オカンと鳥と逆鱗様 ~終幕前編~
悪役令嬢やめますっ!!が完結いたしました。ようようドラオカを再開できます。
...長かった。不用意に短編なんて投稿するもんじゃないですね。
( ̄▽ ̄;)
『そうか、上手くいったか』
うっそりと笑う逆鱗様に、千早はにかっと微笑んだ。
「おう、それで相談なんだけど、あちらは数千年ぶりに魔力が復活して、大変な事になると思うんだよね。指導員がわりに司教や魔術師を送ろうと思うんたけど、注意点とかある?」
『そうだな。あれらは旧暦の子孫だ。旧きしきたりを守っているならば、上下関係を酷く尊重する。事を起こすなら、身分の高い者から紹介か推薦をもらうと良い』
「なるる」
ふらりと現れた流れ者の話を鵜呑みには出来ないだろう。
「あと、精霊王の新しい森に結界作りたいんだ。心ある者だけが入れる神域結界。今はアタシが張ってるけど、半永久的にしたい。今回みたく邪神の馬鹿野郎様にチャチャいれられんように」
『ふむ、そこは女神様の案件だの』
《呼ばれたかしら?》
幼女の頭に、ぽんっと顕現する女神様。
《大丈夫ですよ、千早ちゃん。二度とあんな暴挙はさせませんわ。いずれ、あの子にも御灸をすえなくてはっ》
今回の事で、たいぶ御立腹な女神様。あの子とは邪神の事だろうか。ぷくっと笠を膨らます姿が、可愛らしい。
《司教や魔術師うんぬんは大丈夫なのではないかしら。ユフレや父御様がとって返して、何かしておられましたよ』
「親父様らが?」
聞いて千早は教会へと駆け出していった。
「あら、おかえりなさい、はーちゃん♪」
そこに居並ぶ司教や魔術師、数十名。
各々テーブルに集まり、何やら相談に花をさかせている。
「人材の海外派遣考えてるんでしょ? タランテーラを壊して魔力が復活したら必要になるものね♪」
微笑む両親は慣れたもの。以前にもエルフの国へ同じ事をしているからだ。
必要に応じた人材派遣。
秋津国では良くある事で、千早が転移したあと、必要になるだろう事を予測し、親父様達は秋津へ取って返すと、すぐに実行へ移せるよう準備しておいてくれたらしい。
「ありがたい、助かるわ」
教会の人々は両親に任せ、今度は探索者ギルドに向かう。
「アズマ様は生きておられた? 輝石が破損しただけ?」
幼女の言葉を聞き、タバスは深い安堵に胸を撫で下ろした。
「良かったです。女神様からくれぐれもと頼まれた方々に何かあろうものなら、顔向け出来ないところでした」
「そんな気負わんかってええなも。子供とはいえ、こちらでは成人した奴らや。何があろうが自己責任なり」
心配性のタバスに苦笑しながら、幼女は事の顛末を話す。
「貴女はまた.... 無茶しないでくださいよっ!!」
タバスが眉を潜めて千早を見下ろす。
「まあ、終わり良ければ、全て良しなも。なぁほい?」
苦虫を噛み潰すタバスを余所に、幼女はインベントリから魔石を取り出した。
拳大の見事な魔石が数個、カウンターに並べられる。
「これは... 色といい大きさといい、上物な魔石ですね」
魔石を手にして、タバスはマジマジと検分する。
「同じものが、数千万個あるんだ」
「はい?」
「数千万個」
「は?」
じっとりと見つめ合う二人。
幼女は、件の壊れた魔術式タランテーラの話をした。
湖の下に作られていた古代の魔術システムは、すでに半壊状態で、天井が陥没し内に貯まっていた魔石から魔力が漏れ出しており、それを回収してきた事。
水の精霊らに手伝ってもらったが、あまりに膨大な量なので、どうすれば良いか、途方にくれている事。
「途方にって.... 貴女の手に終えない物が、俺らに何とか出来る訳ないでしょーがっ!!」
はい、正論来ました。
憤るタバスに溜め息をつき、千早は魔石を死蔵する事に決めた。
翌日、千早はタランテーラの王宮へ転移する。
いきなり現れた幼女を真ん丸目玉で見張る人々。
幼女はキョロキョロと辺りを見渡し、国王陛下を見つけると、とてとてと近寄った。
瞬間、正気に返った衛兵らが幼女に武器を向けるが、向けた途端に、武器はパンっと音をたてて砕け散る。
《千早ちゃんに得物を向けるなど、言語道断》
幼女の肩に乗るシメジな女神様が、据えた眼差しで衛兵を睨めつけていた。シメジなんだけど、睨まれていると分かる謎。
その攻防を見た国王が、後れ馳せながら兵士らを止める。
「無礼な真似をするではないわっ!! 女神様にあらせられるぞ、控えよっ!!」
その言葉に大きなどよめきが起こり、慌てて人々は膝を着いた。
《そんなにかしこまる必要はなくってよ。今日は千早ちゃんの御願いを聞いて欲しくて。よろしいかしら?》
女神様の言葉に、国王は幼女を見つめる。
「いやさ。教師がわりに司教や魔術師を派遣するって話になっていただろ? あれを他の国々にもしたくてさ。王様から紹介状みたいな物をもらえたら話がスムーズに行くと思うんだよね。この大陸の他の六ヶ国への紹介状書いてもらえないかな」
なるほどと合点のいった王様は、しばし時間を下さいと幼女を貴賓室に案内した。
案内された部屋でソファーに座り、幼女はある事を考える。
「なあ、姉様。王様の髪の色.... 金髪だよな?」
森の氾濫で見た王太子の髪色も金色だった。千早は思わず我が眼を疑ったものだ。
《....ここは古代人の純粋な生き残りが棲まう大地。神々と共に暮らしていた時代の人々の子孫です。その名残でしょうね》
話を聞けば、神々と暮らしていた古代の人々には当たり前のように金色や白銀を所持する者が存在したのだそうだ。
基本的に神々と関わりの深い、王族などだが、当然それに伴い強大な魔力をも保持していた。
結果、彼等は増長し、精霊王や精霊達を怒らせて、滅亡した訳だが。
「つまり、この大陸の金髪は、その時代の王族の名残か。まあ、混沌の時代だ。流刑にされた王族とかもいただろうな」
《そうですね。長い年月に廃れただろうと思っていましたが。まさか古代人の血脈を連綿と受け継ぐ者らがいたとは.... 驚きです》
驚嘆を隠せない女神様に、千早も小さく頷いた。
単純に考えるなら、金色に見合う力を持っている事になる。今までは魔力という根幹が失われていたため、別段特別視されてはいなかったのだろうが、これからは違う。
考え込む幼女に、何の気なしな女神様の呟きが聞こえた。
《エルフもそうですけど、先祖返り的なモノが起きないと良いですね》
「先祖返り?」
《はい。エルフの皇太子。彼は先祖返りで、あまりにも強大な魔力が彼の命を脅かしたため、魔力を封じられたのです》
爆弾発言だった。
聞けば、エルルーシェは生まれながらに強大な魔力を持ち、暴走させ、出産直後で弱っていた母親を死に至らしめたと言う。
その魔力暴走に気づいた慈愛神リュリュトリスが駆けつけ、魔力を封印し事なきを得た。
神々五柱のうちの一柱の顕現に驚く人々に、彼女は話したと言う。亡くなった母親の願いで顕現したのだと。
《奥方は子供を心配しておりまして。子供を助けてくれと言う奥方の切なる願いを聞き届け、わたくしは参りました。赤子の魔力は封印します。いずれ成長し、この魔力に負けない力を身に着けた暁には封印が解けるでしょう。それまで封印の事は内密にしてください。心無い者に利用されかねません》
そして父親であるエスガルヒュアに近づき、リュリュトリスは奥方の最後の言葉を伝える。
《奥方から言付かりました。幸せでしたと。子供を頼みますと。伝えましたよ?》
ふわりと微笑み、リュリュトリスは空気に霧散した。
エスガルヒュア王は固く誓う。絶対にエルルーシェを守ると。必ず幸せにしてみせると。
こうして、魔力皆無と思われているエルフの皇太子が誕生したのだ。
「なるほどね。エルルーシェが生活魔法すら使えないのは、そういう訳か」
《内緒ですよ? リュリュトリスに怒られてしまいますからね。仮にもエルフが魔力皆無な訳はないのです。平民だって、下手な人族の魔術師より魔力があります》
そんな話をしているうちに紹介状が出来たらしい。
それを有り難く受け取り、オカンは走り出した。各国の場所や城の確認をとるために。
全く知らない場所へは転移出来ない。取り敢えず、現状も知りたいがため、身体強化と秒のテレポートを織り混ぜつつ、アルカディアの大陸、全てを見て回った。
うん、ヤバいね。
惨憺たる有り様な各国の現状を知り、慌てて秋津国へと転移するオカンである。
各国、死屍累々。樹海側の領地の内、八割は壊滅状態。想像していた以上の大惨事であった。
夏の盛りを迎えようという秋津国。祭りを楽しみにするオカンの前に立ち塞がる後始末。神々が関わると事態が大きくなっていけませんね。