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第二十七話


 三人は圧倒的なまでに多くの魔物たち、そして魔族を前にしても怯む気持ちはなかった。


「さてさて、どうやって倒そうかにゃ」

 むしろ高揚感さえ感じたガトは目を細めて笑っていた。


「ハルカはあいつらを一気に倒す魔法使えるか?」

「えっと……すいません、さすがにアレを全部というのは難しいと思います。三分の一くらいはいけるかもしれませんが……それにそれだけ大きな魔法となれば魔力を練るのに多少時間がかかると思います」

 杖を握ったハルカは自分の魔法と相手の数を考えて冷静な判断を口にする。


「そうか、だったらまずは俺とガトが突っ込んでいって数を減らそう。それで、魔法の準備が整ったら発動して一気に潰そう。残ったやつは……俺がなんとかするか」

 適当過ぎる作戦だったが、思う存分戦える状況にリュウはにやりと笑う。


「それじゃ、止めは頭領に頼んだにゃ」

 主人に良い場面は譲るとガトは笑顔でそう言うと、ふわりとほほ笑んだハルカも頷く。

「――お主ら三人だけであやつらと戦うのかの?」

 すると、第四の声が三人に質問する。リュウたちが振り返るとそこにはいくらか戦ったのか小さく魔物の返り血のついた老人が立っていた。


「あんたまだいたのか……ここは戦場になるから下がってたほうがいいぞ」

 リュウは既に戦場になっているが、年上はいたわるべきだろうと老人に声をかけた。

「ほっほっほ、わしのことなら気にせんでええ。これでもそれなりに戦うことはできるからのう」

 カッと目を開いた老人の気迫にリュウは一瞬だけ気圧される。だが同時に老人の正体にも予測がついた。


「そうか……あんた、前の騎士団長だな。その力ならあいつらとも戦えるか。それにしても、さっきの現団長さんよりもあんたのほうが圧倒的に強いだろ。――なんで譲ったんだ?」

 リュウの質問に威圧を解いた老人はぱっと笑顔になった。


「ほっほっほ、まあ色々とあるんじゃよ。……そんなことより、相手さんも痺れを切らしたみたいじゃぞ」

 再び厳しさを取り戻した老人の言葉を受けて三人は前方に視線を向けた。

「よし、ハルカは魔法を頼む。ガト、じいさん行くぞ!」

 リュウの言葉を受けて、それぞれの武器を構えた二人が走り出す。





「ガト、増やすぞ!」

 リュウとガトの二人はその言葉だけで同じ印を結ぶと、分身の術を使う。

「な、なんと面妖な!?」

 老人は目の前の二人が急に増えたことに驚きながらも足を止めずにいた。


 老人が驚くのも無理はない。ガトは以前と同じ五人に増えた程度だったが、リュウの数はなんとおよそ五十人に増えていたからだ。

「先にやらせてもらおうか。――火遁炎破の術!」

 分身したリュウたちは一斉に手の先から炎の玉を複数放つ。一つの大きさは拳大程度だったが、一人あたり十個ほどの玉が出ていた。


「すごいにゃ!」

 分身体も含めてガトは主人の技の切れの良さを見て歓声をあげる。

 五十人が十個ずつ、合計で五百個の炎の玉が掌を離れると上空に向かって行く。


「ほ? 上に?」

 飛行している魔物はいないのに、なぜ上空に魔法らしきものを放つのか――それを老人は疑問に思う。


「……落ちろ」

 リュウが指を下に向けると炎の玉は勢いよく地面に降り注ぎ、次々と魔物たちに襲いかかっていく。それはまるで隕石のようであった。


 爆発音に似たドカンドカンと大きな音とともに炎に巻き込まれ、バタバタと倒れていく魔物たち。

「な、なんだというんだこれは!?」

 驚いているのは魔物たちが優勢になったことでいい気になっていたあの魔族の男だった。

 一切の魔力を感じないその炎の玉が配下の魔物たちを次々に倒していくのを見て、唖然としていた。


「拙者も負けていられないにゃ。――火遁猫火の術!」

 気合の入った横顔の五人のガトから猫の形をした炎が放たれる。猫特有のしなやかさをもって猫型の炎が走っていく。

「ほほっ!?」

 今度は炎の猫が飛び出していったことに老人は声をあげてしまう。数々の相手と戦った経験のある彼の目から見てもリュウたちの攻撃からは魔力を感じなかったからだ。


「今度の猫火は本物にゃ!」

 冒険者ギルドでのランク評価の時に使ったものは熱くないものだったが、今度は攻撃性の強い本物の猫火だった。


「ニャアアアアア!」

 大きく鳴き声をあげて、炎の猫はリュウの生み出した炎の玉で倒しきれない魔物に噛みつき、瞬く間に燃やしていく。とどめをさし終えるとしゅるんと丸く飛び上がって猫の炎は消えた。


「お、お主らすごいのう……。これではわしの出番なぞ必要ないのではないかもしれんな……」

 老人は剣を抜いて走っていたが、いまだ彼らの攻撃を受けていない魔物がいる場所までたどり着いていない。


「俺たちの攻撃はまだまだ続くからな。さっさとしないと出番はなくなるぞ?」

 その言葉のとおり、淡々とした表情のリュウは生き残っている魔物へとものすごい速さで手裏剣を投げていた。その速さはまさに神業のごとく、的確に急所へ命中させ魔物を倒していく。


「そうだにゃ!」

 高く飛びあがったガトもリュウに出してもらっていた手裏剣を素早く投げていく。


「こ、これは、少し急がないとじゃな……ふっ!」

 戦闘に加わるべく老人も走る速度をあげて生き残っている魔物たちに鋭く斬りつけていく。剣を振る動きは達人そのものであり、確実に魔物の息の根を止めていた。


「ほう、じいさんもなかなかやるな」

 三人は完全に戦場を支配していた。魔物たちは先ほどまでは優勢だったはずの自分たちがなぜここまで押されているのか理解できなかった。一度誰かが逃げ出したのを合図にするように阿鼻叫喚といった様子で散り散りに逃げ惑っている。


「――くそっ、さっきのやつらか。一体何者だ!!」

 いち早く異変に気付いた魔族は自分の手下の魔物が倒れていくのを見て苛立ち交じりに大声を出していた。二段構えで街を襲おうと企んでいた作戦がボロボロに崩れていくことに焦りを覚えていた。


 相手に手を出そうにも、統制の崩れた魔物たちが前にたくさんいるせいで進めずにいる。

「お前たち邪魔だ!」

 とうとうしびれを切らした魔族の男はイライラして魔物たちを殴り飛ばしていく。自分たちより強い力を持つ魔族の男に殴られた魔物たちは怯えるように距離をとる。


「さて、そろそろいいか……ガト、じいさん、引くぞ!」

 リュウに声をかけられた二人も状況を把握しており、既に移動を始めていた。

 三人は全速力で移動したため、あっという間にハルカが攻撃できる準備が整った。


「――いきます。《フレアストーム》!!」

 複雑に編み込まれた魔法陣の上で真剣な表情をしたハルカが杖を構えて使った魔法は炎の竜巻。

 これは炎と風を組み合わせた高位魔法。このレベルの魔法を使うことをできるのは、世界でも数えられるほどしかいない。ハルカの能力の高さが良くわかる魔法の一つだ。


 そして、生み出された炎の竜巻は大きく高く炎の渦を巻き起こし、魔物たちを次々に飲み込んでズタズタに燃やし尽くしていく。


「――ぐっ……くそっ、くそ!」

 周囲の魔物たちを盾にしつつ、自慢の鍛えた肉体と魔力を駆使してなんとか炎の竜巻を耐えている魔族は悔しさに歯噛みしながらそれしか言えずにいる。


「…………」

 そして目の前で巻き起こる高位魔法をただ呆然と見つめる老人は何も言えずにいた。


「これで、残りはあいつだけか」

「だにゃ」

 しかし、リュウとガトは落ち着いてその様子を見ていた。


お読み頂きありがとうございます。


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