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第二十三話


「くそっ、強かった……」

 見かけだった猫火がどいたことで、動けるようになったセイフルは悔しそうに顔を歪めて立ち上がり、苛立ち交じりにガトの強さを認める言葉を口にする。


「あにゃたも怒り任せかと思いきや別の手を用意するにゃど、にゃかにゃか面白かったにゃ」

 ガトは健闘をたたえ合う握手するべく、セイフルに手を差し伸べる。

「……それはどうも。さっきは獣ふぜいなどど失礼なことを言って申し訳なかった」

 一瞬ためらったものの、セイフルはガトの手を取ると素直に謝罪の言葉を口にした。


「にゃんのにゃんの、あれも一つの手だったのにゃ。あの言葉に反応して拙者が怒れば隙ができますからにゃ。乗ってこにゃかったから、反対に怒りを見せることで拙者の考えを甘くしようとしたのにゃ。……ですにゃ?」

 セイフルはガトの言葉を聞いて、手を握ったままぽかんと口を開けて驚いていた。


「そこまで気づいていたのか……それはかなわないわけだ。改めて自己紹介をしよう。俺の名前はセイフル、今度Aランクに上がる予定の冒険者だ。今回の試験官を受け入れればAランクに上げるという話だったんだが……なんとも情けない結果になったものだよ」

 ため息交じりにセイフルは肩を竦めながら、苦笑していた。


「――セイフルさん、結果に関わらずあなたは試験官をつとめられましたので昇格は決定しておりますが」

 淡々とミルザはそう告げるが、一方のセイフルは納得がいっていないのか、微妙な表情になっていた。






「さて、次はわしがやろう。わしの相手はそこのにいちゃんだ」

 意気揚々と前に出て来た大剣を背負う大男に指名されたリュウは肩を竦めながら舞台へと上がっていく。途中ですれ違ったガトと小さくハイタッチをして交代とした。


「さて、俺を名指ししたわけだが、ただなんとなくで言ったわけじゃないよな?」

 適度な距離を保って対峙したリュウは大男に質問する。

「まあそうだな。見た目や背格好は正直どうでもよかった、ただお前が一番強そうだったから選んだ。戦う前に名くらい名乗っておこう。わしの名前はジーダイア、Aランク冒険者だ」

 リュウを選んだ理由を明け透けに伝えた男は好戦的ににやりと笑いながら名前を言った。


「そうか、俺の名前はリュウ。俺もあんたみたいに強そうなやつと戦えてよかったよ…………少しは本気が出せるか?」

 後半は聞こえないようにリュウはぼそりと言ったつもりだったが、どうやらその声はジーダイアに届いていたようで、頬をヒクヒクさせている。


「ほ、ほー……? わし相手にそんな大口を叩けるのか。どうやら彼我の実力差を計るのは苦手なようだな」

 怒鳴りつけずに言ったのはせめてものジーダイアの理性だった。


「それで、俺の場合も結果は問わず相手が実力を認めればそれで昇格でいいのか?」

 リュウはジーダイアの言葉には気にも留めず、ミルザに質問する。

「は、はい、そのとおりです」

「ということは……倒してもいいんだよな?」

 ようやく骨のある相手を目の前にリュウは悪そうな笑いを浮かべながら、先ほどのガトと同じ言葉を口にする。


「ぶわっはっは! わしに勝てるというのか。それこそわしの実力を読めない程度の力しかないということだな。……期待して損をした、とっとと終わらせよう」

 ジーダイアは大きく笑ってはいたが、その顔の裏には落胆の二文字が書かれていた。デカイ口を叩くだけのルーキー――リュウのことをそう判断していた。


「その提案には賛成だ。ミルザだったな、開始の合図をしてくれ」

「は、はい! それでは……試合開始です!」

 リュウに言われたミルザは慌てて試合開始を宣言する。






「……と、とは言ったものの大丈夫なのでしょうか?」

 不安そうにしているミルザは隣に来たガトに質問する。

「愚問ですにゃ。頭領は負けにゃいのにゃ」

 それは信頼と二人の実力差を把握した上での発言であった。また、ガトの隣にいるハルカもリュウの勝利を信じて疑わなかった。


「さて、それじゃさっさと終わらせるように行くか」

 大剣を軽々と構えて戦闘態勢をとるジーダイアだったが、一向に武器を構えないリュウは静かに立っている。

「……おい、武器を構えろ!」

 相手から戦う意思を感じられずに苛立ち、吠えるように叫んで催促するジーガイア。


「人の心配より自分の心配をすることだな。いくぞ――火遁火炎大息吹の術!」

 次の瞬間、目に闘気を宿らせたリュウは印を結ぶと口から勢いよく火を噴いた。それは、以前ガトに見せたものよりも何倍の火力でジーガイアを飲み込んでいく。


「な、なんだと。くそっ!」

 急に現れた大きな炎に驚きながらも、ジーガイアは魔力を剣に乗せて、剣戟によって炎を二つにし、その隙間を駆けてリュウとの距離を詰める。


「それくらいはやるよな。――氷遁氷槍(ひょうそう)!」

 だが既にリュウは空中に飛び上がっており、上から氷の槍をジーガイアに向けて放つ。――その数、十五。

「ぐっ、氷の槍か! ちょこざいな!」

 雨のように降り注ぐそれらをジーガイアの大剣は次々に粉砕していく。


「それも読んでた。――火風遁爆風鼬かふうとんばくふういたち!」

 空中からの攻撃に集中していたジーガイア。リュウはその隙に気を練り上げて雷の高位忍術の準備を終えていた。


「今度は一体なんだ!」

 聞いたこともない技名に戸惑うジーガイアにまず最初に襲いかかったのは、風の大きな玉。それを防ごうと大剣で斬るジーガイアだったが、その瞬間一気に玉が爆発する。


「ぐあああっ!」

 その爆発がジーガイアを直撃し、風に飲み込まれるように彼は後方へと吹き飛ばされた。


「ぐぅ……こ、小癪な技を使いおって!」

「――それで終わりだなんて、言ってないぞ?」

 なんとか場外に踏ん張ったジーガイアは苛立ちにリュウに向かって叫ぶ。

 風の玉の爆発ならば爆風玉とでも名付けていたが、更にその吹き飛んだ場所を目がけてリュウの次の攻撃が生み出された。


 無数の目に見えない風の刃がジーガイアに向かって放たれる。衝撃波のような風が次々とジーガイアの身体を襲う。

「ぐ、ぐおおおおおおおっ!!!」

 さすがのジーガイアもこの攻撃をまともに受けてしまったために、体中に次々に傷が刻まれていた。


 全ての風の刃がジーガイアに当たる前にリュウはパチンと指を鳴らした。すると、風の刃も同時にぱっと消える。

「さすがにこれ以上はやりすぎだよな? ……で、どうする?」

 まだまだ手はあるぞ――暗にそう言っているリュウに対して傷だらけのジーガイアが返す言葉は一つだけしかなった。


「……まいった」


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