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オカンと鳥と逆鱗様 ~7~

はい、ようやく投稿出来ます。オカンクオリティ発動ですww


「んじゃ、始末はまかせたね」

「承りました」


 氷河にアルス爺と司教らを転移させ、穢れの浄化を任せて、千早はディスバキルへ向かう事にした。

 あちらで船が手に入れば何とか出来るかもしれない。

 それに、流刑地アルカディアでは魔力や魔術がなくとも人々が暮らし、国があるという。

 ならば、最悪精霊が失われても世界が滅ぶ事はないような気がする。

 

 千早がそういうと、女神様は首を横に振り、てれんと笠を萎ませた。


《魔術がなくなるだけではありません。太古の混沌が復活してしまうのです。生き物として弱い人類に、生き延びる術はないでしょう》


 あ~、そういう事か。


 憮然と苦虫を噛み潰し、幼女は敦に後始末の指揮を任せて、帰りはガラティアの王国騎士団へ御願いし、自分達は一路魔族の国ディスバキルを目指す。


 数千年前に枝分かれしたという世界樹。その片割れが現存しているかは、女神様達にもわからないからだ。

 何せ神話の時代の話である。

 しかも魔力もない土地だから女神様の恩恵もなく、古代の魔術式のせいで神々は踏み入ることが出来ない。

 流刑地になる前にはあったらしいが、今でもあるとは限らない。

 

 でも、それしか手立てがないなら行くしかないなり。


 千早は両親と共に、ガラティアにある魔族の村へと転移した。




「妹様っ!」


 転移してきた三人に、魔族らがわっと押し寄せる。

 

「皆、元気そうやね。バロック司教様いるかな?」


 幼女が尋ねると、子供らに手を引かれたバロック司教が人垣から現れた。

 

「お久し振りです。何か力になれますか?」


 微笑む司教に、千早は剣呑な眼差しで答える。


「バロック・シア・シャムフィール。折り入って頼みがあるんだ」


 誰も知らないはずの司教の真名。


 司教の顔が能面のように固く強張る。それを軽く一瞥し、幼女は教会へ向かって歩いていった。





「御存じだったのですね」

「すまんな。アタシは鑑定と解析持ちなんだ」

「いやはや、神々に列なる方だと存じておりましたのに....」


 子供らにお茶を出させ、司教は人払いをし、改めて千早の話を聞いた。


「実はディスバキルから行けるはずの島、アルカディアについて知ってる事を教えて欲しいんだ」


 バロック司教は軽く眼を見張り、しばし思案げに眼を伏せる。


「そうですね。彼の国に伝わる伝説の島ですね。どこまで御存じですか?」

「魔法が使えない古代の流刑地ってあたりまでかな」

「流刑? それは初耳です」

「そっか。そちらでは、どう伝わってるん?」


 とつとつと話すバロックの説明によると、百年に一人くらいの頻度で、あちらからの遭難者が現れるらしい。

 潮の関係で、こちらからは行き難いが、あちらからは比較的簡単に流れてくるのだとか。

 無論、かなり運が良く、海獣や魔獣に襲われなくばの話だが。

 

 潮の流れが外界向きって事か。こちらから進むのは難儀そうだな。


 そして辿り着いた遭難者の話によれば、あちらには広大な樹海と七つの国があり、樹海の中央にある巨大な湖には大樹と呼ばれる大きな樹があるのだとか。

 途端、幼女が音をたてて椅子に立ち上がり、前のめりにバロック司教を見据えた。


「マジで?? あるんだ? 大樹がっ??!!」

「そのように聞き及んでおります」

「いやったぁぁぁあーっ!!」


 眼を丸くする司教の前で、幼女は椅子でぴょんぴょん跳ねながら、サムズアップする。

 

 あとはディスバキルに行ってみてからだな。


 ふんすっと気合いを入れる幼女に、バロック司教の何の気なしな呟きが聞こえた。


「そういえば....春の半ばくらいに来訪者様がいらして、同じような事を話しましたな」

「へ?」


 きょとんと見上げる幼子に微笑み、バロック司教はチトセ・アズマという少女がディスバキルへ向かうために、ここに立ち寄ったのだと話した。

 そのさいに同じように魔力の使えない国、通称吸魔国の話もしたのだと言う。

 彼女は非常に興味を持った様子で、意気揚々とディスバキルに向かったらしい。


 ああ。そういや、何人かの来訪者は異世界観光に旅立ったっけ。その一人か。


 千早はバロック司教に御礼を良い、魔族の村南東に位置するディスバキルを目指して転移した。


 大樹の国に向かうさいに使った、ショートカットテレポート。今回もそれを駆使して砂漠を渡り、あっという間に三人はディスバキルに着いた。


「これは....また」


 堅牢な石の外壁。居並ぶ屈強な憲兵達。


 噂に違わぬ軍事国家っぽい風格だな。


 千早は久々の異世界観光に心を踊らせていた。


 しかしインベントリとマジックボックス持ちな三人は、ほぼ手ぶらな状態。然したる問題もなく通行料に金貨二枚を払って城下町に入る。


 金貨二枚という高額の通行料をさくっと払った三人が眼をつけられない訳はないのだが、千早は身体強化をかけ、隠密で姿を隠し、ならず者達の視線を無意識に振り切っていた。

 今は一刻も早く港に向かい、船を手に入れなくてはならない。


 うううっ、事が無事に済んだら、帰りはまったりとディスバキル観光してやるっ!


 あちらこちらに興味津々な眼をさまよわせながら走る我が子の姿に、両親は顔を見合わせて苦笑した。


 そんなこんなで港街についた三人は、船を購入するべく漁師ギルドに入っていく。

 しかしそこには、思いもよらない答えが待ち受けていた。


「ああ? 船が欲しいだ? 冗談はよせ。船は注文して作る物だ。売ってる訳ないだろう」


 頑固職人系なおっちゃんに言われて、幼女はガーンと顔に驚愕を浮かべる。


 そりゃそうだ。認識が甘かった。


 どうしようかと慌てる千早に、少し遠い眼をして、おっちゃんが呟く。そこには乾いた笑いが浮かんでいた。

 

「そういや、しばらく前に廃棄予定の小舟を買った嬢ちゃんがいたなぁ。なんに使うかは知らないが」


 廃棄予定の小舟?


「それってひょっとして、黒髪で黒い眼の女の子だったり?」

「そうそう、あんたらみたいなな。同郷かい?」


 東さん、なにやってんのww


 ある意味、上手いやり口ではあるが。

 苦笑いしながら、海岸を散策していた千早の脳裏にシグナルが走る。それは魔石を介した通信だった。

 幼女は懐から通信用の魔石を取り出す。


「どうした?」

〈妹様っ、大変です、来訪者様の一人、アズマ様の輝石から色が失われました!〉

「え...」


 探索者カードの輝石とギルドに保管されている輝石は、対になっている。その輝石から色が失われたと言う事は....


「彼女が死んだ....?」


 今、話題になったばかりの少女が死んだ?


 いや、違う。これは.....輝石が砕かれたっ!!


 幼女は別の波動を感じ、海岸線をじっと見据える。


「そうか、その手があったかっ!」


 たぶん偶然だろう。しかし、これ以上ない最高のタイミングで事は起こった。これぞ神の配剤か。


「アタシ、アルカディアに行ってくる、何があったかわからないけど、アルカディアで神域結界が発動したっぽい。今なら行けるっ!!」


 幼女はぱんっと両手を合わせ、大地に手をつく。

 すると千早の周囲のに一筋の光が立ち上ぼり、そのまま千早の姿は光に掻き消された。


 しゅんと消えた光を見つめ、親父様とユフレは顔を見合わせて頷き、踵を返して港街の中へ駆けていく。





「これは....」


「皇さん??」


 御互いに驚愕の声をあげる黒髪の二人に、周囲は唖然とする。


 何が起きたのかわからない。


 固まる人々を余所に、幼女は現場を一瞥し、大体の経緯を理解した。


「東さんだね? 輝石の神域結界を使っただろう?」

「はい、今ここは酷い状態で....命にかかわると判断したら使えと言われていた魔術を使いました」


 彼女の傍には壊れた探索者カード。それに埋め込まれた輝石は砕かれていた。

 この輝石には千早の魔力が込められ、万一のために神域結界の術式が組み込まれている。

 命の危機に陥った時の一発逆転カード。

 このタイミングで使ってもらえるとは。酷い災害に見舞われているようだが、幼女はこの災害に感謝したくなった。


 しかし、何はともあれ同胞の窮地だ。まずはこれを解決しよう。


 幼女は千歳から詳しい話を聞く。


 ここはタランテーラという国で、彼女は好奇心からこの国を訪れた。しかし着いて間もなく樹海から獣が溢れる事態が生じ、この国の人々に助太刀して討伐に加わったという。

 だが獣は減る事なく、むしろ増える勢いで樹海から現れ、にっちもさっちもいかなくなり、セーフティゾーンとして神域結界を発動させたらしい。


 神域の中に害意ある者は入れない。しかもこの中なら傷が癒され体力や魔力が回復する。


「私も魔力が尽きて....ここで魔力を回復しながら、みんなの治癒を行っていました」


 言われて幼女が見渡すと、結界の中は満身創痍な者だらけだった。まるで激戦区の野戦病院な有り様である。


「樹海の中で何か起きていそうだな」


 己の魔力による神域だ。ここでならば千早は魔術を発動出来る。ゆえに知らぬ場所でも転移が可能だった。

 空間を隔絶する結界。なんという幸運か。


 ほくそ笑む幼女は、ふと結界端にうずくまる二人に気がついた。

 漆黒の髪をした少女が金髪の青年を抱き締めたまま動かない。


 金髪??


 驚く千早の視界に映る青年の顔は透き通るほど青白く、傍目にも既に死んでいる事が理解出来た。

 それを抱き締めている少女の眼は虚ろで、ガラスのような瞳が今にも崩れそうなほど脆い光を浮かべている。


「あれは?」

「....この国の王太子と婚約者です」

「ふむ」


 今回の災害で王太子が亡くなったらしい。


 痛ましい物を見るような千歳の顔を見上げ、幼女はしばし黙り込み、無言でインベントリから琥珀色の液体を取り出した。


 言わずと知れた神薬アムリタ。


 精霊王がこの大陸で御世話になるし、一つ恩を売っておくか。


 幼女の打算により王太子は生き返り、信じられない眼差しで抱き合う二人を、オカンが生温い眼差しで見つめていた。

 

毎度顔馴染み神薬アムリタ。オカンの黒い笑みが光りますww

ブクマにお星様、ありがとうございます。ワニは絶好調ですww

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