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第二十五話


 リュウとガト、そしてハルカの三人は騒ぎ立つ街並みを移動して、魔族が襲ってくるという方角の城壁へとのぼっていく。

 忍者であるリュウとガトは足に気を流して一気に壁を駆け上がっていき、ハルカは魔法で浮遊することで二人のあとを追いかけた。


 街の住民たちは街から逃げる者、ただただ慌てていて何をしていいのかわからない者、とりあえず街の反対側に逃げる者、ギルドや騎士団に助けを求める者など様々な反応を示しており、リュウたちの行動に気づく者はいなかった。


「さて、ここなら眺めがいい。まだしばらくはこないだろうから、少しゆっくりしていよう」

 見晴らしのよい城壁の上で、風に吹かれながらリュウはのんびりと腰を下ろした。


「だにゃ、ハルカさんも座るといいにゃ」

 ガトは隣にハンカチを敷いてハルカが座るスペースを作る。

「は、はいっ……確かにまだ敵影は見えないみたいですね」

 ハンカチの上に腰かけたハルカも視力を魔法で強化して遠く地平線を見たが、魔族や魔物の姿は見えなかった。


「頭領はどうなると思うにゃ?」

「なんとも言えないな。魔族の実力がわからないし、さっき俺たちが戦った試験官もAになるかもしれないとか、元Aランクだとかそのあたりだ。現役Aランクやそれ以上がいるかどうか……」

 彼我戦力がわからない現状では何も判断できない。それが冷静なリュウの判断だった。


「訓練所でも話しましたが、私の知る限りでは魔族はかなり強いという話です。人が太刀打ちできるかどうか……Sランク冒険者でもいれば違うんでしょうが……」

 Sランク冒険者――それは一応ランクづけされているが、ギルドで実力を示して認定されるものではなく、多大な功績を残した者や、はかりきれない実力を持った者のみに与えられるいわば称号のようなものだった。


「さてさてこの街にはそのSランクがいるかどうか……あとは騎士団に期待といったところか」

 胡坐をかいてその上で肘をついたリュウはこの段階で完全に見学に徹するつもりのようだった。

「楽しみだにゃ」

 器用に正座をしているガトも同様であり、どこからか取り出した草団子をもぐもぐと食べ始めていた。


「ハルカさんもお茶をどうぞ。熱いので気を付けるにゃ」

「は、はい……っとあつつ! す、すごいですね。どこから出したですか?」

 受け取ったハルカは湯呑茶碗の熱さに驚いて、それがどこからともなく現れたように見えたことに驚いていた。


「ふふっ、これぞ忍者の秘儀にゃ!」

 ドヤ顔でガトは勝ち誇ったが、リュウはカバンから取り出していたのをちゃんと見ていたため、渡された茶をすすりながらジト目でガトのことを見ていた。


「――さて、街が本格的に慌ただしくなってきたな。おそらく情報がいきわたってきたんだろう」

 中央にあるギルドからは準備ができたものが勇ましい表情で次々に出て行く。その姿を見た住人は応援の声をかけているようだった。

 また、それと時を同じくして領主の館から騎士団が規則正しい列をなして鎧を身に纏って出発していた。


「……敵影が見えて来たか」

 リュウが視線を魔族がやってくるという方向に向けると、うっすらとではあるがぞろぞろと魔物が向かっている姿を確認することができる。まだ魔族の姿は見えない。


「街から少し離れたところで衝突といったところだにゃ」

 互いが衝突する場所のあたりをつけている。ちょうどガトが目当てを付けた場所は街からも程よく離れて障害物の少ない戦いやすい場所であり、リュウもハルカも同じ場所を想定していた。

「そうだな、まずは戦況を見守らせてもらおう」

 リュウがそう言うと、三人は無言で視線を衝突予想地点へと向ける。




 しばらくすると、その地点に冒険者、騎士団の混合軍が到着した。街から一定距離離れており、かつ増援も到着しやすい距離のそこに集まったところを見ると、彼らの予想が当たっていたことを示していた。

 対する敵軍にはいまだ魔族の姿は見当たらず、多種多様の魔物が大量に押し寄せている。


「戦闘開始だ」

 リュウがそう口にするのと同時に、冒険者、騎士団双方の指揮者が前進の合図を出した。魔物は玉石混交であり、弱いものも強いものもごちゃごちゃに入り乱れた混成軍であり、連携を行える防衛軍側が優勢に戦いが進む。


「思ったより安定しているな」

 リュウは防衛軍の戦い振りを見てそう評する。

「あの指揮官の人がすごいみたいにゃ。騎士団の団長さんが冒険者の指揮もしているようにゃ」

 ガトは前線よりも後方に目を向けていた。そこでは歴戦の騎士といった様子のひと際立派な装備をした団長が絶え間なく指示を与え続けている。


「あの人すごいですね。一定の規則のないバラバラな冒険者たちの特性を把握しているみたいです」

 驚きと感動の表情をしているハルカもガト同様に騎士団長を高く評価していた。

「そうでしょうとも、あやつは元Sランク冒険者で一つ前の冒険者ギルドのマスターだったんじゃよ」

 突然聞こえた知らぬ声に三人は声がする方向へとがばっと視線を向けた。


 リュウとガトはほとんど気配を感じさせずにこれだけ近づいてきた男に対して警戒心を強くする。いつでも武器を抜けるように構えつつ、男から目を離さない。

「……えっと、あなたは?」

 きょとんとした顔のハルカは純粋に誰なのだろうか? と疑問をぶつける。


「ほっほっほ、わしは引退した騎士じゃ。街があんなに騒がしいというのにのんびりと見学しておるお主らを見つけてあがって来たんじゃよ。わしが騎士をやめたのとほとんど同時にあやつが団長になった……あやつは有能でな、仲間をまるで自分の手足であるかのように自由自在に指示していくことができるんじゃよ」

 元騎士――そう名乗る老人は含蓄のある表情で遠くにいる現団長を見ながら彼のことを語る。


「確かにすごい、あれだけの指示を的確に行えるやつはそういないだろう。少なくとも俺には無理だ。だが……あのままだとヤバイな」

 いまだ目の前の老人への警戒を解かずに、現在の戦いを見てヤバイと言うリュウに対して、老人は興味をそそられた。


「ほう、わしの目にも防衛軍が優勢に映るが、何がまずいんじゃ?」

 試されるようなその問いかけにリュウは戦場を見つめる視線をそらさずに答える。

「――すぐにわかる。あんたも戦う準備をしておいたほうがいいぞ」

 この言葉を聞いて、老人は先ほどよりも強くリュウに興味を持つこととなる。


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