オカンと side~地球~4
予約入れ忘れましたぁぁぁ、申し訳ありませんっ!! せっかく二人目の読者様がブクマつけてくださったのにっっ ( ̄▽ ̄;)
ありがとうございます、以後気をつけますっっ m(;∇;)m
気付くと二人は人気のないダンジョンにいた。
呆けどられる神埼から手を離し、千早は気まずげに笑う。
「変なとこ見せて悪いね」」
貼りつけたかのような微笑み。
しかし神埼はそれどころではない。千早の不自然な態度よりも気になる事があった。
「何故、ダンジョンの外で魔法が使えるのですか?!」
「女神様案件。聞くな。これも他言無用」
ふんすっと胸を張る幼女に、神埼は言葉を詰まらせる。それでも納得いかないのか、しきりに手を上下させていた。
そんな神埼に苦笑しつつ、千早はチラリとローブを鑑定する。
創世神のローブ 創造神rev No.8
物理攻撃完全反射 魔法攻撃完全吸収
女神の恩寵 神々の化身
創造神ネリューラの恩恵が込められたローブ。創造神の加護を持つ場合、取得経験値倍増。創造神の祝福を持つ場合、トラップ完全回避。
女神の恩寵 主が装備している限り半径五メートルが神域となる。神域内では魔法やスキルが使用可能。
神々の化身 加護を持つ神々の土地において神々と同じ神力を持つ。あらゆる禍を寄せ付けない。
うへぁ.....名前変わってるし、えげつない成長しとるな。
少し前に草部達とダンジョンを巡っていた時。千早はレベル100を越えた。
脳裏には何時ものシグナル。しかしレベルアップと同時に流れたのは別な物だった。
《創造神のローブが成長します。空間魔法極と神域の獲得により転移を授かりました》
あ~ さらに人間から遠退いていく。
千早の力ない乾いた笑いに草部達は首を傾げていた。
そんなこんなで千早は神域を手に入れ、地球でも魔法が使えるのである。周囲五メートル限定だが。
それにローブに付いている効果だ。脱いでしまえば、まだ人間なり。
千早はガバッとローブを脱ぐとインベントリにしまい、神埼に頼んで当たり障りない子供服と靴を手に入れてもらう。
「うん、これなら大丈夫だね。ローブで買い物にはいけないしな」
「買い物ですか?」
千早は頷いた。
家族を失って、どうにもこうにも指針が定まらない。次の目的が見つかるまで、また至高の間で生産に励もうと思う。
薬はいくら有っても困らないだろうし、武具の製作もいと楽し。他に思いつかない。
千早は無性にダンジョンの最奥に帰りたかった。
あそこで過ごした月日は、千早に愛着を持たせるのに十分な濃い内容で、家族を亡くした千早が帰りたいと思うのは、あの至高の間だったのである。
ただ、あそこは文明人が暮らすには些かキツい。
最悪なのは食事だ。調味料や食材をたんまり買ってゆかねば。
だから買い出しである。
千早は神埼に逆鱗様を預け、金にモノを言わせ、各種調味料や出汁や調理器具にいたるまで、しこたま買い込んだ。
園芸品店もまわり、F1ではない原種系の種や苗も買い漁る。
「これって、挿し木や接ぎ木したり種採ったりとか出来ますかね?」
「出来なくはないですが、新しく購入された方が宜しいと思います。とかく手間がかかりますので」
店員の説明に頷きながら、千早はやる気満々だった。何しろ時間なら腐るほどあるのだから。
これでもかと買い込み、中国人の爆買いかと誤解されつつ、千早は人気のない所で次々インベントリに収納すると、手ぶらでダンジョンへ戻っていった。
『そうじゃない、もっと糸を縒るように細く魔力を練るのだ。ちがう、こうだ』
「はい...っ」
周囲は神埼と逆鱗様のやり取りを静かに見つめている。帰ってきた千早に誰も気づかぬほど真剣に眺めていた。
邪魔しちゃ悪いの。
千早は、そっと奥に行き音もなくドアを閉めると、インベントリから、どら焼きの中身だけを取り出す。
こういう裏技が使えるから魔法って便利よな。
包みが音をたてないよう中身だけ取り出し、それを皿に幾つかのせて、錬金用の抽出器に水魔法で水を満たして、茶葉を入れ緑茶を抽出。あとは魔力で熱を加え、買ってきた湯呑みに注ぐ。
急須より、こっちのが旨味が出るんよな。魔法ってホントに便利。
お茶の支度が出来上がり、千早はへにょっと顔を緩めた。
久方ぶりのお茶の時間。
如何にも嬉しそうに、満面の笑みでどら焼きにかぶりついた瞬間、背後から逆鱗様がビタンっと千早の後ろ頭に張りついた。
『そなたっ、我に挨拶もなく、さらには一人で甘味を食そうとはっ!』
爺様ェ....。
至福の時は邪魔されるものである。
貪り食う逆鱗様のせいで、結局、用意したどら焼きでは足りず、追加で羊羮も出し、まったりと寛ぐ。いつの間にか神埼も混ざっているのは、ご愛嬌。
「今後はどうされるのですか?」
「帰るよ」
神埼の問いに、当たり前の顔で千早は答えた。
神埼は温い笑顔で疑問符を浮かべ、こてりと首を傾げる。
「えと....ご家族は亡くなり、御自宅も消滅してますよね? ご実家にと言う事でしょうか?」
あ~....なるほど。そうなるか。私の見た目は幼女だしな。
地球世界では保護者が必要な年齢だ。
「実家には電話だけ入れといた。ダンジョンで暮らすって言ったら、《そうか》って」
途端、神埼がお茶を口に含んだまま息を呑み、当然、激しく噎せ込んだ。
げほげほ咳き込みながら、神埼は涙目で千早を凝視する。
「ダンジョンで暮らすって....っ、拠点の話じゃないですよね?! 最下層に戻るって事ですか?!」
「そだよ」
あっけらかんと言い放つ千早に、神埼は絶句した。
それに苦笑し、千早はインベントリからローブを出してバサッと羽織る。
「私は、あそこしか知らないしね」
「いやっ、危険過ぎるでしょう?! モンスターの巣窟じゃないですかっ!!」
「最奥の至高の間はセーフティエリアなりよ?」
「あ....」
ようやく合点がいったのか、神埼の顔からスルリと表情が抜けた。しかし、それでも納得いかないていで、じっと千早を見つめる。
「ここより、あちらのが安全なりよ。あっちで薬作って届けるから。自宅もあるし、変な博士もいないしなww」
カラカラと笑う千早の言わんとする事を察し、神埼は頭を抱えた。
「必要な物は買ってきたし、足りなきゃまた買いに行くし。一度行った場所なら転移出来るなら、大丈夫」
「私もご一緒できませんか?」
真剣な顔の神埼に、千早は眼をパチクリさせる。
「どうなんだろ。爺様、転移で連れてくのはアリか?」
『無しに決まっておろうが。そなたの知己ゆえ裁定を省く事はあれど、少なくともダンジョンの踏破が至高の間に立ち入る条件だ』
逆鱗様の一刀両断。
あからさまにガッカリする神埼の手をポンポンと叩きながら、慰めるように千早は指を絡ませた。
「慌てなくても良いなり。至高の間は逃げないなりよ。じっくりレベル上げしながら、家までおいで。約束な」
神埼は千早と指切りし、必ず行きますと約束する。
「んじゃ逆鱗様置いてくから。しっかり教わりなね」
『勝手に決めるでないっ!!』
「そのつもりだべ?」
ニヤリとほくそ笑む幼女に、逆鱗様は口ごもった。何のかんのと爺様は神埼を気に入っていた。
黙る逆鱗様に、にかっと笑い、千早は軽く手を上げる。
「じゃっ、またな♪」
そう言った瞬間、千早の身体が光を帯び、外側から内側へ収束する光とともに、溶けるよう消えていった。
「さーて、やるべか」
千早は草原を焼き、五十メートル四方の土を魔法で耕す。ぐにぐにと中を混ぜ返して、深さ五メートル辺りまで、しっかり空気を入れた。
焼いた草が灰になり、混ぜ合わさった土を活性化する。土が馴染むまで二、三日休ませてから植えつけだ。楽しみだな。
我が家の庭は小さかったからプランター栽培しか出来なかったし。
モコモコになった土に腐葉土を鋤き込みつつ千早は小さい身体で、せっせと鋤を振り回した。
ちょこまかと動き回る幼女を愛でながら、ドラゴンとシメジな女神様はお茶をする。
お茶受けは千早が買ってきた栗最中。
初めての地球の甘味に女神様は大喜びだった。
『甘いですね。美味しいです。くどくなくて上品な味ですね♪』
やはり食えるのか。
シメジな女神様が触れる部分から最中が溶けるように消えていく。
「神埼さんが来たら、この家に住まわせても良いかな?」
なんとなくな千早の問いかけに、ドラゴンと女神様は顔を見合せ、ふるふると首をふった。
『以前にも申しましたが、至高の間には通常四時間しか滞在出来ません。わたくしの祝福がないと常駐は出来ないのです』
そう言う事か。
今さらの事実に、千早は少し落胆した。
残念だ。薬品作りの人手が増やせると思ったのに。
千早は一段落すると手を休め、女神様達のお茶に参加した。
長閑だよなぁ。地上じやてんやわんやしてるんだろうが、ここは平和だ。
あれほど恋い焦がれた地上より、ダンジョンの最奥の方が、よっぽど平穏だという不条理。
甘味にはしゃぐドラゴンと女神様に微笑み、千早は思う。
かなり変則的ではあるが、世は事もなし。
次回、オカンは百姓やります。こう御期待?w