表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/93

 エピソード1-2 【ゆるい説得】 ※挿絵『使徒(凶暴)』

 ★



『お母様、今日は、お出かけしませんか?』


 わたしは、洗濯物を畳みながら、努めて、明るく声をかけた。


『……行くって、どこへだい?』


 ソファーに腰掛ける、お母様の声は、沈んでいる。

 お母様は、このところ、ずっと元気がなかった。

 無理もない。

 今は、ゴールデンウィークだ。

 つまり、()()()が、失踪した時期なのだ。

 

 ――わたしが、お母様を元気づけなきゃ!


 でも、なんて答えたらいいのだろう。

 普通に買い物に行っても……楽しんでもらえないだろうな。

 どころか、かえって、疲れさせてしまうかもしれない。

 

 ――せめて、何か、気の利いた冗談でも、言えたなら……

 

 わたしは、ポンコツ頭ながら、必死で、ウィットに富んだ言葉を、考えた。


 ――あ、そうだ!

 

 突然、パッとひらめいた。

 

 ――ふふ、これなら、お母様も、笑ってくれるはず!

 

 なぜかそ、のとき、頭の中で、()()()()()()()が、聞こえた気がした。

 

『お母様! どこか、遠くに行きませんか? 誰も行ったことがないような、ず~っと、ず~っと、遠いところへ』


 ”ははは、誰も行ったことがない場所に、どうやって、行くのさ! ”

 

 そう言って、笑ってくれると、思っていた。しかし……。


『あぁ、そんな所があれば、行ってみたいもんだね』

 

 お母様は、そう言って、少し、微笑んだ。すると……。



 ――承りました



『え? だ、だれ?』『ん? 今の声は……?』


 知らない声が、聞こえた、次の瞬間!

  

『えぇっ!』『んなぁっ!?』


 周りの景色が、黒一色に、染まった。

 体重を支えていた、床がなくなり、なにもない空間に、投げ出された! 


『きゃぁぁぁぁっ!』『ひゃぁぁぁぁぁっ!』


 わたし達は、落下した。

 どんどん、速度が上がる。


『いぃぃぃぃぃぃっ!!』

 

 とんでもないスピードに、意識が遠くなる。

 薄れゆく意識の中、わたしは、身動きしないお母様へ、手を伸ばした。


 ――わたしの、命に代えてでも……

 

「お……かあ……さ……」

 

 ――お母様を……助けな……きゃ……

 

 わたしは、そのことだけを考え――そして、わたしの意識も、闇へ沈んだ。



 ★


 

「もしかして、あのときの声は……」

 

「はい。私です」

 

 ニコリ、と笑う女神様は、緑色の、ウェーブがかった髪になっている。


「思い出して、いただけたようですね」


 いつの間にか、女神様の前には、ティーカップが、用意されている。

 そこへ、これまたいつの間にか、青いメイド服へ着替えた、凶暴な青髪少女が、お茶を注いだ。

 女神様は、そのお茶を、それはそれは優雅に、お飲みになった。


 ――あ、いいなぁ


 わたしも、喉が渇いていた。


 ――ん……? あれれ?


 いつの間にか、わたしの前にも、ティーカップが!

 わたしが、チラリと青髪少女を見ると……目が合った。


「チッ……」


 青髪さんは、舌打ちをして、わたしの横へ来た。

 ただでさえ、この年代の少女が、苦手なわたしは、少し、身体が震える。


「え……?」


 わたしのティーカップには、ほんの少ししか、お茶を注いでくれなかった。


「あ、あのぉ……」

「あぁ!?」

「ひっ! す、すみません!」


 明らかに、年下の青髪少女へ、本気で怯えた。

 怖いので、お茶の追加は、あきらめた。


「では早速ですが、今から私は、サチコさんを、説得しようと思います」



「へ? 説得、ですか?」


 わたしは、少ない貴重な、お茶を、飲んだ。


 ――っ!? なにこれ! このお茶、おいしぃ!

 

「おいしいでしょ? このお茶は、日本製なんですよ? さて、説得の件ですが、まず、私は、あなたの”望み”を、知っています」


「え?」


「あなたは、ずっとそれを願いながら、今まで、叶えられなかった……。違いますか?」


「その……通りです」


「断言します。このままだと、あなたの”望み”は、永遠に、叶わないでしょう」


「そんな! だって……」


 女神様の言葉を、否定したかった。でも、できない。

 うすうす、自分でも、気付いていたからだ。


「そこで、提案です。母親と共に、新天地で、新しい生活を、始めませんか?」


「え? し、新天地?」


「はい。地球とは違う場所です。そこに、あなた方二人で、行って欲しいのです」


「地球じゃないんですかぁ!?」


 ――え? 空気は……息は、できるの!?


「そりゃできますよ。それどころか、地球よりもマナの濃い、おいしい、空気ですよ」


「まな?」


「コホン、まぁ、その辺りは、おいおい……。そこに行って頂けるなら、あなたの”望み”をかなえる、お手伝いをすると、約束しましょう」


「わたしの願いを……かなえて、下さるんですか?」


「いえ、わたし達にできるのは、あくまでサポートです。その先は、あなた次第です。しかし……」


「しかし?」


「行かないのなら、可能性は、ゼロですよ?」


「……少し、考えさせて下さい」


「いいですよ。では、私は、説得を続けます。もし行ってくれるのであれば、あなた方二人に、神器の指輪を、授けましょう。これがあれば、言葉も通じますし、強くなれたりしますよ?」


「うーん……」


「くっ……仕方ありません! おまけに、”神剣”を、一振り与えます!」


「剣をもらってもなぁ……」


「ごらぁぁぁぁぁぁっ! 黙って聞いてたら、調子に乗りおって! 女神様! わたしに任せて下さい! 10秒で、キャンとも言えないように、してみせます!」

挿絵(By みてみん)


「ひぃっ!」


「こら! マリアちゃん! いけない! い~け~な~い! ペシペシ。口を封じてどうするんですか!」

 

「はい、すみません……」青い少女は、キッと、わたしを見て、言った。「サチコとやら! あなたの望みは、新天地でしか、叶えられないのですよ!? なにを、悩むことがあるんですか!」


 ――あ、あれ?


 青い少女の服が、いつの間にか、メイド服から、修道服に戻っている。


「マリアちゃん、急かさないの! ごめんなさいね、サチコさん。ゆっくり、考えていいのですよ?」


 ――願いをかなえること……わたしの命は、そのためにあるんだ


 日本に、未練はなかった。

 友達もいない、ろくな想い出もない、日本になんか……。


「いえ、その方の言うとおりです。悩む必要は、ありませんでした。でも一つだけ……」


「はい。なんでしょう?」


 女神様は、心を読んでいるはずなのに、わたしが言うのを、待ってくれた。


「あの……やっぱり、お母様の承諾がないと……」


「なるほど、確かに、その通りですね。では、承諾をもらいましょう」


「へ?」


 女神様が立ち上がり、パチン、と指を鳴らすと、お母様が、突然現れた。


「新天地へ、行っていただけますか?」

 

 女神様が、お母様にニコリ、と微笑んだ。


「こ、こりゃ、なんのトリックだよ!? ん? あんたは、さっきとは違う、ハレンチ女だね!? 訳のわからないこと言って、煙に巻こうって魂胆かい! ハッ! 新天地だか、チンゲンサイだか、知らないけど、やれるもんなら、やってみな!」


「はい、そのように」

 

 パチン、と女神様が指を鳴らすと、お母様は、また姿を消した。


「お、お母様ぁぁ!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品はいかがでしたか?

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

上にある『☆☆☆☆☆』で
作品の評価をしましょう。
面白い!『★★★★★』
いまいち『★☆☆☆☆』



平成32年8月1日(土)に、ハイファンタジーで新作投稿開始しました!
成分は シリアス60% コメディ30% 塩少々となっております
『魔人転生~オックスと7人の♀悪魔たち♀~愛弟子に毒殺された伝説の聖人は悪魔神から最強魔人の力を得ると天使を半殺しにして転生したので真面目過ぎた人生をもう一度やり直す』
ブクマ、評価で応援いただけると大変励みになります。
script?guid=onscript?guid=on  小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ