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オカンとエルフと悪役令嬢 ~終幕~

こちらが一段落したので、SFの方も執筆を再開します。せめて完結はさせたいので、こちらの合間に投稿する予定です。

 あと、めっちゃお星様増えてました、ありがとうございますっ、評価4.6から4.8にっ!

 ほんと、ビックリしました、すっごく嬉しいですっ!! 重ね重ね、ありがとうございますっ!!


「あああぁぁあ、すっきり致しましたわぁぁぁあっ」


 両手を振り上げ全身で伸びをするフローレに、周囲の人々は苦笑する。


 まあ、然もありなん。


 あの皇子の婚約者だったというだけで彼女の苦労が偲ばれるというものだ。

 満面の笑顔の少女から感じる、半端ない解放感。ほんと、御苦労様でしたとしか言い様がない。


「今から開拓の続きかい?」

「ええ、すごく良い場所ですの。原生林が近いんですけど、シャスが自宅で薬品作りしたいらしいので好都合ですわ」

「娘二人では危なくないか? 原生林には野獣や魔獣も多いだろう?」


 楽しそうに話すフローレに、エスガリュヒュア王が眉を潜めた。この御仁、本当に大人しく見学していてくれたが、途中、何度も指をワキワキさせてたんで、ひやひやしたわ。


「大丈夫、わたくしもシャスも魔力が多くて上級魔法を会得しています。探索者登録して実益を兼ね実戦を学ぼうと思いますし。ある意味、絶好な環境ですわ」

「ふむ。だが用心は怠らぬようにな」


 面白い物でも見るような眼でエスガリュヒュア王はフローレを見下ろす。

 その眼差しに不穏なものを感じ、千早は彼の脚を蹴り上げた。


「てっ!」

「ジロジロ見るなしっ、家の子やっ!」

「ぶはっ!!」


 半眼でじっとり睨めつける幼女に困惑する王。その姿に思わず噴き出した敦がお腹を抱えて笑っていた。

 フローレも満面の微笑みで和に加わる。

 

「帝国とやらが諦めず揉め事になるようなら大樹の国に来るが良い。歓迎するぞ」

「あら素敵♪ いずれ是非御伺いしたいものですわ。観光で」


 さすが元侯爵令嬢。にっこり笑って、さらりとかわす。


 和気藹々な問題児どもを凪いだ眼差しで見つめ、秋津国の面々は、ようやく安堵に胸を撫で下ろした。

 暫くしたらエルフらも帰国する。帝国の訪問も、かろうじて問題なく終わった。これで平和な日常がやってくる。


 そして少し思案し、深い溜め息をついた。


 ヤバい。平和な日常の後には必ず嵐が来るんだった、どうしよう。嵐の前の静けさに過ぎないんだ。なんか変なジンクス出来つつあるな。


 複雑な胸中を、居並ぶ人々は共有

していた。

 

 地球世界では、これをフラグという。


 言葉も意味も知らぬまま、フラグという概念を着々と理解しつつある秋津国の人々だった。





 所変わって帝都。ここでは謁見の間で氷点下のブリザードが吹き渡っている。

 

 皇帝の眼下には片腕に包帯を巻き、かしずく第三皇子。

 色のない顔で、俯いたまま微動だにしない。その姿は死刑判決を待つ罪人のようだった。

 

「秋津国から拒絶を受けたと聞く。そなた、何をした?」


 重い口調の父親に、皇子は固唾を呑み、戦慄く唇で静かに答える。


「平民の国と聞き及んでおりましたので....皇族に逆らうなと....強行な行いと言動を、..申し訳ありません」


 物は言い様だな。


 傍に控えるキャスパーは、侮蔑の視線を隠しもせずに鼻を鳴らした。

 それを忌々しげに見上げ、皇子は無意識に右腕を擦る。


「全てはキャスパーより報告を受けた。.....彼の国の技術は大した物らしい。文化も高いと聞く。さらには子爵家の令嬢に対する虐待といい、侯爵家の令嬢に濡れ衣を被せた事といい。そなたの右腕一本で済む話ではない。....残念だ」


 そう気だるげに呟くと、皇帝は軽く右腕で正面を払う仕草をした。すると周囲の近衛兵が動き、皇子を両側から支え起こす。


「ち...父上?」

「そなたから皇籍を剥奪する。平民に落ちるか、離宮に生涯幽閉か。好きに選ぶが良い」


 下がれと言わんばかりに皇帝は手を払う。


「そんなっ、父上っ、お許しくださいっ、わたくしは....っ!」


 屈強な近衛にガッチリ捕まれて引きずられながら、皇子の悲痛な叫びは重厚な扉に遮られ聞こえなくなった。

 意気消沈する皇帝を気の毒そうに見つめ、キャスパーは千早から預かった包みを渡す。

 その中には皇子の腕と一本の小瓶。エリクサーだった。


「差し上げなくて宜しかったのですか?」

「要らぬよ。愚か者には過ぎた代物だ。今回の褒美として、そなたに下げ渡そう」

「.....勿体ない御言葉。ありがたく存じます」


 苦笑するキャスパーに軽く頷き、皇帝は深く背凭れに身体を預ける。疲れたような顔には苦渋が浮かんでいた。

 あんな愚か者でも愛しい我が子。出来うるなら助けてやりたかったが、罪状が重すぎる。

 侯爵家からの訴えを一蹴せず、もっと慎重に受け止めるべきだった。件の令嬢には既に皇子の裁定が下りており、再度審議するというのは皇子の名誉を傷つけかねない。

 一侯爵と我が皇子。とちらが重いかと言えば一目瞭然だろう。

 だが、その甘さが皇子を排斥させ、彼の国の不興を買い、貴族間の信頼を失った。


 そろそろ引き際かの。歳は取りたくないものだ。


 全身に酷い倦怠感を覚え、思わず引退を考えていた皇帝の前に、キャスパーがトレイを差し出す。

 そこには小さい焼き菓子。色とりどりな生地の間に同じ色のクリームが挟まっていた。


「これは?」

「秋津国の菓子でマカロンと言います。お疲れの御様子、美味な甘味で少し息を入れましょう」


 毒味がわりにキャスパーがマカロンを一つ食べる。ふわりと広がる果物の風味。


 やっぱり。赤いのは、あの果実の味だ。


 至福なキャスパーの様子に軽く眼を見張り、皇帝も恐る恐るマカロンを口にする。

 途端、瞠目。キャスパーと顔を見合せながら、次々とマカロンが皇帝の口の中に消えていった。


「美味いな...」

「はい。秋津国の食文化は凄まじい物があります」

「....皇子にも。これを」


 泣きそうな皇帝陛下の呟き。


 如何に愚かで浅はかだったとしても、皇帝にとってはかけがえのない大切な子供だったのだろう。


 しかし、キャスパーは同情しない。あの大馬鹿野郎様のせいで、侯爵家と子爵家は娘を失ったのだ。奴の自業自得であり、それは陛下も理解しているのだろう。


 皇子の悲惨な末路に大いに溜飲を下げ、キャスパーは満足げに小さくなった皇帝陛下の丸い背中を見下ろしていた。


 

 

 季節は初夏も終わり、オカンにとって異世界初の夏がやってくる。

 様々な嵐を潜り抜け、本格的な夏の到来に胸を踊らせるオカンであった。


夏です、祭りです、オカンひゃっほいな季節ですwww

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