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 エピソード1-3 【サチコの旅立ち】※挿絵『??』

「お、お母様ぁぁぁっ!」


 あまりの唐突さに、お母様と、話もできなかった。


「さて、母親の承諾もいただけました。これで、心置きなく、新天地へ行っていただけますね」


「え? い、今ので、承諾したことに、なるんですかぁ!?」

 

「なっちゃいます」

 

 ――やだ、やっぱり、この神様怖い!

 

「怖くないない。大丈夫ですよ。あなたの母親は、ちゃんと、新天地行きを、承諾しています。間違いなくね」


「そ、そうなんですね」


 わたしは、女神様の言葉が、嘘ではないと、なんとなく信じた。


「では、約束の指輪を……あら? もう、指輪を持ってるんですね。では、その指輪に、加護を授けましょう」


「え? 指輪……? ちょっ! か、勝手に……!」

 

 女神様が、指パッチンすると、わたしの、命より大事な指輪に、光が集まる。


「きゃぁぁ!」

 

 目もくらむような光が、わたしの左手――指輪に、収束する。

 ――数秒の後、なにもなかったかのように、光は収まった。

 おっかなびっくり、右手の指で、つついてみる。

 熱も持っていない。いつも通りの、指輪だった。


「さぁ、その指輪は、今、この瞬間から、神器『経験値+10の指輪』です!」


 どこからか、ファンファーレが鳴り響き、女神様が、激しく光り輝く。


 ――ま、まぶしいぃぃ!

 

 パチパチパチ。


 ――ん?

 

 横を見ると、青髪の少女が、やる気の無い拍手を、していた。

 ”早く、終わんないかな”

 少女の目が、そう言っていた。

 

「コホン。説明します。その指輪は、モンスターを倒すと、()()()経験値が、10追加で入るという、素晴らしい神器なのです!」

 

 光の消え、通常モードの女神様がやや、興奮気味に言った。

 

「はぁ……」


 ――よくわかんない

  

「くっ! もちろん、それだけじゃないですよ? なんと、この指輪の、、あなたが組んでいる、パーティメンバーにも、適用されます! まさに神器! ちなみに、最弱といわれている、スライムの経験値が10で、最強種、ドラグーンの経験値が、5万です」

 

「はぁ……」


 ――経験値やら、スライムやら、どらぐんやら、言われても……うーん、ぜんぜん、ピンと来ない

 

「あれれ? なんて薄いリアクション! そ、それでは、これでどうです!」

 

 女神様が、両手を天に掲げると、また、全身が光り輝いた。

 

「さぁ、受け取りなさい。これが、神剣『メンテナンスフリーの剣 ――仮』です!」

 

 女神様の手に、剣が現れた。

 

 ――名前、ダッサ! あ……


 心が筒抜けなのを忘れて、突っ込んでしまった!

 見ると、女神様が、少し悲しそうな顔をした。


 ――ま、まずい! 青髪さんが、ブチ切れちゃう!


 ファンファーレが、再び鳴り響き、やる気のない拍手が、聞こえる。

 パチパチパチ。

 わたしが、恐る恐る顔を向けると、青髪少女は、あくびを、かみ殺していた。

 

 ――ホッ。気づいてないみたい。また、怒られるかと、思った

  

 刀――というより剣――を、受け取り、そっと、抜いてみた。

 大きさの割に軽く、小さめの、フライパン並みの、重さだった。


「きれい……」


 銀色に光り輝く刀身に、思わず、声が出た。

 刃渡り、70センチほどの、片刃剣だ。

 日本刀と言うには、少し幅が広く、反りはあるが、直剣に近い。

 なんたって、女神様の送りものである。

 さぞ、素晴らしい効果が、あるに違いない。


「ふぅ。どうやら、やっと、喜んでもらえたようですね。な、名前は、あくまでも、仮ですからね! わたしのセンスを、疑わないで下さい! その剣は、『耐腐食機能』と『自動修復機能』のついた、大変、使い勝手のよい剣なのです。さらに、指輪の神器と違い、あなた方専用武器です! あと、生活に必要な物は、リュックに、入れておきました」


 いつの間にか、わたしの横に、大きなリュックが、置いてあった。


「自動……修復? じゃぁ、切れ味が、ものすごいとか……?」


「え? 切れ味は、普通ですよ?」


「え? じゃ、じゃあ、この剣って、手入れが必要ないだけで、普通の……」


 わたしの言葉に、女神様が、すごく悲しそうな顔をした。


 ――ま、まずい! 青髪さん、に怒られる!


「わ、わぁ! す、すごいです! こんなすごい剣を、もらってもいいんですか! わ、わーい! うれしいなぁ!」


「で、でしょ! 喜んでないかと思って、びっくりしました! あ、あと、注意点を一つ。最初の三ヶ月は、言語や、その他もろもろの、インストール期間ですので、神器の指輪を、外さないように。外すと、脳に異常をきたす場合が、ありますので」


 女神様は、笑顔になった。

 どうやら、心から、ごまかせたようだ。

 

 言われるまでもなく、指輪を、外すことはない。

 この指輪は、わたしの身体の一部、なんだから。


 ――ん?


 女神様の後ろで、青髪少女が、ぐっと、サムズアップしている。

 わたしは、正しい対応をしたらしい。

 冷静になって、よくみると、青髪さんは、芸能人レベルの、美少女だった。

 しかも、とんでもなく、胸が大きい。

 背格好は、中学生くらいにしか、見えないのに、だ。

 修道服の胸元を、大胆に開け放ち、その豊かな谷間に、ペンダントトップが、沈み込んでいる。

 わたしは、その巨乳凶暴美少女へ、ぺこりと、頭を下げた。


「さて、贈り物も渡したことですし、さっそく、行ってもらいましょう」


「えぇ! ちょ! そ、そこへ行って、なにをすればいいんですかぁ!?」


「え? あぁ、それを言うのを、忘れてました。テヘ!」


「ヒュー! 女神様ったら、おっ茶目ぇ! ヒューヒューッ!」


 青髪少女は、女神様のよいしょに、ぬかりがない。


「コホン、あなた方二人は、新天地で……」


「新天地で……?」ゴクリッ……。


「生きてください」


「へ?」


「日々の生活を、謳歌してください」


「それだけ……ですか?」


「はい」


「怪物を、退治しなくて、いいんですか?」


「しなくていいです」


「悪を、懲らしめなくても、いいんですか?」


「お好きにどうぞ」


「逆に、悪いことをしたり……」


「ご自由に」


「あの……」


「はい、なんでしょう?」


「それって、女神様に、なんのメリットが、あるんですか?」


 わたしは、青髪さんのようすをうかがいながら、聞いた。

 失礼な質問だったら、すかさず、恫喝が入るだろう。

 ――よし、特に、怒ってないみたいだ。


「ふむ、もっともな、疑問ですね。でも、それを気にする必要は、ありません。私は、あなたが――いえ、あなた達が、どう生きるのかを、見たいだけなんですから」


「でも……」


「チッ!」


「ひっ!」


「これ! マリアちゃん! ペシペシ。サチコさん、あなたは、このチャンスを、利用すればいいだけなんですよ。私を、信じて下さい。決して、悪いようにはしません」


「はい……。疑って、すみませんでした」


「あとは、サポート役のマリアちゃんが、助けてくれるでしょう。さぁ、心の準備は、いいですか?」 


「あの、お母様は……?」


「安心して下さい。同じ時間、同じ場所に、転送します」


 ――ん? 同じ時間? どうして、そんな当たり前のことを?


 少し気になったが、青髪少女が、イライラしているので、質問するのは止めた。


「は、はい!」


「では、お行きなさい」


 女神様の全身から光があふれ、世界を、塗りつぶす。

 白く染まった世界に、ファンファーレが、鳴り響く。

 青い少女の、拍手はない。


「未来は時に、あなたの思い描いている形では、ないかもしれません」


 女神様の、やさしい声が、聞こえる。

 女神様と、青い少女の姿が、薄れていく。


「でも、心配しないで」


 わたしの身体が、光の粒子になり、分散していく。


「人を思いやる、強い願いは、必ずや、あなたを、よい方向へと、導くでしょう……」

 

 女神様の声が、遠のいていく。


「あなた達の人生に……幸、多からん……ことを……」


 その言葉を最後に、意識が…………落ちた。



 ★



 ――サチコが消えた、その場所、その直後



「よかったのですか? あんな、強力な神器だけではなく、最高ランクの、神剣を与えても」


 青い修道服を着た、()()の少女が、グラスに、真っ赤な液体を、注いだ。


「フフ。大丈夫ですよ。その分、ちゃんと働いてもらいますから。それにしても、なんて綺麗な魂……。資格は、十分ですね」


 赤い髪の女性が、グラスを口へ傾けた。


「わたしには、あの魂が、欠損しているかに、見えました。しかも、”強力な呪い”まで……」


「”美しい呪い”、と言って欲しいですね。欠損しているからこそ……ですよ?」


「は、はい。しかし、あの者が()()()の手に渡れば、世界の(ことわり)が、揺らぐやもしれません。その場合は、どのように……」


「舵取りは、すべて、あなたにお任せします、シスター・マリア」


「よろしいのですか? そうなる前に……殺すことに、なりますが……」


「任せる……と言ったのよ?」


「し、失礼しました!」

 

「ずっと、召喚できる機会を、待ち続けた価値があるのか。そして、あんなに、歪で、純粋な愛が、どんな結末を迎えるのか――見せてもらいましょう。それにしても……フフ」

 

 真っ黒な髪に、白目まで、漆黒の瞳に変貌した、自称女神は……。


「奪い甲斐が、ありますね」


 大きな牙をのぞかせ、ニタリと、凄惨に嗤った。

挿絵(By みてみん)

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