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オカンと魔法

ブックマークありがとうございます、初ブクマですっ、家宝にしますっ♪ 星も二つ、面白いと思っていただけたのですねっ、あなたが初読者様ですっ、ありがとうございましたっ♪♪ (ノ≧▽≦)ノ


「じゃあ、行こうか」


「うっす」


 ビシッと敬礼する幼女。


 中身がオバちゃんだと分かっていても、その可愛らしい姿に、探索者達はほっこりした。

 蒼いローブを身に付け、裁定の間から出ようとする千早(ちはや)の襟首をドラゴンが(くわ)え、ズルズルと引き摺りもどす。


「何するし、離せぇっ」


 ジタジタと暴れる幼女の姿に、不謹慎ながらも探索者達は再びほっこりした。

 それを余所に、ドラゴンは憮然(ぶぜん)とした顔で眉をひそめる。


『帰れば追及されるであろう。そなたはダンジョンを知り異世界を知る者。地上の強欲な人間達が放ってはおくまい。悪い事は言わぬ。異世界(あちら)へ逃げなさい。せめて最奥にいなさい。我が守る』


 心配気なドラゴンに、千早はふわりと笑った。


「ありがとう、爺様。でも私も同じなんだ。私も地上にいる家族を。娘を守りたいんだ。....知ってるからこそね」


 決意を秘めた揺るがぬ眼差し。千早の何かを含むような言葉は、ドラゴンに忌々しい過去の片鱗を思い出させた。 

 

 同じ眼をしている。あの娘と。


 あの娘も、家族やドラゴンが止めるのも振り切り、正道を歩もうとした。そして潰され還らぬ人となった。....二度は御免被(ごめんこうむ)る。


 ドラゴンは咥えていた千早の襟首を離し、自分の顎の下に手を入れ、ガッと爪を立てた。

 千早の目の前に何かが落ちる。

 それは大人の掌くらいの鱗だった。

 不思議そうに見つめる彼女の前で鱗はいきなり光りだし、一際眩く輝くと小さなドラゴンが姿を現した。

 完全な爺様のミニチュア。ただし千早の拳サイズ。

 唖然とする千早の前でミニチュアドラゴンは羽ばたき、そのまま彼女の頭にスポンと収まる。


逆鱗(げきりん)から作った我の分身だ。連れていけ。我と繋がっているゆえ、窮地には力になろう』


 逆鱗って.....めちゃくちゃ痛いんじゃないっけ?


 苦虫を噛み潰したかのような顔をしつつ、ドラゴンはそっぽを向いて(うずくま)った。

 

 不器用なドラゴンの優しさが面映ゆい。


「ありがとう。また遊びに来るからね」


 破顔する千早を、ドラゴンは無言で見送った。見送るのは微かに揺れる尻尾だけだった。




《行ってしまいましたね》


 シメジな女神様がフヨフヨとドラゴンの周りを回る。心持ち(しお)れている気がする。


『アレはそういう質でございます。止めても止まらぬ。よもや、こんな所で会おうとは。想定外にも程がありましょう』


 寂しげに眼をふせ、ドラゴンは閉じた扉を見つめた。

 忘れるはずがない。姿形が変わろうと。そなたは、こんな所に居たのだな。


 ドラゴンは眼を綴じて、忘却の彼方に押しやりながらも未だ悔恨の(くさび)が打ち据えられたままの、忌々しい記憶を取り出した。


『何故そなたが行く必要がある? 奴は生け贄を探しているだけだ。王族なら誰でも良いのだ。そなたである必要はない』


「で? 他の誰かが犠牲になるのを待てと? 有り得ないでしょう? 私一人の首で多くの人々が助かるなら儲けものじゃないの」


 ニヤリと笑った娘。誰よりも濃い始祖の血をひきながら、誰よりも至高の玉座から遠かった娘。


 なのに誰よりも正しく王族の在り方を知っていた。我が教えてしまった。


 我が預かり育てた娘。本来であれば、誰にも知られず平凡に暮らしていくはずだったのに。


 時代の権力者が、娘の人生を歪めてしまった。


 ドラゴンは記憶の海にたゆとう。


 楽しかった過去を振り返るために。




「はいっ、行ったよ」


「おうさ!」


 千早は土魔法で壁を作り、そこから探索者達に倒せるであろう数のモンスターを流していた。

 数匹流しては隙間を閉じる。

 このやり方で、彼等は危なげなく中層まで戻ってきた。所々に点在するセーフティエリアには、多くの物資が用意されている。


「あと二層あがれば、自衛隊の拠点もあるから。そうしたら一息つくよ」


 笑いながら木之本(きのもと)が話してくれた内容は、国が全力でダンジョン踏破を支援してくれている事。

 ダンジョン内から手にはいる物は貴重で、各種資源や薬など。地球上では加工も出来ないし、効果も出ないがダンジョン内なら別。

 中層から出るようになった宝箱の薬品類は、怪我を治すポーションから万病に効くエリクサーまで多種多様。

 不思議物語でお馴染みなこれらの薬品は、今現在、重度の障害や難病に苦しむ人々から、奇跡の特効薬として切実に望まれているらしい。

 鉱石などもダンジョン内でなら加工が出来、下層で発見されたミスリルなどを、ダンジョンの攻略にあたる探索者のために、職人が腕を(ふる)って武器や防具にしているという。

 機械が使えないため、全て手仕事。すでに失われかかっていた技術を掘り起こし、刃物の街と言われる都市から、老若男女問わず職人が押し寄せている状況だとか。

 地上ではミスリルとしての効果は失われるが金属としてとても優秀で、時代の技術発展への寄与が凄く期待されているらしい。


「めっちゃ活気づいて、ダンジョン様々とか言ってる人も多いんだぜ?」


 そうなのだ。草部(くさかべ)は思う。


 最初は未知のモンスター、未知のダンジョンと、人々は恐怖に怯えた。

 しかし蓋を開けてみれば、何の事はない。

 上層には野生動物に毛の生えたようなモンスターしか居らず人海戦術で制圧出来た。

 ただ上層は恐ろしく広いため、(いま)だに全域が把握されている訳ではない。

 マップ作成中に階層転移の魔法陣が見つかったのは偶然だった。

 しかし今まで探索したマップのおかげで、階層転移の魔法陣は、それぞれの階層のほぼ中央に位置している事が判明したのだ。

 転移させられる場所は階層端だが、中央に向かって探索すれば必ず魔法陣があった。

 結果、階層踏破率があがり、彼等は裁定の間まで一直線にやって来たという訳だ。


 今考えれば冷や汗が滴る。


 薬品の存在が生命の危機感を鈍らせた。それなりに手に入るため、薬品有りきの探索になっていたのだ。

 おかげで最下層では死ぬめにあった。彼女が現れなかったら死んでいたかもしれない。


 サクサク進む探索に調子に乗っていた。今まで転移した先には必ずセーフティエリアが存在したため、何も考えずに転移してしまった。


 最下層の転移先にはセーフティエリアがなかったのだ。しかも目の前には三体のサイクロプス。


 ニタリと口角を上げて巨人達は我々に襲い掛かってきた。とんでもない初見殺しである。


 サイクロプスの容赦ない攻撃は壁役に致命傷を与え、みるみる内に薬品が減っていく。まれにしか手に入らない魔力回復薬も、あっという間に底を尽き、手の施しようもない惨状だった。


 草部は苦々しく眼をすがめる。


 だが生還出来たのは僥幸だ。セーフティエリアがない場合がある事を周知出来る。初見殺しに会うのは我々だけで十分だ。


 うんざりと肩を落とす草部の背後から、いきなり歓声が上がった。何事かと振り返れば、そこには香ばしい匂いが漂っている。


 食欲をこれでもかと刺激する匂いの元は、幼女の手の間にある肉だった。小さな紅葉の掌に挟まれるように浮いた肉は、じっくりと焼かれジュワジュワ音をたてている。

 周囲が固唾を呑んで見守るなか、肉は油を滴らせながら適度な大きさに切り分けられ、用意されていた皿に自ら飛び込む。

 再び歓声があがり、男達は夢中になって肉を頬張っていた。

 

 .....焼いて、切って、配膳までワンセットかい。便利に魔法使ってんなww


 草部は、自分の目指す魔法使いが目の前に現れ、少々興奮気味だ。


 彼女のように魔法を使いたい。


 御相伴(ごしょうばん)(あずか)るか。肉の匂いに我慢出来ず、草部は慌てて食事の輪に駆けていった。




「魔法取得の条件?」


 千早は、もっしゃもっしゃと肉を頬張りながら首を(かし)げる。この二人は魔法を使っていた。今更何が知りたいのか。

 訝る幼女に草部は詳しく説明した。


「俺達は、ふとした事から偶然、魔法を手に入れたんです」


 二人は言う。火のない状況で切実に火を欲した時、精霊の支援を得たと。そして火の魔法が使えるようになった。

 同じ状況を作るため、彼等は水を持たずに探索に行き、渇きを利用して水の精霊の支援を得た。


「でも他がわからないんです。切実な願いに精霊は応えてくれる。しかし土や風とか。ダンジョンで必要になる状況がわからない」


 想像力の限界に二人は悩んでいた。


 千早は少し思案して、重そうに口を開く。


「多分これも女神様案件なんだと思うけど。ヒントはあげられる。答えじゃないよ。私も予測の域を出ないから。でも限りなく答えに近いと思う」


 期待に眼を輝かせる二人に、千早は重々しく呟やいた。


「神に祈れ」


「「は?」」


 二人の疑問符がシンクロする。


 千早は言う。あちらの女神様の事ではない。

 地球の神の御加護がダンジョンには反映していると。

 神々の御加護は精霊に好まれている。精霊は神々が大好きなのだ。地球の神々とて例外ではない。

 火や水を司る神々は身近だ。無意識のうちに祈り、御加護があっても不思議ではない。

 しかし土や風などは意識せねば恩恵を感じられない神々だ。祈っていなければ御加護もなく素養もない。


 爺様からの話だ。あちらでの常識だが、こちらでも間違ってはいまい。


 実際、多くの神々から御加護のあった千早は、さっくりと全属性魔法を取得した。


 多くを語らない幼女の言葉に、探索者達は顔を見合わせる。魔法を取得しているのは、世界中でも日本の二人だけだった。

 取得の方法は分かっているのに、魔力は上がれど誰も取得出来ていない。


 素養がないからか? 神々の御加護が必要?


 今までの疑問に答えをもらった気がした。幼女の言葉は彼等の胸にストンと収まり、しっくり来る。


 彼等が今回のしだいを上に報告する事によって、国を挙げての大お遍路が開始されるのだが、それはまた別の機会にww


ちょびっとドラゴンの過去に触れています。いずれ本編が一段落したら閑話で書きたいと思ってます。

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