エピソード1-1 【えぇ!? 女神様ぁ?】 ※挿絵『女神様』
「……楽…………て! ……そんな…………よ!」
誰かが、叫んで……る?
――この声は……お母……様? うっ!
まぶしくて、目が開けられなかった。
「………………! …………っ?」
――え? こ、声が、でない!?
それどころか、わたしが、どんなに力を入れようと、指一本、動かなかった。
薄目を、開けた先では、お母様らしき人が、声を荒げて、白いドレスの女性に、詰め寄っている。
うっすらと見える、周りの景色は、異常だった。
ただただ、白い空間が、どこまでも、広がっているように見えた。
――お母様!
なんとか、声をだそうとした。
ぼんやりと見える、お母様は、わたしに気づくことなく、女性に、怒鳴っている。
「どこのテレビ局だか、知らないけど、なに勝手に、人を連れてきてるんだい! こりゃ、誘拐だよ! 拉致だよ! 犯罪だよ!」
――ゆ、誘拐?
「いえ、そうではなくて……」
「大体、最近のテレビは、なんだい! くだらない番組ばかりやって! 視聴者のことを、バカにしてるとしか、思えないね!」
「いえ、バカになんて……あ、いや、それ以前に、私は、テレビ局とは……」
――え? テレビ局?
「あんたみたいな、頭の悪そうな、ハレンチ女じゃ、話にならないね! 責任者を、だしな!」
「あ、頭悪そう!? ハ、ハレンチ!? ……ちょっ、あなたは、消えてなさい!」
女性が、指をパチンと鳴らすと、瞬間、お母様の姿が、煙のように消えた。
――え!
お母様が、消えた!? まさか……。
「おかあ……さ……ま……!」
必死に、声を絞り出した。
「落ち着いて下さい」
白いドレスの女性が、近づいてきた。
「おか……あ……さ……ま……を……!」
「起きたばかりなんです。無理はしないで」
女性が、そう言って、わたしに、手の平をかざした。
すると、光が、わたしの身体を、包み込んだ。
全身を覆っていた鉛が、溶けるような感覚だった。
「さぁ、ゆっくりと、起き上がって下さい」
10秒ほどで、光が消えると、女性が、声をかけた。
わたしは、飛び起きた!
視界がクリアになり、声も出る。
身体に不調はなく、普通に動ける。
それどころか、妙に身体が軽かった。
目の前には、白いドレスの女性が、はっきりと見える。
その女性は、髪も、目も、真っ白な、外国人だった。
いつもなら、物怖じしてしまうほど、美しい女性だ。
しかし、今のわたしは、怒りに燃えていた。
「お母様は、どこよ!? お母様を、どぶふぇぇぇっ!」
わたしが、女性に駆け寄ると、透明な壁にぶつかり、すっころんだ。
「この、無礼者がぉ!」
顔を上げると、青い修道服を着た、青髪の少女が、わたしを、にらんでいた。
「こら! マリアちゃん! いけない! い~け~な~い!」
白いドレスの女性が、右手の指二本で、左手の甲を、ペシペシと、叩いている。
流ちょうな、日本語だ。
修道服の少女は、シュンと、しょげかえった。
「大丈夫ですか?」
女性が、わたしに手を、差し伸べた。
「お母様は、どこなの! お母様を、返して!」
わたしは、その手を振り払って、叫んだ。
「あん!?」
立ち上がったわたしに、青い少女が、凄んだ。
恐ろしいほどの眼圧で、わたしを、にらんでいる。
わたしは、青髪少女を、にらみ返した。
足が、全身が震えているけど、目をそらさなかった。
「こら! マリアちゃん! いけない! い~け~な~い!」
白い女性が、再度ペシペシと、手の甲を叩いた。
またまた、しょげかえる青い少女。
「ごめんなさいね。この子は、私への愛が深くって、つい、突っ走っちゃうんです。あ、紹介しますね。使徒の、マリアちゃんです。それに、大丈夫ですよ。あなたの大事なお母さんは、無事です」
紹介された、青髪少女が、ふてくされた顔で、ぺこりと、頭を下げた。
しかし、その目は、ずっとわたしを、にらんでいる。
「え? そう……なんですか?」
わたしは、青い子に怯えながらも、お母様の無事に、ホッとしていた。
一瞬で、怒りが鎮火した。
――なんでだろう……不思議と、この人の言ってることは、嘘じゃない……気がする
わたしは、なぜか、白い女性の言葉を、信じた。
「別に、不思議じゃないですよ。わたしは、女神なんですから」
――え? め、女神?
「はい」
「あれ? わたし、声に出してました?」
「いえ?」
「え?」
「心を読みました」
「はぇ? こ、心を?」
「はい」
――こ、この人、正気なの? もしかして、危ない人?
「危なくない、危なくない」
「えぇぇぇぇっ! じゃ、じゃあ……」
――1足す1は?
「2です」
「あわわ、じゃ、じゃあ……」
――29万9868かける2万8569は?
「85億6692万8892です。自分で答えのわからない質問は、しないで下さい」
「ほ、本物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あぁん!?」「ひぃっ!」
「こら! マリアちゃん! いけない! い~け~な~い! ペシペシ」
白いドレスの女性は、長い黒髪を揺らしつつ、青い少女を、しつけた。
犬みたいな扱いだ。
――ん? 黒い髪?
そのとき! わたしが見ている前で、女性の顔が、西洋人からアジア人へ、変化した!
「ひぃぃ!」
「あら、ごめんなさい。この仮体躯だと、姿が安定しないんですよ」
――ほ、ほ、本物だぁ! この人、本物の女神様だぁぁ!
「だから、そう言ってるでしょうに」
「め、女神様! お母様を……お母様を、返して下さい!」
「はい、お返しします。ですが、その前に、お話をしませんか?」
「は、話……ですか?」
「はい。どうぞ、あちらにおかけ下さい」
そう言って、黒髪の女性が、わたしの後方に、指を差した。
わたしが振り返ると、そこには、白い二人がけの、テーブルセットがあった。
――あ、あれ? ここにあった、ソファーは?
「細かいことは、気にしないで下さい」
そう言って、わたしの横を通り、テーブルの椅子に、腰掛けた。
わたしも、それにならって、腰掛けた。
頭は、パニック状態のままだ。
「さて、サチコさん。どこまで、覚えていますか?」
「どこ……まで?」
――あれ? 目覚める前って、たしか……