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第三話


 ガトの案内で二人はとりあえず一番近い街へと移動することにする。

 その道中何度か魔物と戦うことになり、リュウとガトはそのつど違う忍術を使って自分たちの腕試しをしていた。


 ガトが得意なのは、最初に使った分身の術からの多段攻撃。そして、火遁の術だった。これは小さい頃リュウが練習していたのが火遁であるためだった。

「頭領は小さい頃から火遁をバンバン使っていましたからにゃ。拙者はその頃の記憶が能力の元ににゃっているのにゃ」


 反対にリュウはそれから身に着けた全ての忍術を使うことができる。

「ガトもなかなか上手かったぞ、ただガトが火遁を使えるのは記憶の問題だけじゃなく特性によるものもあると思う。見ていたところ、他の忍術を使おうとする時は気の流れがあまり良くない」

 リュウはガトの気の流れを見て、そう判断する。


「にゃるほど、つまりは火遁に特化させていったほうがいいということですにゃ?」

「あぁ」

 納得がいったように頷くガトは自分でも他の忍術を使いづらいと感じていたため、それを指摘してくれたことをありがたいとすら感じていた。

 そして、それを手帳にメモしていく。


「まあ、それだけ使えれば十分戦えるだろ。あとは、体術の強化と今使える忍術の使用法次第だな」

 淡々と続くリュウの助言を聞いて、ガトは自分が使える能力を再確認していた。

「にゃるほどにゃるほど、まずは使える力を有効に活用できるようににゃらにゃいとにゃんですにゃ」

 そして、その指摘内容をあとでも確認できるようにさらさらと筆を走らせてメモする。


「そんなことを話していたら次が出て来たな」

 前方に視線をやると、リュウたちに襲いかからんと前方から次の魔物がやってきていた。

「それでは拙者が!」

「いや、俺がやろう。これまでのは実力試しだったが、今度のは火遁を使った戦い方だ」

 逸る気持ちのガトを制して、リュウが戦うことにする。ガトは逆らうことなく後ろに控える。


 さっと身構えたリュウは苦無を手にして魔物に向かって行く。

「まず、敵と戦う時にむやみに忍術を使うんじゃなく効果的に使うことを心掛けるんだ。こいつらは、さっきガトが戦ったのと同じ種類の魔物だが、こいつらは明らかに火を怖がっていた」

 こいつらと言われたそれは牙が異様に長いイノシシの魔物だった。


「ふむふむ」

 ガトは一言一句漏らさないようにと傍に控えつつもリュウの言葉をメモしている。

「よくゲームだと魔物には弱点となる属性がある。恐らくこの世界の魔物にも多かれ少なかれそういった節があるようだ。だから、その弱点をうまくつくと」

 そう言ってリュウは猪の攻撃を軽く回避して後ろに回ると、素早く印を結ぶ。


「火遁、火炎息吹の術!」

 印に促され、口元を起点に炎が吐き出されていく。その炎がイノシシを包み込んで行くと、先ほどまでの猪突猛進な態度はなりを潜め、その場で身体にまとわりついた火を消そうと必死に転がり始める。


「これで戦闘意欲を奪える。また、ダメージ量も大きいはずだ。あとは、苦しまないようにとどめは素早く」

 そう言うと、転げまわるイノシシの首元に瞬時に近寄ると苦無を深く差し込み、一気に絶命させる。

「と、頭領すごいのにゃ!」

 忍術においても、敵を仕留める攻撃にしてもガトよりも数段上であり、流れるように自然に力を使いこなすリュウをみたガトは目をキラキラさせながら感動していた。


「まあ、ずっとこんなことやってたからな。忍術に関しては使いやすくなってるし、なんというか身体も動きやすくなっている気がするな」

 リュウの言葉のとおり、この世界では空気中にある魔力マナの影響で身体機能が変化することがある。リュウの場合は、身体能力アップの効果が起きていた。


「そういった変化を自らで確認して、何ができるのか、何が通用するのか、何が一番効果的なのか。それらを考えて戦うといい」

 リュウが自分を思って助言してくれていることを感じたガトは神妙な面持ちで頷く。


「さて、それじゃ行くか。ここからしばらくは魔物も出てこなそうだ」

 軽く手をはたいて歩き出したリュウの言葉にガトが不思議そうに首を傾げる。

「あ、あの頭領。魔物が出てこにゃいのはいいことにゃんですが、にゃぜそれがわかるんですかにゃ?」

 振り返ったリュウはその質問を受けて、ポンッと手を打つ。


「そうか、ガトは魔物の気配を感じることができないのか……なんとなく猫だから動物的直観ってやつでいけるのかと勝手に思い込んでいた」

 思い込みはよくないなと思いながらリュウは腕を組み、立ち止まってしばし考えこむ。


「あ、あの、頭領? その、すいませんにゃ。拙者には、その、気配が感じられにゃくて……」

 期待外れだと思われたのではないかとしょんぼりと肩を落としたガトは落ち込んでいる様子だったが、顔を上げたリュウはすぐに笑顔になる。

「いや、恐らくガトにもその能力はあるはずだ。さっきも言ったが人である俺よりも猫であるガトのほうが本来であれば気配に対して敏感なはずだからな」

 それを聞いてガトは本当にそんな力が自分にあるのかと、身体をぺたぺたと触りながら見回す。


「これも恐らくなんだが、ガトはうちで生まれた頃からうちで飼われていたから他の猫に比べて野生というものが少ないんだと思う……まずは目を瞑ってみろ」

 ガトの動きに愛らしさを感じながらリュウは試してみたいことを提案する。上司であるリュウに言われるままガトは目を閉じる。


「自分自身を感じるんだ、それができたら俺がいることを感じろ」

 目を閉じて視界が真っ暗になったガトはリュウの言葉を信じて、自分、そしてリュウの気配を感じ取ろうと集中していく。耳に聞こえる風に揺れる草のざわめきが遠くに感じてきたころ、うっすらとだがリュウと自分の存在が気のようなもので捕らえられる。

「……にゃ、にゃんかわかる気がしますのにゃ。拙者と頭領の位置が!」

 先ほどまで分からなかったものがちゃんと感じ取ることができたことに喜んだガトは感動しながら目を開く。


「よし、いいぞ。今はそれでいい、これから毎日時間がある時にはそれを練習しよう。徐々にはっきりと感じ取れるようになる。なあに、俺ができたんだガトならすぐだ」

「――はいにゃ!」

 自分の力を認めてくれているリュウに対して、ガトは満面の笑顔で返事をした。

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