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オカンと魔石と夏祭り

本格な夏到来。オカンが、ひゃっほいな季節です♪

     ♪ヽ(´▽`)/


「櫓と~ 出店.... 屋台.... やっぱ遊戯系は外せないよなぁ。ああぁぁぁ、やりたい事だらけすぎるっ!!」


 夏祭りに向けて構想を練る千早に、ディアードの人々は首を傾げた。


「で? 遊戯系とはいったい?」


 不思議そうなタバスに、幼女は身振り手振りを加えて説明する。


「射的は無理か。弓ならイケるか? こう、点数のついた的を射る形で中央ほど点が高くて三本射た合計点で商品が貰えるとか。ダーツでも良いな」


 他にも並んだ商品に輪を投げて、綺麗に入ったら貰える輪投げとか、商品と繋がった紐を束にして選んだ紐と繋がった商品を獲得出来る千本引きとか。

 幼女の知る、遊び系屋台を説明した。


「遊べる屋台ですか。そういったモノは聞いた事がないですね」


 こちらの屋台は実用性重視だ。食べ物、飲み物、雑貨が中心。中には武器防具など。ちらほらと古着屋なんかも見たりする。

 こちらで祭りの遊びと言えば、大きなブランコや、丸太で傾斜を滑り降りたりと、豪快で身体を動かす物が多く、運試しみたいな遊びはない。


「他にもさ、こう、何かを掬ったり釣ったりとか」


 金魚すくいや、ボールすくい。サメ釣りとか、ヨーヨー釣りとか、案はあれど、よくよく考えると実現が難しい。

 金魚すくいに使える金魚はあれど、掬った金魚を家庭で飼育出来る環境がないし、スーパーボウルやヨーヨーなどは、こちらではまだ再現出来ていないのだ。

 むやみやたらに地球から持ち込む訳にもいかず、ぐぬぬぬと唸る幼女に、親父様が呟いた。


「こちらの物で? ...作る。ボールは葡萄や山桃とか?」


 途端にピコーンと幼女のアホ毛が跳ね上がる。


「それだっ!」


 ボールすくいならぬ、フルーツすくい。ポイの再現は簡単だ。あとは掬うモノを考えれば、色々なバリエーションを持たせられるだろう。

 釣りも同じ。こう、子供らが喜びそうなモノを考えれば良い。


 アクリルすくいとかあったもんな。小さな木彫りの動物とか良いかも。

 職人見習いに練習がてら量産してもらお♪


 他にも提灯に太鼓。今回は地球から仕入れて、来年からはこちらで生産しよう。


 きゃっきゃっと跳びはねながら、千早は職人街に足を向けた。


 


「面白いですね。色々なモチーフでやらせてみましょう」


 職人街の人々は快く承知してくれた。ついでにポイの量産も頼んでいく。


「あとは夏の風物詩つったら、かき氷とかの冷たい菓子かな」


 かき氷機にアイスやキャンディの製氷器や製氷皿。現物があれば、こちらの素材でも作れるだろう。


 一人ごちりながら、千早は久々に地球側へ転移した。




 幼女が魔法陣から出ると、そこでは丁度裁定の挑戦者が戦っている。

 暴れる爺様の攻撃をかいくぐり、大剣を持つタンクらしき者の合間から遊撃役が爺様を攻撃していた。

 後衛が回復や支援を入れつつ前衛の三人のフォローをしている。


 中々に見応えのある攻防だ。


 魔法陣の横に座り込み、しばし幼女は観戦に興じる。

 しかし、それも束の間。タンク役の大剣が爺様の尻尾に弾かれ、雌雄は決した。


『ふむ。悪くはない。あとは精進だの』


 うっそりと微笑む爺様に、四人は悔しそうな顔をしながらも、ありがとうございましたと部屋を出ていった。

 それを見送りながら千早は立ち上がり、久々にドラゴンの背中に飛び付く。


『そなた、来ておったのか』

「おう♪ 盛況してるみたいで何よりなも。元気そうだな、爺様」


 にししと笑う幼女に懐かしげな眼差しを向け、ドラゴンは尻尾で幼女を撫でていた。

 裁定を待つ人々は、その光景に唖然茫然。しかし、ドラゴンの肩に座る蒼いローブの幼子には見覚えがある。

 

「あっ、渡りの配信で見た最上さんっ??」


 えっ???


 部屋の外に並ぶ探索者達の眼が、一斉に見開かれた。

 言われて見れば、確かに配信にでていた幼女だ。

 

 だけど....


「あちらに渡ったんだよな?」

「なんで、ここに?」

「え? アレってやらせだったの?」

「んな馬鹿な。あの後の第二陣も間違いなく渡ったぞ」

「訳が分からない」


 各々が疑問を口にし、騒然となる探索者達。


 千早が異世界を渡れる事は公然の秘密だが、それを知る人々は極僅か。誰も口外していない。


「あ~? ひょっとして、アタシが異世界渡れる事って秘密になってるん?」

『別段、秘密にはしておらんが。そういえば敢えて口にもしておらぬな。聞かれた事もないしの』


 淡々と話を進める一人と一匹。


 この日、新たなニュースが世界に嵐を巻き起こす事となる。


 後日、世界中からの問い合わせに泡を食う首相官邸だった。




『夏祭りか。言っておったな』

「うん。その準備に、冷製菓子の道具を調達に来たなり。美味いよ♪」


 最後の一言に眼を輝かせるドラゴン。上機嫌なドラゴンに見送られ、千早は魔法陣から何時もの自衛隊拠点を訪れる。

 こちらは既に慣れたもの。

 幼女の来訪が告げられると、当たり前のように神埼がやってきた。


「お久し振りです、皇さん。今日の御用は? 手伝える事はありますか?」


 逆鱗様を肩に乗せた神埼に少し思案し、幼女は裁定の間で起こった騒ぎを話した。

 軽く瞠目した神埼は、如何ともし難い眼差しで幼女を見つめる。


「まあ....そうですね。敢えて口にしていなかったというか、貴女に関しては箝口令がしかれていました」


 異世界を自由に渡れるなど、チートにも程がある。


 それも踏まえ、世間に誤解や流言が巻き散らかされぬように箝口令がしかれていたらしい。


「バレたとなれば早急に対策が必要ですね」

「ごめん、しくったなも。アタシは買い物に来ただけだから、後はよろしくなり」


 謝りつつも悪いと思ってなさげな顔で、幼女は問題を神埼に丸投げする。


「知らなかったのは仕方無い。あんたらも一言言っておいてくれれば良かったのに」

「言ったら言ったで、今度は拠点に顔出さなくなるでしょうが、貴女は」


 じっとり目を座らせる二人の攻防に、周囲の人々は肩を震わせて笑いを堪えていた。

 

 そんな無意味な攻防を打ち切り、幼女は地上へ転移する。


 シュルンと消えた幼女に溜め息をつき、神埼は急いで上へ伝令を走らせた。

 事は一刻を争う。今や時代は光速で動いているのだ。早く手を打たないと、すぐにネットやなんやから不確かな情報が、まるで真実の如く語られるだろう。

 

 幼女に関しては、秘匿はしても誤解を招くような事があってはならない。

 一歩間違えば大惨事が起きかねないのだ。彼女は地球上で唯一魔法が使える存在なのだから。


 神埼は痛くなる頭を抑え、救いは皇さんがおおらかを通り越して大雑把な事くらいだよなと、苦笑する。


 自分に関わらなくば、件の幼女は非常におおらかだ。ある意味、鉄壁な無関心。

 しかし、異世界に渡ってからというもの、彼女の常識のタガが曖昧になってきた。たぶん、あちら世界の影響だろう。

 治癒させるとはいえ、平気で人に危害を加えるし、高位の魔術を隠しもしなくなった。

 さらにはこちらでは作れない薬剤なども簡単に人目にさらす。魔術具も多種多様な物が地球側へ流された。

 無論、再現できるのは日本だけなので大事には至らないが、危ない綱渡りのような緊張感が上層部には漂っている。


 そして、これだ。


 神埼が上層部と連絡をとろうとして執務室に戻ると、そこの机には拳大の魔石が山のように積まれていた。

 ざっと見て、百はあろうか。

 思わず乾いた笑みを浮かべる神埼が、魔石の山に添えてあったメモ用紙を取り上げる。と、そこには幼女からのメッセージ。


(ちと騒動があって魔石が腐るほど手に入ったから、おすそわけ♪)


 語尾の音符が悪魔に見えた。


「あの人はぁぁぁあっ!!」


 これをどうしろと言うんだ、こんなサイズの魔石を使う魔術具なんて数が知れている。それぞれに破格な能力の魔術具だ。

 このサイズの魔石が滅多に手に入らないから数もない。だが、この魔石があれば量産が可能になる。


 規格外な置き土産で、さらに頭が痛くなる神埼だった。


 これか発端となり、己の身に返ってくるなど、オカンは知るよしもない。


 オカンは、どこまで行ってもオカンである。

何やら不穏な空気が漂う地球世界。しかしオカンの脳裏には夏祭りしかありません。残念、神埼さんww

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