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♯1

 王立アカデミーは魔法に特別秀でた者が集まる3年制の学校である。しかし、一年は素質があるだけでまだまだ上手く扱えない者が多い。

 この世界では、そもそも魔法が使える者と使えないものとに分かれる。持っている魔力の差もあるが、頭の中に流れるイメージを具現化できるか出来ないかが大きいと言えるだろう。

魔法は主に杖を媒介として使役するが、少し上達すると、杖以外を媒介にして使役することができるようになる。そこから更に実力をつけると、媒介を必要とせずとも魔法を駆使することができるようになる。


 何はともあれ、最初は皆杖から始める。杖は街で購入可能だが、この王立アカデミーでは入学式でその杖が支給される。今日はその入学式だった。



「あの子が王子様?」

「そうみたい。てことはこれで一年と二年に王族がいることになるね」



 杖の受け渡しが終わり、新入生代表、第二王子の挨拶も滞りなく終えた。あとは諸々の説明が終われば入学式は仕舞いとなる。だが終わりを待てず、在校生の密やかにしているつもりの話し声が所々から聞こえてきていた。



「二年に灯色(ひいろ)さまでしょ、あと双子の妹の(みやび)姫」



 今年の入学者の中にこの国の末弟がいると聞いて、在校生の話題はその件で持ちきりだった。



「で、一年に心紅(しんく)さまか」

「寮は誰の部屋の隣になるのかしら?」

「寮の部屋は王子だから特別扱いとかは無くて、無作為に割り振ったって聞いたぞ」



 様々な憶測と少しの事実が飛び交う会話を、王族三人は無言でやり過ごしていた。


❇︎ ❇︎ ❇︎


(かなで)!」



 遠いところから呼びかけられ、反射的に足を止めた。一年生が入学して来たと言うことは、自分もいよいよ二学年か、などと実感の伴わない感想を頭の片隅に追いやる。

奏は入学式が終わり自身の寮へ続く廊下を歩いているところだった。鎖骨あたりまで伸びた栗色の髪を揺らしながら振り返る。足音とともに待って!と、後ろからよく知った声が追いかけてきた。



「雅。心紅さまと話してくるのかと思ってた」

「今はいいよ。家でいくらでも喋れるもの。それにあの子、なんか最近変なのよね…って違う。それより!」



 この国の姫である雅は、友人の前では屈託無く笑う。何か言いたいことがあるらしく、長い黒髪を耳にかけながら殆ど背の変わらない奏の目を真っ直ぐ見つめた。



「来週の園遊会、一緒に来てくれない?」

「園遊会って、王妃さま主催の?いやいや、どうしてわたしが」



 王妃主催の園遊会とは、その年の初めに王妃自ら星読みで日取りを決め執り行う宴である。占いで決めるため、毎年開催される日は異なるのだが、今年は葉桜の季節に催すと公表されていた。



「大体、華族の皆さまばっかりでしょう?それにわたし、ダンスとか苦手だし」

「大丈夫よ。お堅い人もいるけど、年の近い人はみんな仲良しだもの」



 雅の言う仲良し、は言うまでも仲良しで、側から見ても険悪な空気には思えないだろう。特に同じアカデミー内の華族の人たちにはよくしてもらっているようだ。



「それに、お友達も是非って言われたの。ダンスは、その、わたしも苦手だから何も言えないけど」



 お願い!の一言を無下に出来ず、視線を逸らしながら奏は溜息を吐く。逸らした視線の先では風に揺れる木々と舞い散る花びらが春の訪れを告げていた。


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