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第二十四話


「……負けを認められる人で良かったよ」

 戦闘態勢を解いたリュウはジーガイアに冷たく言って舞台を降りて行く。

「それで、俺のランクは一体どうなるんだ?」

 そして審判として待機していたミルザにそう問いかける。だが、ガトに続いてリュウも圧倒的な力を見せつけたせいか、彼女は彼らの予想以上の実力に呆然としていた。


「あ、えっと……」

「――Aランクでいいだろう」

 混乱しているミルザの代わりに、近づいて来た傷だらけのジーガイアがいかつい顔で答える。


「よろしいのですか?」

 恐る恐るという様子でミルザが確認するが、ジーガイアはただ深く頷いた。


「詳しくはリュウにはわしのほうで説明をしよう。ミルザは彼女のほうの試合を始めていてくれ」

 ジーガイアの命を受けたミルザは心配そうにこちらをうかがいながらも、ハルカに説明をしていく。リュウはなぜサブマスターのミルザがジーガイアのいうことを聞いているのか疑問に思った。


「……さて、まずは改めてわしの自己紹介からしよう。わしはこのギルドのマスターで“元”Aランク冒険者のジーガイアだ。わしの裁量でお主はAランクにする。……もしわしが現役の頃だったとしても、お前には手も足も出なかっただろうからな」

 鍛えられた太い腕を組みながらジーガイアが本当の自分の正体を明かすが、リュウはおおよその検討がついていたため、驚きはしなかった。


「そいつはどうも。……だがまさかいきなりAランクになるとは思わなかったな」

 リュウはジーガイアの正体よりも、自分のランクが一気にあがったことに驚いていた。よくてもガトと同じBランクだと思っていたからだった。


「ふむ……わしの正体には驚かないのか。まあいい、先ほどの戦いを見ればAランクといっても遜色ないものだ。わし自ら力を確認して、判断したのだから問題ない」

 つまらないという様子で顎をさすったジーガイアは、一息つくと深く頷いてそう宣言した。


「そもそもあれか、俺たちの実力を確認しようと言い出したのはあんたか……」

 ジトっとした目つきでリュウはジーガイアを問い詰めるように見る。そのリュウの予想はあっており、満足げに二カッとジーガイアは笑顔を見せる。


 それと同時に舞台から爆発するようなドカンと大きな音が聞こえてきたため、二人はそちらに視線を向けた。


「えっと、私も倒しちゃいましたけど……大丈夫ですか?」

 それはハルカが相手を倒した音だった。自分の杖を両手で握りながらどうしようという表情でリュウたちを見るハルカ。

「は、ははは、はい。ハルカさんの勝利です」

 試合の様子をリュウは見ていなかったため、どうだったのかとガトに視線を送るが、ガトもミルザも揃って笑顔がひきつっていた。


「……ガト、何があった?」

「え、えっと、ハルカさんと相手が立ち位置について開始の合図が告げられると同時にハルカさんが魔法を放ったのにゃ。そ、その威力がちょっと……」

 強すぎた――そう言いたげな様子に、リュウが改めて舞台に目を向けるとその威力が想像できた。


「うう……ちょ、ちょっとだけ強すぎましたかね……?」

 ハルカが魔法を叩きつけた場所はクレーターのように蜘蛛の巣状に大きくへこみ、相手はなんとか全力で攻撃を受け止めたのかぼろぼろで気を失って倒れていた。

 この現状をちょっと言ってのけるハルカに全員が呆れた視線を送った。


「ま、まあ、全員勝ったからいいか……?」

 頬を引くつかせたリュウはやり過ぎたハルカのことは黙認することにして、結果についてだけ目を向けることにする。

「頭領、現実から目を逸らしたにゃ……」

 ガトはリュウのことをジト目で見ていた。





 そんな話をしていると、訓練場の扉が勢いよく開けられた。

「マスター! ミルザさん! お二人ともいらっしゃいますか!?」

 それは血相を変えたギルド職員だった。絶望を目の前にしたような動揺具合と焦った様子に訓練場にいた全員がギルド職員の方に目を向ける。


「どうした! ここには誰もいれないように言っていたはずだぞ!」

 ギルドマスターであるジーガイアの指示を受けていたのに、それでも入って来た職員。そのことからも何かがあると容易に予想でき、ミルザも職員の近くへと移動していた。


「落ち着いて下さい。一体何があったのですか?」

 なだめるように身体を支えたミルザは職員に深呼吸をさせて、一旦落ち着かせる。

「ふうふう……ふー……落ち着きました。いや、落ち着いている場合じゃないです! 魔族が魔物を大量に使役して街に向かってきています!」

 魔族と聞いて、ジーガイアとミルザの表情が変わる。セイフルも緊張感をにじませる。


「へー、この世界にも魔族がいるのか……」

「色々な種族がいるみたいにゃのにゃ」

 リュウとガトがのんきに話している横で、ハルカもジーガイアたちと同様に驚きを見せている。


「……ん? どうした、何かまずいのか?」

「ま、まずいです! 魔族は数が少ないんですが、その一人一人がAランク冒険者と同等の力を持っていると言われているんです。そして、魔物たちが使役されているということは、魔族によって強化されていると思われます。恐らく数も普通ではないと……」

 現状を理解できていないリュウの質問にハルカが答え、それが耳に届いていたジーガイアたちが近づいてきた。


「こんなことになって悪いな。これからわしは戦える冒険者を募るつもりだ、街からも騎士団が出るだろうが手は多いに越したことはないからな。すまないが彼女のランク認定の手続きはまたあとでにする」

 ジーガイアはそれだけ言うと、慌てた様子で訓練場をあとにした。ミルザも三人に一礼すると、ジーガイアに続いて慌ただしく部屋を出ていく。


「頭領、どうしますにゃ?」

「うーん、とりあえず俺たちは様子を見ることにしよう。この街の規模と統治から見たら、それなりの実力を持っているだろうから俺たちが出るまでもないほうがいい」

 一応というようなガトの質問に首を振ったリュウが答える。彼はまだ来たばかりのこの街に思い入れは少なく、また騎士団や他の冒険者たちの実力を確認したいと思っていた。

 ハルカはリュウたちの判断に任せるようで、不安そうな表情ながらも異論を唱えなかった。


 リュウたちが訓練場を出るころには、セイフルやもう一人の冒険者も手当てされて既にギルドホールへと向かっていた。





 ギルドホールへと出ると、そこは騒然としていた。慌ただしく職員や冒険者が走り回っている。

「回復アイテムを買いに行くぞ!」

「こっちは矢が足らないぞ! 急いで買いに行ってくる!」

「――おい、みんなを早く招集しろ!」

 聞こえて来たそれらはジーガイアの依頼に答えた冒険者たちが準備を急いでいる声だった。職員たちも備蓄の確認や冒険者たちの手続きなどやることがたくさんあるようだ。


 この喧噪に紛れるように、先に外へ出たガトとハルカ。

「まずはお手並み拝見だ」

 ふっと薄く笑ったリュウは気配を消しながらその人たちの横をすり抜け、ギルドをあとにする。


お読み頂きありがとうございます。


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