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オカンと鳥と逆鱗様 ~3~

小説三本同時進行という無謀な状況のワニでございます。息抜きに書いた短編の思わぬ評価に狼狽えるばかりですが、どれも可愛い我が子です。無理はしない程度に同時進行で頑張ります。


「まずは具体的に何がどうなったのか説明を求めます」


 口の端をひきつらせているタバスの後ろには、秋津国主要メンバー。帝国を引き下がらせ、エルフらも帰国して、ようよう平穏が訪れたのではなかったのか?


 まあ、それが盛大なフラグである事も、千早との長い付き合いから薄々感じ取ってはいるが、今回は酷すぎる。

 前回の霊獣大戦でも世界半壊の危機だったのに、今回は世界壊滅の危機? 

 

 なんでそんなもん呼び寄せるかなっ?? そんな大迷惑な御客様には丁重にお帰り頂きたいんですがっ??!! 無理? そうだろうね。


 千早は、斯斯然々と女神様の説明をタバスらにも繰り返した。


 絶句を通り越し、失神寸前なか細い意識を根性で手繰り寄せ、タバスは幼女を睨めつける。


「だからさあっっ、なんで、そういう大事な事を一人で決めるかなあっ??!! あんた、秋津国の元首なんだよ、自覚しろよっ!!」


 タガの外れたタバスは止まらない。


「今までだってそうだ、あちらこちらで揉め事抱えて、なんであんたが抱えなきゃいけないんだ? やれるからって、やらなきゃいけない訳じゃないだろう?? あんたが、そういう生き物だってのは知ってるよ、でも、あんたは秋津国の人間だ、俺らに何が出来るかは、わからんっ、でも聞いて一緒に悩むくらいは出来るっ、それから答えを出しても遅くはないだろうがっっ!!」


 肩で息をしながら、タバスは今まで呑み込んできた全てを吐き出した。慟哭にも近いその叫びは後ろに居並ぶ秋津国の人々全ての心情を代弁している。


「....すまん」


 か細い幼女の呟き。


 千早は眼を見張って彼らを見つめた。


「秋津国は民主主義です。あなたが、そのようにしたのです。総意を申し上げます。主だった人々の意見は反対一色です」


 アルス爺の言葉に幼女は茫然とする。それに静かな眼を向け、アルス爺は千早の前に腰をかがめた。


「あなたは秋津国の総意を受け入れられますか?」


 アルス爺の真摯な眼差しに揺れる仄かな炎。

 千早は即答出来なかった。今まで何があろうと幼女に力を貸してくれていた人々の初めての反逆。

 いや、なにを勘違いしているんだ。彼等は家臣とかではない、反逆とかじゃなく、ただの意見の相違。

 民主主義にはよくある事だ。いままで千早が好き勝手出来たのは、ひとえに秋津国の人々の協力があったゆえの結果だ。

 

 葛藤する幼子に、アルス爺の瞳が柔らかく綻んだ。


「貴女が今感じてる葛藤は、今まで我々が感じてた葛藤です。貴女にはやれる力がおありになる。ゆえに我々は止める術を持たなかった。だけど快く見送った訳ではない。我々にも心配させてください。貴女が我々を想うように、我々も貴女を想っているのです」

 

 心許ない目差しで、幼女は頷いた。


 今さらながら、本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。


 そんな千早をユフレが抱き上げる。


「本当に、はーちゃんは生き急ぎ過ぎね。まだまだ人生は長いんだから、人間止めるなんて早すぎでしょう?」

「...俺がいる。...少しは頼れ。...な?」

「俺だっていますようぅっ、忘れんなっ」


 親父様や敦も、にっと笑う。


 ああ、もう、ほんとーっに。...馬鹿丸出しだなも、アタシ。

 

 木を見て森が見えなくなる現象。よく視野が狭くなる状況の喩えに使われる言葉だが、まさか自分がそんなんに陥ってしまうとは。

 無様過ぎて苦笑いしか出来ない。


 結局、自分は秋津国の人々を信じてなかったのだ。自分より下に見て、意見を求めようとも思っていなかった。

 だからこそ見えていなかった。自分を見送る人々の葛藤を。


 幼女は改めて人々を集め、今回の事態を話し合った。


 その人々の姿に、小さく舌打ちする女神様に誰も気づかない。


「つまり北の大地には精霊王の庭園があり、そこが邪神の神徒によって持ち込まれた死体の穢れで汚染され、精霊王は秋津国に逃げてきたという事ですか」

「弔われぬ死体の穢れは問題です。邪念、怨念の汚濁となります。悲惨な死体ほど邪気が強くなる」


 アルス爺の言葉に、氷河の一族が頷く。


「奴等は未だに死体運んでますデス。どんどん酷くなってるデス」

《わたくしの作った庭園には、わたくしか精霊王の許しを得た者しか入れません。厚い氷の下の庭園にも被害が及ぶとは。侮れませんね》

「庭園の移動、あるいは別の場所に新たな庭園を作るという訳にはいかないのかい?」


 リカルドの疑問に女神様は首を振った。


《人の立ち入った事がない広大な大地が必要になります。過去には存在しましたが、今はそんな土地はありません》

『となれば、やはり北の大地を浄化して奪還するしかあるまいな』

「聞けば精霊王が失われると精霊も失われ、人々は魔術を使えなくなるとか。魔力と魔術で成り立つ国々ですから、死活問題ですね」


 爺様やアルス爺が顔を見合せ複雑そうに眼をすがめる。そこへ七つ葉のアマラディアティが口を挟んだ。


《人々だけの問題ではないです。数億年前の混沌な時代の復活ですよ、考えたくもないっ》


 ぶるりと七つ葉を震わすアマラディアティを半眼で見据え、幼女は部屋の中を見渡した。


 いや、この部屋の状況こそカオスだろ。何なんだ一体。


 人に神に竜が雁首を並べ、やいのやいのと言い合っている。


 教会の講堂を使い、ありったけの机と椅子を並べて、多くの人々(プラス神とドラゴンと精霊)が話し合いに参加していた。

 慌ただしく出入りする人々もおり、各部署で連絡を取り合っているっぽい。

 そんな中、幾つかの石柱が持ち込まれ、各々千早の周囲に置かれる。見覚えのあるそれから、聞き慣れた声が聞こえた。


〈話は聞いた。大樹の国からも支援を表明する〉

「エスガルヒュア王??」


 石柱の魔石は大樹の国に繋がっている。そういや秋津国から緊急連絡が入った時、ラインを繋いだ石柱をそのまま置いて来てたっけ。


 すると、他の石柱からも声が聞こえた。


〈ガラティアも出来得る限りの支援を致します。必要なれば、軍の派遣も致します〉

〈魔族の街もおります。微々たる力ですが、妹様のお役にたつならば何でもお申し付けください〉


 緊急連絡用にラインを繋いだ魔石から次々と聞き慣れた声が聞こえる。

 驚く幼女の耳に、更なる驚きが飛び込んできた。


〈帝国も協力を表明いたします。皇帝陛下より全権を預かりましたキャスパーです。前回の霊獣災害を未然に防いで下さった秋津国に、皇帝陛下はいたく感謝しております。今回の世界的危機に、帝国も肩を並べて立ち向かう所存です〉


 聞き慣れたキャスパーの声。


 しかし、一瞬の沈黙の後、秋津国の人々から大きなざわめきが沸き起こる。

 それは決して好意的でないモノだった。


「帝国が? 何か良からぬ事を考えているんじゃあるまいな」

「教会の一件、忘れていないぞ。...どれだけの犠牲者がいたか」

「疫病だってだ。妹様らがいなかったら街が死んでいた」

「我々を難民にして追い回したくせに...今さら? ふざけるなっ」

「未だに我々の同胞を奴隷にしている国が協力? 笑わせるのも大概にしろ」


 おもわぬ過剰な反応に、千早は眼をすがめる。


「キャスパー、気持ちは有り難く受け取る。今は退いてくれ」


 幼女の言葉に暫し沈黙し、キャスパーは了解しましたと、魔石の通信を切った。


 何とも表現しがたい微妙な空気が講堂を満たし、人々の顔には暗い陰が落ちている。

 以前滞在者していた捕虜達は殆どが平民であり、客人扱いだった。だからこそ秋津国の人々は彼等を自然体で受け入れた。

 しかし、今回の相手は帝国上層部であり皇帝陛下その人だ。秋津国の人々の祖国を滅ぼし、奴隷とし、難民を量産した諸悪の根元。

 

 到底受け入れられるモノではない。


 戦争難民だった秋津国の人々の笑顔の下には、未だに癒えぬ根深い傷が残っているのだろう。


〈帝国の話は滞在中に聞き及んでいる。当然の反応だろう。苦労するな、元首殿〉


 わざと軽い口調で労うエスガルヒュア王の声に、オカンは苦笑するしかなかった。


なんと人々が手を取り合う状況になりました。しかしそこに一粒の不協和音。オカンは一体どうするのでしょうか?

 ( ̄▽ ̄;)

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― 新着の感想 ―
[一言] 『その人々の姿に、小さく舌打ちする女神様に誰も気づかない。』 あれ? 姉様ひょっとして腹黒? 腹黒なシメジって美味しいのかしら? 分かっちゃった…シメジな姉様ったら、目的の為には手段を選ば…
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