オカンと魔石と夏祭り ~3~
お久し振りです、ワニでございます。
ドラオカ再開です。
一通り別な作品書きまくって落ち着きました。いつの間にかブクマも増えてるし、完結目指さして走ります♪
「んじゃ、これな」
金髪碧眼な少女に、千早は分厚い封筒を渡した。
ずっしりと重いそれを受け取り、少女は眼をしぱたたかせる。
彼女の名はフィー・アンダーソン。件の放火魔親父の娘だ。
「あんたの父ちゃんから御手紙。返事を書くなら届けるよ。住所とかも書いてギルドに預けておいてね」
にししと笑う幼女と分厚い封筒を何度も見つめ、フィーは、かーっと顔を赤くする。
「Oh,my dad.....」
上手い事言うな。
思わず軽く噴き出し、千早は足取りも軽く孤児院へ向かう。
慣れた手つきで門扉を開け、炊き出し用の大きな厨房に入ると、そこでは大勢の子供らが給食の支度をしていた。
手際の良い子、悪い子。それぞれ一生懸命に料理をしている。
「頑張ってんね。差し入れなりよ」
そう言うと、千早はガロン単位で買ってきたバニラアイスを二つほどインベントリから出した。
わっと群がる子供達。
それをどうどうと抑え、彼女は皿を出させると、さらに取り出したディッシャーでカショカショとアイスクリームを盛っていく。
綺麗な半円を描くそれに、子供らは頬を押さえて眼を煌めかせた。
「何ですか、これ?」
「甘い匂いがします。デザートですか?」
「でも湯気がたってますよ?」
子供らの可愛らしい感想に頷きながら、千早はスチャチャッとスプーンを添える。
「アイスクリームってんだ。冷たいデザートだよ。食ってみ♪」
顔を見合せながら、恐る恐る口にする子供達。
冷気を湯気と勘違いして、息を吹き掛ける子供もいた。
そして口にして絶句。
次々と匙を動かし、瞬く間に皿の中のバニラアイスは消えていく。
「冷たくて甘くて美味しい.....」
「凄いですよね、濃厚なミルクのようでした」
「ひょっとして、次はこれを指南していただけるのでしょうか??」
期待を宿す見開いた瞳を千早は裏切らない。
「その通り。でも夏祭りの後でな。今回は、あちらから買ってきた物を振る舞うよ。味を覚えてね」
食べたい人には出しても良いと、幼女はあと五つほどバニラアイスを厨房の冷凍庫に入れた。
「一人一日一回な。冷たい物は食べ過ぎると身体を冷やすし御腹も壊すから」
えー....と声には出さないが、あからさまに落胆の顔をする子供らに苦笑し、千早は技術街に転移する。
「これはまた。分解ありですか?」
「ありだよ。寸分違わぬ物を各サイズで作ってくれ」
オカンが訪れたのは鋳物横丁。
剣からスプーンまで、何でもござれの加工街。
ディッシャーの作製を依頼し、千早は通りに出ると改めて周囲を見渡した。
鋳物横丁、鍛治横丁、木工横丁、etc
各専門職人らが軒を連ねる横丁がズラリと並んでいる。
「ほんと。最初にディアードへ訪れた時は、こんなんなるとは思わなかったわ」
嬉しそうに千早はステップを踏みつつ、木工横丁に提灯を持ち込む。
物珍しげに集まる職人達。好奇心が宿る瞳で、じっと提灯を見つめていた。
「こんな感じで、丸いのと少し長いの作って欲しいんだ。枠と骨組みね。ノウハウの本も買ってきたから読んでみてね」
先を争い、本に飛び付く職人達。
来年は彼等の作った提灯で夏祭りがやれると良いな。いや、秋にも収穫祭かねて盆踊りやるか?
元々盆踊りは娯楽と男女の出逢いをかねたモノだ。祭りの度にやっても構うまい。
ワクワクが止まらず、ひょこひょこ踊り出した幼女を、職人らが暖かい眼差しで見送っていた。
そして千早は職人ギルドを訪れる。今回のメインはここなのだ。
「ちーっす」
簡素な建物だが、中は壮観。居並ぶ作品らに圧倒される。
壁面を埋め尽くすように飾られた道具や作品の数々。各専門職人のエリアごとに、多くの物が飾られていた。
鋳物、木工、武器防具、製紙、織物、刺繍や組紐など細かく多岐に渡る作品の数々。
商品の作製を望んで依頼にやってきた者達は、ここで多くの職人らの作品に触れ、何処に依頼するか、大まかに選ぶ事が出来る。
むしろ、ここで見た別なモノに惚れ込み、思わぬ依頼が増えたりもする。
各工房の威信をかけた品々が並ぶ職人ギルドの待合室は、賑やかで色とりどりだった。
新たに増えた作品をチラ見しつつ、千早は二階の階段を上りギルド長室をノックする。
「これはこれは妹様。今回はどのような物ですか?」
既に用件を聞くまでもないのだろう。
入ってきた幼女を見つめ、ヘイゼル髭の男性は少し顔をひきつらせた。
薄灰色の髪を丁寧に撫で付けた紳士然とした男性。彼は職人ギルド長、名前をコランダという。
今までも散々オカンの無理難題に応えてきた男だ。
彼女がギルドを訪れるのは、職人の枠を越えるとき。複数の工房が協力しないと作れない物を依頼する時のみだ。
そうでないなら、直接それ系の職人へ依頼にゆく。
ギルド長の予想は当たり、千早は二つのかき氷器を取り出した。
不思議そうに眺めるギルド長。
「これはかき氷器っていって氷を削る機械なん。これの大型化と量産を頼みたい。基本は鍛治と鋳物でやれそうなんだが、職人らと相談して改良も視野に入れて欲しい。業務用の大型と家庭用の小型。今回の夏祭りのメインなんだ」
幼女の話に頷きつつ、ギルド長は持ち上げたかき氷器の軽さに驚いた。
このツルツルして薄い本体。十分な強度があるのに、木よりも軽い。不思議な素材だった。
蓋を開け閉めしたり、取手を回したり。
しばし確認して、ギルド長は溜め息をもらした。
「これば..... この外郭は何で出来てますか? 非常に軽い。ここの白い部分も。もちもちして柔らかいのに、すごく強い」
ギルド長が示したのはプラスチックとゴム部分。
千早は軽く眼をすがめ、口角を上げた。
「それはアタシの世界の素材だ。こちらでは作れない。だから代替え品で作製してもらわなきゃならないから、職人らに知恵をしぼってもらいたいんだ」
姉様のこの世界には化学製品の材料になる原油がない。そりゃ無い筈だよな。どんな亡骸も浄化で直接大地に還るんだから。
人間は司教らが弔い大地に還すが、野生動物や魔獣は、精霊達が浄化している。
原油の大きな原料となるモノがほぼ無いのだもの。
世界の理が全く違うのだ。
ウラニウムも無くば硝石や硫黄もない。
辛うじてあるのは石炭だが、魔法技術の特化したこの世界では魔石を動力にして何でも出来る。
わざわざ石炭を燃やして動力に変える必要もない。
あ、でも花火が欲しいなぁ。何とかならないかな。
硝石や硫黄がないとなると火薬も作れない。
うーん。悩み処だ。今回はあちらから仕入れても良いが、なるべくこちらの物で賄いたいんだよねぇ。
かき氷器製作を職人ギルドに丸投げし、千早は新たな悩みに頭を抱えていた。
こうして着々と夏祭りの準備が進む中、思わぬ来訪者が訪れる。
教会に現れた第三陣の来訪者達。
その中に、なんと神埼の部下、中務が居たのだ。
「皇さん、来ちゃいました♪」
快活に笑う青年。軽いな、おい。
「あちらはええんか? 神埼さん大丈夫?」
他の来訪者らをタバス達に任せ、千早は中務から話を聞く。
彼はやや眉を潜めて苦笑し、とつとつと説明を始めた。
ようは、千早がお土産に置いていった魔石が原因らしい。
あちらでも魔石を使った魔術具は作られているが、所詮はダンジョン内でしか使われない物。
研究や加工もダンジョン内でしか出来ないし、高度な技術もない。
精々電池の代わりにするのが精一杯だ。
そんな中、幼女がしこたま特大サイズの魔石を持ち込んだ。
何とか魔術具の発展に寄与できないかと試行錯誤したところ...... 爆発事故が起きた。
魔石を侮った一人の技術者が使い方を誤り、数個の魔石が爆発して、部屋を二つほど吹き飛ばしたらしい。幸い治癒が間に合い、死亡者は無かったとか。
えーーーーー? 魔石って爆発すんの???
思わぬ情報に、千早は眼を丸くする。
「まあ、そんな訳で、こちらで正しく魔石の仕組みを知り、魔術具の技術を学んで、あちらに研究資料を送る人間が必要になったんですね。幸い幼女の宅配便も出来た事ですし」
なるほどね。
千早は得心顔で頷いた。
こちらの技術を理解し研究として起こすには、あちらの専門家でなくてはならない。
こちらの人間では、あちらの理が解らないから、あちらでも理解し使える技術や研究を資料にまとめることは不可能だ。
幼女の宅配便が出来た事で、思いきってこちらに研究者を送ってみようとなった訳か。
「あんたさんは、それでええのん? もう今更だけど、二度と地球世界には戻れんなも」
「むしろウェルカムですね。幸い僕には妻子がおりませんし、家族には国から生涯年金が支給されます。僕自身は渡りをしたかった。今、好奇心が暴れまわっていますよ」
キラキラとした快活な瞳を軽く見開き、中務のワクワクは口の端にも現れていた。
ああ、コイツもか。類友の匂いがプンプンするな。
千早の同族センサーがピコピコと動く。
「そういう事なら歓迎するわ。ようこそ、秋津国へ」
「はいっ! 御指導御鞭撻のほど、宜しく御願いいたしますっ!!」
腰を九十度に曲げた中務の御辞儀。
日本人やなぁと久々に感心しつつ、千早は夏祭り前の前祭りかと苦笑した。
前祭り、本祭り、後祭り。
祇園祭を倣いにした祭りの順番通り、某かが起こりそうな秋津国だった。
この渡りによって、不穏な風が吹き込まれた事を、今のオカンは知らない。
夏祭り、楽しみですね♪
同じように楽しみだと言う方がおられましたら、ワニにお星様下さい♪
( ´∀`)