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オカンと鳥と逆鱗様 ~1~

息抜きに書いた短編が、たった一日でドラオカを数倍上回ったブクマとお星様を頂いた件について。なんか切ないです。


 ちなみに短編のタイトルは《悪役令嬢やめますっ!!》です。


『そなたに言いたい事は山ほどあるが....』

「ん?」

『とりあえず、それを元の場所に返して来い』


 そんな犬猫みたいに.....


 訝る幼女の肩にはフクロウが一匹。真っ白なモフモフの中には、小さなエアプランツが生えている。

 ミニチュアの竜舌蘭のような細っこい緑は、意義を申し立てるかのように、嫌々と揺れた。


 うん、意思の疎通が出来てるよな、やっぱ。


 フクロウの首後ろに生えているそれは、つつくと嬉しそうにソヨソヨと揺らいでいる。

 幼女がフクロウを見つけたのは全くの偶然。フローレ達の開墾を手伝っている時に、原生林の中でパッタリと倒れ伏してるのを発見し、連れ帰った。

 

 それがまさか精霊王とは思わなんだが。


 少し遠い眼をして、千早は一昨日の出来事を思い出す。


「世話になったな。次は大樹の国に来られると良い。待っておるぞ」

「まあ、気が向いたらね。道中気をつけて」


 にかっと笑う幼子の顔を、エスガルヒュア王は顎に手をあてて、じっと覗きこむ。


「昨日は実に流暢な上流語句を使っていたが。そなた、もしや元王族とかではないのか?」

「あ~。あの程度のTPO、日本人なら誰でも出来る芸当さ」


「てーぴーおー?」


 うん、滑舌。


 爺様の言語翻訳魔法で会話や読書に問題はないが、書く事には多大な問題がある来訪者達。

 だからネイティブでない言語を使用すると、前述のような齟齬がおきる。まあ、昔の老人ら特有の片言英語になるだけだが。

 

 懐かしいね。そういや婆ちゃもパーティーの事をパーチーとか言ってたっけ。


 幼女がノスタルジックな感慨に耽る中、エルフら一行は予定通りに大樹の国へと帰還した。


 その時だ。


「なんだ、あれっ?!」


 出発したエルフらの渡る浅瀬に突如して現れたのは金色の水ヒレを纏う竜。背中や周囲にチビ竜をワラワラ連れて、ゆったりと御登場。

 呼吸も忘れて魅入るエルフらの横を素通りし、海岸に近づくと、一陣の風と共にかき消えた。


 あの巨大な竜が消えた??


 ようやく呼吸を思いだし、慌てて周囲に眼を走らせる護衛だが、凪いだ海に竜の気配はない。


 幻覚? いや、確かにいた。


 見送りの秋津国の面々に動揺は見られない。今の竜が見えなかったのか? 間違いなく秋津国海岸に向かったはずなのに。


 .....あるいは、あの竜がここらの海を泳ぐのは秋津国にとって当たり前の日常なのか。


 穿ち過ぎだなと、エスガルヒュア王は苦笑する。


 しかし、それが大正解なのだと後日知らされ、地団駄を踏む王様だった。




「妹様に御報告がございます。北の大地より、氷河の一族が参りました。何でも、邪神による侵略があったとか」

「邪神?」


 人化したラプトゥールは子供らと海岸に立ち、慌てて幼女に駆け寄る。その顔は険しく、焦燥が入りまじっていた。


 ああ、そういやそんなんもいたな。誰かが加護を持っていたような?


「氷の大地に護られた虹の庭園。その泉に住まう精霊王が、邪神の攻撃で行方不明との事」

「精霊王?」


 金髪碧眼のラプトゥールは神妙に頷いた。


「八属性を統べる御方です。虹の七色に御本人の金色。彼の御方が失われれば、世界から魔法が消えます」

「うえっ??!」


 一大事ではないか。


「精霊王が行方不明って、ホントなん? どんな姿形してるん?」


 わたわたしながら千早はラプトゥールを見上げる。そこへ柔らかな羽音をたてて、一羽のフクロウが舞い降りた。

 原生林で発見した真っ白なフクロウは空腹だっただけのようで、幼女から餌をもらい、すっかり回復し、なついていた。


「いや、今忙しいから。後で相手してやるで」


 幼女の肩に乗り、可愛らしくすりよるフクロウを凝視し、ラプトゥールは眼を見開いたまま絶句する。

 訝る千早に、金髪碧眼な美女は呆れたかのように眉を寄せ、さも面倒くさそうに呟いた。


「忘れておりましたよ、貴女はそういう星のもとに生まれておいででしたね」


 なんだいきなり。なんか失礼な事を言われている気がする。


「それ」


 ラプトゥールはフクロウを指差し、苦虫を噛んだ。


「精霊王です」

「え? は? このフクロウが??」

「違います」


 そう言うとラプトゥールはフクロウをむんずと捕まえ、全身をくまなくモフモフしだす。

 キュエーッと情けない声で鳴くフクロウの首根っこを掴み、羽毛を掻き分けると小さな緑が現れた。


「いた」


 ラプトゥールがフクロウの首を掴んだまま、幼女にも見えるようしゃがみこむ。

 千早が覗いてみると、そこには小さな芝生のような草が生えていた。全長五ミリくらいの細い草が五本ほど飛び出ていた。

 心なしかプルプル震えているみたいだ。


「これが精霊王?」

「そうです。緊急事態だったため種子に変幻し、このフクロウと共に逃げたのでしょう」

「これフクロウに生えてるん? あんた痛くないんか」


 フクロウの頭を優しく撫でる幼女に疲れを感じ、ラプトゥールは深く項垂れた。そうじゃない感が半端ない。


「まあ、妹様の御側にあるなら安心か。秋津国は魔力に満たされているから、精霊王も居心地がよかろう」


 そういうやいなや、ラプトゥールは氷河の一族に知らせてきますと踵を返し、海の中へ消えていった。

 子供らも続き、いつの間にやら幼女の周りには海産物の山が出来ている。チビ竜達エ....


 積まれた海産物の魚を、ひょいパクっひょいパクっっとしているフクロウを、じっとり睨めつけ、千早は深い溜め息をついた。



 そして冒頭にもどる。



「嫌がってるなも、イジメんな」

『精霊王が虹の庭園から出るなど有り得んわっ』

「でも邪神とやらがいるんだべ? どーするよ」

『む...っ』


 言葉に詰まる逆鱗様。


 ラプトゥールと共にやってきた氷河の一族とやらから話を聞けば、邪神の信徒とやらが押し寄せ、虹の庭園周辺を獣や人の死体を使って穢していったらしい。

 虹の庭園そのものは氷の大地に護られているため、手が出せない。ゆえに遠回しな方法だが効果はてきめんな穢れを使ったらしい。

 穢れに取り囲まれた虹の庭園は無惨な有り様で、とても精霊達が居られる場所ではなくなってしまったとか。

 穢れの邪気に侵され、多くの精霊が消滅し、精霊王も耐えられず、種子に変幻して従属であるフクロウの力を借り、庭園から脱出した。

 そしてフクロウは、精霊が多く存在する場所を目指して翔んだ。精霊が多くいる場所には、必ず豊かな魔力が満ちている。

 汚れから自身を守るため、種子に流転した精霊王には大量の魔力が必要だった。成長するために。


 結果、秋津国に辿り着いたが空腹で行き倒れた、間抜けな従属である。


「ほんと、もう。なんつーか、揉め事呼び込む才能があるとしか思えませんね、妹様は」

「アタシのせいかや???」


 物申すぞ、こらぁっ!


 仁王立ちで遺憾を表明する千早だが、うんざりしたタバスの呟きに異論を唱える者はいない。


 あれぇ? おかしいな。


 オロオロと辺りを見回すが、皆が生暖かい眼差しで、達観したかのように頷いている。


「妹様ですしね」

「うん、妹様だしな」

「だよね」


 えーっっ、なんでーっ?? これ、アタシのせいか???


 納得いかない千早に敦が背中から狙い打つ。


「だって、これも解決しちゃうでしょ? 皇さん面倒嫌いじゃん。どうせ力押しで終わるって皆知ってるし。さっさと終わらせて下さいね。祭りやるんでしょ?」

「そうですね。楽しいと美味いと子供のためなら手段は選ばないって分かってるし。その小っさい緑の見捨てられます?」


 リカルドまでもが、しらっとした半目で幼女を見据える。


 遠い眼で空を仰ぐ逆鱗様と、フルフル震える竜舌蘭。


 首を傾げるフクロウが、あざといくらい可愛らしい。


 千早は、フクロウの背中で震えている竜舌蘭の差し出す葉先と、自分の指先を合わせた。まるでETのようだ。

 思わず口許をひきつらせ、オカンはがっくりと項垂れる。


 風薫り、漂う初夏の調を感じながら、オカンは何故こうなった? と、己に与えられた神々の力を逆恨みした。


 なまじやれる力があるから、こんな面倒にも関わらねばならないのだと、ようよう己の立場を自覚しつつあるオカンだった。


はい、安定のオカンクオリティです♪

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