

「そんな事言われても、最上さんはダンジョン最奥におられます。私共にはどうにも....」


 キャン×キャン喚く千尋に辟易しながら、神埼は致し方無く相手をしていた。幼女案件となると必ず草部や神埼に話が回ってくる。

 話の通じない二人と、うんざり顔の神埼の前に、突然親父様を連れて千早が現れた。

 驚く周囲を余所に千早は誰かを探すかのようにキョロキョロと首を振る。

 唖然とする周りの人間達の中で、魔法慣れしている神埼がすぐに我に返った。


「最上さん、丁度良い所にっ」

「およ?」

 

 助けを求めるような神埼の向こうには見知った顔。この忙しい時に。千早は片手で眼をおおい、思わず天井を仰いだ。


「何しに来てん、あんたら」


 刺すような冷たい声に千尋は一瞬怯んだが、なけなしの勇気を奮い起こして幼女を見おろした。

 そして腰を直角に曲げると千早と親父様に深々と頭を下げる。一緒にいた万里も同じように頭を下げた。


「父さん。今まで本当に御世話になりました。愛されてる自信がなくて、我が儘ばかり言って試してるうちに自分を見失っていたみたいです。二人がいなくなると分かって、漸く眼が覚めました」


 同じように万里も感謝と謝罪をする。


 愛されてる自信? 試す? なんのこっちゃ。


 すっかり様変わりした二人に、千早は訝しげな顔を向けた。


「あんた、本当に知らなかったのね。私と万里は養子なのよ。山で捨てられたのを父さん達に拾われたの」


 またもや石動家の秘密暴露である。


 何でも千早が一歳になったころ、山の祠の前に座り込む二人を親父様が発見したらしい。

 千尋は三歳。生まれたての万里と一緒に車で山に捨てられた。間違いなく両親に捨てられたのだ。

 千尋は泣く泣く万里を抱えて山をさまよい、ようやく見つけた祠に潜り込み夜明かしする。

 その翌日、御勤めにきた親父様が火がついたように泣く赤子の声に気がつき、家に連れ帰ったのだ。

 幸いな事に離乳前な千早がいたため、万里も千尋もご飯にありつき事なきを得た。

 しかし当然、捨てた子供に捜索願いなど出てるはずもなく、警察が引き取ろうとしても、むずがり親父様達から離れない子供達。

 二人は顔を見合せ、にっこり笑った。


「....同じ」

「そうね。二人も三人も同じよね♪」


 子供は授かり物だ。神様から一時授かるだけ。

 これも形は違えど授かり物だろうと二人は千尋と万里を養子にした。

 元の名前はわからない。名前ないっと頑なに言わなかったから、三人謳繋がりな名前にしたという。

 

「墓場...まで。....なんで」


 絶対に知らせないつもりだったのだろう。親父様が苦々しい顔で呟く。

 

「万里も知ってたんか?」

「千尋姉ぇから。中学生のころ聞いた」


 養子だから放任されるんだ。私達は愛されてないんだ。だから少しでも余分にもらわないと。いずれまた捨てられるんだ。

 

 愛されてないという悲しさと、放任されてる悔しさが相まって、二人はあらゆる我が儘で両親を試してみたが、お母ちゃんは言うに及ばず、親父様ものらりくらりと掴み所がないため、二人には我が儘の止めどきが分からなくなったのだという。


 あ~~。まぁねぇ。


 二人には分からなかったが、両親は放任な訳ではない。本人の自主性を優先するだけ。

 その証拠に、人の道から外れた事をすれば、鬼もかくやと、お母ちゃんは烈火の如く、親父様は極寒の如く二人を静かに叱り諭したものである。


「そうなのよ。あんたにも同じ態度だったのに、気に入らない事があると、全部私達が養子だからだって思っちゃって。(めくら)同然に過ごして五十になったわ」


 馬鹿な人生を送ったと悔恨を滲ませて、千尋は寂しげに笑った。

 今まで捨てられる捨てられると思い込んでいたが、本当に捨てられる訳はない。そうも思っていた所に異世界移住の話である。

 後ろ頭をスコーンと殴られたかのような衝撃で、眼から鱗が落ちたのかもしれない。

 鱗の落ちた脳裏に描いたモノは、賑やかな母と寡黙だけど優しい父。そして生意気な可愛い妹だった。

 

 涙が溢れて止まらなかった。なんて馬鹿な誤解を長々としていたんだろう。


 自覚し憑き物が落ちた二人は、とにかく謝りたい。今生の別れ最後が財産の言い争いだなんて記憶されたくないと、千早が薬を卸している自衛隊拠点を探し当ててやってきたのだ。


「自己満足だけど、謝れて良かったわ。出来れば親孝行のひとつもさせてもらいたいけど、あちらに行くのよね?」

「うん。今夜行く予定」

「寂しくなるわ。本当に」


 涙を堪えるように千尋は顔を少し上向けた。

 そんな千尋に親父様の小さな呟きが聞こえる。


「元気で健康なら....十分、孝行者だ。...孫の顔も。..ありがとな」


 言葉は少なかれど、渾身の愛情がこもった呟き。何故今までこれに気づけなかったのだろう。

 今更ながら....本当に今更ながら愚かだった自分が悔やみきれない。

 実子である千早と何変わりなく育ててもらったのに。むしろ泣いて喚いて困らせて、千早よりもずっと手を掛けてもらったのに。

 

「....行かないでぇ」


 戦慄く唇から零れる本心。

 

 それが叶う事が無いのは分かっている。それでも千尋は二人を引き留めようと、最後の我が儘を口にした。


 疑心と虚勢で生きてきた二人の積年の蟠りは、本心の涙ですすがれ、綿菓子のように跡形もなく溶けていった。


 子供みたいにポロポロ泣いて落ち着いたのか、二人は周囲にお騒がせしましたと挨拶して家路についた。

 なるべく貰ったお金には手をつけず、姉弟でしっかりやっていくと笑う顔には無理やり張り付けた笑顔があったが、千早は空元気も元気の内、無いよりマシっとお母ちゃんの口癖を真似した。

 

 すると、懐かしいわねと自然に笑いが漏れ、気まずい雰囲気は霧散する。


 二人を見送りながら、千早は初めて姉弟の軋轢の理由を知った。馬鹿だとは思うが理解出来なくはない。

 悲しみは全てを敵に回す。以前に千早も疑心暗鬼の陥穽(かんせい)に囚われ女神様達の悪意を疑った。

 すぐに思い直したが、誰しも同じとは限らない。


 まぁ、それでも五十年は長すぎると思うがな。


 苦笑いする幼女は、ふとある事に気付いた。


「ひょっとして万里が皇継げないのは....」


 愚か者だったからではなく、血族ではないから?

 千早の思考を汲み取った親父様は、コクりと頷いた。そして少し首をかしげ、小さく呟く。


「石動なら....やれる」


 家名をくれてやるほど愛されていたのに。


 こちらに残る二人は最後の石動家だ。


「あの二人に石動家はあげて、うちらはあっちで(すめらぎ)を名乗ろうか。地球世界と縁を切って、あちらで本流に戻ろうよ」


 思いがけない千早の提案に親父様は眼を見開き、しばし考えてからニヤリと眉を上げる。

 

「良いな。....千年近く? 守ってきた甲斐がある」


 にししっと悪戯っ子のように千早は笑い、ジャンプして親父様とハイタッチした。

 

 歴史に隠され抹消する予定だった家名の復興だ。


 これが後に大騒動を引き起こすのだが、今の千早親子には知る由もない。......合掌。

姉弟の秘密。そして和解。....ところで千早は何のために上層拠点まで転移したんでしょうね? 次回明らかにww

♪ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり一周目では気付きが浅かったです。 親父様、完全に熊親父さんの雛形さんじゃありませんか。 子供は神様からの授かりもの。 私は情けない事に子育てに手一杯だったので、そう考えられたのは息子が…
[一言] うん、この纏め方は好きです。 あのままバイバイでも、おバカのままな二人なら自業自得だと突っぱねてやるけれども、家族の本道に戻って来たなら、後味も良く安心して読み続けられます。 今後の親子のわ…
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